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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第4章 少年期 渡航編

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第三十四話「ウェンポート」

 ウェンポート。
 魔大陸で唯一の港町。
 坂の多い町並みで、入り口から町並みが一望出来る。
 魔大陸らしい土と石造りの家だが、中には木造建築もちらほら。
 ミリス大陸から木材を輸入しているのだろう。
 町の端には造船所もある。
 港町であるがゆえか、入口付近に露店が少なく、港の方に活気が溢れている。
 少々他とは毛色が違う感じのする町だった。


 そして港の向こう側。
 町の外側には、広大な海が広がっている。
 海を見るのはいつ以来だろうか。
 たしか、中学時代に臨海学校に行って以来か。

 海というのは、どこの世界も変わらないらしい。
 青い海、潮騒の音、カモメのような鳥、帆を張る船……。
 帆船をこの目で見るのは初めてだ。
 映画では時折目にするが、実際に木製の船が帆を張って進んでいるのを見ると、年甲斐もなくワクワクする。
 やはり、こちらの世界でも、逆風で進む技術とかあるんだろうか。

 いや、この世界のことだ、
 どうせ魔術師が追い風を作って進むとか、そういう方式なのだろう。


---


 町に到着した瞬間、エリスがトカゲから飛び降り、走りだした。

「ルーデウス! 海よ!」

 エリスの口から出たのは、達者な魔神語である。
 彼女には普段から魔神語を使うようにと心がけさせている。
 俺とルイジェルドも、出来る限り魔神語で話すようにした。
 作戦は的中し、最近ではエリスの魔神語もかなり上達した。
 やはり、外国語は普段から使わせるのが上達の近道であるらしい。
 もっとも、読み書きは出来ない。

 ちなみに、魔大陸にきてから、魔術は一切教えていない。
 無詠唱はもちろんのこと、もう詠唱も忘れているかもしれない。

「まってエリス、宿も決めずにどこにいくんですか!」

 俺の発言を聞いて、エリスの足がキュッと止まった。
 ちなみに、このやり取りは三度目である。
 一度目は迷子になり、二度目は街角で喧嘩になった。
 三度目はない。

「そうね! 先に宿を決めないと迷子になっちゃうものね!」

 エリスは海の方をちらちらと見ながら、うきうきと戻ってきた。
 考えてみると、彼女は海を見るのは初めてか。
 フィットア領の近くには川もあり、
 休日にサウロスと出かけ、水遊びをしていたことはあるようだ。
 生憎と俺はご一緒した事は無い。

「泳げるかな?」
「え? 港で泳ぐんですか?」
「泳ぎたい!」

 俺もエリスの13歳の悩ましボディを見たいが……。

「水着が無いでしょう?」
「水着? なにそれ、いらないわ!」

 その衝撃的な言葉に、俺は戸惑いを隠せなかった。
 水着、なにそれ、いらないわ。
 水着がいらない。
 それはつまり、全裸ということだろうか。
 いや、まさか、それはあるまい。
 この世界にも裸体を恥ずかしがる文化はある。
 だから、そう、恐らく下着だろう。
 下着着用の上で、水を浴びるのだ。
 水に濡れて張り付く下着、透ける肌色、浮かび上がるポッチ。

 おかしい、なぜ俺はフィットア領の川遊びに同行したことがないのだ。
 忙しかったからだ。
 当時は休日も充実した日々を過ごしていた。
 だが、一回ぐらい、一回ぐらい同行してもよかったかもしれない。

 いや、今はそんなことは考えまい。
 目の前の事に集中するんだ。
 今を生きる。
 そう、今を生きる、だ!

 ヒャッホウ!
 海だー!

「いや、この海では泳がない方がいいだろう」

 と、ルイジェルドに水を差された。

「えっ!? なんで!」
「魔物が多い」

 ということらしい。
 魔物なんて俺とルイジェルドで全滅させればいい。
 と、思わないでもなかったが、
 案外、あの生体レーダーは万能ではないのかもしれない。
 水の中は見通せないとか。

 いや、でも一時的になら海水浴ぐらいできるんじゃないか?
 港で泳ぐのはさすがに危ないとしても、
 近くの浜辺で、土の魔術を使って生簀のようなものを作るとか。
 や、でも万が一があるな。
 魔物の中には、変な特殊能力を持っている奴もいる。
 生簀ぐらい飛び越えてくるかもしれない。

 それがタコならエロイベントで済むが、サメならジョーズだ。

 仕方がない。
 海水浴はやめておいた方がいいだろう。
 本当に仕方がない。

「海水浴は今回は無し。
 宿決めてから冒険者ギルドですね」
「うん……」

 エリスがしょんぼりしていた。
 うーむ。
 しかし、俺だって健康的なエリスの体には興味がある。
 ここ一年は成長度合いを確認できていないからな。
 服の上からではわかりにくいが、あるいは開放的な浜辺なら、何かがわかるかもしれない。

「泳がなくても、浜で遊べばいいじゃないですか」
「浜?」
「海には砂浜というものがあるんです。
 波打ち際に砂場がずっと続いているんです」
「それの何が楽しいの?」

 何と言われてもな。

「ええと。波打ち際で水を掛けあったりとか……」
「ルーデウス、また変な顔してるわよ」
「うっ……」
「でも、面白そうね! 後で行きましょう!」

 エリスは嬉しそうに、トンと地面を蹴り、トカゲに飛び乗った。

 素晴らしい跳躍だった。
 足首の力だけで飛び上がったのだ。
 擬音的には「グオン」って感じだろうか。

 エリスの足腰はかなり鍛えられている。
 その事自体はいいんだが……。
 将来はもしかしてギレーヌみたくムキムキになるんだろうか。
 ちょっと心配だ。


---


 俺たちは宿を決め、
 馬屋にトカゲを預かってもらうと、
 まずは冒険者ギルドへと足を伸ばした。

 会議は寝る前でいい。

 ウェンポートの冒険者ギルド。
 そこは多種多様な見た目の冒険者たちがひしめいている。
 見慣れた景色だが、人族が多くなったように感じる。
 ミリス大陸に渡れば、もっと増えるのだろう。

 まずはいつも通り、掲示板の前へと移動。

「すぐに海を渡るのではないのか?」

 と、ルイジェルドに聞かれる。

「見るだけですよ。ミリス大陸の方が収入がいいらしいですからね」

 ミリス大陸の方が収入がいい。
 それは、通貨が違うからだ。

 ミリス大陸の貨幣は、
 王札 将札 金貨 銀貨 大銅貨 銅貨
 の6種類にわかれている。

 石銭1円を基準にしてみると、

 王札 5万
 将札 1万
 金貨 5000
 銀貨 1000
 大銅貨100
 銅貨 10

 こんな感じだ。

 魔大陸におけるBランクの仕事は、屑鉄銭15~20枚前後。
 石銭換算で150から200。
 ミリスでのBランクの仕事が、仮に大銅貨15枚と仮定する。
 石銭換算で1500。
 10倍だ。
 ミリスで稼いだほうがいい。

 ただ、もし船が出るまでに時間が掛かるようなら、
 ここでの依頼も受けることになるだろう。
 基本的にはBランクの依頼だ。
 AランクとSランクは危険な上、一週間以上の日数が掛かる事が多いからな。
 数日でコンスタントに稼ぐなら、Bランクが一番だ。
 ゆえに、Bランクが受けられなくなるSランクに上がる予定は無い。

 Aの時点でSランクの依頼が受けられる。
 なら、なぜSランクがあるのか、と最初は疑問に思った。

 職員に聞いてみると、どうやらSランクになると特典がつくらしい。
 詳しく調べてないのでわからないが、
 宿賃の割引率が増えるとか、
 割のいい仕事をギルドから割り振ってもらえるとか。
 多少の違反行為なら目をつぶってもらえるとか。
 そういう感じらしい。

 Aランクの仕事を中心にやっていくのであれば、
 AでいるよりSに上がった方が金銭的な効率は上である。

 もっとも、そうした特典により大きな恩恵を受けるのは、
 迷宮探索を主とする冒険者であるらしい。

 俺たちは迷宮には潜らない。
 危険だし、日数が掛かる。
 依頼もBランクが中心だ。
 ゆえにSランクなる予定は、今のところ無い。
 エリスはなりたいみたいだけどな。

 と、話が逸れたな。

 とにかく、俺達は金儲けが目的で冒険者をやっている。
 なので、ミリスの方が稼げるのなら、すぐにでも船に乗った方がいい。

「そういえば、船ってどこから出てるんでしょうね」
「港だろう」
「港のどこって話ですよ」
「聞いてみろ」

 カウンターへと移動。
 立っているのは女性で、たぶん人族だ。
 なぜかカウンターに立つ職員は女性が多い。
 そして、なぜか巨乳率が高い。

「ミリス大陸に行きたいんですけど、
 どこにいけばいいのか、わかりますか?」
「そうした質問は関所でお聞きください」
「関所?」
「船に乗れば、国境を超えますので」

 ギルドの管轄ではなく国同士の問題。
 なので、ギルド員が説明する義務が無いってことか。

 ふむ、そういう事なら、関所に移動しよう。
 そこで詳しい話を聞いて……。

「あんたねぇ!」

 と、考えている時。
 ギルド内に叫び声が響き渡った。

 振り返ると、
 エリスが人族の男をぶん殴っていた。
 ウチの核弾頭は今日も元気だ。

「誰の、どこを、触ったと、思ってんのよ!」
「ぐ、偶然だ! お前みたいなガキを誰が触るか!」
「偶然だろうとなんだろうと! 詫びの入れ方に誠意が足りないでしょうが!」

 エリスの魔神語も、随分と流暢になった。
 そして、流暢になるにつれて、喧嘩が増えた。
 やはり、相手の言っている事がわかるとダメだね。

「ギャハハハ! なんだなんだ、喧嘩かぁ!?」
「やれやれ!」
「おいおい、子供にやられてんじゃねえよ!」

 ちなみに、冒険者同士の喧嘩はわりと日常茶飯事らしく、
 ギルドもあまり関与してこない。
 むしろ、積極的に賭け事をはじめる職員もいた。

「踏みつぶしてやるわ!」
「す、すまん、俺の負けだ、勘弁してくれ、片足を掴むな、やめろぉぉ!」

 などと考えていると、エリスはあっという間に男を転がしていた。
 エリスの追い込み方は、特に最近堂に入ってきている。
 前触れなくプッツンして、しかも的確に追い詰めてくる。
 何キレてんだよ、と思った時には転がされて、男の急所にストンピングを受ける。
 そこらのCランク冒険者ではどうにもならない。

 そして、ある程度攻撃を加えると、ルイジェルドが止める。

「やめろ」
「……何よ止めないでよ!」
「もう勝負はついた、これぐらいにしておけ」

 今回も、ルイジェルドが彼女を猫のように持ち上げて制止した。
 男は這々の体で逃げていく。

「ちくしょう、イカレてやがる!」

 いつもの光景だ。
 俺じゃなかなか止まらない。
 後ろから抱きかかえて止めると、
 どうしても手が勝手に動いてしまうからな。
 勝手に動いて変な所を揉みしだけば、今度は俺の命が危険に晒される。

「ハゲに赤髪の凶暴な小娘……!
 お前らもしかして、『デッドエンド』か?」

 誰かが叫んだ瞬間、ギルド内が静かになった。

「『デッドエンド』ってスペルド族の……?」
「バカ! パーティ名だよ。最近ウワサの偽物だって!」
「本物だって噂も聞いたことあるぜ」

 おや?

「凶暴だけど、根は結構いいヤツだって……」
「凶暴だけどいい奴って矛盾してるだろ」
「いや、全員が凶暴じゃないって意味で……」

 ざわ……ざわ……。
 と、ギルド内がざわめいていく。

 こういう状況は初めてだ。
 どうやら、俺たちも随分と有名になってきているらしい。
 この町ではルイジェルドの名前を売らなくてもいいかな?

「たった三人のパーティでAランクだもんな……」
「ああ、すげえな、でも本物だろうが偽物だろうがあの二人なら納得だぜ」
「『狂犬のエリス』と『番犬のルイジェルド』だろ?」

 エリスとルイジェルドに二つ名が!
 それにしても『狂犬』に『番犬』か。
 なんで犬なんだろうか。

 俺は何犬なんだろうか。

 ちょっと予想してみよう。
 闘犬は、無いな。
 そういうカッコイイことはしてきていない。
 勇ましい感じではないはずだ。
 俺が俺に付けるならバター犬だが……。

 この一年、俺はパーティにおける参謀として働いてきたつもりだ。
 やはり、知的な名前だろう。
 忠犬とかかな。

「じゃあ、向こうのチビが『飼主のルージェルド』か!」
「『飼主』は一番タチが悪いって聞いたぞ」
「ああ、悪いことばっかりやってるって話だ」

 ズッコけた。
 名前が、名前を、憶えられていない。

 いや、確かに、俺はよくルイジェルドって名乗ってたよ。
 何か一つ、いいことをする度に「ウチらデッドエンドのルイジェルドなんで、そこんトコ夜露死苦」なんて言ってたよ。
 そして、悪いことをするたびに高笑いして「俺がルーデウスだ、グハハハハ」とか笑ってきた。
 だからって、混ざることはないだろう?

 うーん。
 一年間それなりに活動してきて、
 俺だけ名前を覚えられていないというのは、
 ちょっとショックだな。

 ……でもま、いいか。
 悪い方で名前が売れてるみたいだし、本名じゃないのは悪くない。

 それに、飼主もいいじゃないか。
 是非ともエリスに首輪を付けて連れ回したいね。

「それにしても小さいよな」
「きっとアレも小さいんだぜ。子供だからな!」
「おいおい、小さいなんて言ったら犬をけしかけられるぞ!」
「ギャハハハハハ!」

 気付けば、全然関係ない事で笑われていた。
 だが、残念だったな。
 最近は順調に成長中だ。

 っと、いかん。
 こんな笑われ方をしたのでは、またエリスがキレてしまう。
 と、思ったら、彼女は俺の方をチラチラみて、顔を赤くしていた。
 あら可愛らしい。

「エリス、どうしました?」
「な、なんでもないわよ!」

 デュフフ。
 興味あるんなら、今晩、俺の水浴びを覗くといいぜ。
 なあに、ルイジェルドには言い含めておくよ。
 なんなら一緒に浴びようぜ。
 その場合、ちょっと手とか足とか体とか舌とかが滑るかもしれないけどな。

 と、冗談はさておき。
 とりあえず関所に移動だ。
 飼主らしく、威厳たっぷりな感じでこの場を去るとしよう。

「エリスさん! ルイジェルドドリアさん! 行きますよ!」
「なぜお前はたまに俺の名前を間違えるんだ……」
「ふん!」

 俺たちは周囲の視線を集めながら、冒険者ギルドを後にした。


---


 関所へとやってきた。
 この町は魔大陸にあるが、船に乗った先はミリス神聖国の領土である。
 荷を持ち込む際には税金を取られるし、
 入国の際にも金が必要となる。
 犯罪を抑制するためか、あるいは単に金にがめついだけなのか。
 ま、理由なんてどうでもいい。
 払えというなら払うだけさ。

 と、軽く考えていた。

「人族二人と魔族なんですけど、いくら掛かります?」
「人族は鉄銭5枚……魔族の種族は?」
「スペルド族です」

 関所の役人は、ギョっとした顔でルイジェルドを見た。
 そして、その禿頭を見てハァと溜息をついた。
 やる気のなさそうな顔で言う。

「スペルド族は緑鉱銭200枚だよ」
「に、200枚!?」

 今度は俺がビックリした。

「な、なんでそんなに高いわけ!?」
「言わなくてもわかるだろうが……」

 スペルド族の船賃が高い理由。
 わかる!
 今まで旅をしてきたから、よくわかる。
 けど、高すぎる。

「なんでそんな無茶な金額なんですか?」
「知らねえよ。決めたヤツに聞けよ」
「おじさんの予想では?」
「あん? まあ、テロ対策だろ。奴隷として運び入れて、ミリス大陸で暴れさせるとかよ」

 そういうことらしい。
 スペルド族が爆弾扱いされているのはわかった。

「おまえら、例の『デッドエンド』だろ?
 船に乗る時はちゃんと種族を調べられるからな。
 ここで見栄はって緑鉱銭200枚を払ったって、意味はないぜ?」

 役人はありがたい事に、そんな忠告をくれた。
 つまり、ここでミグルド族だと偽っても、バレるということか。

「種族を偽っていたら罰金とかないんですか?」
「……高い金を払う分にはな」

 役人の話によると、金さえ払えば大体オッケーらしい。
 なんとも拝金主義な事だ。


---


 関所から戻る頃には日が降りていた。

 俺たちは宿に戻り、食事を取ることにする。
 宿で出されたのは、港町特有の魚介料理だった。
 拳大もありそうな貝が今夜のメインディッシュだ。
 ニンニクバターっぽい味付けで酒蒸しにしてある。
 うまい。
 魔大陸で食った料理の中で、一番うまい。

「これ、おいしいわね!」

 エリスはもっちゃもっちゃと口一杯にほうばって、嬉しそうだ。
 彼女はここ一年で、アスラ王国流のテーブルマナーを完全に忘れつつある。
 右手のナイフで料理を切り分け、そのまま刺して口に運んでいる。
 さすがに手づかみで食べることは無いが、行儀なんてあったもんじゃない。
 エドナが見たら泣くかもしれない。
 俺の責任だろうか……。

「エリス。お行儀が悪いですよ!」
「もぐもぐ……行儀なんて誰が気にするのよ」

 まだルイジェルドの方がマナーがいい。
 もっとも、こっちも上品というわけではない。
 ナイフを一切使わず、フォークだけで食材を切り分けている。
 フォークを滑らせるだけで、食材がバターのように切れるのだ。
 達人の技を感じるね。

「さて、それでは、飯の途中ですが本日の作戦会議を始めます」
「ルーデウス。食事の最中に喋るのはお行儀が悪いわよ」

 エリスにすまし顔で言われた。


---


 食事を終え、腹がくちくなった所で、作戦会議を開始した。

「渡航費用は緑鉱銭200枚。途方もないです」
「すまんな、俺のせいで」

 ルイジェルドが顔を曇らせた。
 俺も、まさかこんな金額だとは思っていなかった。
 正直、渡航費用のことを甘く考えていた。
 ちょっと稼げばすぐ乗れるだろうと。
 実際、人族は鉄銭5枚だ。
 他の魔族だって、精々緑鉱銭1枚か2枚。
 スペルド族だけが異様に高いのだ。

「おとっちゃん、そいつは言いっこなしですよ」
「俺はお前の父ではない」
「知ってます。冗談ですよ」

 それにしても、緑鉱銭200枚か。
 並の金額ではない。
 Aランク、Sランク依頼を中心にこの町で金稼ぎしたとしても、何年掛かる事か。
 ミリス大陸はよほどスペルド族を受け入れたくないらしい。

「でも、困ったわね。まさかルイジェルドだけ置いていくわけにもいかないし」

 ルイジェルドを置いていく。
 それが一番手っ取り早い。
 俺たちも冒険者としてはかなり慣れてきた。
 ルイジェルド抜きでも、旅は続けられるだろう。
 とはいえ、もちろん、そんなつもりはない。
 ルイジェルドは旅の最後まで一緒。
 我等友情永久不滅、ってやつだ。

「もちろん、置いては行きません」
「じゃあ、どうするの?」
「方法は……3つあります」

 そう言って指を立て、3という数字を示す。
 物事はまず3という数字からだ。
 いかなる時にも進む、戻る、立ち止まるの選択肢は、常に存在しているのだ。

「ほう」
「凄いわね、3つもあるんだ……」
「ふふん」

 説明はちょっとまってね、まだ思いついてないから。
 えっと。

「まず一つ。
 依頼で金を稼ぎ、ミリスへと渡る正当法」
「でもそれは」
「そう、時間がかかり過ぎます」

 金稼ぎにだけ専念すれば、
 あるいは一年以内に溜まるかもしれない。
 何かハプニングが起きないとも限らない。
 うっかりサイフを落とすとかな。

「二つ目。
 迷宮に入り、魔力結晶と魔力付与品(マジックアイテム)を取ってくる。
 苦労はありますが、一発で向こう岸に渡れる金額が手に入るかもしれません」

 魔力結晶は高く売れる。
 具体的にいくらで売れるかはわからないが、関所で役人に渡せば、
 スペルド族を渡らせる事ぐらいはしてくれるはずだ。

「迷宮! いいわね! 行きましょう!」
「だめだ」

 迷宮案はルイジェルドに却下された。

「なんでよ!」
「迷宮は危険だ。罠は俺の目では見きれんものもある」

 ルイジェルドの目は、生物は見分けられるが、
 迷宮の作り出す罠には反応しないのだそうだ。

「行ってみたいのに……」
「……提案しといてなんですが、僕は行きたくないです」

 注意深く進めばなんとかなるかもしれないが、
 足元のおろそかな俺の事だ、どこかで絶対に致命的なミスをする。
 ここはルイジェルドの言葉に従っておくべきだ。

「三つ目。
 この町のどこかにいる、密輸人を探す」
「密輸人? なんだそれは?」
「こうした国境では、物を運び入れる際に、税金が掛かります。
 今回、払えと言われているのもそうしたものです。
 恐らく、商人であれば、品物にも税金が掛かるでしょう」
「そうなのか?」
「そうなのです」

 でなければ、種族毎に値段が違うなど、あるものか。

「中には、すごい税金が掛かる代物もあるでしょう。
 表立って運べない荷物を扱う相手のために、
 税金より安く運んでくれる人がいるはずです」

 まあいないかもしれんがね。

 でも、そうした業者に話を付けられれば、
 緑鉱銭200枚を払うより、遥かに安く運んでもらえるだろう。
 関所の値段設定は明らかにおかしい。
 ちょっとぐらいルール違反をしても、罰は当たらない……。

 いやいや、いかんいかん。
 楽な方向に行けば罠がある。
 ちゃんと学んだだろう。

 一応選択肢の一つには入れてみたものの、
 悪いことはなるべくしたくない。

 とりあえず、パッと思いつくのはこの三つか。

・正当法で金を稼ぐ
・迷宮で一攫千金
・裏業者に頼む

 どの選択肢もイマイチだな。


 ああそうだ。
 もう一つあったな。
 俺の杖、『傲慢なる水竜王(アクアハーティア)』を売るのだ。

 損得は抜きにして、これはなるべく売りたくないんだよね。
 せっかく誕生日にエリスにもらったものだ。
 今日まで大切に使ってきた。
 これを手放す事には、ルイジェルドもエリスも賛成しないだろう。

 でも、これが一番いいのかもしれないな。


---


 その夜、お告げがあった。
 神は言った。

「露店で食料を買いこんで、一人で路地裏を探せ」

 と。


 仕方がないので、やってやることにした。

「仕方なくなのかい……?」

 いやもう、食い物、路地裏って点でイベントの内容もわかりましたんで。

「わかるのかい?」

 どうせあれでしょ、お腹をすかせた迷子の子供とかいるんでしょ?
 それが、なんか変な男に絡まれてるんでしょ?

「その通りだよ、すごいな!」

 で、その子を助けると、実は造船ギルドの長の孫でしたー、とかなるんでしょ?

「ふふふ、それは明日の、お・た・の・し・み」

 なぁにが、おたのしみだ。
 そんな楽しい展開は今まで一度も無かっただろうが。

 ていうかよ、おいこら、一年ぶりだなおい。
 もう二度と顔出さねえのかと思って安心してたぞ、コラ。

「いや~、前の時は僕の助言で大変な事になったでしょ?
 ちょっと顔を出しづらくってさ」

 ハッ!
 神様にもそういう所があるんすね。
 でも勘違いすんなよ。
 あれは俺が勝手にミスっただけだ。
 でもちなみにどういう風にすれば正解だったか教えてください。

「正解と言われてもね。普通に衛兵に突き出せば、ルイジェルドと仲良くなれたはずだよ」

 え? あれってそんな簡単なイベントだったの?

「そうだよ。それを、彼らを仲間に引き入れて、ノコパラに目をつけられるとはね。
 まったく予想外だった。僕としては見てて楽しかったけどね」

 俺は全然楽しくなかったけどな。

「でも、おかげで一年ちょっとでここまで来れただろう?」

 だから結果オーライだとでも?

「物事は結果が全てさ」

 チッ。 
 気に入らねえな。

「そうかい?
 ま、いいけどね。
 それじゃあ……君の機嫌も悪そうだし、僕は消えるよ」

 ちょっとまて。
 一つ確認しておきたいんだが。

「なんだい?」

 もしかして、お前の助言って、
 あまり難しく考えない方がうまくいくのか?

「僕としては、難しく考えてくれた方が面白いね」

 あー、なるほどな!
 そういうことか。
 わかったよ。
 宣言しておくぞ。
 次回は面白くならない。

「ふふふ、それは楽しみだね」

 だね……だね……だね……。
 エコーを聞きながら、俺の意識は沈んでいった。
+注意+
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