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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第13章 青少年期 迷宮編

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第百三十一話「修羅場」

 五人が居間に残っている。
 俺と、シルフィと、ノルンと、アイシャと、ロキシー。
 あと、アルマジロのジローが幸せそうな顔で暖炉前に寝そべっているが、これは数に数えなくていいだろう。

 リーリャはゼニスを風呂にいれている。
 入れる前に「大丈夫ですか?」と聞いてきたので、頷いておいた。
 これからの話し合いは、リーリャの助けを得ずに終わらせたい。

 ノルンは自室に戻ることなく、ここにいる。
 しかし、やはり、辛かったのだろう、まだすんすんと鼻を鳴らしていた。
 彼女はパウロになついていたから、その辛さは人一倍大きいはずだ。

「さて、最後に話がある」

 そう言うと、三人は椅子に座り直した。

 俺はロキシーに目配せをする。
 ロキシーは黙って俺の隣までやってきた。

「……」

 シルフィの膨らんだお腹が、これから言う事をためらわせる。
 しかし、俺には責任がある。
 ロキシーも、いずれこうなるのだ。
 仮にシルフィがノーと言ったら、彼女は一人で子供を産むことになるのだろうか。
 一応、そういう約束だからな。
 もちろん、俺としては資金援助でもなんでもするつもりだが。

「俺は、ここにいるロキシーを、二番目の妻として迎えようと思っている」
「……えっ?」

 戸惑いの声を上げたのは、シルフィではなくノルンだった。
 彼女は立ち上がると、俺とロキシーを交互に見る。
 シルフィはというと、きょとんとしていた。

「ど、どういう事!?」
「順を追って説明する」

 俺は、ベガリット大陸で何があったのかを説明した。
 パウロが死んで、どん底まで落ち込んでしまった事。
 それをロキシーに助けてもらった事。
どうやら自分はロキシーが好きだという事。
 尊敬している彼女にうちの一員になってもらいたいという事。

「シルフィを裏切るつもりはなかったけど、結果的に約束を破ってしまった。すまない」

 俺は膝をついた。
 床にはじゅうたんが敷いてあるが、北方大地の冬は寒く、床は冷たかった。
 頭を深々と床に擦りつけた。

「えっ、ちょ、ルディ!?」

 シルフィの慌てる声が聞こえた。

「シルフィのことは変わらず愛している。けど、ロキシーを妊娠させてしまったかもしれないんだ。責任を取らなきゃいけない」
「あ、うん」

 言葉を重ねれば重ねるほど、俺の言葉が安っぽいものであるように聞こえてしまう。
 しかし、本心だ。

 シルフィを見ると、彼女は困った顔をしていた。
 混乱しているのかもしれない。
 無理もない。
 俺は愛している、必ず戻ってくると言った。
 そんな相手が、ボロボロになって帰ってきた。
 家族と左手を失って。
 でも命は無事だったから、そのことを喜ぼうと思ったのに、別の女を妻に迎えると言い出したのだから。
 俺だったら、喚いて、喚いて、糾弾する。

 けど、俺は言う。
 無理を通す一言を。

「シルフィ。許してほしい」
「許せるわけないでしょ!」

 ノルンだった。
 叫んだのは、シルフィではなくノルンだった。
 彼女は俺のところまでツカツカとやってきて、胸倉を掴んだ。

「シルフィ姉さんが、どんな気持ちで兄さんを待っていたか、知ってて言ってるんですか!」
「……」
「毎日、ルディは大丈夫かな。ルディに会いたいね、ルディも今頃ご飯食べてるかなって。寂しそうな顔をしてたシルフィ姉さんの顔と声を、知ってていってるんですか!」

 知らない。
 知らないけど、想像はできる。
 俺を待つシルフィの顔。
 寂しそうなシルフィの声。
 椅子に座って足をブラブラさせながら、暇そうにしてるシルフィの姿。

「お父さんも助けられなかったのはしょうがないって思いました!
 左手も失って、それぐらい厳しかったんだから、しょうがないって!
 だから、兄さんを責めるのはお門違いだと思いましたけど、でも、女の人を抱いて自分のものにする余裕はあったって事ですか!?」
「違う! そんな余裕は無かった。ロキシーは余裕のない俺を、自分の気持ちを捨てて助けてくれたんだ!」
「シルフィ姉さんだって、その場にいれば兄さんを助けたに決まってます!」

 そうだろうとも。
 シルフィは俺を助けてくれた。
 俺の不能を治したのはシルフィだ。

 しかし、ロキシーも助けてくれたのだ。
 俺が好きで、俺が好きな相手がいるとわかった上で。
 自分が使い捨てにされると覚悟して。

「ノルン、お前だってわかるだろ。
 部屋に閉じこもって、にっちもさっちもいかなくて、
 自分じゃどうしようもないと思った時の気持ちはさ。
 そこで助けてくれた相手を、どうして蔑ろにできるんだ」
「わかるけど!
 兄さんには感謝してますけど!
 それとこれとは関係ありません!
 二人も妻を娶るなんて、ミリス様はお許しになりません!」

 ああ。
 そうか。ノルンはミリス教徒だったか。
 いや、宗教は関係ないな。
 俺は間違ったことをやろうとしているのだろう。
 無理を通して、道理を引っ込めようとしている。

「大体、なんでこんな小さい子なんですか!
 私とそんな変わらないぐらいじゃないですか!」

 ノルンはロキシーをにらみつけた。
 ロキシーはいつもどおりの無表情で、ノルンを見る。
 若干ロキシーの方が背は高いが、10センチも差は無いだろう。
 ロキシーはその視線を受けて、無表情のまま、ぽつりと言った。

「……小さいかもしれませんが、これでも成人です」

 何をどう言えばいいのかわからない。
 ロキシーのそんな心のうちが覗けるような震えた声だった。

 しかしその言葉は、聞きようによっては減らず口にも聞こえただろう。
 ノルンは激昂した。

「成人なら、ずうずうしいとか思わないんですかっ!」
「……」
「ずかずかと入り込んできて、悪いと思わないんですか!」
「ノルン、言い過ぎだ。ロキシーを妻に迎えるって言い出したのは俺だ。ロキシーは悪くない。彼女は身を引こうとしてくれたんだ」

 そんなノルンに、俺は強い口調で反論する。
 しかし、ノルンは俺の方へは向かず、ロキシーを責め立てた。

「兄さんは黙っていてください! 大体、身を引こうとしたんなら、なんで最後までそうしようとしないんですか! 結局、兄さんの言葉に甘えただけでしょう!」

 俺はノルンを叩こうかと思った。
 しかし、そんな資格が俺に無いことは、言うまでもない。
 ここでノルンを叩けば、俺は本当の意味でダメになる気がした。

「……」

 ノルンの叫びに、ロキシーはしばらく沈黙していた。
 相変わらずの無表情で、うつむいて、床を見て。
 最後には顔を上げ、ノルンに対して頭を下げた。

「そうですね。ずうずうしいです。申し訳ありませんでした」

 ロキシーはそう言って立ち上がると、ノロノロと動いた。
 部屋の隅に置いた荷物を手に取り、帽子をかぶり、足早にその場を去ろうとする。
 俺はそれを止める事が出来ない。
 反対される事はわかっていた。
 簡単に受け入れてもらえるなんて甘く考えてはいないつもりだった。
 それでも説得すればなんとかなる、と俺は思っていた。

 だが、甘かった。
 今の状況。
 ロキシーに容赦なく浴びせられる言葉。
 彼女は針のむしろのように感じるだろう。

 これからの生活でそれが続くかもしれない。
 そう思えば、ここにはいたいとは思うまい。
 俺だって、いたたまれなくなって出て行こうとする。
 とめられない。
 引き止められない。
 ロキシーに嫌な思いをさせたまま、ここを立ち去らせるわけにはいかない。
 それを俺は望んでいない。
 彼女は報われなければいけない。
 こんな思いをさせるために、ここに連れてきたわけじゃない。
 彼女を幸せにするためにここにきたのだ。
 それとも、もしかして違うのか。
 俺は彼女を幸せにはできないのか?

 いや、考えろ。
 どうすればいい。
 どうすればノルンを説得できる。

 思いつかない。
 ロキシーが出て行ってしまう。
 せめて引き止めないと。
 そうだ、たとえノルンを殴って、彼女に嫌われたとしても。

「待って!」

 その声は、後ろから聞こえた。

「ロキシーさん、待ってください!」

 シルフィだった。
 彼女は立ち上がり、小走りでロキシーの所に行くと、その手を掴んだ。
 振り向いたロキシーの目には、大粒の涙が溜まっていた。

「なんで引き止めるんですか、シルフィ姉!
 行かせればいいじゃないですか!」
「ノルンちゃん、ちょっと黙っててくれないかな?」
「えっ?」
「キミ。さっきから言葉が過ぎるよ。ボクは最初から、一言も嫌だなんて言ってないんだからね」

 シルフィがそう言うと、ノルンは絶句して動きを止めた。

「座ってください」

 動かなくなったノルンを尻目に、シルフィは、ロキシーをソファへと座らせた。
 ロキシーは抵抗せず、言われるがままソファへと腰を下ろす。
シルフィもまた、そのすぐ横に座る。

「ちょっと混乱してたけど……ロキシーさんは、ルディを助けてくれたんだよね」

 そう聞かれ、ロキシーは恐る恐るといった感じで頷いた。

「……はい。でも、下心もありましたので、言い訳に使うつもりはありません」
「うん。ルディ、かっこいいもんね。下心なしでって言われても、逆に信じられないよ」
「……」
「ボクがロキシーさんの立場でも、やっぱり同じことをしちゃうと思う」

 シルフィは優しい顔で、ロキシーに笑いかけた。
 ロキシーはこわばった顔をしている。
 シルフィは笑いながら、話を続けた。

「……正直ね。ボクは時間の問題だと思ってたんだ」
「えっと、何がでしょうか」
「ルディが別の女の人を連れてくるの」

 時間の問題で、俺が別の女を連れてくる。
 ……ん?
 ……あれ?
 もしかして俺、信用されてなかった?

「ほら、ルディってエッチでしょ? だから、ボクとできないと、きっと誰かとしちゃうなって思ったんだ。ボクの時もそうだったけど、ルディは誠実だから、しちゃったら妻に迎えるって言うだろうしね。いつまでもボク一人でルディを独占できるとは、思って無かったよ」

 言いたいことはある。
 だが、実際そうなった。
 俺に何かを言う資格は無い。

「正直、連れてくるとしたらリニアか、プルセナか、ナナホシさんあたりかなって思ってたんだけどね」
「ナナホシさん以外は、聞いたことのない名前です」
「ルディの学校の友達だよ。みんな胸とか大きくて、セクシーなんだ」

 ナナホシは別にセクシーではないが。
 いや、今はそんな事はどうでもいいな。

「正直、旅の内容は過酷だったし、パウロさんが死んだこともあって、そういう事すっぽり忘れてたから、ちょっと面食らったけど……でも、納得したんだ」
「なにがですか?」
「ロキシーさんこの家に来てから、ずっと不安そうな顔でルディのこと見てたから、なんでだろうって、思ってたんだ。最初は、パウロさんが死んだことを伝えるのを不安に思っているのかもって思ったんだけど。あれは、この事だったんだって」
「……」
「ロキシーさんの目は、恋する乙女の目だったんだって」

 恋する乙女。
 そう言われて、ロキシーの顔が真っ赤に染まった。

「すいません、不快なものを見せてしまって……」

 ロキシーは赤い顔のまま、頭を下げた。
 妻から見て、夫に恋慕の目線を向ける女の存在は、目障りだろう。
 そんな風に考えたのがありありとわかった。
 しかし、シルフィは首を振った。

「不快じゃ、なかったよ」
「……しかし」
「なんていえばいいかな……」

 シルフィは少し考えるように首をかしげ、すぐにうんと頷いた。

「あのね、ロキシーさんのことはルディからいつも聞いてたんだ」
「なんと?」
「俺の尊敬する魔術師はあの人だけだって。転移事件が起こる前も、ボクと結婚したあとも、同じように言ってたんだ」
「……それはなんというか、恐縮です」
「だから、ちょっと嫉妬してるところもあったんだ。ルディってロキシーさんの話をする時って、すっごく憧れた目をしてるから」
「……」
「ロキシー・ミグルディアって人物は、ボクなんかが到底並び立てないぐらいの、すごい魔術師なんだって、勝手に思ってたんだ」
「……」
「でも、実際に見て、ルディが好きなだけの普通の女の子なんだって思ったら、嫉妬なんて消えちゃったんだ。だって、ボクと一緒だもん」

 シルフィはそういうと、ロキシーの帽子を取って、その頭を撫でた。
 ロキシーはシルフィを見たまま、されるがまま、頭を撫でられていく。
 そして、シルフィは、言った。

「ノルンちゃんはああ言ったけど、ボクは歓迎します」

 ロキシーの顔が驚愕に彩られた。
 俺の顎も驚愕で開かれている。
 まさか、シルフィがこんなにあっさりと許すとは、思いもよらなかったのだ。

「シルフィエット……さん」
「シルフィでいいよ。仲良くしよう。えっと、ロキシー……ちゃん?」
「その、一応今年で50歳になるので、ちゃん付けは……」
「あ、そうなんだ。ボクより年上……ごめん。そういえばそうだったね。ルディに聞いてたんだけど、実際に見るとね」
「わたし、小さいですからね」
「ボクだって大きくはないよ」

 ロキシーとシルフィは顔を見合わせると、二人で笑った。

「一緒に、ルディを支えていこう。ロキシー」
「ありがとうございます。シルフィ」

 二人はそう言って、握手をした。
 奇妙な連帯感が感じられる握手だった。

 それを見て、俺はほっと息を吐いた。
 大丈夫そうだ。
 そう思っての無意識の行動だった。
 しかし、そんな俺の動作を見て、ノルンが眉をひそめていた。

「……シルフィ姉さんがいいって言うなら、私ももう何も言いませんけど」

 ノルンはまだ納得していないようだった。
 口をへの字に曲げて、不満そうな顔で俺達をにらんでいる。
 彼女には、また軽蔑されてしまったかもしれない。
 しかし、そんな彼女を、シルフィはやんわりと宥めた。

「ノルンちゃん。ルディはミリス教じゃないんだから、許してあげて」
「でも」
「パウロさんだって奥さんが二人いたんだよ?」
「……確かに、そうですけど」
「ノルンちゃん。リーリャさんにも、そう言うの?」

 ノルンはハッとした顔で、自分の隣に座るアイシャを見た。
 アイシャはすまし顔で、ずっと黙っていた。

「あっ……ごめん。アイシャ」
「いいよ別に。ノルン姉がよく考えずにモノ言ってるの知ってるから」
「……なに、その言い方!」
「だってさ。さっきのだって、ノルン姉がいう事じゃないじゃん。シルフィ姉がどうとか言ってたけど、ノルン姉が自分の考えを押し付けただけじゃん」
「なっ!」

 ノルンが勢いよく立ち上がる。
 その拳が握られているのを見て、俺はアイシャを嗜めた。

「アイシャ。言いすぎだ」
「でも、お兄ちゃん」
「ノルンが言いたいことも、俺はわかるんだ。実際、シルフィがああいう事を言っても、おかしくない状況だったんだ。相手の気持ちを考えてないって意味では、俺も同罪だよ。ノルンを責めちゃいけない」
「まあ、お兄ちゃんがそういうなら……」
「……」

 ノルンは複雑な表情をしていた。
 何をどういっていいのかわからない。
 そんな顔だ。

 そして、いても立ってもいられなくなったのだろう。

「もう、寝ます」

 彼女は、足早に居間から出て行こうとする。
 しかし、ふと思い出したかのように、立ち止まって、俺を見た。
 そしてぽつりと言った。

「あの兄さん……」
「なんだ?」
「今度、剣術を教えてもらっても、いいですか?」

 一瞬、言われたことの意味がわからなかった。

 剣術。
 パウロの剣を使おうというのだろうか。

 生半可な護身だと、逆に身を滅ぼすような気がしないでもない。
 けど、ここはこんな世界だ。
 剣術は覚えておいた方がいいだろう。
 小さな力でも、無いよりマシなのだから。
 問題は、俺が教師として役に立つかどうかというところだ。

「俺でいいのか?」
「兄さんのしたこと、まだあんまり納得できてないけど、でも、兄さんの事、嫌いじゃないから」
「……おう」

 剣術を習うのに、半端にかじった程度の俺でいいのか、という意味だったのだが。
 しかし、嫌いじゃないからといわれたら断れないな。

「わかった。学校の放課後にでも、時間を作ろう」
「お願いします」

 ノルンはそういうと、自室へと上っていった。

「……」

 何にせよ、結果オーライか。
 結局、俺は何にも出来なかったな。
 シルフィの度量に助けられた。

「お兄ちゃんさ」

 と、そこでアイシャがぽつりと言った。

「今、すっごく情けないよ?」

 言い返す言葉も無く、俺は首肯した。


---


 その後、三人でこれからの事について、話し合った。

 夜に一緒に寝る順番だとか、甘えてもいい時間だとか。
 そういった赤裸々なことも含まれていたせいか、アイシャは退場した。

「じゃ、ロキシーさん、明日からよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそ」

 アイシャはブーたれながらも、ちょっと嬉しそうだった。
 なんでだろうか。

 まあいい。
 シルフィとロキシー。
 そして俺は三人で、これからの事について話し合う。
 パウロが死んだ後に何を言ってるんだといわれるかもしれない。
 しかし、こんなときだからこそ、明るい話題が欲しかった。

「基本的にルディはシルフィを正妻として扱ってください、わたしは暇なときにちょっと構ってくれるという形で構いません」
「ダメだよ。平等にいかないと」
「しかし」
「まだ増えるかもしれないんだから、堂々としよう?」

 まだ増える。
 そんな単語に、シルフィの俺の下半身への信頼の無さが伺える。

 しかし俺は、今度こそ誓おう。
 シルフィとロキシー、二人だけを愛すると。
 今度こそは。

「正直、しばらくはシルフィに申し訳がない気持ちが大きいので、子供が生まれるまでは、わたしはおとなしくさせていただきます」
「そっか……出産まではあと1ヶ月ちょっとって話だから、それまではボクがルディを独占するけど、いいの?」
「構いません。では正式に妻となるのは一ヵ月後、という事にしましょう」
「……」

 ここで、一ヶ月禁欲生活かと残念に思ってしまうから、俺はダメなんだろう。
 でも、一ヵ月後、シルフィが出産して、二人を好き放題抱けるようになると思えば、なんのそのだ。
 今から息子がアップを始めてしまう。

「……」
「……」

 と、妄想を逞しくしていると、二人の目線がこちらを向いていた。

「えっと、ルディ。どうしても我慢できないときは言ってね? なんとかするから」
「いや、自分でなんとかするよ」

 いくら俺でも、こんな状況でさらなる浮気をする事はない。
 このルーデウス・グレイラットに性欲的動揺によるミスは無いと思っていただこう。
 ロキシーに流れてしまったのは、あの状況に加えて、相手がロキシーだからだ。
 あれぐらい落ち込んでいてロキシークラスの女性が現れない限りは、問題ない。
 俺はもう浮気はしないぞ。
 絶対に、絶対にだ。

「あ、でも、ロキシーも妊娠してるんだっけ?
 それだったら、一ヵ月後になると、もう出来ないよね。
 どうしよっか」

 シルフィの言葉に、ロキシーは申し訳なさそうな顔をした。

「あの、先ほどのルディの発言でしたら、ルディの嘘だと思います。言い出すタイミングがつかめなかったのですが、わたしはまだ妊娠していません」
「……えっ?」

 してない。
 じゃあ、来ないとか言ってたのは。

「……ああ」

 エリナリーゼにハメられたのか。
 あいつめ。
 くそう。
 手のひらで転がされた気分だ。

「どうしました、ルディ」
「いや、あれは嘘じゃなくて、俺の勘違いでした」
「そうですか」

 ロキシーは頬をぽりぽりと掻くと、顔を赤くして、言った。

「でも、いずれはお願いします」
「あ、はい。こちらこそ」

 明るい家族計画、なんて言葉が思い浮かび、顔がニヤけてしまう。
 ああ、今から楽しみだなぁ。

「ルディって、エッチだよね」
「ああ。俺はエッチだよ、シルフィ」
「そんなエッチなルディに、わたしはどんなことをされてしまうのでしょうか」

 そんな話をしながら、俺達は笑った。

 こうして、俺に二人目の妻が出来た。


---


 その後、風呂から上がってきたリーリャたちに部屋を用意し、就寝となった。

 先ほどの規定どおり、夜はシルフィと一緒に寝る。
 俺はシルフィに腕枕をして、シルフィは俺を向いて横向きに寝ている。

 まだ寝ていない。
 俺と目線を絡ませて、お互いに無言でいる。

「さっきのことだけどね」

 先に口を開いたのはシルフィだった。

「ルディが大事な話があるって言って、ロキシーが隣にいた時。
 ボク、すっごく悲しい想像をしちゃったんだ」
「どんな?」
「ボクの事は愛せないから、出て行けって、そういわれるかもしれないなって」
「言わないよ。そんな事」

 どんなゲスだよ。

「うん。わかってる」

 シルフィがもぞもぞと動く。
 失った左手の先に感覚があった。
 シルフィが撫でているのだ。

「でも、やっぱり不安なんだ。なんか、ルディがボクの所からいなくなっちゃう気がしてさ」

 虫の知らせだろうか。
 だが、よくよく考えてみると、俺も今回、ヤバかった。
 ともすれば、死んでいてもおかしくなかったかもしれない。

「不安にさせちゃったか」
「うん」
「よしよし」

 俺は右手でシルフィの頭を撫でる。
 シルフィは目を細めて、それを受け入れた。
 見れば、知らない間に彼女の髪も結構長くなっている。
 白くてきれいな髪だ。
 そろそろ、ポニーテールぐらいには出来るかもしれない。

「髪、伸びたな」
「ルディ。長い髪が好きだって言ってたからね」
「俺のためか」
「うん」

 可愛いなぁ……。
 彼女、ずっと待っててくれたのに、俺ときたら……。

「ごめん。シルフィ。俺、裏切ったよな」
「いいよ。そんなルディも好きだから」
「でも俺、シルフィに逆の事やられたら、みっともなく泣き喚いて、よくも裏切ったなって罵倒する自信あるよ」
「んふふ……ボクはそんな事しないよ。ルディ以外の人なんて、見えてないもん」

 シルフィはそう言うと、顔を近づけて、俺の頬にチュっとキスをした。
 俺の胸の内に愛おしさが溢れてくる。
 俺は生涯、シルフィを愛そう。
 不安もあったろうに、わめきたいだろうに、俺のやることを文句もなく受け入れてくれたシルフィを。

「シルフィ」
「えへへ」

 俺もおかえしに、シルフィにキスをする。
 ぷにぷにと柔らかいシルフィの柔らかな頬に。

「……」

 いつもだったら、ここから本番へと突入する所だ。
 だが、今日はここまでだ。
 身重のシルフィに無理をさせるわけには行かないからな。

 と、その時、俺の下腹部にさわさわとした感触があった。

「ああ、だめだよシルフィ。今そんな所触られたら、我慢できなくなってしまう。妊婦プレイには興味あるけど……」
「あ、ダメだよルディ。お腹の子に障るから……」
「ん?」
「え?」

 ふと下の方を見てみると、
 シルフィの大きなお腹の横に、さらにこんもりと大きな山があった。
 毛布をめくってみる。
 すると、そこには、

「ジロー……」

 巨大なアルマジロが、ベッドの下から頭を潜り込ませていた。
 丁度、俺とシルフィの間に頭を潜り込ませるように。
 いつのまに入ってきたのだろうか。
 全然気づかなかったな。

「人のまたぐらに顔を突っ込むとは、エッチな奴だな」
「ルディみたいだね」
「いや、俺は……しょうがない。今日は一緒に寝てやろうか」
「うん、そうだね」

 俺は起き上がり、別の毛布を取り出してジローのために寝床を作ってやった。
 ジローをその上に寝そべらせると、ゆっくりと目を閉じる。
 見た目はアルマジロだが、大型犬みたいな感じだな。

 そのうち、こいつのための小屋も用意してやらなきゃいけないな。
 家で飼ってもいいんだろうけど、糞とかされるのも厄介だし。
 いや、そのへんも犬みたいに躾ければいけるんだろうか。
 ま、そこらはまた、家族で話し合うか。

「よし、寝るか」

 俺はシルフィの右側に潜り込みかけて、やめた。
 左側に入り、右手でシルフィの手を握る。
 シルフィは俺の右手をぎゅっと力強く握り返してきた。

「おやすみ、シルフィ」
「うん。おつかれさま、ルディ」

 そして、俺は泥のように眠ったのだった。
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