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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第2章 少年期 家庭教師編

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第十五話「職員会議と日曜日」

 半年ほど経った。

 最近おとなしかったエリスが凶暴に戻り始めた。

 なんで、どうして、誰が何をしでかしたの!?
 と、焦ったが、あることに気付いた。

 休みが無い。


---


 俺は夕飯の後、
 ギレーヌと礼儀作法の先生を自室に呼びつけた。

 ちなみに、礼儀作法の先生は館の中に住んでいない。
 町中の自宅から通っている。
 なので、執事に伝言を頼んだのだ。

「まずは初めまして。ルーデウス・グレイラットです」
「エドナ・レイルーンと申します。エリス様に礼儀作法を教えております」

 胸に手を当てて軽く会釈すると、エドナは礼儀通りの洗練された返礼をする。
 さすが礼儀作法の先生だ。

 エドナは顔に小じわが目立ち始めた中年女性だった。
 ふっくらとした顔立ちで、
 柔らかい笑みが実に温和そうな印象を与えている。

「ギレーヌだ」

 ギレーヌはいつも通りの筋肉だ。
 俺は二人に椅子を勧める。
 二人が座った後、
 執事に用意してもらったお茶を配り、本題に入る。

「本日、二人をお招きしたのは他でもありません、エリスお嬢様の授業計画を話し合いたいと思ったのです」
「授業計画?」
「はい。今までは、朝は剣術、昼は自由時間、夕方は礼儀作法といった形でやってきたと聞いております。
 間違いありませんね?」
「その通りです」

 エリスが習っているのは、
 読み書き、算術、魔術、歴史、剣術、礼儀作法の六科目である。
 現代風に言えば、国語算数理科社会体育道徳といった所か。

 時計が無いので、何時間ずつと区切ったものではなく、ご飯とオヤツの時間で朝昼夕と分けて3教科だけをやる。
 朝飯→勉強→昼飯→勉強→オヤツ→勉強→夕飯→自由時間。
 と、こんな感じだ。
 歴史に教師はいないが、フィリップが暇な時に教えているらしい。

「僕がきたことで、夕方の時間も使ってフルで一日を使えるようになりました」
「そうですね。お嬢様の勉強がはかどられているようで、旦那様も関心していらしておりました」

 そうでしょうとも。

「確かに順調に見えますが、問題が発生しています」
「問題、ですか?」
「はい。毎日休みなく勉強している事で、お嬢様のストレスが溜まっています」

 特に算術の授業では顕著だ。
 終始イライラしていて、ちょっと難しい問題にぶち当たると、俺に当ってくる。
 とても危険だ。
 いつマウントを取られるかわからない。
 とても危険だ。

「今はまだなんとかなっていますが、そのうち暴れたり、授業を逃げ出したりするかもしれません」
「まぁ……」

 エドナは口に手を当てつつも、さもありなんといった顔で頷いた。
 礼儀作法の授業は見たことがないが、真面目に受けているのだろうか。
 エドナは乳母という話だが……。
 なぜこの人がエリスに気に入られているのか、イマイチわからない。

「そこで、七日のうちに一日だけ、授業を一切しない日を作ろうとおもいます」

 ちなみに、この世界にも暦はあり、何月何日という概念はある。
 しかし、一週間というものは存在しない。
 年に何度か、休息日とかいうのがあるらしいが、日曜日というものは存在しない。

 七。
 その数字を使ったのは、俺が覚えやすいからだ。
 しかも、なぜかこの世界でも七という数字は特別らしい。
 縁起がいい数字と言われ、剣術とかのランクも7段階だ。

「残った六日で、
 読み書き、算術、魔術、歴史、剣術、礼儀作法の六つを教えていきたいと考えています」
「一つお聞きしても?」
「どうぞ、エドナさん」
「そのまま分配すると、礼儀作法の授業が三度しかないことになるのですが、お給料の方は……」
「問題ありません」

 金の問題かよ!
 と、エドナを責めないでやってほしい。
 俺だって金のためにやってることだ。

 エドナが気にしているのは、
 『授業回数が減ると給料が減るのでは』という事だ。
 このへんは事前にフィリップと相談しておいたので、問題ない。
 そもそも、月給制だから、一回も授業しなくても金がもらえるのだ。
 無論、一回も授業を行わなければ翌月は解雇だろう。

 そんな事は言わなくてもわかるだろう。
 わからないようなヤツは解雇したほうがいい。

「もちろんそのまま分配はしません。
 読み書き、算術は七日のうちに二度もやればいいでしょう。
 剣術は毎日やらないと意味がありません。
 魔術も毎日必要ですが、一日に使える魔力には限りがあるので、長時間は必要ありません、
 よって、余った時間は読み書き算術を行うつもりです」

 つもりというか、最初からそうしている。
『今日は水弾をX回、水落はY回使いました。
 では、後何回水弾が使えるでしょう』といった具合だ
 XとかYは、エリスとギレーヌの使用回数に当てはめて問題を出す。

 部屋で数字とにらめっこするよりわかりやすいらしい。
 自分の事だからだろうか。
 魔力の使用回数は目に見えないので正確な答えを導きにくいのだが……。

 ま、暗算というものは、やればやるだけうまくなるものだ。
 頭を使わせるのが目的としておこう。

 ちなみに、無詠唱や理科の授業もそのうちやるつもりだ。
 だが、それらは読み書き算術がある程度まで出来るようになってからでも遅くはない。

「エドナさんには申し訳ありませんが、
 礼儀作法は月に3,4回ほど授業を減らしてもらう形になります」
「わかりました」

 エドナはあっさりと頷いた。

 6日3時限、
 18時限。
 これを、

 礼儀作法は5。
 剣術6、
 読み書き2
 算術2
 魔術3

 こんな感じに割り振る。

 授業時間としては足りないと思うが、
 まあ、反復練習が主だし、なんとかなるだろう。

「それから、やむを得ず授業を行えない場合は、僕の方に連絡が来るようにして欲しいのです」
「と、いうと?」
「僕は平日は館にいるので、開いた時間に僕が授業を入れます。
 なので、例えば長期休暇を取って頂いても問題ありません」
「平日……? わかりました」

 エドナはずっとにこにこしている。
 ほんとにわかってるんだろうか……。

「それと、毎月の初めにこの集会を行いたいと考えています」
「それはどうして?」
「我々教師が互いに連携を取っておけば、突発的なハプニングに対処しやすいかな、と思ったからです。特に必要は無いんですが……効率を上げるのと、あとは念のため、ですね。
 いけませんか……?」
「いいえ」

 エドナは柔らかく微笑んだ。

「ルーデウス様はまだ小さいのに、本当にエリス様のことをよく考えておられるのですね」

 何か微笑ましいものを見るような目だった。
 ……まぁいいか。


 こうして、俺は(・・)休日を手に入れたのだった。


---


 一週間後、初めての休日ということで、お嬢様は何やらそわそわしていた。
 丸一日空くのは初めてらしい。
 俺はフィリップに一言挨拶してから、町中へと出かける事へとする。
 すると、なぜか入り口にエリスとギレーヌが待ち構えていた。

「どこに行くのよ!」
「ロアの町をレッツ観光です」

 ヘィ! と、ポーズを取って言う。

「れっつかんこう……町を見るってことよね? 一人で?」
「二人に見えますか?」
「ずるい! 私は一度も一人で出たことないのに!」

 エリスは地団駄を踏んで悔しがった。

「だって、お嬢様が一人で歩いてると攫われるじゃないですか」
「ルーデウスもさらわれたじゃない!」

 ああそうか。
 あの時はエリスのついでに攫われたけど、
 俺もグレイラット家の一員として見られてるから、
 攫われたら身代金とか払っちゃう可能性があるのか……。
 でもま。

「俺は攫われても一人で帰ってこれますからね」

 ふふんと笑うと、エリスは拳を振り上げた。
 俺は咄嗟に守ろうとしたが、打撃が飛んでくることはなかった。
 珍しい。

「私も付いてく!」

 そういうことにしたらしい。
 今までなら殴ってからこの言葉言ってたな。
 お嬢様も成長したなあ。

 もちろん、俺に断る理由はない。
 一人より二人の方が安全だしね。

「じゃあ、行きましょうか」
「いいの!?」
「ギレーヌも一緒ですよね?」
「ああ。私の任務はお嬢様の護衛だ」

 会議の時も、ギレーヌは休日という概念が理解できなかった。
 なので、今まで通りエリスにくっついている事をオススメしておいた。
 元々、彼女は護衛として雇われたらしいし、当然だろう。

「待ってて! すぐ用意してくるから! アルフォンスー! アルフォンスー!」

 騒がしくも館の中に走っていったエリスを見送る。
 でかい声は相変わらずだ。

「ルーデウス」

 ギレーヌに呼ばれて、振り向くと、すぐ側にギレーヌがいた。
 見上げる。
 彼女は身長2メートル近いため、多分成長しても見上げる事になるだろう。

「あまり自分の力を過信するな」

 きっちりと釘を刺された。
 先ほど、一人なら帰ってこれると言った事だろう。

「わかってますよ。
 ちょっとお嬢様のヤル気を引き出したかっただけです」
「そうか。何かあったら呼べ。助けてやる」
「ええ。その時は、またでかい花火でも……」

 ふと、誘拐された時のことを思い出した。

「前に、同じことをお嬢様にも言った事ありますか?」
「ん? 言ったが?」
「次からは、声が聞こえる所にいたら、って言葉を付け足したほうがいいですよ」
「わかったが、なぜだ?」
「この間攫われた時、お嬢様が叫びすぎて誘拐犯に殺されかけたんですよ」
「………聞こえれば、助けにいった」

 ふむ……。
 まあ、あの時もムチャクチャ早かったしな。
 ギレーヌならどこにいても来るだろう。
 耳もよさそうだし。

 そもそも、エリスが助けを求めたのは、
 フィリップでもサウロスでもなく、ギレーヌだもんな。
 この女は頼りになるのだ。

「叫んじゃいけない状況ってのを教えて上げないといけませんね」

 などと言っているとエリスが戻ってきた。
 よそ行きの服装なのか、見たことのない服だった。

 服装を褒めたらパシンと頭を殴られた。
 なんなのよ……。


--- 


 フィットア領の城塞都市ロアは、このあたりでは一番大きい。
 もっとも、大きいといっても、面積で言えば、広大な田園地帯であるブエナ村より小さい。
 門から出て外壁を一周しても、二時間かそこらで回りきれるだろう。

 だが、ここは城塞都市だ。
 7~8メートルほどの高さの外壁が町をぐるりと囲んでいるのだ。

 完全に円というわけではなく、地形によってぐねっているので、正確な長さはわからない。
 広さは30k㎡ぐらいだろうか。
 俺の感覚だと決して広くは無いが、城壁に囲まれている都市でこの大きさの都市は少ないらしい。
 生前に城塞都市なんて行ったことは無いが、これほどの大きさの壁を作るのがそんな簡単ではないのはわかる。

 城壁を作り出す魔術とかあるんだろうか。
 あるとしたら、きっと王級とか帝級だろう。
 それとも、大雑把に石を作って手作業かな?


 などと考えながら金持ちの住宅地を抜け、
 人通りの多い広場へと出る。

 このへんからが商業エリア。
 貴族エリアにほど近いこのあたりは、立派な店が多い。
 だが、ちらほらと露天も見かける。
 覗いてみると、行商がやや金額の高い品を扱っているようだ。

「よう坊ちゃん嬢ちゃん。ゆっくり見てってくんな」

 RPGの道具屋のおっちゃんみたいなセリフに甘えて、商品を次から次へと見ていく。
 そして、紙に値段と商品をメモる。
 ハッキリ言って、怪しげな商品ばかりだ。
 媚薬が金貨10枚。
 ……メモメモ。

「なによその文字! 読めないじゃないの!」

 エリスが覗きこんできて、耳元で大声を上げた。
 鼓膜が痛い。
 ふと見下ろすと、意識しないうちに日本語で書いてしまったらしい。

「メモだから俺が読めればいいんですよ」
「何書いてるか教えなさいよ!」

 お嬢様は横暴です。
 けれど、教えない理由も無い。

「商品の名前と値段です」
「そんな事調べてどうするのよ!」
「相場を調べるのはネトゲの基本ですよ」
「ネト……なによそれ?」

 口で言っても理解できないかと思い、俺は商品の一つを指さす。
 小さなアクセサリーだ。

「ほら、見て下さい。さっきの露天だと金貨5枚で売っていたものが、こっちだと金貨4+銀貨5枚で売っていますよね」
「お、坊ちゃん。なかなか目がいいねえ。ウチは格安だろ!」

 俺はおっちゃんを無視してエリスに向き直る。

「エリス。ここで頑張って金貨3枚まで値切ってから、
 さっきの店で金貨4枚で売れば、いくらの儲けが出ますか?」
「えっ! えっと、5ひく3たす4で、金貨6枚!」

 なんだその計算は。

「ブー、不正解です。正解は金貨1枚です」
「わ、わかってたわよ!!」

 エリスは口を尖らせてそっぽを向いた。

「本当ですかぁ?」
「さ、最初に金貨を10枚持っていたら、11枚になるんでしょ?」

 お。よくできました……。
 って、増やしただけじゃねえか。
 まあいい。褒めておこう。
 彼女はプライドが高いから褒めて伸ばすのだ。

「お、今度は正解です。いやー、エリスは賢い」
「ふん、当然よ」

 俺たちの話を、おっちゃんは苦い顔で聞いていた。

「なぁ、坊ちゃん。そういうのは転売つってな。
 あんまりほめられた行為じゃねえから、やっちゃいけねえぞ?」
「もちろんですよ。
 だからやるとしたら、向こうで4枚で売ってましたよって教えるぐらいですね。情報量は大銅貨1枚ぐらいでしょうか」

 おっちゃんは苦虫を噛み潰した。
 そして俺たちの背後にいるギレーヌに助けを求めたが、
 彼女はむしろ俺の話を真剣に聞いていた。

 何を言っても無駄だと悟ったのか、
 おっちゃんは肩をすくめてため息をついた。

 すまんね。
 どうせ冷やかしだから、見逃してくれや。

「商売をするつもりが無くても、色んなものの値段ってのは知っておかないといけません」
「知っていればどうだっていうのよ!」
「例えば、店まで行かなくても、大体の計算ができる」
「それが何の役に立つっていうのよ!」

 なんの役に……?
 えっと、転売をする時に大体の稼ぎが……あれ?

 よし、
 こういう時はギレーヌだ。

「ギレーヌは何かの役にたつと思います?」
「………いや、わからん」

 え、マジで?
 ……わからないか。
 わかるかと思ったけど。

 じゃあ、いいか。
 別に授業でもないし。

「そうですか。じゃあ何の役にも立たないのかもしれませんね」

 あくまで俺の勉強だ。
 理解が得られなくてもいい。
 市場を見かけたら、まずはそこで売られているものの相場を調べる。
 ずっとやってきたことだし、間違いはない。

 と思うけど、
 自分の足で調べるのは初めてだし、やって意味があるのかもわからない。

「役に立たないかもしれないのに、なんでやるのよ!」
「俺は役にたつと思ってるからですよ」

 エリスは納得のいかない顔をしていた。
 俺だって、なんでもかんでも答えられるわけじゃないんだ。
 少しは自分で考えてくれや。

「自分で考えてみて、役に立つと思えば真似すればいいし、
 役に立たないと思えば指さして笑えばいいんですよ」
「じゃあ私は笑う側ね!」
「あはははは」
「あんたが笑ってどうすんのよ!」

 殴られた。ぐすん。

 周囲の露天をチェックし終えた。
 立派な店構えの高級店は敷居が高いので遠慮。


---


 少し町の外側へと移動する。
 売っている物がガラリと変わる。
 値段も金貨5枚前後から金貨1枚前後へと安くなる。
 まだ高い。
 俺の買えそうなものはない。

 が、人は増えた。
 貴族っぽい人から冒険者っぽい人まで。
 金貨一枚ぐらいが、高いけどギリギリ買う値段、といった所なのかもしれない。


 メモを取っていると、ふとある店が目に入った。
 本屋である。

 入ってみる。
 なんとも閑散とした雰囲気のある店内だった。

 エロ本をメインとする店舗の一般紙コーナーとでも言うべきか。
 本棚は二つ。
 同じタイトルの本が2~3冊ずつ並んでいる。

 一冊大体、金貨1枚かそこら。
 残ったスペースには、鍵の付いたケースに入った本が並んでいる。
 こちらは平均金貨8枚で、一番高いものが金貨20枚だった。目玉商品か。

 店主は俺の姿を見た瞬間から、冷やかしと見切って対応にはこない。
 正解。

 俺は一つずつタイトルをメモっていく。
 店主が訝しげな目で見てくる。
 大丈夫ですよー、本にはノータッチですよー。
 写したりはしませんよー。

「植物辞典、金貨七枚……」

 たけー。
 金貨1枚を10万と仮定すると、70万っすよ?
 ウチの母さんはどんだけ無茶したんだ……。

 しかし、やはり辞典系が高いらしい。
 『シグの召喚魔術』とかぜひ読みたいけど、金貨10枚。
 月給銀貨2枚の俺には買える要素無し。

 一番高いのは『アスラ王宮宮廷儀式』。
これはいらない。

「なにを物欲しそうに見てるのよ」

 エリスが話しかけてきた。
 メモも取らずに見ていたので、気になったのだろう。

「いや、なんか面白そうな本ないかと思って」
「そういえば聞いたわよ! あんた本が好きなんですって!?」
「誰から聞いたんですか?」
「お父様よ!」

 フィリップか。
 書庫を見せてくれって頼んだしな。

「な、なんだったら一冊買ってあげてもいいわよ」
「軽く言いますが、エリスはお金を持っているんですか?」
「お祖父様が出してくれるわ!」

 ですよね。
 甘えさせちゃいけません。
 本は欲しいけど……。
 本は欲しいけど!

「いらないです」
「なんでよ!」

 エリスは、口を尖らせていた。
 不機嫌な時の顔だ。
 これが悪化すると、鬼の形相で殴ってくる。
 なので、まだ大丈夫。
 まだ理性がある。

「エリスが自由にしていいお金じゃないからです」
「どういう事よ」

 エリスが眉を寄せた。
 意味がわからないから、どんどんイラついているのだ。
 最近、エリスの怒りのボルテージメーターが見えるようになってきた気がする。
 どう説明するべきか。

 そもそも、貴族の娘に金の使い方を覚えさせる意味はあるのか?
 ええい、ままよ。

「俺がエリスに勉強を教えて、月にいくらもらっているか知っていますか?」
「………金貨5枚ぐらい?」
「銀貨2枚です」
「安すぎるわよ!」

 エリスは叫んだ。
 店主がうるさそうに顔をしかめている。

「いえ、実績もなく年齢も幼い俺には、妥当な線でしょう」

 魔法大学の学費を肩代わりしてもらうって話もあるしね。

「で、でもギレーヌは金貨2枚だって……!
 ルーデウスの方がいっぱい教えてるじゃないの!」
「ギレーヌは実績もあって、剣王という肩書きを持っています。
 また、護衛という仕事も兼任している。
 ギレーヌさんの給料が高いのは当然です」

 最も、ボレアス・グレイラット家の悪しき伝統も含まれているんだろう。
 あそこの家なら、『獣族の女子優遇!』とかやりそうだ。

「じゃ、じゃあ私だったら?」
「魔術も剣術もできなくて実績のないお嬢様の給料は、
 どれだけ高くても銀貨1枚が関の山です」
「むぅ……」

 ちなみにエリスはお小遣いさえもらえていない。

「誰かに何かを買ってあげるとかは、自分でお金を稼げるようになってからにしてください」
「わかったわよ……」

 エリスは珍しく萎れていた。
 いつもこれぐらいなら楽なんだが……。

「まあ、お小遣いを貰えるように、帰ったらフィリップ様に頼んでみましょう」
「ほんと!?」

 ピコンと、エリスが顔を上げた。
 好感度の上昇を感じる……。

 ま、お金を与えず、欲しいものを与えるってのも、また甘やかしだからな。
 ちょっとだけお金を与えて、お金の使い方を学ばせたほうがいい。


 めぼしい本のタイトルをメモって、店を出る。
 今日一日で、欲しいものと値段は大体わかった。


---


 帰りがけに空を見る。
 城が浮いていた。

 雲に混じって、うっすらと、しかし泰然と。

「なぁっ!」

 驚いて空を見上げ、指差す。
 周囲の人々が一瞬だけ俺の指の先を見て、すぐに興味を失った。
 え? 見えてるよね?
 俺だけ?
 天空の城ラ○ュタが見えてるの、俺だけ?
 父さんは嘘つきだった?

「見るのは初めてか?
 あれは『甲龍王』ペルギウスの空中城塞だ」

 ギレーヌが俺の疑問に答えてくれた。
 知っているのかライデ……ギレーヌ!
 それにしても、空中城塞。
 ほお、かっけえなー。

「ペルギウスって?」
「知っているだろう?」

 聞いたこともある気がするが、思い出せない。

「なんでしたっけ?」

 ギレーヌが、ちょっと驚いた顔をして、言葉を選んでいる。
 と、エリスが俺の前に出てきて、腕組みで仁王立ちした。

「あたしが教えてあげる!」
「お願いします。教えてください」
「いいわ!
 ペルギウスっていうのはね、魔神ラプラスを倒した三英雄の一人なのよ!」

 胸を張ってエリスが言った。
 魔神ラプラス……あれ、どっかで聞いたような……?

「すっごく強くってね。12人の下僕を率いて、空中要塞でラプラスの本拠地に乗り込んだのよ!」
「へぇ、それは凄いですね」
「でしょ!」
「お嬢様は博識ですね。ありがとうございます」
「うふふ! ルーデウスもまだまだね!」

 突っ込んだ質問をすると、また殴られるからな。
 俺だって学習するのだ。



 なので、帰ってから自分で調べてみる。

 フィリップに聞いてみたところ、どこかにその手の本があったはず、とのこと。
 頼むより前に執事の人が探して持ってきてくれた。
 お手数かけます。

 結論からいうと、ブエナ村の実家にあった本だった。

 『ペルギウスの伝説』
 てっきりお伽話だとばかり思っていたが、どうやら史実だったらしい。


 『ペルギウスの伝説』を要約すると、こんな感じだ。

 『甲龍王』ペルギウス
 かの者がどこで生まれ、どこで育ったのかは誰にもわからない。
 当時、まだ有名ではなかった若かりし頃の龍神ウルペンに連れられ、冒険者ギルドへとやってきたのが、最古の記録である。
 ペルギウスは瞬く間にその実力を示し、龍神ウルペン、北神カールマン、双帝ミグス・グミスらとパーティを組んで、あらゆる敵を撃破した。
 ウルペンの弟分のような存在であったがゆえか、いつしかペルギウスは古の伝説に残る龍神の配下『五龍将』の一人と同じく『甲龍』と呼ばれるようになる。
 その力は、ラプラス戦役においても遺憾なく発揮された。
 ペルギウスは己の得意とする召喚魔術を用いて、12体の使い魔を創りだした。
 空虚、暗黒、光輝、波動、生命、大震、時間、轟雷、破壊、洞察、狂気、贖罪。
 これらの名を持つ最強の使い魔を操り、古の空中城塞『ケィオスブレイカー』を復活させ、ラプラスとの決戦に臨んだ。
 しかし、力は一歩届かず、ラプラスを完全に消滅することは出来ず、封印するに留める結果に終わった。
 だが、その力と、空中城塞(ケィオスブレイカー)の威容を見て、人々は彼のことを『甲龍王』と呼ぶようになった。
 アスラ王国は彼の功績を讃え、戦争終結と同時に新たなる年号を発表。
 それが現在の『甲龍歴』である。(ちなみに、今は甲龍歴414年)

 『甲龍王』ペルギウスは、王として君臨も統治もすることなく、ただ空中城塞(ケィオスブレイカー)で世界中の空を飛び回っているらしい。
 その真意を知る者は、誰もいない。


 てか、400年て、本当にまだ生きてんのか?
 主のいない城がふわふわ飛び回ってるだけじゃないよね。

 でも、いつか行ってみたいな。


---


 翌日。 

 エリスの機嫌が最高によくなっていた。
 丸一日遊び通すのは初めてだったからだろうか。
 それとも、いつもは高級店の所までしか行けないからだろうか。

 どちらにせよ、やはり休日を作るのは正解だったらしい。

「また連れていきなさいよ!」

 腕を組んだ仁王立ち。
 いつものポーズのエリスだが、ちょっと頬が赤かった。
 この頬の赤さはどっちだろうか。
 怒りか、屈辱か……。

 え?
 照れ?
 そんなわけないじゃないですか。あのエリスですよ?

「えっと……」

 俺が迷っていると、エリスがギリッと奥歯をかみしめた。
 そして、髪を両手でもって腰をつきだして……。

「つ、連れて行って、くださいニャ……」
「はい、連れていきます、連れていきますからそれはやめましょう!」

 慌てて止めた。
 あれは確かに可愛いかもしれないけど、
 心臓に悪いんだ。
 1回やられる度にカルマが溜まっていく気がする。
 そしてカルマは拳で清算されるのだ。

「ふん! わかればいいのよ!」

 エリスはパッと髪を散らした。
 腰まである赤い髪がふわりと落ちきる前に、
 彼女はストンと机に座る。

「さあ! 授業の続きをしなさい!」
「今日はやる気ありますね」
「どうせ、いい子にしてないと連れて行かないっていうんでしょう!」

 お、お嬢様がこんなにお利口に……!?

「そ、そのとおりです、いい子にしていればまた連れて行ってあげますとも!」




 俺は感動しながら、その日の授業を終えた。
:ステータス:
名前:エリス・B・グレイラット
職業:フィットア領主の孫
性格:やや凶暴
言う事:聞いてあげる
読み書き:読みは結構いける
算術:桁の変わる引き算も出来る
魔術:初級を修行中
剣術:剣神流・初級
礼儀作法:普通の挨拶も出来る
好きな人:おじいちゃん、ギレーヌ
+注意+
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