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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第4章 少年期 渡航編

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第三十五話「すれ違い・前編」

 人神の助言より翌日。
 俺は両手に露店で購入した串焼きを抱え、路地裏をさまよっていた。

 手元にあるのは、全て串焼きだ。
 ホタテっぽい貝の貝柱の串焼きと、アジっぽい魚の塩焼き。
 あと、よくわからない魚介の串焼きが何本か。

 露店で食い物を、と言われたが、特に指定は無かった。
 ゆえに持ち運びしやすいものを優先的に購入した。


 前回は考えすぎた。
 素人が料理でアレンジを加えて失敗するが如く。
 難しく考えすぎて、ドツボにはまった。

 今回は、逆に素直に従ってみる。
 言われるがまま、無心で食料を買い込み、
 そして、路地裏にて起こりうるイベントを、素直に受ける。
 無心だ。
 これはロールプレイング。
 これから起こるのは偶然の出来事。
 難しく考えず、素直にこなすのだ。

 奴は面白いものを好む。
 俺が難しく考えることこそが、奴の狙いだ。
 素直に従えば、奴は面白くない。

 そう考えつつ、
 数分ほどさまよってから、ふと気付いた。

「あれ? これってあいつの思惑通りじゃね?」

 騙された、と思った。
 奴の巧みな話術に乗せられて、俺は奴に思惑通りに動かされている。

 気づいてみれば、実にイラつく話だ。
 手のひらの上で踊らされたのだ。

 初心を思い出せ。
 最初の邂逅の時の気持ちを。
 あいつは絶対に信用しちゃいけない。

 よし、奴の思い通りに動くのは、今回で最後だ。
 今回は様子見で助言通りに行動するが、次は絶対に従わない。
 もう、人神の言いなりになんかならないんだから、キリッ。


---


 裏路地を練り歩く。

 一人で、だ。
 なぜ一人なのだろうか。
 そこに、今回の助言のキモがあるのだろう。
 ルイジェルドやエリスがいると困る展開。
 深くは考えまい。
 エロい展開だと嬉しい、それぐらいに思っておこう。

 ルイジェルドとエリスには一日別行動を取ると伝えてある。
 エリスは一人にすると危ないので、ルイジェルドに護衛を頼んだ。
 今頃、二人で砂浜でも見に行っているかもしれない。

「あれ……それってデートじゃね?」

 俺の脳裏に、浜辺の岩陰へと消えていく二人の影が浮かんだ。

 いやいやいやいや。
 まさか。

 お、おお、お、落ち着け。
 あのエリスと、あのルイジェルドだぜ?
 そんな色っぽい話じゃねえよ。
 子守だよ子守。

 ああ!
 でもルイジェルドって強いからなぁ!

 エリスはルイジェルドを尊敬してるっぽいし!
 最近の俺ときたら、飼主扱いだし!

 いやいや……。
 何焦ってんだよ。
 フュー……。

 大丈夫だよね、ルイジェルドさん。
 寝取られとかないですよね?
 大丈夫ですよね……?
 帰ったら妙に二人の距離が近いとか、ないですよね?

 し、信じてるんだからね!


 …………とりあえず、俺はルイジェルドと戦う時のシミュレートを始めた。

 近接戦闘では勝ち目がない。
 まず奴を始末したいのなら、奴の額の宝石の索敵範囲外に出るべきだ。
 そして、奴を倒すには水だ。
 奴は海水浴を邪魔した。
 その報いを受けさせるためにも、水攻めだ。

 大量の水を作り出し、そのままヤツを海まで流して、ジエンドだ。
 死ぬまで漂流してもらうぜ。
 ククク……。

 っと、勘違いしないでほしい。
 ルイジェルドのことは信じている。
 けれど、なんていうか。
 ほら、あれだ。

 恋は戦争って言うじゃない?


---


 裏路地は静かなものだった。
 普通、裏路地と聞くと、よからぬ輩がたむろしているイメージがある。
 実際、俺のようなピュアでいたいけで純真無垢な子供が歩いていると、すぐに人攫いに目をつけられる。
 この世界では、人攫いは最もポピュラーかつ儲かる犯罪行為の一つだ。

 もし、俺を攫おうとしたら、
 両手両足を潰してから家を聞き出し、
 金目の物を全て頂いてから、官憲に突き出してやろう。

「ヘヘヘ、お嬢ちゃん、一緒にきたら腹いっぱい食わせてやるぜ」

 路地裏からそんな声が聞こえた。

 ひょいと覗いてみる。
 人相の悪い男が、壁端で座り込む少女の手を引っ張っていた。
 随分とわかりやすい構図だった。

 先手必勝。
 俺は杖を構え、プロボクサーのジャブぐらいの衝撃が出るように速度を調整。
 岩弾をやつの背中に向かって打ち込んだ。
 この一年間で、こういう手加減は随分とうまくなった。

「いっでぇ!」

 振り向いた所に、もう一発。
 今度はもうちょっとだけ強め。

「がっ……!」

 パガンといい音がして、岩が男の顔面で砕け散った。
 男はふらふらとよろめいて、ずるずると倒れた。
 死んではいないな。
 うまいこと手加減できたようだ。

「大丈夫かい、お嬢さん!」

 できる限りサワヤカな顔を作りつつ、
 連れ去られようとしていた少女に手を差し伸べる。

「お、おお……」

 黒いレザー系のきわどいファッションをした幼女だった。
 膝まであるブーツ、レザーのホットパンツ、レザーのチューブトップ。
 青白い肌に、鎖骨、寸胴、ヘソ、ふともも。
 そして極めつけは、ボリュームのあるウェーブのかかった紫色の髪と、山羊のような角。

 一目見てわかった。
 サキュバスだ。
 しかも幼女だ。
 間違いなく俺より年下だろう。
 これはもしかすると、人神が頑張った俺へのご褒美なのかもしれない。
 あいつもたまには粋な事をするじゃないか。

 ……いや、サキュバスは無い。
 この世界において、サキュバスなる種族は魔物として認識されている。
 確か、ベガリット大陸に生息しているという話だ。
 パウロが珍しくキリっとした顔で「オレたちの一族では奴らには勝てん」と言っていたのを思い出す。
 俺もきっと、実際にサキュバスと出会ったら、為す術もなくやられてしまうだろう。
 サキュバスはグレイラット家の天敵なのだ。
 ま、それはさておき。

 町中に魔物はいない。
 つまり、彼女はサキュバスではない。
 ただのエロい格好をした魔族の子供だ。

「お、おおお……き、貴様、なんということを……!
 なんということをしてくれたのじゃ!」

 幼女はわなわなと震えていた。

「こ、この男は、この男はな……!」

 もう信じられない、という顔だった。
 なんちゅうことを、なんちゅうことをしてくれはったんや、という顔だ。

「あ、ごめん、知り合いだった?」

 と、聞きつつも、俺は首をかしげる。
 中年の方の顔は、知り合いの子供に話しかけるような感じではなかった。
 もうなんていうか、興奮したロリコン中年そのものという感じだった。
 見ろ、この赤ら顔、気絶してもなおだらしない笑み。

 これから幼女を家に持ち帰って、豪華な料理と暖かな寝床を提供してやるけど、
 その代わりに熱い夜を提供してもらうぜ、という感じだ。

「この男は、腹の空いた妾に、め、めしを……」

 どこからともなく、ギュゴルルルという音がした。
 地鳴りのような音だった。
 その音が鳴り終わると同時に、幼女は膝からがくりと崩れ落ちた。

「だ、大丈夫か?」

 思わずしゃがみ込み、彼女を抱える。
 幼女に触れる大義名分は、逃すものじゃない。
 でも勘違いするなよ。
 俺は人神の命令で彼女を助けにきたんだ。
 さっきの中年親父とは違う。

「ぐ……ううぅ……復活してより300年。
 よもやこんな所で倒れるとはな……。
 この事は、ラプラスには知られてはならんぞ……」

 なんか、変な小芝居が始まった。
 もしかすると、この格好はなにかのコスプレなんだろうか。

「と、とりあえずコレを食べて気をしっかりもつんだ」

 俺は用意してあった串焼きを、3本まとめて幼女の口にねじ込んだ。

「もぎゅもぎゅもぎゅ」

 幼女は突っ込まれた瞬間、カッと目を見開き、
 見開いたまま、またたく間に串焼きを食いきった。
 そして、さらに俺の手に持つ串焼きを強奪。
 串焼きは残り12本あったが、またたく間に10本が消えた。

「う、うおおお! うまい!
 一年ぶりの飯はうまい!」

 幼女が元気になった。
 地面から背中だけの力でビョインと飛び上がり、
 そのまま一回転して地面に立った。
 意外と身体能力は高いらしい。

「助かった、助かったぞ! おぬし!
 これであと一年は持つ!」

 幼女はそこでようやく、俺と目があった。
 紫と黒のオッドアイだった。
 これも何かのコスプレだろうか。
 いや、この世界にカラーコンタクトなど存在しない。
 元々こういう目なのだろう。

「お?」

 幼女の右目が、ぐるんと回った。
 その瞬間、色彩が青へと変わる。

 き、気持ち悪っ!

「うっわ! うっわ! なんじゃおまえ、すげぇ気持ち悪いのう!
 なんじゃこれ、なーんじゃこれ! フハハ! こんなの初めて見たぞ!」

 幼女は俺の顔を見て、そんな事を言ってはしゃぎだした。

 ……ええ、もちろんショックですよ?
 顔を見て気持ち悪いって言われたのは、久しぶりですからね。
 でも、俺も彼女のことを気持ち悪いと思ったし。
 ここはイーブンとしておこう。

「あれか? 腹の中にいた時に双子で、生まれた時には片方死んでいたとか、あったか?」

 ……なんだ?
 何を言ってるんだ?

「いえ、そういう事実はないと思いますよ」
「ほうか?」
「ええ」
「でもお前の魔力量……ラプラスより上じゃぞ」

 何が誰より上だって?

「まぁよい! 名を名乗れ!」
「……ルーデウス・グレイラットです」
「よし! 妾はキシリカ・キシリス!
 人呼んで、魔・界・大・帝!」

 腰に手を当てて、股間を突き出すように胸を張った。
 急に目の前に太ももが来たので、思わず舐めた。
 臭い、だが、甘い!

「うひゃぁ! 何するんじゃい! キッタナイのう!」

 幼女は内股になり、
 なめられた所をゴシゴシと擦りながら、睨んできた。

 でも、なるほどね。
 魔界大帝キシリカ・キシリス。
 その名前は俺も聞いたことがある。
 人魔大戦で魔族を率いて戦い、あっさり大敗した不死身の魔帝だ。

 本物だろうか。
 俺は人神の助言でここにきた。
 彼女が本物の魔界大帝である可能性はある。

 しかし、本物の魔帝が、こんな魔大陸の端で、お腹をすかせて倒れるだろうか。
 ……いくらなんでも、それはない。

 そうだ。
 魔大陸の子供たちというのは、こうした過去の偉人のごっこ遊びをよくする。

 特に人気なのは、魔神ラプラスだ。
 真実を知る俺としては胸糞の悪くなるような人物なのだが、奴は人気者だ。
 戦争に負けはしたものの、魔大陸を平定し、魔族に一定の地位を与え、そして平和をもたらした。
 魔族史上最高の偉人、そう言われている。

 子供たちが真似をするのは、ラプラスの物語だ。
 特に、不死身の魔王と戦う時のエピソードは、
 ウェンポートに来るまでの間、何度も目にした。

 魔界大帝キシリカも、偉人と言えば偉人である。
 しかし、年代が古いせいか、ごっこ遊びをしている所は見たことがない。

 この子はきっと魔界大帝の熱烈なファンだが、
 一緒に遊んでくれる友達がいなくて、裏路地で一人でいたのだろう。
 そう考えたほうがスマートだ。

 ふむ。
 一人ぼっちは寂しいよな。
 しょうがないな、乗ってやるか。

「は、ははぁ! これは失礼を! 陛下!」

 俺は大仰にかしこまり、片膝をついて臣下の礼を取った。

「お? おおおお! ええのうええのう!
 そういう反応を待っとったんじゃ!
 最近の若いもんは礼儀を知らんからのう!」

 ウンウンと嬉しそうに頷くキシリカ。
 うんうん。
 そうだな、やっぱ遊んでくれる相手は欲しいよな。

「よもや復活なされているとは露知らず、無礼な態度を取ってしまったことをお許しください」
「よい。貴様は妾の命を救ってくれた。何でも一つ願いを言うがよい」

 命ったって、腹減ってたのを食わせてやっただけじゃないっすか。

「えーと……じゃあ、巨万の富を」
「馬鹿者! 見ての通りスカンピンじゃ!」

 なんでもって言ったのに……。
 いや、そういう設定なのかな。
 金をくれといったら、金がないと返すエピソードがあるのかもしれない。

「……じゃあ世界の半分をください」
「な! 世界の半分じゃと! それはでかいのう!
 しかし、半端じゃのう。なぜ半分なのじゃ?」
「や、男はいりませんので」

 おっといかん、つい本音が漏れてしまった。
 幼女に聴かせる内容ではないな。

「そうか、なるほどのぅ、幼い癖に好色な奴だの。
 しかし、すまん。実は妾も世界を獲ったことはないのじゃ……」

 まあ、キシリカが率いた戦争って全部魔族の負けだったしね。

「じゃあ、もう体でいいですよ。体で払ってください」
「おお? 体かぁ? その年でそこまで好色だと、将来が心配じゃな」
「はは、もちろんじょうだ……」

 冗談です、と言おうとしたら、キシリカがホットパンツに手を掛けた。

「まったく、しょうがないのう。
 此度の復活では初めてじゃからな、優しくするのじゃぞ?」

 キシリカは頬を染めてホットパンツのボタンを外す。
 え? マジで?
 冗談のつもりだったんだけど。
 いや、でも、いまさら冗談とはいえない空気。
 ここはじっくりと幼女ストリップを鑑賞した後、
 陛下の御身を抱くのは分不相応云々と、
 やんわり断るのが筋というものだろう。

「おっと、いかん」

 しかし、キリシカは、止まった。
 止まるな、あと少しで見えそうなんだ。

「今回はもうフィアンセがいるのじゃった。
 すまんが、こっちはやれん」

 ずり下げられかけたホットパンツが引き上げられた。
 男の純情が弄ばれた気分だ。

 金もダメ、世界もダメ、体もダメ。

「……じゃあなにがいけるんです?」
「馬鹿者、魔界大帝キシリカが下賜するものといえば、魔眼に決まっておろう!」

 魔眼。
 魔眼か。
 そういうものなのか。
 どうにもこの世界の英雄譚については疎いからな。
 そういや、ギレーヌの眼も魔眼なんだったけか?

 しかし、魔眼か。

「魔眼というと、相手の死の線が見えて、それを切ると確実に殺せるという……」
「怖っ! なんじゃそれ! そんな怖いモン無いわい!」

 無いらしい。
 あと、俺が知っている魔眼と言えば、見た相手を石にするものぐらいだ。
 眼からビームが出るビーム(ガン)とか、
 レーザーが出るレーザー(ガン)とかは、
 魔眼には含まれないだろう。

「そんな危ない物を欲しがるとは……。
 なんじゃ、おぬし、誰ぞ恨みでもあるのか?」
「いえ、別に」
「復讐は何も生まんぞ。妾も二度殺されておるが、
 今は殺した相手を恨んでなどおらん。
 人を恨めば、その恨みは連鎖する。
 そうして起きたのが人魔大戦じゃからな」

 幼女に説教されてしまった。
 まあ、別にどこぞの吸血鬼を分断する気はないからいいんだけどな。

「ていうか、魔眼についてはよく知らないんです。
 どんなのがあるんですか?」
「ふむ。妾も復活したばかりで大した眼は持っておらぬが、
 魔力眼、識別眼、透視眼、千里眼、予見眼、吸魔眼……有名なのはこのへんかのう」

 名前だけ言われても。

「それぞれ説明してもらえますか?」
「うむ? 知らんのか? まったく最近の若いもんは不勉強でいかんな……」

 と、言いつつもキシリカは丁寧に説明してくれた。

・魔力眼
 魔力を直接見ることが出来る眼じゃ。
 もっともポピュラーじゃな。1万人に1人ぐらいは持っておる。

・識別眼
 眼でみると、その物体の詳細がわかる。
 ただし、妾の知りうる事だけじゃ。妾のしらん事は知らんと出る。

・透視眼
 眼で見ると、壁などを透視することが出来る。
 生き物と、魔力の濃い部分は透視できん。
 おなごの裸を見放題じゃな。好色なお主にはもってこいじゃ。

・千里眼
 遠くを見ることが出来る。ピントを合わせるのが難しいがな。
 見るだけで手出しできんから、あんまりオススメは出来んのう。

・予見眼
 数瞬先の未来が見える眼じゃ。
 これもピントを合わせるのが難しい。
 けど、オススメじゃな。

・吸魔眼
 魔力を吸う眼じゃ。自分の出した魔術も吸うから、オススメはできん。


 キシリカは魔眼に詳しかった。
 どこでこういうことを学んでくるのだろうか。
 両親が詳しかったりするんだろうか。
 もしかすると、魔眼大全みたいな本があるのかもしれない。

「じゃあ、2つもらって両方とも魔眼といきましょうか」
「いきなり二つって、おぬし、見かけによらず欲張りじゃのう……」
「ほら、もう一本お肉を上げるよ」

 最後の串2本を差し出すと、キシリカは満面の笑みでうけとった。

「わーい。……もぐもぐ。しかし、二つやるのはええが、オススメはできんぞ」
「どうして?」
「普段から見えてると困るからの、普通は視界を塞ぐ眼帯をしておるのじゃ。
 両方塞いでは活動できまい」
「あー、そういえば知り合いがしてましたね」

 ギレーヌも付けていた。
 やっぱり、ギレーヌのあれも魔眼だったんだろう。

「何百年も生きておる者は制御できるやもしれんが、
 おぬしのような子供がいきなり2つも入れれば、頭が狂ってしまうぞ」

 頭が狂う……か。
 やはり、脳に負担がいくのだろうか。
 怖いな。

「なら、二つはやめときましょう」
「それがよい。どうする? 妾のオススメは予見眼じゃが……」

 魔眼か、もし手に入るとするなら、どれがいいだろうか。

 魔力眼はちょっともったいないな。
 結構持ってる人がいるっていうし。
 案外、見えると便利なのかもしれないけど。

 識別眼も別にいらないな。
 ものがわからなくて困ったりはしていない。
 それに、魔界大帝の知らないことはわからないらしい。
 肝心な所で使えないことが予想出来る。

 透視も別にいらないな。
 制御できるまで、ルイジェルドの全裸も眼に入ってしまいそうだ。

 千里眼は、あれば便利かもしれない。
 でも、今のところ欲しいと思ったことはない。
 今すぐ貰えば、ルイジェルドとエリスの様子がわかると思うが、
 どうせ、エリスが誰かと喧嘩して、ルイジェルドがそれを止めるという光景が見えるだけだろう。

 予見眼は、なるほど、確かにオススメだろう。
 現在、俺は近接戦闘でエリスにもルイジェルドにも勝てない。
 この世界の生き物は速いからな。
 一瞬先が見える、というのは俺にとって大きなアドバンテージになる。

 吸魔眼は論外だ。
 魔術師である自分のアドバンテージを殺す事になる。
 でも、こうした魔眼があるのは覚えておいてよかった。
 いきなり全能力を無効化されて慌てるハメになる所だった。

 真面目に考えてみたけど、どれも使い方次第だろう。
 まあ、なんでもいいさ。
 どうせごっこ遊びだ。

「じゃあ、オススメで」
「ええのか? いままで妾が薦めても、ほとんどの奴が違うのにしたぞ。
 そんなちょっと先の事が見えて何になるのかってのぉ」
「1秒先が見えれば、世界を制することだってできますよ」

 とはいえ、この世界の剣士は速い。
 一秒先が見えても、勝てないかもしれない。
 光の太刀とかあるしな。

「透視眼じゃなくてええのか? おなごの裸を見放題じゃぞ?」

 わかってないな、この幼女は。
 確かに、道行く美女・美少女が裸に見えるなら、興奮するだろう。
 しかし、それだけだ。
 すぐに飽きる。
 ああいうのは、脱がす過程や、脱いだ所を想像するのも楽しむものだ。
 服の上に浮かび出るポッチは、服を着ていなければ楽しむ事ができないんだぜ?

「ほうかほうか、んじゃちょいと顔かせ」
「はい」
「ほれ、ずぶしゅー」

 キシリカはいきなり俺の右目に指を突っ込んだ。
 激痛が走った。

「ぐギアぁぁぁぁあああ!!!!!」

 思わず後ろへと逃げようとする。
 だが、キシリカに髪を掴まれ、逃げられない。
 意外と力強い。
 痛い痛い痛い痛い!

「がぁああぁぁ! な、なにしやがるこのガキ!」
「うるさいのう、男の子じゃろ、ちっとは我慢しろ」

 彼女はグリグリと眼窩をいじくり。
 しばらくして、ズボッと抜いた。
 確実に失明した。

「予見眼の色はおぬしの色彩とはちと違うが、遠目にはわからんじゃろ」
「馬鹿野郎! 遊びでもやっていい事と悪いことがあるんだぞ!」
「妾は魔界大帝じゃぞ、遊びで魔眼をやるなどとは言わんわ」

 ちくしょう、俺の眼が、眼がぁ……。
 ああぁぁぁぁ………あれ?

 見える。
 ものが二重になって見える……?
 なんだこれ、気持ち悪い。

「魔力の込め方次第では、限りなく薄くしたりすることも出来るはずじゃ。
 ま、精々頑張って修行することじゃな」
「あ? え? どういうこと」
「お前次第という事じゃ」

 混乱する俺を、キシリカは満足気に見ていた。
 頷く動作に残像が残る。
 しかし、残像というには、影の方も濃い。
 なんだこれは、気持ち悪い。

「よしよし、ちゃんと見えておるな。
 では、妾はそろそろ行くぞ。バーディガーディを探さねばならん。
 飯の件、大義であった」

 キシリカはそう言って、トンと屋根の上まで飛び上がった。

「では、サラバじゃルーデウスよ! また困った事があれば妾を頼るがよい!
 ファーハハハハハ! ファーハハハ! ファーハハアアフアガホゲホ……」

 ドップラー効果を残して、高笑いが遠ざかっていく。
 俺はそれを、ただ呆然と聞いていた。

 え?
 ……本物?


 こうして、俺は『予見眼』を手に入れた。



--- 中年親父視点 ---


「うう、頭がいてえ」

 昨日は飲み過ぎた。
 長い仕事が一段落して、仲間内で宴会をやった。
 朝まで飲んだ。
 店の酒がなくなるんじゃないかってぐらい、飲んだ。
 そして、記憶が無い。

 どうにも、店を出たあたりからの記憶が曖昧だ。
 たしか、近道をするために裏道を通って……。
 そうだ。
 そこに小さな女の子が座り込んでいたのだ。
 話してみると、腹が減っているという。
 気分のよかった俺は彼女を家に誘った。
 家内が朝飯を用意しているはずだった。
 生憎と俺はまだ酔いが残っていて食べられない。
 家内は料理を残すと怒る。
 この少女の腹を一杯にさせ、家内も怒らない。
 酔っ払った頭でも名案だと思った。

 うん、そこから記憶がない。
 どうやら酔いつぶれてしまったらしい。
 サイフは……無事だった。
 身ぐるみも剥がれていない。
 空を見ると、太陽はまだ高い位置にある。

 まあ、俺はこの町では顔だからな。
 この強面を見て、俺を俺だと気づかない奴はこの町にはいない。

 それに、昨日、新しい船が完成したって事は、
 町に住む連中なら誰だって知っているはずだ。
 もちろん、就航祝いに打ち上げを行ったことも。
 きっと、気持ちよさそうに眠る俺を、そっとしておいてくれたのだ。

「って、もう昼じゃねえか。
 あーぁ、こりゃお冠だな……」

 造船ギルド長バッカス・ランダースは、二日酔いで痛む頭を抑えつつ、家路を急いだ。
+注意+
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