挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第16章 青年期 人神編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

169/286

第百五十五話「日記 前編」

 未来から俺を名乗る人物が現れた翌朝。

 俺は寝不足でボンヤリした頭で考える。
 まず何をすべきか。
 未来の俺は言った。

『ナナホシに相談しろ』
『エリスに手紙を送れ』
『ヒトガミを疑え、でも敵対はするな』

 エリスへの手紙は書いた。
 一応ながら、彼女を受け入れてもいい、という文面だ。
 だが、これを送るのは、シルフィとロキシーに相談してからだ。
 相談結果次第では、内容を大幅に変えなければならない。

 ヒトガミを疑い、でも敵対はしない。
 これは、次にヒトガミが夢に現れた時にでも、そう宣言するとしよう。
 いつ現れるかわからないが。

 ナナホシへの相談。
 相談はしたいが、こんな荒唐無稽な話をして、信じてくれるだろうか。
 いや、あいつもトリッパーだ。
 荒唐無稽な話でも、受け入れる下地はあるはずだ。

 だが、その前に――日記だ。

 俺は日記を読むことにした。
 これを放置して、何かをするわけにはいくまい。
 この日記は、あの老人の軌跡なのだから。

 未来の俺が持ってきた日記は古ぼけており、最初のほうのページは色あせてボロボロだった。
 だが、読める。
 どうでもいい部分は読み飛ばしつつ、重要な部分を拾って読む。


-----


 今日から日記を付けようと思う。
 それにしてもこの十日は色々あった。
 ペルギウスのこと、ゼニスのこと。
 召喚魔術に、転移魔術。
 やることは多く、忘れないように色々と書き記していこうと思う。


 アイシャが朝から「変なネズミが死んでた」とブルーになっていた。
 ネズミ、嫌いなのだろうか。


 近所で魔石病にかかった猫が発見されたらしい。
 怖いことだ。
 家族には、手洗いうがいを徹底するように言っておこう。


 なんと、エリナリーゼが妊娠したらしい。
 クリフは不安そうだったが、エリナリーゼは嬉しそうだ。
 一応、みんなで祝福しておいた。
 こういう時はパーッと騒ぐべきだ。


-----


 この辺りまでは普通の日記がつづられている。

 ペルギウスに召喚魔術を教えてもらったりとか、
 ザノバと空中城塞の芸術品を見て回ったりとか、
 ロキシーのベッド上での弱点を発見したとか、
 ルーシーの寝顔が天使のようで将来は美人になるに違いないとか、
 毎日が随分と楽しそうだ。 

 最初は日付が書いてあったが、途中から日付が書かれなくなっている。
 めんどくさいと思ったからだろうか。
 そのせいで何日経過しているのかわからないが、老人の話を思い出すに、恐らくは二週間以内だろう。

 しかし、ここから、変わる。


------



 ロキシーが倒れた。
 この頃、調子が悪いと言っていたが、とうとう熱を出してしまった。
 しばらく学校を休むように連絡を入れておく。
 上級解毒まで試してみたが、効果が無い。
 また難病なのだろうか。
 はやいうちにクリフに見てもらおうと思う。


 ロキシーの足の先が紫色の結晶になりはじめた。
 すぐにクリフを呼び、識別眼で見てもらった。
 病名は『魔石病』。
 神級の解毒魔術でしか治らない、難病だ。


 解毒魔術の詠唱を手に入れるべく、転移魔法陣を使ってミリス神聖国へと向かう事にした。
 メンバーは、俺とクリフ、ザノバの三人だ。
 シルフィも行きたがっていたが、留守番をお願いした。


 ミリシオンにたどり着いた。
 神級の詠唱は、大聖堂の奥にあるらしい。
 クリフが場所を知っているらしいが、大司教レベルにならないと入れない場所にあるとか。
 なので、深夜に忍び込むことになった。
 そこで詠唱を書き写し、戻ってくればいい。


 侵入はできた。
 だが、神級の解毒の詠唱が、辞書ぐらいの分厚さを持つ本一冊だとは思ってもいなかった。
 その場で写本するのは不可能だった。
 持ち出したが、脱出する途中で発見された。
 現在、追っ手から逃げている。


 転移魔法陣で奇襲を受けた。
 戦闘の余波で、転移魔法陣が壊れ、使えなくなった。
 クリフが毒を受けて倒れ、意識不明の重体だ。

 ……俺は初めて人を殺した。
 まだ、手に感触が残っている。
 気持ち悪い。
 くそっ。


 別の魔法陣へと移動する事にした。
 クリフの意識が戻らない。
 ミリス神聖国中に、俺たちの顔が出回り、指名手配されている。
 完全に、ミリス教団を敵に回してしまったらしい。


 クリフが死んだ。
 しばらく、何も書きたくない。


 なんとか別の転移魔法陣の所までたどり着いた。
 あと少しだ。


 手遅れだった。
 今日はもう、何も書きたくない。


 昨日のことを書いておこうと思う。
 町の入り口でエリスとギレーヌに出会った。エリスは何かわめいていたが、すでに二人も妻がいて、お前の相手はもうできないというと、愕然とした顔をして去っていった。
 最後に、ギレーヌが残した侮蔑の視線が不愉快だ。
 家に帰り着くと、みんなが鎮痛な面持ちをしていた。
 ロキシーは体の半分を結晶化させて、死んでいた。
 詠唱は、無駄になった。

 それから、エリナリーゼにクリフの死について話した。
 エリナリーゼは俺の頬を叩き、泣きながらどこかへと走っていった。
 やるせない。


 ロキシーの葬式をした。
 何もやる気がおきない。
 涙だけが出てくる。
 何もかもが、どうでもいい。


 エリナリーゼが町から姿を消したらしい。
 身重の体だろうに、どこへ行ったというのだろうか。
 まあ、どうでもいいか。


 シルフィが元気付けようとしてくれているが、俺の心は晴れない。
 もう、ロキシーがいないのだ。
 あの、ロキシーが。
 何事にも一生懸命だったロキシーが。
 俺を家の外に出してくれて、パウロが死んだ時もやさしく慰めてくれたロキシーが。
 俺の行動の指針になってくれた、あのロキシーが。
 (紙面は涙の跡でしわしわだった)


 最近、酒ばかり飲んでいる気がする。
 酔っていないと、ロキシーのことを思い出して、泣いてしまうのだ。
 シルフィがそれじゃいけないといっているが、彼女に何がわかるというのだろうか。
 ロキシーは、俺に大切なことを教えてくれたのに。


 家で飲んでいるとリーリャが小言を言ってくるようになった。
 外で飲むことにする。
 酒場で飲んでいると、たまにエリスが絡んでくる。
 言いたい放題いって、殴ってくる。
 なんなんだ、あの女。
 ギレーヌも、なんで止めないんだ。
 あと、最近ノルンが口をきいてくれない。侮蔑の視線で見てくる。
 誰も俺の気持ちなんてわからない。


 最近、シルフィが露骨に誘惑してくる。
 自分を抱いてロキシーの事を忘れて……なんていってくる。
 あまりにもしつこいので、怒鳴ってしまった。
 そんな考え無しな事を言われて、抱けるわけがない。
 けど、それだけじゃない。
 今シルフィを抱いたら、俺は彼女を酷く乱暴に扱ってしまうだろう。
 ロキシーの代わりとして、そして八つ当たりの対象として。
 それは……よくないと思う。


 失敗した。
 酒場で飲んでいると、娼婦に声を掛けられたのだ。
 酒に酔った勢いもあり、そのまま宿屋で抱いてしまった。
 やはり商売女ということもあって、非常に上手だった。
 なんというか、今まで俺が女だと思って抱いていたのは、所詮は少女に過ぎなかったというか……。
 いや、そんな事はいい。
 問題はシルフィに泣かれてしまったことだ。
 彼女は、女の匂いをさせて帰ってきた俺を見て「なんで、ボクじゃダメなんだよ……」といって、泣いて自室に篭ってしまった。
 リーリャには説教され、アイシャにまで露骨に顔をしかめられた。
 今もなお、扉の奥から嗚咽が聞こえてくる。
 ノックをしても返事はない。
 失敗した。
 彼女は乱暴にされてもいいから、俺に悲しみをぶちまけて欲しかったのかもしれない。
 明日になったら、謝ろう。


 シルフィが口をきいてくれない。
 どうしよう。
 こんな時に、エリナリーゼがいれば……。


 シルフィがいなくなった。
 朝起きると、部屋はもぬけの空だったのだ。
 正確に言うと、俺があげた服や装飾品だけが、残っていた。
 リーリャは俺に、すぐに追えと命じた。
 だが、俺に追う資格はあるのだろうか。
 シルフィに離婚されて、当然の男なんじゃないだろうか。


 ぐじぐじと悩んでいると、ゼニスに頬を叩かれた。
 彼女は何も言わなかったが、何度も何度も俺の頬を叩いた。
 まるで、今の俺の行動を諌めるかのように。


 シルフィを追うことにした。
 情報を集めてみると、シルフィはアリエルと共に、アスラ王国へと向かったらしい。
 まだ卒業まで数ヶ月はあったはずなのだが、どうしてこんな急に動いたのだろうか。
 理由はわからないが、アスラ本国で何かが起こったのかもしれない。
 俺も急ぐことにする。


 またエリスと出会った。
 彼女は今なら許してあげるだのなんだのと、わけのわからない事を言ってくる。
 俺が聞く耳を持たないと、いきなりぶん殴ってきた。
 いい加減うざったくなってきたので魔術でぶっとばすと、剣を抜いて襲い掛かってきたので、逃げた。
 エリス……俺を捨てたくせに、なんで今更……。


 雪で足止めをくらった。
 シルフィはもう豪雪地帯を抜けているだろうか。
 焦りが沸いてくる。


 アスラ王国にたどり着いた。
 が、困ったことに、国境で止められた。
 ミリス教団から指名手配されている俺は、アスラ王国でも犯罪者として扱われているらしい。
 拘束されそうになり、あわてて逃げ出した。
 なんとか密入国する方法を探さなきゃいけない。


 盗賊ギルドと渡りをつける事に成功した。
 こういう組織は、どこにでもいるな。
 俺は盗賊連中の中では話題の人物らしく、羨望の目で見られた。
 ミリス神聖国から神級の詠唱を盗み出した、今注目の盗賊として。

 彼らに事情を話すと、トリスという妖艶な女盗賊が案内してくれる事になった。
 こんな女と一緒にいることでシルフィに誤解されないか、それだけが不安だ。


 アスラ王国内に入った。
 顔を隠すためにフードと仮面を付けることにした。
 俺の名前は、今日からルード・ロヌマーで、呪いのせいで素顔を見られると石化する、という設定が追加された。
 ロヌマーはバシェラントから出稼ぎにきた魔術師で、従姉妹のトリスに案内をしてもらっている所、という事になった。
 色々考えてもらって、頭が下がる。


 国王が病気で死にかけている、という情報を入手した。
 その後釜に誰が収まるか、王子たちが争っているという噂もある。
 これのためにアリエルは帰還を早めたのだろう。


 もうすぐ王都だ。
 だが、アリエルに関して、なにやらきな臭い話ばかりを聞く。
 兵を集めてクーデターを起こそうとしているとか、なんとか。
 世論によると、勝てる要素は無いらしいが。
 まぁ、アリエルもそこまでバカじゃないだろう。
 ただの噂だ。


 王都にたどり着いた。
 トリスに情報収集を任せて酒場にいると、エリスの姿を目撃した。
 俺をここまで追ってきたのだろうか。
 いや、違うな。
 彼女の故郷はもともとアスラ王国だ。
 もともと、行き先が同じだったのだろう。


 アリエルは姿をくらましたらしい。
 当然、ルークとシルフィも。
 見つけられるのだろうか。


 見つからない。
 トリスの予想では、すでに王都から別の町に移動したという事だ。
 アリエルが行きそうな所……ルークの実家だろうか。
 明日、ノトス家が治める領地に行くように、トリスに提案してみよう。


 ピレモン・ノトス・グレイラットの治めるミルボッツ領へとやってきた。
 ついでにアリエルがノトス家にかくまわれているらしい、という情報も得た。
 だが、どうやってシルフィに会おうか。
 侵入してみるか。


 ノトス家に侵入した所、なぜかエリスがいて、ぼこぼこに叩きのめされた。
 捕らえられ、地下牢でピレモンと名乗る、顔だけはパウロに良く似た男に口汚く罵られた。
 どうやら、俺がノトス家をのっとろうとしていると思われたらしい。
 明日にでも処刑して、ミリス教団に首を差し出してやると言い残し、去っていった。
 その後、脱走したが……ピレモンの館にアリエルはいなかった。


 王都でクーデターが勃発した。
 『アリエルがミルボッツ領にいる』という噂はデマだったのだ。
 アリエルは王都に潜伏し、機会をうかがっていたらしい。
 間に合うだろうか。


 王都まであと1日という所で、クーデターが鎮圧されたという情報を聞いた。
 無謀にも第一、第二王子を同時に殺害しようとしたアリエルは、
 ちょうどその時、剣客として招かれていた水神や北帝らに阻まれ、手勢は全滅。
 アリエルは捕らえられ、後日、処刑されるらしい。
 手勢は全滅。
 全滅……。
 シルフィは……?


 …………もういやだ。
 なんで、こんなことに、なってるんだ……。


 先日のことを、書こうと思う。
 王都の片隅の処刑場では、アリエルの手勢の死体が晒されていた。
 その中にはルークと……そしてシルフィもいた。
 シルフィの死体は片腕がなく、顔に大きな斬り傷が残っていた。
 何人かの人々が、石を投げていた。
 王都の平和を乱した犯罪者として、シルフィに石を投げていた。
 石が投げつけられるたびに、死体をついばんでいたカラスが飛び立っていた。
 俺は我慢しきれなくなって、火魔術でシルフィたちを燃やした。
 邪魔する奴も、みんな燃やした。
 こんな国は、滅びればいい。


-----


 俺は、日記帳をパタンと閉じた。

 読むのが辛い。
 もう、読みたくない。
 本当にこれ、読まなきゃいけないんだろうか。
 なんで俺はこんなものを読んでいるんだろうか……。

「うぇ……」

 気分が悪い。
 これは、きっとあの老人の妄想小説だ。
 そうに違いない。
 こんな未来がありえるなんて、考えたくもない。

「……」

 だが、読まなければいけない。
 知っておくことが、きっと力になるのだから。

 と、日記帳を見るが、ページを開き直す勇気が持てない。
 気分が悪い。
 あの日記には、これからどんな辛い事が書いてあるのだろうか。
 それを考えると胃がムカムカする。

「少し、休憩……」

 俺は椅子から立ち上がり、部屋を出てトイレに行った。

 吐いた。
 涙がボロボロと出てきた。
 自分の書いた文章であるせいか、俺がその時、どう感じたのかを、まざまざと想像することができてしまった。
 ロキシーが死んだ時の悲しみ。
 シルフィに出て行かれた時の焦り、諦念。
 追いかけた時の気持ち。
 そして、死んだシルフィを見た時の喪失感。

「おぇぇ……」

 便器に顔を埋めるようにして、吐けるだけ吐いた。
 胃の中は綺麗にスッカラカンだ。
 けど、食欲は無い。
 今日は何も食べなくていいだろう。

 水魔術で口をゆすいで出てくると、シルフィが心配そうな顔で立っていた。

「る、ルディ。どうしたの? 大丈夫?」

 肩口まである白い髪に、ややガードが甘い感じのする普段着。
 彼女の顔に傷がついて、腕がなくなり、殺されて、冷たくなって、晒されて。
 そんな想像が光景が思い浮かんでしまって……。

「わっ、なに?」

 俺は無言でシルフィを抱きしめた。
 シルフィの体は柔らかくて、暖かかった。

「ルディ、そんなにアトーフェと戦った時の事、引きずってるの?」
「……うん」
「しょうがないなぁ……よしよし。辛かったら、いつでもボクが慰めてあげるからね。ボクはルディがそんなに強くないって、ちゃんとわかってるからね?」

 シルフィがやや背伸びをしつつ、俺の背中をぽんぽんとなでてくれた。
 辛かったら、いつでもボクが慰めてあげるからね。
 この言葉を、未来の俺は無視したのだ。

「うん。シルフィ、ごめん」
「いいんだよ」
「俺さ、もしかすると、すっごく辛い時、シルフィに頼れなくて、嫌なこととか、言ったりしちゃうかもしれない」
「えぇ……」
「けど、いなくならないでください」
「えっと……その時は、ボクもちょっとイラッとしてルディに冷たく当たっちゃって、喧嘩になっちゃうかもしれないね……でも、仲直りできるよね?」
「うん。もちろん出来るよ。うん、仲直りできるよ……」

 シルフィはやさしいな。
 こんなやさしい子を、俺は裏切るのだ。

「あの、ルディ。お尻を触る手つきがやらしいんだけど」
「……触っちゃだめか?」
「減るものじゃないから、いいけど……わっ」

 許可が出たので、俺はシルフィを抱き上げた。
 向かうところは、寝室である。
 別にエロいことをするつもりじゃない。
 ただちょっとこう、二人きりでイチャイチャしたい気分なのだ。

 なんていうか、無くしたものを取り戻したいというか。
 よくわからんな。
 あんな日記を読んだせいで、センチな気分になっているんだろう。

 なんて思いつつ、シルフィにセラピーしてもらった。


---


 ロキシーが帰ってきた後。
 俺は彼女につきまとった。
 ソファに座る彼女の隣に座り、三つ編みの先を弄び。

「どうしましたか?」

 と言われるまで、横でもじもじとしていた。

「えっと、ロキシー。ちょっと、お話しませんか?」
「お話はいつもしているじゃないですか……それとも、何か特別なお話ですか?」
「いえ、こう、もっと、イチャイチャっとした感じで」
「はぁ……まあ、いいですが、今日はそういうのはダメですよ?」
「はい。ちょっと引っ付きたいだけなので、ダメでしょうか」
「ダメではありません」

 ロキシーは俺の膝の上に乗り、肩の辺りにコロンと頭を載せてきた。
 俺は彼女の肩を抱きつつ、至近距離で見つめ合う。
 といっても、俺の方から話題があるわけではなかった。

「えっと、今日は一日、どうでした?」
「どうもありませんよ。いつも通りです……校長先生のヅラが、生徒のイタズラで飛ばされたぐらいですかね」
「ああ、それはちょっと見たかった」
「それから――」

 ロキシーは一日働き詰めで、お疲れだった。
 それでも、俺に構ってくれた。
 他愛無い話でクスクスと笑いあいつつ、なんとなく尻の辺りを撫でてみるとペシリと手を叩かれた。
 それでも、密着していたかったのでそう言うと、ロキシーは「しょうがないですね」と許してくれた。

 その後、一緒に風呂に入り背中を流してあげて、肩をもんであげたり。
 俺はまるで子供のように、ロキシーに孝行した。

「今日のルディは何かアレですね。何か辛いことでもあったんですか?」
「いえいえ、何も、ロキシーが生きていてくれるのが嬉しいなー、と再確認していただけですよ」
「そうですか……まあ、転移迷宮では、本当に死ぬかと思いましたからね、存分に確認してくださってもいいですよ」

 ロキシーは湯船で俺の膝に乗りつつ、そんな事を言った。
 俺は彼女の細い肩をもみほぐしつつ、聞いてみた。

「ロキシー、最近、体調に変化とかありませんか?」

 魔石病は回避できた。
 と、思うが、あのネズミを始末すれば大丈夫だという保証はない。
 未来の俺の研究結果が間違っている可能性もあるからな。

「ええ? 元気ですよ。なぜそんな事を?」
「いやね、ロキシーにはぜひとも長生きしてほしいなぁ、と思っていましてね」
「種族の寿命で考えれば、わたしはルディより長生きですからね。ルディの方こそ、長生きしてくださいよ」
「もちろんです」

 そう言うと、ロキシーは嬉しそうに微笑んでくれた。
 とりあえず、大丈夫そうだ。


---


 シルフィとロキシー。
 二人がまだ生きている。
 あの日記のようにはならない。
 絶対に回避する。

 そう決意した事で、また日記を読む気力が湧いてきた。

 覚悟完了だ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ