第二十一話「スペルド族」
目覚めると夜だった。
目に入るのは満点の星空。
木が燃えるパチパチという音。
ゆらゆらと揺れる炎の影。
焚き火の側で寝ていたらしい。
もちろん、俺には焚き火を起こした記憶もなければ、野宿を始めた記憶もない。
最後の記憶は………そうだ。
空がいきなり変色したと思ったら、白い光に包まれたのだ。
そして、あの夢だ。
くそ。
嫌な夢を見た。
「はっ……!」
慌てて自分の身体を見下ろす。
鈍重で何もできない身体ではない。
幼くも力強いルーデウスに戻っていた。
それを確認すると同時に、先ほどの記憶が夢のように薄れていく。
ほっと一安心。
「ちっ……」
人神め、嫌な感覚を思い出させてくれる。
けれど、本当によかった。
俺はまだ、この世界で生きていけるらしい。
やり残したことがいっぱいあるからな。
……せめて、魔法使いの証ぐらいは捨てたい。
身体を起こしてみる。
背中が痛い。
地面にそのまま寝かせられていたのか。
夜空の下、ひび割れた大地が広がっている。
草木はほとんど生えていない。
虫すらいないのか、焚き火の音以外には何も聞こえてこない。
音を立てれば、どこまでも吸い込まれていきそうな気配すらある。
どこだここは……。
少なくとも、俺の記憶にはこんな場所は無い。
アスラ王国は全土が森か草原だ。
あの白い光でこんな風になったのか……?
ああ、いや。
違う。
そうじゃない。
人神が言っていた。
俺は転移したんだ。
魔大陸に。
なら、ここは魔大陸だ。
きっと、あの光のせいで……あ。
ギレーヌとエリスは……!
立ち上がろうとしたところで、
すぐ後ろで、エリスが俺の裾を掴んで寝ていることに気付いた。
なぜか彼女には、マントのようなものが掛けてあった。
俺はなにもなかったんだが……。
まぁ、レディファーストということにしておこう。
彼女の背後に『傲慢なる水竜王』も転がっていた。
とりあえず、外傷はなさそうだったので、ほっとする。
ギレーヌあたりが何とかしてくれたのかもしれない。
エリスを起こそうかと思ったが、うるさそうなのでとりあえずは放っておく。
ギレーヌはどこだ?
と、辺りを見回すと、
先程は気付かなかったが、焚き火の向こうに人影があった。
「………!?」
ギレーヌではないと、瞬時に悟る。
彼は、そう、男だ。
彼は俺を観察するように、微動だにせず、じっと見ていた。
警戒している感じではない。
むしろ、何かにこう。なんだっけな。
そうだ。
猫に恐る恐る近づく時の姉貴みたいな感じだ。
こちらが子供だから、怯えられないか心配なのだろうか。
なら、敵意はなさそうだ。
ほっとした瞬間、俺は男の風貌に気付いた。
エメラルドグリーンの髪。
白磁のような白い肌。
赤い宝石のような額の感覚器官。
極めつけに、脇においてある三叉槍。
スペルド族。
顔には縦断する傷。
眼光は鋭く、表情は厳しく、剣呑とした印象。
同時に、ロキシーの教えを思い出す。
『スペルド族には近づくな、話しかけるな』
エリスを抱えて全力で逃げようとして、寸前で思いとどまる。
人神の言葉を思い出したのだ。
『近くの男を頼り、助けるのです』
あの自称神の言葉は信用できない。
あんな話の後で、こんな怪しい男をポンと出して、どうして信じられるというんだ。
しかも、スペルド族だ。
ロキシーからこの種族の怖さはさんざん教えられてきた。
いくら神が頼って助けろといった所で、どうして信じられよう。
どっちを信じる?
得たいの知れない人神と、ロキシーと。
言うまでもない。
信じたいのはロキシーだ。
だから、俺はすぐに逃げるべきだ。
いや。
だからこその『助言』なのかもしれない。
何の情報もなければ、俺はこの男から逃げただろう。
その結果、運良く逃げ切る事が出来たら……どうなる?
周囲をみろ。
この暗くて見覚えのない風景を。
岩ばかりで、ひび割れた地面を。
魔大陸に転移した。
という言葉をそのまま信じるのなら、ここは魔大陸だ。
そういえば、
人神のインパクトで忘れていたが、
その前に奇妙な光景を見た。
この世界のあらゆる場所を飛んでいる夢だ。
山の上、海の中、森の奥、谷の底……。
即死するような場所もたくさんあった。
あれが何の関係もない夢でないのなら、
転移したのは、恐らく本当だろう。
魔大陸のどこかもわからない。
逃げれば、広い大陸のどまんなかに、放り出されることになる。
結局、選択肢など無いのだ。
ここでこの男から逃げ出し、あるいは戦って倒し、
エリスと二人で魔大陸をさまよった所でいい事はない。
それとも、賭けるか?
夜が明けたら、近くに人里があることを賭けるか?
無茶をいうな。
道がわからないということがどれぐらい辛いことか、
俺はよく知っているじゃないか。
落ち着け。
深呼吸しろ。
人神は信じられない。
だが、この男個人はどうだ?
よく見ろ。
顔色を伺え。
あの表情はなんだ?
あれは不安だ。
不安とあきらめの混じった顔だ。
少なくとも、彼は感情のない化物ではない。
ロキシーは近づくなと言っていた。
だが、実際にスペルド族と会ったことは無いとも言っていた。
俺は『差別』や『迫害』、『魔女狩り』という概念を知っている。
スペルド族が恐れられているのは、誤解である可能性もある。
ロキシーは嘘を言ったつもりはないかもしれない。
ただ誤解していただけなのかもしれない。
俺の感覚では、彼に危険は無い。
少なくとも、人神に感じた胡散臭さは微塵も感じられない。
今はロキシーでも人神でもなく、自分の感覚を信じよう。
俺は一目見て、嫌な印象や怖い印象は持たなかった。
外見を見て警戒しただけだ。
なら、話だけはしてみよう。
それで判断しよう。
「おはようございます」
「………ああ」
挨拶をすると、返事が帰ってきた。
さて、なんと聞くべきか。
「神様の使いですか?」
その質問に、男は首をかしげた。
「質問の意図がわからんが、お前たちは空から降ってきた。
人族の子供はひよわだ。焚き火を作って身体を暖めておいた」
人神の名前は出なかった。
あの神は、この男には話を通していないのだろうか。
面白いから、という言葉をそのまま信じるのであれば、
むしろ俺の行動だけではなく、
俺と接触した彼の行動も面白おかしく鑑賞するつもりなのか。
だとすれば、彼は信じられるかもしれない。
もう少し話をしてみよう。
「助けて頂いたんですね。ありがとうございます」
「……お前は、目が見えないのか?」
「は?」
唐突に変なことを聞かれた。
「いえ、両の眼ともしっかり開眼していますよ?」
「ならば、親にスペルドについて聞かずに育ったのか?」
「親はともかく、師匠には厳重に注意されましたね。近づくなって」
「………師匠の教えは守らなくていいのか?」
彼はゆっくりと、確かめるように聞いてきた。
自分はスペルド族だけど、大丈夫なのかって話だ。
意外と臆病なんだな。
「お前は、俺を見ても、怖くは無いのか?」
怖くはない。
恐怖はないのだ。
ただ、疑っているだけだ。
だが、それを言う必要もない。
「助けて頂いた方を怖がるのは失礼ですよ」
「お前は不思議なことをいう子供だな」
彼の顔には、困惑の表情が張り付いていた。
不思議、か。
スペルド族としては、忌避されるという感覚が普通なのだろう。
ラプラス戦役については習った。
戦争後、スペルド族が迫害を受けてきたのも知っている。
他の魔族への差別は薄れつつあるようだが、スペルド族に対してだけは異常だ。
まるで戦中の米兵に対する日本人のように、あらゆる種族が毛嫌いしている。
この世に絶対悪があるとすれば、それはスペルド族だ、とでも言わんばかりに。
俺が生前に差別を良しとしない日本人でなければ、
彼を見た瞬間に叫び声でも上げていたかもしれない。
「………」
彼は枯れ枝を焚き火へと放り込む。
パキンと音がした。
その音を聞いたのか、エリスが「んぅ」と身動ぎをした。起きるかもしれない。
おお、いかん。
エリスが起きたら絶対に騒ぐからな。
ぐちゃぐちゃになる前に、自己紹介ぐらいはしておくか。
「僕はルーデウス・グレイラットです。お名前をお聞きしても?」
「ルイジェルド・スペルディア」
特定の魔族は種族ごとに、決められた苗字を持つ。
家名、なんてものをつけているのは、基本的に人族だけだ。
たまに他の種族も酔狂で付けたりするらしい。
ちなみに、ロキシーはミグルディアだ。
と、ロキシー辞典に書いてあった。
「ルイジェルドさん。もうすぐこっちの子が起きると思うんですが、
ちょっと騒がしい子なので、先に謝っておきます。申し訳ない」
「構わん。慣れているからな」
エリスなら、ルイジェルドの顔を見るなり殴りかかってもおかしくない。
敵対しないためにも、必要な会話は終わらせておくべきだろう。
「隣、失礼します」
エリスの寝顔をチラリと見て、まだ大丈夫そうだなと思い、
俺はルイジェルドの隣に移動した。
彼は暗い明かりの下で見てみると、なんとも民族性溢れる格好をしていた。
イメージとしてはインディアンだろうか。
刺繍の入ったチョッキとズボンだ。
「む……」
居心地悪そうにしている。
人神のようにグイグイと来ない分、好印象だ。
「ところで話は変わりますが、ここはどこなんですか?」
「ここは魔大陸の北東、ビエゴヤ地方。旧キシリス城の近くだ」
「魔大陸……」
確か、キシリス城は魔大陸の北東だ。
話を信じるなら、だが。
「どうしてそんなところに落ちたんでしょうね」
「お前たちにわからんのなら、俺にもわからん」
「そりゃ、そうですね」
ファンタジー世界だし、何が起こっても不思議ではないと思うが……。
ペルギウスの配下とかいう大物も登場したし、偶然の産物ではないのかもしれない。
ていうか、あの人神が関与してる可能性も高い。
巻き込まれたのが偶然なら、生きてるだけで儲けものだ。
「ともあれ、助けていただいたことには感謝します」
「礼はいらん。それより、どこに住んでいるのだ?」
「中央大陸のアスラ王国、フィットア領のロアという都市です」
「アスラ……遠いな」
「そうですね」
「だが安心しろ、必ず送り届けてやろう」
魔大陸の北東とアスラ王国。
地図の端と端だ。
ラスベガスとパリぐらい離れている。
しかも、この世界では、船は限られた場所しか通れない。
だから陸路でぐるりと回らなければいけないのだ。
「何が起こったか、心当たりはないのか?」
「心当たりというか……空が光ったと思ったら、光輝のアルマンフィって人がきて、異変を止めに来たと言いました。その人と話していたら、いきなり白い光が押し寄せてきて……。次の瞬間にはここで眼が覚めました」
「アルマンフィ……ペルギウスが動いたのか。
ならば、本当に何かが起こったのだろう。転移ぐらいで済んでよかったな」
「まったくです。あれが爆発とかだったら即死ですからね」
ルイジェルドは、ペルギウスという名前を聞いても動じなかった。
意外と、何かあると動く人なんだろうか。ペルギウスって。
「ところで、人神という存在に聞き覚えは?」
「ヒトガミ? 無いな。人の名前か?」
「いえ、知らないならいいです」
嘘を付いている感じはない。
彼が人神のことを伏せる理由……。
思い至らない。
「それにしても、アスラ王国か」
「遠いですよね。いいですよ。近くの集落にでも送ってくだされば……」
「いや。スペルドの戦士は一度決めた事は覆さん」
頑固だが実直な言葉だ。
人神の助言がなければ、それだけで信頼してしまったかもしれない。
しかし、今は疑心暗鬼だ。
「世界の端と端ですよ?」
「子供が余計な気遣いをするな」
恐る恐るといった感じで、俺の頭に手が乗せられ、おずおずといった感じで、撫でられた。
俺が拒否しないでいると、彼はほっとした顔をした。
この人、子供好きなのかな?
しかし、歩いて10分の所にあるわけじゃないのだ。
そんな軽々しく送ると言われても、信用できない。
「言葉は通じるのか? 金はあるのか? 道はわかるのか?」
言われて、そういえば、と思った。
俺は先程から人間語で話しているが、この魔族の男は流暢に返事を返してくる。
「魔神語はできます。
魔術が出来るので金はなんとか稼げます。
人のいる所にさえ連れて行ってもらえれば、道は自分で調べます」
なるべく断る方向で話を進めたかった。
この男は信用できるかもしれないが、
人神の思惑通りに事が進むのは、避けたほうがいい気がしたのだ。
疑り深い俺の言葉に思う所もあるはずだが、
ルイジェルドは実直な返事をした。
「そうか……ならば護衛だけはさせてくれ。
小さな子供を放り出したとあっては、スペルドの誇りに傷がつく」
「誇り高い一族なんですね」
「傷だらけの誇りだがな」
その冗談に、俺はハハッと笑った。
ルイジェルドの口端もつり上がっていた。笑っているのだ。
人神の胡散臭い笑みとは違う、温かい笑みだった。
「とにかく、明日は俺が世話になっている集落まで行こう」
「はい」
神は信じられないが、この男は信じられるかもしれない。
少なくとも、その集落とやらに行くまでは、信じてやろう。
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しばらくして。
エリスの目がパチリと開いた。
ガバッと身体を起こし、キョロキョロと周囲を見渡す。
次第に不安そうな顔になり、俺と目があって、あからさまにほっとした表情になる。
すぐに、隣に座るルイジェルドと目があった。
「キャアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!」
悲鳴というか、絶叫だった。
転がるように後ろに下がり、そのまま立ち上がって逃げようとして、腰砕けになって倒れた。
腰が抜けたのだ。
「イヤァァァアアアアア!」
エリスはパニックになった。
しかし暴れもしなければ、這いずって逃げるでもない。
その場にうずくまって、ガタガタと震えて、ただ声だけは張り上げて叫ぶ。
「ヤダ! ヤダヤダ! 怖い! 怖い怖い怖い!
助けてギレーヌ! ギレーヌ! ギレェーヌ!
どうして来てくれないのよ! イヤ、イヤ! 死にたくない! 死にたくない!
ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいルーデウス!
突き飛ばしてごめんなさい! 勇気がなくてごめんなさい!
約束を守れなくてごめんなざぁぁあ、あ、あぁぁぁん!
うえええぇぇええん!」
最終的には、亀のように縮こまって泣き出してしまった。
俺はその光景に戦慄を覚えた。
(あの、エリスが、こんなに怖がっている……)
エリスは気の強い女の子だ。
座右の銘は恐らく天上天下唯我独尊。
ワガママで乱暴で、とりあえず殴ってから考える、そんな子だ。
もしかして、俺はとんでもない勘違いしていたんじゃないか?
スペルド族は、決して触れてはいけない相手なんじゃないのか?
チラリとルイジェルドを見てみる。
彼は平然としていた。
「あれが、普通の反応だ」
そんな馬鹿な。
「僕は異常ですか」
「異常だ。だが……」
「だが?」
「悪くはない」
ルイジェルドの横顔は、随分と寂しそうに見えた。
思う所があった。
俺は立ち上がり、エリスのところまで移動する。
足音に気づいて、エリスはびくりと身体を震わせた。
俺はその背中を優しく撫でた。
昔、何かに怖がって泣いていたら、
ばあちゃんがこうやって背中を撫でてくれたのを思い出しながら。
「ほーら、怖くない。怖くない」
「ひっく、怖くないわけないじゃない!
す、スペルド族よ!」
そんなに怖がる理由が、俺にはわからない。
だって、あのエリスだ。
剣王ギレーヌ相手にも牙を剥いたエリスだ。
彼女に怖いものなんてあるはずがない。
「本当に怖い人なんですか?」
「だ、だって、す、スペルド族は!
子供を、たべ、食べっ! 食べるのよ? ひっく……」
「食べませんよ」
食べないよね?
とルイジェルドを見ると、首を振った。
「子供は食べん」
だよね。
「ほら、食べないって」
「だ、だ、だって! だってスペルド族よ! 魔族なのよ!」
「魔族だけど、人間語は通じましたよ」
「言葉の問題じゃない!」
ガバッと顔を上げて、エリスが睨んでくる。
いつもの調子に戻ってきた。
やはり、エリスはこうでなくては。
「あっ、大丈夫なんですか?
ちゃんと縮こまってないと、食べられちゃいますよ?」
「ば、馬鹿にしないでよ!」
馬鹿にした口調で言うと、エリスは俺をキッと睨んだ。
そしてそのまま、ルイジェルドの方もキッと睨んで……。
カタカタと震えた。
目が潤んでいる。
もし、いつもの様に仁王立ちしたら、足もカクカクになっていただろう。
「は、はじ、はじ、はじめ、て、お、おめにかかります。
え、え、エリス・ボボ、ボレアス……グレイラットです!」
半泣きになりながら、自己紹介をした。
偉そうに睨んで自己紹介なのが、ちょっと笑える所だ。
いや、そういえば昔、俺がそういう風に教えたかもしれない。
人と会ったら、とりあえず自己紹介をして先制攻撃しろ、と。
「エリス・ボボボレアス・グレイラットか。
知らない間に、人族はおかしな名前を付けるようになったな」
「違うわよ!
エリス・ボレアス・グレイラットよ! ちょっと噛んだだけよ!
それよりあんたも名乗りなさいよ!」
叫んでから、エリスは「あっ」と、不安そうな顔になった。
自分が誰に向かって叫んだか、思い出したのだ。
「そうか。すまん。
ルイジェルド・スペルディアだ」
エリスがほっとした表情になり、ドヤ顔をしてくる。
どお、怖くなんてないんだから、という顔だ。
「ね、大丈夫だったでしょう?
話が通じればみんな友達になれるんですよ」
「そうね! ルーデウスの言うとおりね!
お母様ったら、嘘ばっかり!」
ヒルダが教えたのか。
しかし、どれだけ恐ろしい伝承だったんだろうか。
いや、俺だってテケテケとか、ナマハゲを実際に見たらビビるかもしれない。
「ヒルダさんはなんと?」
「早く寝ないとスペルド族がきて食べちゃうって」
なるほど、子供を寝かしつけるための迷信として使っているのか。
し○っちゃうオジサンみたいなもんだ。
「でも、食べられていない。
むしろ、スペルド族と友だちになったら、みんなに自慢できるかも」
「お、お祖父様やギレーヌにも自慢できるかしら……?」
「もちろんですとも」
チラリとルイジェルドを見ると、驚いた顔をしていた。
よし。
「ルイジェルドさんは友達が少ないみたいだから、
エリスが頼めばすぐに仲良くしてくれると思いますけどね」
「で、でも……」
ちょっと子供っぽい言い方すぎるか?
と思ったが、エリスは迷っている。
考えてみれば、エリスに友達はいない。
俺は……ちょっと違うだろう。
友達という単語に気後れしているのかもしれない。
あとひと押しが必要か。
「ほら、ルイジェルドさんも!」
促すと、ルイジェルドもなんとなく流れがわかったらしい。
「え? あ、ああ。エリス……よろしくたのむ」
「! しょ、しょうがないわね! わ、私が友達になってあげるわ!」
ルイジェルドが頭を下げたのを見て、エリスの中で何かが崩れたらしい。
よかった。
それにしても、エリスは単純だ。
あれこれと考えているのが馬鹿らしくなる。
でも、エリスが単純な分、俺が考えないとな……。
「ふう、とりあえず今日はもう少し休みます」
「なによ、もう寝るの?」
「うん、エリス、僕はつかれたよ。なんだか、とても眠いんだ」
「そうなの? しょうがないわね。おやすみ」
俺が横になると、エリスは自分のそばにあった、マントのようなもの(おそらくルイジェルドの私物)を掛けてくれた。
どっと疲れた。
意識が落ちる直前、
「お前、もう怖くはないのか?」
「ルーデウスが一緒だもの、大丈夫よ」
という会話が聞こえた。
ああ、エリスだけでも無事に送り届けないとな。
そんなことを思いつつ、俺の意識は落ちた。