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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第21章 青年期 クリフ編

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 間話「狂犬と神の子」

 ルーデウスがクリフに別れの挨拶をしていた頃。

 二人の人物が再会を果たしていた。
 場所は教団本部、春の庭園。
 春になると色とりどりの花が咲き乱れる麗らかな庭園。
 先日のルーデウスの泥沼によって少し斜めに傾いでいる木が多いが、それでも生命力は衰えていない。
 それが証拠に、サラークの木と入れ替わるように、バルタの木が花を咲かせていた。

 その木の前で、二人の女性が向かい合っている。
 金髪に、赤髪。
 テレーズと、エリスだ。

 そして、テレーズの後ろ。
 背中に隠れるように、神子が立っていた。
 彼女はもじもじと膝をすりあわせながら、縮こまっていた。

 さらにその周囲には、何やら青い鎧を来た男たちがいるが、背景のようなものである。

「ほら、神子様。エリス様ですよ。ルーデウスが、時間を作ってくださったんです」

 テレーズは、己のうしろの神子に優しく声をかけた。
 だが、神子はもじもじと縮こまるだけだ。

「で、でも……あの、エリス様ですよ?」

 彼女の中で、エリスは憧れの存在だった。

 物心ついた時から白い部屋に閉じ込められ、何かある度に外へと連れだされ、追い詰められた大人の汚い記憶を見せられる。
 一切の自由の無い世界で、一切の希望もなく生きていた彼女。
 移動の途中で罠にハメられ、刺客に囲まれ、絶対絶命になった時も、特に怖いとも、死ぬのは嫌だとも思わなかった。

 そこに現れたのが、エリスだった。
 孤高の気配。
 彼女の動きはまっすぐで、でも誰も捉えられなくて、赤い髪だけが残像のように、記憶に残った。

 鮮烈だった。
 その時、神子は何が起こっているのかわからなかった。

 子供が無事ならいいわ、というエリス。
 子供が自分の事だとわかったのは、教団本部に戻ってから。
 自分が助けられたのだとわかったのは、その時だ。

 そして神子は思い出す。
 瞳を見たので、名前はわかっていた。
 エリス。
 そう彼女はエリスというのだ。
 口に出して反芻すると同時に、己の記憶にあるエリスに強い憧れを持った。

 それ以来、神子は彼女の真似をしてきた。
 何かを目にする度に大きな声を上げて感動を表したり、
 何かを決める時は大きな声ではっきりと宣言したり。
 とにかく明るく元気よく大きな声で。

 そんな振る舞いをするようになって、どれだけ経っただろうか。
 エリスには、もう二度と会えるとは思っていなかった。
 会いたいとは思っていたが、自分から会いたいと言った事も無かった。
 そんな権限が無いことは、彼女も理解していた。

 だが、エリスがミリシオンに来ている。
 そう聞いた時、神子は我慢できなくなった。
 枢機卿に、教皇に、各所に必死にお願いをした。
 剣王エリスと会ってみたい、と。

 狂犬王は危険な人物という事だが、それでも一目お会いしたい。
 一言、お礼を言いたい。

 そんな小さな願いは、いとも簡単に聞き届けられた。
 危険極まりない狂犬王エリスと神子を引き合わせるという試みは、ルーデウスの「何かあったら俺が責任を取ります」という保証によって実現した。

 でも、いざ目の前にすると、なんと言っていいのかわからない。
 記憶を見るのは失礼かと思い、目も合わせられない。

「……」

 エリスは、神子の目の前で腕を組んで立っている。
 彼女はすでに名乗りを終えていた。
 ルーデウスの妻、剣王の一人であると宣言し終えていた。
 その後、テレーズが名乗り、以前の礼を述べてから、約五分だ。

「ほら、あまり時間が無いのですから」

 エリスはお行儀よく立っている。
 短気な彼女にしては珍しいが、今回彼女はルーデウスより厳しく言いつけられていた。

『相手は今回、俺を助けてくれた人だからね。失礼のないように……ちょっと上から目線で何か言ってくるかもしれないけど、絶対に殴っちゃダメだよ?』

 言いつけは守る。
 だが、さすがにイライラとしてきている。
 彼女は待つのが嫌いなのだ。

「早くしてくれない?」
「は、はい!」

 そんな短い言葉に、神子はぴょんと飛び出した。
 エリスを怒らせているという不安感が、羞恥心に勝ったのだ。

「その、神子です! 以前は命を助けていただいて、ありがとうございました!」
「以前……? 覚えてないわね!」
「え?」

 大きな声ではっきりとそう言い切ったエリスに対し、神子は反射的に、彼女の目を見た。

「……ぁ」

 そして、その記憶の中に、一切、自分のことが無いのを見て、悲しげな表情を浮かべた。

 仕方ない。
 そうわかってはいた。
 覚えているはずがない。
 でももしかして、と今まで思っていたのもある。
 もしかして、エリスも少しは覚えていてくれるのではないか。
 ああ、あの時の、大きくなったわね、とか言ってくれるのではないか。
 そんな風に思っていたのもある。
 自分がこれだけ焦がれているのだからと。

 しかし、エリスは自分の顔を見ても、以前と聞いても、一切思い出さなかった。
 あるいは、もっと時間を掛けて読み取れば、記憶の片隅に残っているかもしれないが……。
 昔と聞いた彼女の脳裏にあるのは、テレーズがルーデウスを膝の上に抱いて撫でくりまわしている記憶だけだ。

 神子は『記憶の神子』である。
 記憶とはそういうものだという認識があった。
 だが、ショックであることに変わり無い。

「でも、ルーデウスを助けてくれたのよね! 感謝するわ!」

 腕を組んだ、高い背のエリスが放つ、小気味良い声。
 ショックを吹き飛ばすような声に、神子は考えを振り払うように首を振った。

「いいえ……エリス様の夫を助けるのは、当然のことですから」

 前の記憶が無いのであっても、自分の憧れと感謝は変わらない。
 そう考えた神子に対し、エリスは追撃をするように言葉を浴びせかける。

「それで、あなたの名前はなんて言うの! ルーデウスが、これからも世話になるって言ってたから、覚えておくわ!」
「え?」

 名前。
 自分に名前は無い。
 神子は今までその事を、不自由に思ったことはない。
 だが、今、せっかく、エリスが覚えてくれるというのに、それが無い。
 大切なものを持っていない。
 それがとても、大きな喪失であるかのように思えた。

「えっと……その」
「神子ってのはあれでしょ、ザノバと同じで……それは、名前じゃないわよね?」

 ザノバという単語で、またエリスの瞳を見てしまう。
 どうやら、他国の神子は、名前を持っているらしい。
 その神子に対しては、エリス自身がさほど興味を持っていないので、名前ぐらいしかわからなかったが。
 しかし、やはり少しショックを受ける。

「貴様!」
「神子様は神子様だ!」
「愚弄するのか!」
「名前など不要だ!」
「貴様の神はどこにいる!」

 だが、背景の騒ぎのお陰で、少し落ち着いた。
 今まで不自由が無かったのだし、無いものは仕方ない。
 そう考えられた。

「申し訳ありません。私に名前は無いのです」
「ふぅん……そうなの」

 エリスは気にしなかった。
 何を考えているのかは、瞳を見ない神子にはわからない。
 だが、もし見ていれば、エリスが「ボレアス」という名前を捨てた経緯を知ることができただろう。

「まぁ、名前なんていらないわね」

 エリスはフンと鼻息を一つ、そう言い切った。
 ひとまず神子はほっとした。
 今までの人生の中で、これほど相手の目をみるかどうかで迷ったのは初めてだった。

「それにしても、驚きました。ミリスにはいらっしゃらないと聞いていましたので」
「ルーデウスがまた怯えているっていうから、来てあげたのよ……その、急いでね!」

 転移魔法陣の事は秘密にしておく。
 というのは、エリスも理解している。
 もっとも、神子はすでに転移魔法陣の存在は知っているため、くすくすと笑っただけだ。

「そうですか、さすがエリス様ですね!」
「ふふん、当たり前よ」

 エリスの機嫌がよくなり、場の空気も和やかなものへと変わった。
 それを見た神子は、この方向だと考えた。
 エリスをおだてて、もっと場の空気をよくしようと考えた。
 普段の神子なら絶対に考えない事である。

「その、私、エリス様にずっと憧れてたんです!」
「そ、そう?」
「はい、どうやったらエリス様みたいになれますか!?」

 そこで、エリスは神子を見下ろした。
 ふっくらとした頬。
 太めの腕、足。
 全体的にしまりの足りない、不健康そうなその体を。

「なりたいの?」
「はい! 私もエリス様みたいにかっこよくなりたいなって思ってて、言葉遣いとかも……え?」

 気づけば。
 気づけば、エリスが剣を抜き放っていた。
 反応できた者は、この場にいる人間の中で、二人。
 神殿騎士団の中でも特に剣術に優れた二人。

 この二人は、知覚したと同時に絶望していた。
 エリスの剣は抜き放たれた。
 その剣閃はまったく見えないが、しかし、何かを斬った手応えのようなものを感じさせていたからだ。
 斬られた。
 誰が?
 そんなのは決まっている。

「貴様っ!」
「よくも――!」

 ボトリと落ちたのは、神子の手首――――の、半分ほどの太さのバルタの木の枝だった。

「……」
「…………」

 それを見て、神殿騎士たちは何事も無かったかのように背景に戻った。

 エリスはそれを拾い上げ、邪魔な枝をトントンと払っていく。
 神子は、いつしか抜かれたエリスの剣を見て、ずいぶん立派な剣だなぁ、神殿騎士の人でもあんなの持ってる人いないなぁ、と思いつつ、ぼんやりとその動作を見ていた。
 やがて、枝は全て落ちきり、100センチほどの長さを持った棒となった。

「はい」

 そして、エリスは、それを神子に手渡した。

「……?」

 きょとんとする神子に対し、エリスは横向きになった。
 そして、片手に持った剣を両手に持ち替え、上段に振りかぶって――振りぬいた。
 ビッ、と静寂を打ち破る破邪のような音が耳に残る。

「やってみなさい」
「……え? あ、はい」

 神子もエリスの真似をして、木の棒を振りかぶる。
 そして、「えいやっ」と小さな掛け声を上げて、振り下ろした。
 だが、100センチの木の棒。
 乾かしているわけでもなく、重量はそこそこにあり、重心もおかしく、神子はたたらを踏んでふらふらと前によろめいた。
 それを見て背景が「ああっ!」と声を上げたが、置いておこう。

「えっと、エリス様みたいには――」
「もっと腰を落としなさい、肘の力は抜いて、背中で動かすことを意識して。もう一回」
「は、はいっ!」

 その後、神子はわけもわからぬまま、木の棒を振り続けた。
 エリスは神子が木の棒を振る度に、アドバイスを口にした。

「……」
「……振る時に声を出しなさい、イチ、ニ、イチ、ニ!」
「イチ、ニ、イチ、ニ!」

 神殿騎士たちは、その光景を止めなかった。
 よくわからないまま、しかしエリスが神子に危害を加えない事は見て取れて、止める気にはならなかった。
 神子が棒きれを振り回しているのが可愛らしかったのもある。
 隊長だけはそれを止めようとして、別の取り巻きに抑えられていたが、所詮は背景での出来事である。

「はぁ……はぁ……エリス様……」

 素振りの回数が30を超えたあたりで、神子が震えた声をあげた。

「腕が……もう……」
「そう、じゃあいいわ、やめなさい」

 神子は言われるがまま、木の棒をおろした。
 背中から手首に掛けて、痺れにも似た倦怠感がある。
 耳を近づければ、筋肉がミシミシと音を立てているのが聞こえるのではないだろうか。

「あ、あの……」

 神子は不安げな顔で、エリスを見上げた。
 なぜ木の棒をふらされたのかわからない。
 何かを試されたのかもしれない。

 失望されてしまったのだろうか。
 こんなもので私になれるかと叱責されるのかもしれない。
 そんな悲しい気持ちが湧いて出てくる。

「明日から、毎日やりなさい。それと、この庭でいいから、走りなさい」
「え?」
「やり方がわからなかったら、そいつらに聞きなさい」

 エリスはまっすぐに神子を見ていた。
 神子はその瞳に吸い寄せられるように、エリスの記憶を見た。
 そこにあったのは、剣の聖地での、厳しい修行の毎日だ。
 飲まず食わずで剣を振り、雪の中を走り、叫び、研ぎ澄ませていく過程だ。

「私みたいになれるわ」

 はっきりと言い切ったエリス。
 もしこの場にルーデウスがいれば「いや、さすがに無理じゃないかな……」と苦笑したかもしれない。
 だが、この場にルーデウスはいない。

 神子は振り返り、テレーズの目を見た。
 彼女の記憶には、彼女自身の訓練が刻まれていた。
 他の神殿騎士達の瞳の奥底にも、エリスほどではないにしろ、努力の記憶がある。

 なれる、なれるのだ。
 きっと辛いに違いない、誰も楽はしていない。
 だが、なれるのだ。

「私にも……出来るでしょうか」
「大丈夫だと思います。剣も魔術も許されませんが、体を鍛えるぐらいなら……皆も、こぞって教えてくれるでしょう」

 答えたのはテレーズだった。
 彼女は背景を見つつ、そう言ったが、すぐに神子に対して視線を戻した。
 彼女の瞳を覗きこみつつ、真摯な言葉を口にする。

「ただ、もし刺客に襲われても、我らが全滅するまでは決して何もしないとお誓いください」

 そこには、生兵法で敵に挑み、死んだ貴族の記憶があった。
 この者のようにはなるなという、テレーズの優しさがあった。

「はい。ミリス様に誓います」

 神子が嬉しそうに頷いた。
 その場に、なんとも和やかな空気が流れる。

 それに釣られてか、庭園をウロウロと歩き回っていた銀梟が戻ってきた。
 首をかしげながら神子を見上げ、「ホウ」と一声鳴いた。

「あら……どうしたの?」

 神子が中腰になって手を差し伸べると、銀梟は痒いところでも差し出すかのように、額を突き出した。
 神子がやや爪を立てて撫でると、銀梟のふわふわとした毛が逆立ち、気持ちよさそうに目を細めた。

 エリスはそれを見て、ウズウズとした気持ちになった。
 彼女は獣族が大好きである。
 だが、獣族にかぎらず、ふわふわとした毛を持った生き物ならなんでも構わない。
 犬や猫は触る機会も多いが、鳥は無い。
 飛んでいる鳥を切り落とす事はできるが、これほど大きな鳥に警戒されずに接近することは稀であった。

「……ねえ、私も触っていい?」
「はい! もちろんです」

 許可を得たエリスは、鼻息荒くしゃがみこんだ。
 その勢いに、銀梟がたじろぐように後ろに下がる。
 エリスはそこで動きを止めた。

「……」

 ここで素早く動くからダメなのだ。獣は己よりも素早く力強い生物を、本能的に恐れる。
 完全に屈服されれば従順にもなるが、仲良くなりたいなら怖い生物だと思われないようにしなければならない。
 という話は、ベッドで完全に屈服していたリニアから聞いたものである。

 ゆっくりと緩慢に、エリスは手を伸ばし、銀梟に触れた。
 遠目にはやや固そうにも見える梟の羽毛は柔らかく、エリスの気持ちを高揚させた。
 そのまま抱きしめつつ顔を埋めたいと思ったが、そこまではダメだ。
 そこまですると、逃げられる、レオも、リニアもプルセナも、そうだった。
 だが、そこまでしなければ大丈夫だ。
 そう思いつつ、エリスは銀梟を撫でくりまわした。
 銀梟はさながら、虎にいたぶられるインパラのように怯えていたが、気にする人間はいない。

「気に入っていただけましたか?」
「鳥もいいわね」

 しばらくその柔らかさを堪能したエリスは、頬を紅潮させながら立ち上がった。
 毛皮もいいが、羽毛の柔らかさは別格なのだなと思いながら。
 そこでふと、エリスはあることが気になった。

「そいつ、名前はなんて言うの?」
「え? 名前ですか?」

 神子はその問いに首をかしげた。
 はて、名前。

「生き物を飼ったら、名前をつけるのが常識よ」
「そうなんですか?」
「ええ、前にルーデウスがそう言ってたもの」

 神子ははたと困った。
 さて、名前と言われても、付けたこともなければ、自分にも無い。
 自分は名乗る事を許されてはいないが、確かにあった方が便利か。

「名前……」

 深く悩みこんでしまった神子に、背景がオロオロとし始める。
 俺が決める、いや俺が、しかし神子様が決めねば、と。

「エリス、終わったよ」

 その時、庭園にルーデウスが戻ってきた。
 クリフとの別れを終えて、少しおセンチな気分になったルーデウスだ。
 だが、感傷に浸っている暇はない、次は戦いになる。
 俺はロボット。センチネルな気持ちで動かなければならないと顔を引き締めているルーデウスだ。
 彼は庭園の様子を見て、首をかしげた。

「えっと、何かあった?」
「名前を決める事になったのよ」
「名前……」

 ルーデウスは、庭園を見渡した。
 困った顔をした神子、おろおろとした取り巻き。
 状況が飲み込めていなさそうな新しい隊長。
 ただ苦笑しているテレーズ。

 すぐに状況を理解した。
 それは確かに困るだろう、と。
 きっと、エリスも悪気は無かったのだろう、と。

「あ、ルーデウス様に決めていただくというのはどうでしょうか」

 と、そこで神子がそんな提案をした。
 自分では決められないが、ルーデウスなら問題なかろう、と。

「え? 俺でいいんですか?」
「はい、もちろんです」

 言われ、ルーデウスは難しい顔をした。
 エリスと、神子を見比べる。
 ヘタな名前は付けられないと思いつつ、しかし唐突の事で頭はあまり回らない。

「じゃあ…………ナースで」
「ナースですか、いい名前ですね! あなたの名前は、今日からナースですよ!」

 神子がしゃがみ込み、足元にいた銀梟の頭をなでた。
 それを見て、ルーデウスは「あっ」と小さな声をあげた。

「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです」

 ルーデウスは神子から視線を逸らした。
 やましい事のある奴のように、顔を逸らした。
 それに首をかしげながらも、しかし神子は満足だった。
 憧れのエリスにも会えたし、梟の名前も決まった。明日からやるべき事も決まった。
 今日は本当に良い日だと思っていた。

「エリス様。本日はありがとうございました!」
「また来るわ、その時に、また見てあげる」
「はい!」

 エリスも満足だった。
 梟に触れられただけで、満足だった。

 背景も満足だった。
 エリスが剣を抜いた事で、少々ヒヤッとした場面もあったが、神子が満足そうにしていたのが満足だった。
 明日からは自分が手取り足取り、体の鍛え方を教えてさしあげようと思っていた。全員が。

 ルーデウスだけが、「やっべぇ」という顔を逸らしていた。
 テレーズだけが、ルーデウスのその表情に気づいていた。
 一体誰に名前をつけようとしたのかを、気づいていた。
 しかし、彼女がそれを口にすることは無かった。
 ただ苦笑するだけだった。

 そんな様子を、銀梟ナースが、首をかしげながら見ていた。


 こうして、エリスにまた一人、弟子が出来た。

 翌日から神子はどんどんスリムになっていき、神殿騎士から今以上にアイドルらしき扱いを受けるようになっていくのだが……それはまた別の話である。
+注意+
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