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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第16章 青年期 人神編

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第百六十五話「エリス・グレイラット 後編」

 現在、俺はエリスと向かい合っている。
 場所は魔法都市シャリーアの外。
 城壁を出て、すぐの所だ。

 観客はいないが、ギレーヌが近くに立っている。
 町の外に出る途中、エリスが呼んだのだ。
 審判役として。
 審判役を呼ぶという事は、俺を殺すつもりはない、という事だろうか。

「……」

 エリスは何も言わない。
 真剣を持って、俺を見ている。
 いや、その手は、若干震えているだろうか。
 ――武者震いか。

 俺は、どうすればいいのだろうか。
 本気で戦うべきなのだろうか。

 正直、負けてもいい。
 負けた方がいい。
 俺は、エリスの事は好きだ。
 先ほどはシルフィやロキシーのほうが好きと言ったが、優劣なんて付けられない。
 シルフィはシルフィで、ロキシーはロキシーで、エリスはエリスで、それぞれ好きだ。
 優柔不断なことだが、俺はそういう男だ。
 浮気性で、性欲過多で、ナイスバディになったエリスを抱けるのは、垂涎の展開だと思っている部分もある。

 愛してくれというのなら、全力で愛そう。
 もう、これは浮気でも、不倫でもない。
 愛だ。
 自然の摂理だ。
 魅力的な女を手に入れたいと思うのは、自然の摂理だ。
 ミリス教徒はどっからでも掛かって来い。

 そう開き直ったのはいいが。

 わざと負けるという行動を、エリスは認めてくれるだろうか。
 屈辱だと思うのでは、無いだろうか。
 そんな相手は嫌いだと思うのではないだろうか。
 エリスは、俺を守るため、オルステッドに対抗する力を手に入れるため、修行していた。
 だから俺はここで、エリスの夫たる強さを見せなければならないのではないだろうか。
 同じぐらいがんばっていたのだと、証明しなければならないのではなかろうか。
 ……俺は、エリスほど、がんばってなどいないが、それでもだ。
 全力で戦い、エリスと互角に戦い、そのうえで負けるか、もしくは勝って、改めて俺の嫁になってくださいというのだ。
 勝って。
『お前は俺のものだ。文句を言わずにうちに来い』。
 よし、それでいこう。
 破壊された魔導鎧は森に放置してあるし、剣王となったエリスは接近戦でオルステッドといい勝負をしていた。
 こんな相手が見える距離で始めて勝てる気はしないが……。
 勝てなかったら、それでよしだ。

「ルーデウス」

 と、心を決めていると、ギレーヌに話しかけられた。

「何でしょうか」

 ギレーヌとは久しぶりに会ったが、彼女はあまり変化は無かった。
 いい歳のおばちゃんになったな、と思うぐらいか。
 再会の挨拶はしたし、会話もしたが、特に現状についての相談はしなかった。
 あまり、深い会話をする仲でも無かったし、違和感はない。

「エリスお嬢様は、昔とあまり変わっていない。態度で受け入れてやれ」

 ギレーヌは、昔と変わらない口調でそう言った。
 その言葉のニュアンスに、俺はふと違和感を覚えた。
 今からする事は、本当に正しいのだろうかと、自問する。

 エリスを見る。
 彼女は、いつもどおりのポーズで、俺の準備を待っている。
 両腕を組んで、足を開いて、顎を上げて。
 ポーズはいつもどおりだが、その姿は、俺の記憶にあるエリスとは大きく違う。
 背は高くなり、胸は大きくなり、肉食獣のようにしなやかで獰猛な雰囲気をまとっている。

 あれから五年。
 俺は……変わった。
 エリスも変わったのだろうか。
 彼女は、変わっていないとギレーヌは言った。
 五年前、それ以前、俺はエリスにどういう風に接していたか。
 ワガママなエリスに対して、俺は……どうすればいい。

「では、はじめ!」

 ギレーヌの言葉に、俺は杖をもったまま、構えもしなかった。
 エリスもまた、腕を組んだまま動かなかった。

 しばらくして、エリスがゆっくりと動いた。
 腰の剣を抜き、だらりと下げたまま、こちらに歩いてくる。
 透き通るような刀身を持つその剣は、剣神から与えられた、七本剣という名剣の一本だそうだ。

 エリスは俺の前まできた。
 鋭い眼光で俺を睨みつけてくる。

「……」
「……」

 エリスは俺の目の前まできた。
 剣を振り上げ、そのまま静止する。

「なによ。戦わないの?」
「エリス。俺は……お前が負けたら出て行くってんなら、俺の負けでいいよ」

 エリスが口をへの字に曲げた。

「……」
「それに……さっきは言いそびれたけど、その。
 俺も、お前の事がさ……その、好きなんだ」

 エリスの髪が逆立ったかと思った。
 怒ったのだろうか。真面目に戦った方がよかったのだろうか。
 そう思った時、エリスが剣を振り下ろした。

「……!」

 反射的に目を閉じて身をこわばらせると、剣の柄が、コツンと俺の頭を叩いた。
 軽く、小突くような暴力だった。
 目を開けると、目と鼻の先にエリスの顔があった。

「私、シルフィみたいに料理はできないわ」
「知ってる」
「ロキシーみたいに、頭もよくないわ」
「知ってる」
「二人みたいに、可愛くもないわ」
「エリスはかっこいい美人さんだよ」
「……今の私みたいな体って、ルーデウスの趣味とは、違うのよね?」
「いや、そんな事はない、魅力的な体だよ」

 エリスは剣を鞘に戻した。
 おずおずと、俺の腰の辺りに手を回してくる。
 豊満な胸が押し付けられる。
 強い力で、俺の体が抱きしめられる。
 やや汗臭くて着飾らない香り、変わらぬエリスの匂いだ。

 俺の方からも、彼女の背中に手を回す、
 以前よりも筋肉が鍛えられているが、ムキムキというほどでもない。
 ちょうどいい、心地いい。

「私の勝ちで、いいのよね?」
「うん」
「私、ルーデウスが本気で拒絶したら……ちゃんと、諦め、られる、わよ?」

 震える声だった。
 もしかすると、彼女は、俺が本気で戦っていたら、わざと負けるつもりだったのだろうか。

「諦めなくていい」
「じゃあ、私はルーデウスの家族になれるの?」
「うん。シルフィとロキシーと一緒で、エリスがよければ、だけど……」

 きちんと言おう。
 そう思って息をすう。
 安っぽく聞こえてしまうかもしれないが。

「結婚してください」

 そう言うと、エリスの目が見開かれた。

「ふ、フン! 結婚、してあげるわ!」

 ふてくされたようにそっぽを向きながら、エリスは俺と結婚した。


---


 その晩、夕食のときに、俺はエリスを妻としたことを発表した。
 ロキシーのときと違い、根回しをしていた事もあって、誰も文句は言わなかった。
 ノルンあたりが反対まではしないにしても、嫌味の一つでも言うかとも思ったが、それもない。
 彼女も、俺が複数人の女性と結婚することについては、諦めたのかもしれない。
 ロキシーとシルフィも祝福してくれた。

「エリス。三人でがんばっていこうね」
「ルールなどは、おいおい決めていくとしましょう」

 そんな二人に対し、エリスはガチガチに緊張していた。

「よ、よろしく、頼むみますわ……」

 口調もおかしかった。
 エリスが緊張するなんて珍しいが、彼女なりに仲良くしよう、受け入れてもらおう、という意思は感じられた。
 できれば、三人には喧嘩せず、仲良くして欲しいものである。
 まあ、俺がそれを言っちゃ、いかんのだろうが。

 三人は親睦を深めるという事で、お風呂に行った。
 裸の付き合いをするついでに、風呂の入り方をレクチャーするらしい。
 俺も付いていって、前後から揉み洗いとかしてもらいたい所だが、今日の所は我慢しておいた。


 後に残ったのは、俺とリーリャ、妹二人と、ゼニス……。
 そしてギレーヌである。

「……」

 ゼニスは、エリスがいなくなった頃から、俺の頭をポコポコと叩いている。
 リーリャが「奥様、そのあたりで……」と言っているが、やめる気配はない。
 ゼニスはミリス教徒だった。
 二人はまだしも、三人目となると、息子の不義理が許せないのかもしれない。

「痛い、痛いです母さん。ごめんなさい、もう、二度としませんから」

 そう口に出して言うと、ゼニスは拳を引っ込めて、自分の席に戻った。
 ジト目をした、二人の妹の座る席の、隣である。

「お兄ちゃんさー、ロキシー姉の時もそう言ってたよね。今回も口ばっかりで、しばらくしたら、また別の女性を連れてくるんだろうなー。洗濯物が増えるなー。大変だなー」

 アイシャの言葉は耳に痛い。
 エリスを迎え入れたことで、確実に妹からの株が下がっている気がする。
 でもま、受け入れよう。
 アイシャはこんな事を言ってるが、俺をイジってる感じだし。

「兄さん」

 と、そこでもう一人の妹のほうから、お言葉があった。
 こっちはイジリじゃなくてガチな方だ。
 きちんと話を聞かなければならない。

「はい、なんでしょうノルンさん」
「その……私はミリス教徒だし、兄さんのやってることって不快です」
「はい」
「だけど、エリスさんが兄さんの事が好きだって気持ち、すごいわかりますし、今回は何もいいません。兄さんは、エリスさんの事、あんまり好きじゃないかもしれませんけど、ちゃんと愛してあげてください。以上です」
「はい、誠心誠意がんばらせていただきます」

 ノルンはエリスの事が気に入ったらしい。
 昼間に剣術を教わっていたのも、ノルンから歩み寄ったのだそうだし。
 なんだか、この数年で、ノルンは随分と社交的になったような気がする。
 生徒会の影響だろうか。

「ルーデウス様」

 リーリャがぽつりと声を上げた。

「はい、なんでしょうか、リーリャさん」
「エリス様を娶られたことで、この家も手狭になってまいりました。私とゼニス様は近所に部屋を借り、そこで暮らす――」
「却下です」

 リーリャの提案は跳ね除ける。

「二人とも、俺に面倒を見させてください……まあ、リーリャさんには、面倒みられっぱなしですけど」
「いえ、そんなことは……ですが、ルーデウス様がおっしゃられるのであれば、従います」

 妻ができたので二人の母を追い出した、なんてなったら、草葉の陰のパウロが悪霊になりかねない。
 年老いた親の面倒は子供が見るもんだ。
 確かに、エリスがきたせいで客間は無くなったが。
 まあ、気にすることはない。
 部屋ぐらいは、いざとなったらどうにでもなる。

「ルーデウス」

 最後に、ギレーヌが話しかけてきた。

「ギレーヌさん」
「ギレーヌでいい」

 彼女も、もう40歳ぐらいになるんだろうか。
 しかし、その筋肉には一切の衰えが無い。
 ちゃんと鍛えているからだろう。

「エリスお嬢様の事は、任せても大丈夫だな」
「……はい。神に誓っても」
「そうか」

 ギレーヌはふっと笑った。

「お前も成長したな。ゼニスとの結婚を決意したパウロと、同じ目をしている」

 それ、喜んでいいのかな。
 いいんだな、喜ぼう。
 そっか、あの父さん(パウロ)と一緒の目か、嬉しいな、俺も成長したものだ……。
 あれ、でもギレーヌの知ってるパウロって昔のパウロだよな。
 ……本当に喜んでいいのかな。

「ギレーヌは、これからどうするんですか? このあたりに住むんですか?」
「いや、エリスお嬢様をお前に任せた以上、あたしの仕事は終わりだ……アスラ王国に戻ろうと思う」
「アスラ王国というと、フィットア領で復興の手伝いでも?」

 そう聞くと、ギレーヌがギラリと眼を光らせた。

「いや、サウロス様を陥れた者を探し出し、斬ろうと思う」

 場の空気が、一瞬で凍った。

 随分と、物騒な答えだ。
 だが、ギレーヌの考えはなんとなくわかった。
 彼女はいままで、エリスの面倒を見てきた。
 俺に託したことで、自分の仕事は終わり。
 あと、残ったのは恩義への報いだけというわけだ。

「……探し出し、という事は、誰かはわかっていないんですよね? 多分、政治的な駆け引きでやられたので、一人ではないと思いますよ?」
「ボレアスと敵対していたものを片っ端から斬れば、済むことだ」

 短絡的だな……どうやって止めるか。
 いや、何を言っても止まらない気がするな。
 なにせ、あのギレーヌだ。
 だったら、逆に、彼女がうまく動けるようにサポートをした方がいい気がする。
 ……と、そこまで考えた所で、日記の内容を思い出した。
 アリエルが返り討ちにあったクーデター。
 そこには、水神や北帝が参加していたという話だ。

「ギレーヌ。俺はある情報筋から、水神や北帝がアスラ王国に雇われる、という話を聞きました」
「奴らか」
「お知り合いですか?」
「ああ、エリスお嬢様も良く知っているはずだ。それがどうした?」
「彼らと敵対する可能性もあります。そうなれば、いかにギレーヌといえど命はない、でしょう?」
「確かに、あたし一人では、奴らには勝てん」

 ギレーヌはうなずき、俺の目を見た。
 次の言葉を言ってくれ、といわんばかりの目だ。

「……一応、サウロス様が亡くなられた騒動の渦中にいた人を、一人知っています。
 彼女は、あるいはボレアスと敵対していたので、ギレーヌの敵かもしれません。
 しかし、彼女と手を組めば、斬るべき相手を大義名分をもって斬る事が可能でしょう」
「誰だ?」
「アリエル・アネモイ・アスラ王女です」

 ギレーヌの耳がぴくんと動いた。
 ああ、懐かしいな。
 昔の授業中、わからない問題と直面した時、ギレーヌはこんな反応を返したものだ。
 まあ、知らないなら好都合だ。

「アスラ王国の王女様です」
「ほう」

 しかし、アリエルとギレーヌを引き合わせていいものだろうか。
 アリエルは、これからアスラ王国で無謀なクーデターを起こす。
 そこにギレーヌを参加させていいものなのか。
 いや、未来は変わる。
 日記を読んだ事で、俺も彼女に少なからずアドバイスを送れるだろう。
 また、ヒトガミがルークを操った結果のクーデターだというのなら、俺がオルステッドの配下になったことで、何かしらの変化が起きるかもしれない。

 そういった状況で、もしアリエルが勝てるビジョンが見えてくるなら、ギレーヌという戦力はあったほうがいいだろう。
 なんだったら、俺が手伝ってもいいが……そこらへんは、オルステッドにお伺いを立てないとなんともいえないが。

「一応、彼女と会って話をしてみてください」
「お前が言うなら、そうしよう」

 ギレーヌはあっさりと頷いて、そう言った。
 ひとまず、短絡的な行動は謹んでくれるようだ。
 よし。

「はぁ~……」

 見ると、アイシャとノルンが、ポカンとした目で見ていた。

「なんだよ」
「いや、お兄ちゃんって、本当に剣王様の先生だったんだなーって」
「なんだ、疑ってたのか?」
「そうじゃないけど……剣王様がそんな素直にいう事聞くんだなぁって」

 ギレーヌと顔を見合わせる。
 何かおかしなやりとりをしただろうか。

「えっと、兄さん。学校に冒険者になろうって先輩がいてですね。その人が最近「『剣王』の二人がこの町にきた、すげーおっかない」みたいな事を言ってたんですよ。町の冒険者の誰もが一目置いていて、すごい人なのに、兄さんはそれを……って思ったら、なんていうか、はぁ~って感じ、です」

 ノルンの言葉に、ギレーヌがふと笑った。

「ルーデウスは、あたしなんかより、ずっと凄いぞ。何せ、あの龍神に力を認められたのだからな」
「へぇ~」

 ノルンは感服していた。
 これで、兄の株は少し上がっただろうか。
 上がったとしても、上半身の株だけで、下半身の株は下がりっぱなしな気がするが。

 ともあれ、ギレーヌのおかげで、体面は保てたように思う。
 よかったよかった。


---


 その日の晩。
 ギレーヌが帰った後も、シルフィ、ロキシー、エリスの女子三人が話し合いをしていた。
 あの三人がどういった話をするのか。
 非常に興味はあるが、女子会は女子のもの、という事で、参加は遠慮しておいた。
 見たところ和やかな雰囲気であり、エリスも真面目に話を聞いていたから、大丈夫だろう。
 昔のエリスとはえらい違いだな。

 俺は研究室でノルンの勉強を見てやり、
 彼女が寝た後、日記を書いた。
 今日もまあ、記念すべき日だ。
 これからの生活や、オルステッドの事を考えると、少し不安に思うところもあるが。
 しかし、大きな波は乗り越えた。
 気持ちは切り替えていこう。

 研究室を出たときは、すでに家の中は静まり返っていた。
 女子会も終了したらしい。
 今日は、どこかの部屋で、一緒に寝たりとかしているのだろうか。
 それとも、三人で寝室で待っていたりとか……は、無いか。

 それにしても、こう静かだと、何やら不安がこみ上げてくるな。
 確か、未来から俺が来た時も、こんな静かな夜だった。
 また何かが起きるのではないだろうか。
 こう、廊下の影から、全身にモザイクが掛かったような奴がヒョイと飛び出してくるとか。

 いや、まさかな……。

 寝室へと続く部屋へと入る。
 誰もいない。
 寝室も明かりはついていないようだ。
 てことは、一人寝かな。

 なんて事を思いつつ、寝室の扉を開けようとした瞬間。
 扉が内側から開き、俺は凄い力で中へと引きずりこまれた。

「うわっ!」

 咄嗟にその相手に向けて手を向けて魔力を込める。 
 が、手首を掴まれ、体ごと扉へと押し付けられた。
 やばい!
 と、思った所で、相手の正体に気付いた。

「……って、エリスか」

 エリスだった。
 彼女は、ラフな寝巻き姿で、俺の腕を掴んでいた。

「ね、ねぇ、ルーデウス……」

 その目はやけに血走っていた。
 顔も赤く、息もやけに荒い。
 怒りの表情だ。
 何か、気に食わない事でもあったのだろうか。
 言動は慎重にいこう。

「わ、私たち、もう、夫婦なのよね?」
「……お、おう。あ、結婚式とか、したほうがいいかな? 人呼んで、パーッと?」
「そんなのいらないわ、もう踊りとか覚えてないもの……それより、ねえ、夫婦なら、いいのよね?」

 何がいいのだろうか。
 と、思ったら、肩を抱き寄せられて、キスをされた。
 ガチンと歯が当たり、痛みが走る。
 後ろに下がろうとするが、ドアが邪魔をした。
 エリスは強引に俺を押し付けるように自分の顔を押し付けてくる。

「ぷはっ……」

 エリスは俺の腰に手を回し、引きずるように移動をし始めた。
 気づけば、俺はベッド脇までつれてこられてしまっていた。
 なんだこれ。
 なんなんだ。
 え? これからするの? え?

「あの、エリス。あの、そういうのは、ほら、ちゃんとね、順番というかね、シルフィたちと話し合ってね」
「話し合ったわ。今日は私の番でいいって」
「ロキシーは何か言ってなかったかい? 妊娠中は控えてほしいとか、なんとか」
「別に構わないって言ってたわね」

 いつしか、俺はベッドに押し倒されていた。
 エリスの力が強くて、抜け出せる気がしない。

「ねぇ、ルーデウス。私は男の子を産みたいわ」

 エリスの鼻息が荒い。
 怒っているのではない、この表情は劣情だ。

 なんか、凄い求められてる。
 いや、嬉しいよ。
 ここまで求められて、嬉しいよ。
 密着しているせいで、俺のアレもソレなことになってるし、体は正直さ。
 でも、逆じゃね?
 男女、逆じゃね?

「ルーデウス。好きよ。だから、いいでしょ?」
「う、うん。いいけど、いいけどね? ちょっと落ち着いてさ、ムードを盛り上げてだね。二人でお酒でも飲みつつ、5年間の事をもっとたっぷり語らいながら、気持ちよくなってきた所で、混ざり合うようにジュテームっとね」
「そんなのどうでもいいわ! ずっと、またこうしたいって思ってたんだもの!」

 エリスはそういいながら、俺に覆いかぶさってきた。
 両足で俺の両足をガッシリとはさみつつ、両腕を抑えて身動きを取れなくしつつ。
 胸元のあたりに鼻を押し付け、くんかくんかと匂いをかぎはじめる。
 まるで犬みたいだ。
 臭くないよね?

「ハァ……ハァ……ルーデウス。結婚したんだから、あなたは私のものよね?」
「え? いや、エリスだけのものじゃなくて、三人で喧嘩せず、仲良く分けていただけるとね、ありがたいというかね」
「今日は私の番だから、私のものよね?」

 どうしても、エリスは俺を自分のモノにしたいらしい。 

「…………まあ、そうだよ」

 エリスの両手の力がグッと強くなった。
 痛い痛い、手首ちぎれちゃう、また治癒魔術かけてもらわなきゃいけなくなっちゃう。

「じゃ、じゃあ。何をしてもいいのよね……!?」

 何をするつもりなんだろうか。
 何をされてしまうんだろうか。
 エロいことなのは間違いない。
 俺は嫌か? ノーだ。
 ならば返答はイエスだ。

「い、いいよ?」

 次の瞬間、エリスが野獣になった。


---


 翌日。

 チュンチュンというスズメの声で目が覚める。
 俺は、すぐにエリスの姿を探した。
 すぐに見つかった。
 目の前だった。
 エリスの端正な寝顔が、すぐ目の前にあった。

「ほっ」

 安堵の息をはきつつ、昨晩の事を思い出す。

 昨晩は、たっぷりとお楽しみされてしまった。
 テクニックでは俺のほうが上だったはずだ。
 途中までは勝ってた。
 エリスなんかに負けないんだから、と俺も頑張ってた。
 でも、途中で逆転された。

 体力の差だな。
 初めてのときもそうだったが、エリスは底なしだった。
 まあなんだ。
 エリスには勝てなかったよ……。

 ぐったりしている所を、思う様に蹂躙されてしまった。
 ごめんなさいアナタ、あたし、この人のものになっちゃったの……って感じだ。
 もうお婿にいけない。

 でもなんかスヤスヤと眠るエリスが、妙に愛おしい人に見える。
 昨晩はあんなに荒々しかったのに、今はこんなに安らかだ。
 ニヤニヤしてしまう。
 シルフィはいつも、こんな気持ちで、俺の寝顔を見ているのだろうか。

「……それにしても」

 現在、俺は腕枕をされている。
 いつもは俺がする側だから、妙に新鮮だ。
 エリスの腕枕は細い割にたくましくて、なんだかとっても安心する。

 それにしても5年か。
 エリスもだいぶ成長したけど、どれだけ筋肉がついたのだろうか。
 昨日は、さすがに暗くてよくわからなかった。
 エロい体つきだったのは覚えているが。

 もぞもぞと体を動かして、エリスのお腹に触れてみる。

「おぉ、素晴らしい……」

 表面はそう隆起しているわけではない。
 むしろ、脂肪が結構ついている。
 けど、その脂肪のすぐ裏側には、圧縮された筋肉があった。ぐっと押してみると、しっかり分かれているのがわかる。
 俺の腹筋もシックスパックだが、エリスのそれは、なんか凄く、いいな。
 みっちり詰まってるんだけど、でも、太ましくはないんだよな。
 くびれとかあるし……。
 きっと、外腹斜筋と内腹斜筋、腸腰筋といった筋肉が神掛かったバランスで鍛えられているせいだ。

 それにしても、女の筋肉って、どうしてこう、魅力的なんだろうか。
 ずっと触っていたくなる。

 でも、触りたいのは腹筋だけじゃない。
 手を上へと移動させる。
 毛布がかぶっていてもわかるほど、大きな二つの山。
 昨晩は手を掴まれていることが多かったから、あまり触れなかったが……。
 夫婦だから、いいのよね?

「ふおぉ……」

 すごい!
 土台がある!
 大胸筋だ!
 これまた引き締まっている、いい筋肉だ。
 素晴らしいよ。

 で、そのお皿の上に乗っているのはデザートだ。
 やはり硬いものと柔らかいもののバランスというのが人生において重要なのだ。
 というわけで、えっちすけっちわんたっち。

 っと、これまたよく育ってらっしゃる。
 メロンのようだ。
 シルフィやロキシーには無いものだ。
 二人のもいいが、やはり大きいものは大きいもので、違った魅力がある。
 これをいつでも揉める立場になったことを、俺は神に感謝すべきか。
 ありがとうロキシー、シルフィ。
 俺、やったよ。
 エリス山脈、登頂成功だ。人類の夜明けだよ。

『ほっほっほ』

 と、その時、俺の脳裏に白髪の老人が現れた。
 仙人だ! おっぱい仙人! お久しぶりです!
 御覧ください、この素晴らしい実りを! 大地への感謝を!

『ほっほっほ、もうわしに教えることは何もない……精進いたせよ』

 あっ、仙人!
 いずこへ行かれるのですが、仙人!
 教えを、もっと教えを!

「……」
「あ」

 一人ではしゃいでいると、ふとエリスが目が合った。
 彼女はいつのまにか目を覚まして、俺を見ていた。
 勝手に揉んで、殴られるだろうか。
 と、思ったら、エリスに手首を掴まれた。
 怒ってらっしゃる。

「話しあおう、殴り合いより、話し合いをしようよハニー、甘いピロートークをさ。そういえば昔、一緒に二人で上体起こしをしたよね、あの時、つい僕は好奇心にまけて君の腹筋を触ってしまったけど……」
「……」

 エリスは俺の手を離さない。
 それどころか、ぐるりと体を動かして、絡みつくように俺にのしかかってきた。
 その目は、劣情一文字である。
 怒ってるわけじゃないのか。
 ちょっと朝っぱらから胸なんか揉んだせいで、火がついちゃったのか。
 そうだね、俺だってね、朝っぱらからね、エロいことされたらね、その気になっちゃうもんね。
 男と女では違うだろうけど……エリスは例外か。
 よし、いいだろう、掛かって来い。
 エリスの相手ぐらい朝飯前だって事を見せてやるよ!

「や、優しく、優しくね、朝からはほら、昨日もあんなにね……きゃぁ」

 俺は生娘のような声を出しつつ、二度目の蹂躙を受けた。


----


 午後に起きた時、エリスの姿は無かった。
 カラッポのベッド、すでに冷たい俺の隣。

 しかし、喪失感はない。
 あるのは虚脱感と満足感だけだった。

 ガクガクする腰をとんとんと叩きつつ立ち上がり、窓辺にいく。
 太陽がやけに黄色い。
 俺の顔も黄色くなっているに違いない。

 窓の外には、エリスがいた。
 ニマニマとだらしない笑みを浮かべつつ、上機嫌に素振りしていた。
 あれだけやって、まだ動けるのか。
 化け物じみた体力だ。

 でもまぁ……えがったなぁ。

 シルフィやロキシーは俺より体力が無くて先にバテてしまうから、
 こう、限界まで搾り取られるってのは、初めてだった。

 シルフィが受身型、
 ロキシーが技術型とすると、
 エリスは攻撃型といった所か。
 マゾっ気が目覚めてしまいそうだ。
 徳川、豊臣、織田って感じだな。

 エリスが見事に剣王の称号をとることができたのは、皆、俺がオルステッドにやられたからだ。
 なんちゃって。
 調子に乗ると打首になってしまう。
 毎度毎度、我が家の秀吉公の世話になるわけにもなりますまいて。

 もし次回があるなら、次こそはピロートークを楽しみたい。
 本当に、エリスとは、目覚めた後の虚脱感の中で、何かを話したい……。

 そう思いつつ、風呂場に行き体を清めた。
 サッパリしつつ地下に赴き、祭壇への祈りをする。
 ここに、もう一つぐらい御神体を置いておきたいな。
 知恵の神、慈愛の神、戦いの神だから……。
 やっぱ木刀だろうか。

 なんて思いつつリビングに入ると、掃除をしていたアイシャが、ピョンと飛び跳ねた。

「あ、お兄ちゃん、おはよう! 手紙きてるよ。差出人がないけど。家紋がついてるよ、知ってる人?」

 手紙を受け取った俺の動きは止まった。

 そこにはよく知っている紋章が描かれていた。
 龍神の紋章。
 オルステッドからの手紙である。
第16章 青年期 人神編 - 終 -

次章
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