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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第19章 青年期 配下編

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第百九十九話「次の戦い」

 チュンチュンと、雀の鳴き声が聞こえてきて、俺は目を覚ました。

「ん……朝か」

 グッと伸びをすると背筋がゴキゴキと鳴り、あくびが出た。

「あふぁ……」

 隣を見ると、朝日を浴びてキラキラと輝く青い髪の少女が寝ている。
 ロキシーだ。
 神と言ってもいい。

 さらにその隣では、青い髪の赤子が寝ている。
 神と人の子ペルセウス。
 ではなく、我が娘ララだ。

 さらにその奥。
 ベッドの下では、白い毛玉が丸くなっている。
 聖獣レオだ。
 獣族から正式にこっちに移る許可を得たって事で、よりいっそうデカイ顔をするようになった気がする。
 多分、リニアとプルセナがペコペコしてるからそう感じているだけだろう。

 それにしても、随分とララになついていると思っていたが……。
 ララが救世主とは。
 衝撃的ではあったが、ある程度の予測もできていた。

 しかし、うちの子が特別、か。
 有頂天になりそうな所だが、あまり態度には出さないでおこう。
 子供に優劣をつけるわけにはいかんからな。 

「ん……あ、おはようございます、ルディ……」

 ロキシーが目覚めた。
 寝ぼけ眼をこすりつつ、体を起こす。
 妊娠の影響で膨らんだ胸が白日の元にさらけ出される。
 いかん、邪な目で見ては、目が潰れてしまう。
 ああしかし、我が邪悪なる眼は吸い寄せられるようにそこに。
 ああ、神よ。お助けください。

「あれ? なんでララが……? ルディが連れてきたんですか?」

 ロキシーは、自分の隣に眠る娘を、寝ぼけ眼で見下ろした。
 首を傾げつつも、その頭をサラサラと撫でる。

「昨日、自分で連れてきたの、憶えてませんか?」
「……はて」

 昨日はひと通り燃え上がった後、二人で寝ていたらララが珍しく夜泣きをした。
 ロキシーは寝ぼけた顔のまま、フラフラと立ち上がり、ララを寝室につれてきて、おしめを変えて、母乳を飲ませて、よしよしと寝かしつけてから、自分も寝入った。
 その時、レオも当然のようについてきたのだが……。
 憶えてないならそれでいいか。

「……ふぁ」

 ロキシーは眠そうな顔のまま、あくびをひとつ。

「俺は、朝の訓練に出てきます」
「そうですか。私は今日はお休みなので、もう少しララと寝ています」

 そう言いつつ、ロキシーはバフッとベッドに倒れた。

「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 すぐに寝息を立て始めたロキシーを置いて、俺は寝室を出た。


 着替えた後、廊下に出て。
 ふと思う所があって、シルフィの部屋の扉を開けた。

 シルフィはまだ寝ていた。
 ルーシーと二人で、すやすやと寝相良く 気持ちよさそうに寝ている。
 ルーシーには一応、子供部屋のようなものを与えているが、寝る時はシルフィと一緒だ。

 たまには寝室で、親子三人、川の字になって寝たりとかした方がいいのだろうか。
 でも、俺はどうにも性欲が強くて、一緒に寝ると致してしまうからなぁ……。
 物心ついた子供の前で、愛の営みを繰り広げるわけにもいかんだろう。

 ともあれ、俺は幸せそうな光景に満足して、扉を閉めた。

 ついで、エリスの部屋も覗く。
 エリスは朝が早い。
 もう起きているだろうか。

「うっ……うっ……」

 そう思って見てみると、ベッドの上に人影があった。
 両手で顔を抑えて、小刻みにふるえている。

 胸はでかいが、髪は赤くはない。
 犬の耳と、犬の尻尾も付いている。
 いつも眠そうにしている目が、今日はちょっと涙目だ。

「あ、ボス……おはようなの……」

 プルセナである。
 彼女はあの後、俺たちと共に魔法都市シャリーアへと戻ってきた。

 プルセナが来た事で、大いに喜んだ者が一人いた。
 エリスだ。
 彼女はプルセナを見て「なかなか可愛い子ね!」と舌なめずりをしていた。
 リニアはそれを見て戦慄していたが、プルセナは逆だった。

「さすが私なの、ボスの奥さんに一発で気に入られたの」

 と、でかい胸を張って、ドヤ顔でリニアを見た。
 リニアはそのプルセナの態度を見た瞬間、イタズラな目を光らせて彼女をおだてた。

「いやー、凄いニャ、あの狂剣王様に気に入られるとは、さすがプルセナだニャ。ぜひともあやかりたいもんだニャ」
「うふ、リニアには無理なの」

 プルセナは調子に乗った。
 尻尾を振りながらエリスに近寄り、彼女に耳の裏を撫でられたり尻尾を褒められたり。
 やや過度とも言えるスキンシップを受けて、しかし犬系だからだろうか、尻尾をフリフリ「私は罪な女なの。魅力がボスの女すらも虜にしてしまうのだから」と流し目でつぶやいていた。

 俺はそれを見て、苦笑した。
 普段ならウザいのだろうが、先の展開が見えていると苦笑しかおきないものだ。
 エリスはプルセナの態度を見て、イケルと踏んだのだろう。

「一人寝は寂しいでしょうから、たまに一緒に寝てあげるわ!」

 と、提案。
 プルセナはこの申し出を「これは下克上も時間の問題なの」と承諾。
 ニャッシッシと笑うリニアに気づかず、定期的にエリスと共に一夜を過ごす事となった。
 そして、夜中に骨が折れるほどのパワーで抱きつかれ、このザマだ。

「うう……胸が痛いの……」

 俺は苦しがるプルセナに治癒魔術を掛けてやった。
 相変わらずでかい胸だが、今の俺はロキシーと一晩を共にした賢者だから問題ない。

「助かったの……」

 プルセナから礼を受けつつ、一階へと降りた。
 そのまま玄関に移動し、入り口付近に立てかけられている木刀を手にする。

 外に出ると、玄関の前でエリスが仁王立ちしていた。
 腕を組んで、足を広げて。
 大きなお腹をグッと前に出して。
 門番でもするかのように、玄関前に立っていた。

「エリス、おはよう」
「おはようルーデウス」

 今日のエリスは上機嫌だ。
 顔を見ればわかる。
 よほど、プルセナの抱き心地が良かったのだろう。

 リニアにプルセナ。
 二人は現在、傭兵団の詰め所に近い場所に住居を構えている。
クリフと同じようなマンションだが、申し合わせたようにルームシェアしている所を見ると、やはり二人は仲良しなのだろう。
 二人は夕暮れ時に一回、交代でレオの様子を見に来て、連れ立って散歩にいく。
 世話係とは名ばかりだが、家に常駐して、また家族との軋轢が生まれても面白くないから、よしとしよう。

 エリスは、そんな二人を交互に寝室に呼び、抱き枕としている。
 リニアの方はなんとか逃げようとしてるが、エリスからは逃げられない。
 少なくとも、借金があるうちは。

 二人が助けを求めるような顔でエリスの寝室に消えていくのを見ると、ちょっと嫉妬する。
 たまには、俺も寝室に呼んで欲しいものだ。
 俺だってエリスのハーレムの一員だし、お情けが欲しい。
 妊娠が終われば、また抱いてもらえるだろうか。

 あれ?
 なんか逆じゃないか?
 おかしいな、俺は一家の大黒柱のはずなのに……。
 まあいいか。

「ところで、何してんの?」
「子供の名前を考えていたわ。やっぱり勇ましい名前がいいわね」

 それは朝っぱらから、外に出てすることなのだろうか。
 番犬でもしているのかと思った。

「勇ましい名前か、男の子ならそういう名前がいいのかもね」
「アルスとか、アルデバランとか、カールマンとか……」
「それはちょっと、勇ましすぎるんじゃないかな」

 皆、過去の英雄の名前じゃないか。
 まあ、どんな名前でもいいんだけど。
 あんまり古い名前にすると、イジメられたりしないだろうか。

「ルーデウスは考えてる?」
「俺は、女の子の名前を考えてるよ。アリスとか、フランとか……綺麗な名前がいいかなと」
「男の子に女の名前をつけるの?」

 エリスは本気で首をかしげていた。

「もし女の子が生まれた時に、男の子の名前を付けられたら可哀想だろ」
「…………絶対に男の子よ」

 エリスはツンとそっぽを向いてしまった。
 じゃあ、せめて男でも女でも問題なさそうな名前を考えておくか。
 マキとか、カオルとか……いや、それはこっちの名前じゃないな。
 まあ、これも走りながらでいいか。

「んじゃ、走り込みに行ってきます」
「いってらっしゃい」

 エリスは、さすがにここ最近は剣の素振りもしなくなってきた。
 今、妊娠6ヶ月か。
 妊婦であるという自覚が出てきたのか、それとも単なる本能か。
 母親という感じは全然しないが、それでもエリスは子供を産むのだろう。

 などと考えつつ、俺は朝のトレーニングへと出向いた。


---


 朝飯時になると、家族が勢揃いする。
 給仕をするリーリャにアイシャ。
 ボーっとした顔で椅子に座るゼニス。
 その隣に座るのは、珍しくも俺と帰宅が合致したノルン。
 さらに、その隣にはちょこんと椅子に座り、足をばたつかせるルーシー。
 ルーシーに足は揃えて座りなさい、と言いつけるシルフィ。

 テーブルの反対側では、まだ眠そうな顔をして、ララに母乳をあげるロキシー。
 母親そっくりの眠そうな顔でそれを飲むララ。
 いつも通り、凛々しい顔で座りながら、膝の上にプルセナの頭を載せて撫でているエリス。
 ぐったりとして、されるがままのプルセナは、しかし料理が運ばれてくると尻尾を振って体を起こした。

 俺はエリスの隣に座った。
 テーブルの端だ。上座とも言える。
 上座なんて概念は無いが。

 しかし、テーブルはでかいが、それでもだいぶ手狭になってきたように感じるな。
 部屋数も足りない。
 ララもすぐ大きくなるだろうし。
 いや、その頃には、ノルンが家を出てる可能性もあるのだろうか?
 学校終わったらどうするつもりなんだろう。
 アイシャは成人後もこのまま実家住みになりそうだが。

「ノルン」
「はい、なんでしょうか兄さん」
「お前、学校卒業したら、その後どうするんだ?」

 そう聞くと、彼女はキョトンとした顔で見返してきた。

「…………まだ、考えてません、けど?」
「そっか」

 まあ、まだ五年生で、生徒会長。
 成人もまだ。
 そこまで考えてはいないか。

「あの、兄さん」
「何?」
「もし、例えばですけど」
「うん」
「冒険者になりたい、って言ったら、反対しますか?」

 冒険者か。
 ノルンが冒険者。
 彼女は剣もそこそこ使えるし、この5年で魔術も上達してきた。
 冒険者としてやっていく事は出来るだろう。
 彼女もパウロから冒険者の話を聞いて、憧れていたりするんだろうか。

 心配ではある。
 ノルンの事だ、きっとどこかでドジを踏んで、あっさり死んでしまうかもしれない。
 また、こんな可愛らしい冒険者がいたら、男も群がってくるだろうし……。
 最近、ピンチの冒険者をよく見てるせいか、悪い映像ばかりが浮かんでくる。

「反対はしないけど、心配はするよ……冒険者になりたいのか?」
「いえ、なりたいというわけではないです。今ふと思っただけで」

 ノルンは首を振った。
 冒険者、なりたいのだろうか。
 魔法大学を卒業したのなら、冒険者より収入のいい、安定した仕事につくこともできるはずだが……。
 いや、金より、別のものを求めているのかもしれない。
 出来れば、尊重してやりたい。

「ごちそうさま。学校に行きます」
「はい、行ってらっしゃい」

 ノルンは食べ終わった後、荷物を掴んで、さっさと席を立った。
 ロキシーが休みの日でも、ノルンは生徒会の仕事があるらしい。
 大変だな。

 家族に行ってらっしゃいと見送られ、ノルンは学校へと行ってしまった。

「あたしは反対かなー、ノルン姉に冒険者とか出来ると思えないし」

 ノルンが出発した後、アイシャがぽつりと呟いた。

「ボクはノルンちゃんの好きにさせればいいと思うよ。自分から何かをしたいって思うのって大事だし」
「私は反対です、ノルン様は、パウロ様とゼニス様の大切なご息女。しかるべき地位の方と結婚し、安全な生活を送るべきかと思います」
「私は賛成ね。ノルンは剣術はまだまだだけど、冒険者は楽しいもの」

 ノルンがいなくなった後、家族であーだこーだと話しあう。
 もちろん、この家族会議で何が決まるというわけではない。
 こんなのは、ただの話題だ。

「まあ、冒険者なんてどこででもなれるので。なろうと思ったのなら、家族に反対されても、黙って家を出て勝手になるかと思いますよ」

 最終的に、ロキシーのやけに重みがある言葉で、その日の朝食は終了した。


---


 家を出て、まずアイシャとプルセナを傭兵団の事務所に送った。

 プルセナは、副所長という地位に収まった。
 やってる事はリニアの補佐で、秘書という感じだが、肩書は副所長だ。
 所長室で、黒服にサングラス。

 タバコこそ吸わないものの、なんか楽しそうだ。
 今度、幹部用に帽子でも買ってきてやろうか。

「んじゃ、頑張るように」
「イエッサ、ボス!」
「今日もがっぽり稼ぐの!」
「あんまりあくどい事はしないように」

 と、釘を刺してから、アイシャから組員……ではなく、団員のリストをもらった。

 50名のリスト。
 その中でも、特に事務処理に長けた者に印が付けてある。
 このリストをオルステッドに見せて、ヒトガミの使徒の可能性が低い者をピックアップしてもらうつもりだ。
 あとは個別に面接して、マジメそうなヤツに事務所の管理や書類整理を手伝ってもらう。

「ていうか、そういう仕事なら、あたしがやればいいんじゃないかな……」

 とは、アイシャの談であるが、そういうわけにもいかない。
 確かにアイシャなら素晴らしい効率を叩き出すだろう。
 しかし、もし、万が一、オルステッドを目にしてしまった場合。
 あるいは、なんらかの理由により呪いが発動してしまった場合。
 アイシャがオルステッドと敵対しようとする可能性もある。

 アイシャが本気で俺がオルステッドの配下であることを反対したら、すごく動きにくくなりそうな気がする。
 彼女は毎日ダラダラ生きているけど、動き出したら成果を出すまで早いからな。
 アイシャが暗躍し始めたと気づいた時には、オルステッドが海の底に沈められていた。
 なんて事もあるかもしれない。
 さすがに考え過ぎだとは思うけど。

「アイシャは傭兵団を頼むよ」

 と、ひとまずはそう言っておこう。


---


 詰め所を出て、オルステッドの所に向かう。

 彼には、ここ一ヶ月における俺の活動は伝えてある。
 リニアとプルセナを傭兵団の頭にして、アイシャを補佐に置く。
 その件については、特に反対はされなかった。

「今までになかった事だ、続けてみろ」

 と、むしろ俺の行動を面白がるような言葉をもらった。
 この事務所に事務員を置くことは許可してくれたし、リストの中から「この二人のどちらかがいいだろう」と選定もしてくれた。
 もしかすると、期待されているのかもしれない。

「それにしても、リニアとプルセナは、あの形でよかったんでしょうか? 歴史とか変わってしまったりはしませんよね?」
「結果的にどちらかが族長となるならば、大きく歴史は変わるまい」

 結果的にどちらかが族長になるのなら。
 今回、プルセナは首の皮一枚で族長候補の地位を維持した。
 リニアはバッシングを受けていたが、その気になればプルセナの代わりに族長になることだって可能だろう。
 なんだったら、俺が本気でテコ入れをしてもいい。

「お前に関わった時点で、大抵の者が大きく運命を変えている。ゆえに、確かな事は言えんがな」

 耳が痛い。
 でも、俺は普通に生きてきただけだ。
 堪忍してや。

「それにしても、うちの娘が救世主とは思いませんでした。オルステッド様は知ってたんですか?」
「いや、いつもは別の男が聖獣のパートナーだった」

 今までのループではララは生まれてこなかったらしいし、当然か。

「だが、お前の話から、ヒトガミが積極的にお前とロキシーが結ばれるのを回避しようとしていたのはわかった。ゆえに強い運命を持っているだろうとは思っていた」

 うちの娘が、本来の救世主を押しのけて、その座に収まった、という形になるのだろうか。

「ちなみに、本来の救世主さんは、何をする方なんですか?」
「復活した魔神ラプラスを倒す男だ」
「なるほど……そっちの方は、救世主にならなくても大丈夫なんでしょうか?」
「構わん。俺にとっても、ラプラスは殺さねばならん相手だ。
 聖獣とそのパートナーに世話になった事はあるが……必要な駒ではない」

 過去、何度かのループでラプラスと戦った時、強力な味方となった。
 けど、今はラプラスぐらいは余裕で勝てるから無用って事かな?

「ララも、ラプラスと戦う運命を背負っているんでしょうか?」
「さてな。
 だが、ヒトガミにとって、ラプラスは消えて欲しい相手だ。
 それを誕生させないようにしたという事は……。
 お前の娘はラプラスではなく、ヒトガミにとって大きな障害となるのだろう」

 ララが将来的にヒトガミを倒すのに重要なファクターとなる。
 それは、予測にすぎない。
 今回のループは、オルステッドも知らない事が多いだろうから。

「やはり、今後ララはヒトガミに狙われるんでしょうか……」

 ひとまず、俺にとって心配なのは、そこだ。
 可愛い娘が狙われるというのは、不安の種である。
 だが、オルステッドは首を横に振った。

「そのために聖獣を呼び出したのだ。あの獣の運命は強い、ヒトガミも、そう簡単には手を出せまい」
「……はぁ」
「それに、もし何かあろうとも、俺はお前の家族を見殺しにするつもりはない。だから安心するがいい」

 オルステッドがここまで言ってくれるなら、ひとまずは安心しておくとしよう。
 俺は、俺に出来る事をしよう。
 今まで通り、きたるべき『次の戦い』に備えるのだ。


---


 事務所を出た後、俺は学校へと向かった。

 ララの事では、まだ不安が残っている。
 だが、不安に思うだけでは、何も解決しない。
 切り替えていこう。

「ふぅー……」

 よし、切り替えた。
 切り替わった。大丈夫。


 さて、ザノバとクリフの研究は進んでいるだろうか。

 魔導鎧も、もう少し燃費がよくなればいいのだが。
 今のままでは俺しか使う事ができないし……。
 いや、あまり低燃費化して誰でも使えるようになった結果、ヒトガミ側に鹵獲されても困るか。

 さて、どっちから行くか。
 俺の予想だと、クリフは朝からエリナリーゼと二人目の製造に勤しんでいると見た。
 あの二人は、なぜか朝っぱらからやることが多い。
 朝っぱらに一発やって、夜までにまた充電して、夜にやって、寝ている間に充電と。
 そんなサイクルを送っているのだろう。
 クリフの腎虚はもうすぐかもしれない。

 じゃあ、いつも通りザノバの所から顔を見せていくか。
 ザノバの所で、まずは魔導鎧の研究成果と実験。
 その後、傭兵団のことを伝え、そこから店員を募集する計画の相談。
 それが終わったら、昼飯を食って、クリフの所に行こう。
 また試作品ができていたら、それをオルステッドの所に持っていく。
 そういう流れで行くとしよう。

 と、簡易的な計画を立てて、研究棟へと入った。

「馬鹿が!」

 いきなり罵声が飛んできた。
 愚かである事を否定するつもりはないが、いきなりは酷い。
 馬鹿っていう方が馬鹿なんです。

「お前だってわかってるんだろ!?」

 なんてふざけてみたものの、当然ながら俺に向けて放たれた言葉ではないのはわかっている。
 声の主を探してみると、すぐに見つかった。階段の踊り場だ。
 そこで、五人の男女がもめていた。
 全員、俺の知り合いだ。

「殺されにいくようなもんだぞ!」

 先ほどから叫んでいるのはクリフだ。
 クリフはザノバの胸ぐらを掴みながら、すさまじい剣幕で怒鳴っている。
 彼の後ろでは、エリナリーゼが難しい顔で赤子を抱えていた。

 ザノバは、クリフを冷ややかな目で見下ろしつつ、微動だにしていない。
 後ろに控えるジンジャーは弱々しく、クリフに対して縋るような目を向けている。
 足元にいるジュリは、今にも泣きそうな目でザノバを見上げていた。

 喧嘩……にしては、様子がおかしい。
 何か、あったか。

「ザノバ、クリフ!」

 階段を登って声をかけると、二人がバッとこちらを向いた。
 クリフの助けを求めるような顔。
 ザノバは無表情だ。

 ザノバにこんな虫みたいな顔を向けられるのは初めてだ。
 いや、前に一度だけ見たことがある気がする。
 あれはどこだったか……。

「師匠、ちょうどいい所に。今から伺おうと思っていたところです」
「ルーデウス、いい所にきた、お前もザノバを説得してくれ!」

 二人は同時に口を開いた。

 ザノバはむっとした顔で、やや乱暴にクリフを押しのけた。
 さして力を入れたようにも見えなかったが、神子の怪力でクリフはたたらを踏み、尻もちをついた。
 ザノバはそれを見て一瞬すまなそうな顔をしたが、謝ることなく俺に近づいてきた。
 俺よりやや高い位置にある目が、射抜くような視線を放っている。

「……何があったんだ?」
「ジュリを頼もうと思いましてな。余の金で買いましたが、元々は師匠の奴隷ですし」

 ザノバは淡々と言った。
 それ以前に、説明してほしい。

「ジュリを置いて、どこに行くつもりなんだ?」
「本国です。帰還の勅命がきましたゆえ」

 勅命。
 ってことは、国王からの指示か。
 でも、ならなんで、クリフがあんなに反対してるんだ。
 あと半年だから卒業式を待てって意味でもなかろうに。

「我が弟のパックスが、クーデターに成功しましてな。
 父上と兄上を殺して王位を取ったようです」
「…………は?」

 パックスって、あの、リーリャを捕まえていた第七王子か?
 それがクーデターに成功して……王位?
 王様になったってこと?

「内乱で疲弊した所を他国が攻めてきそうなので、
 余を国に戻し、防備を固めるそうです。
 なので、ちょっと行ってまいります」

 ザノバは、コンビニにでも行くような口調でそう言った。


 だが、その言葉でなんとなく悟った。
 『次の戦い』は俺が思っている以上に早く来たのだ、と。
第19章 青年期 配下編 - 終 -


次章 第20章 青年期 ザノバ編
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