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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第11章 青少年期 妹編

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 間話「人形の研究と主従関係」

 ナナホシが困ったときに、ポンと解決案を出したザノバだが、
 実は少し前に、人形の秘密を一つ解き明かしていた。

 あれは、ナナホシが発狂する、一週間ほど前のことだったか。


---


「師匠、これを御覧ください」

 あの日。
 研究室に入ると、ザノバは嬉しそうに箱を持ってきた。
 普段のザノバより数倍は自慢気な表情だ。

「なんだそりゃ」
「例の人形の、腕です」

 ザノバは箱をテーブルに置いて、布に包まれた中身を取り出す。
 布を開くと、そこには言葉通り、人形に腕。
 ただし、羊羹のように輪切りにされていた。

「塗装の禿げた部分をよく見ると継ぎ目がありましたので、
 もしやと思って割ってみると、このようになっておりました」

 ザノバは輪切りにした腕の断面を見せた。
 QRコードのような文様が、ビッシリと書かれていた。
 魔法陣だ。
 ナナホシの書いているものとは全然違う。
 不思議な文様だ。

 それが、輪切りにした断面すべてに。
 裏にも表にも。
 文様は少しずつ違う。
 断面同士でも、同じではない。

「なるほどな……腕にまで魔法陣がビッシリか。接合面で少しずつ違うってのも面白いな」

 まるで肉の断面図のようだ。
 人体を輪切りでもしたかのような生々しさがある。

「しかし、継ぎ目があったなんて、気付かなかったな」
「上から塗装がされておりましたので。
 余でも、塗装が剥がれておらねば、わからなかったでしょう」
「そうか」

 ザノバは初めての大発見に、大層興奮しているようだ。
 俺は落ち着くとしよう。
 なんらかの特殊技術がなければ、動かないのはわかっていたからな。

「そうか、これだけ大量の魔法陣を書き込まなければ、あれだけ緻密な動きは出来ないのか」
「おや、師匠はこれがどういった魔法陣か分かるのですか?」
「いや、わからん」

 この魔法陣が、腕を動かすためだけのものなのか。
 それとも、腕のような場所にまで魔法陣を書かなければ、動きを制御できないのか。
 はたまた別の何かか。
 それは研究してみなければ分からない。

 ともあれ、こいつは夜中に家の中を徘徊して、掃除をして回る。
 敵を発見して撃破する。
 掃除が終わったら充電場所に帰って充電する。
 そんな機能を持っている。
 ル○バだってこんな高性能ではない。
 敵を駆除する機能があれば、それはもうホ○ホイさんだ。
 頭か胴体にちょちょっと魔法陣を書いて完成、というわけにはいかないだろう。

 俺はル○バを作りたいわけではない。
 作りたいのは動く人形だ。
 自分でも見てみたいし、
 もし作れれば、売れる。
 かなりの高値でいけるだろう。
 いや、別に大金が欲しいというわけでもない。
 人並みには欲しいが、俺のような奴が金を持っても無駄遣いするだけだ。

 スペルド族の名誉回復に人形を使うというのはまた別だが……。
 これは、夢だな。
 夢のメイドロボだ。

「恐らく頭か胴体に動きを制御する魔法陣があるはずだ。もしそこを『割る』時は慎重にやってくれ」
「はい師匠」

 ザノバは頷き、輪切りにした腕を布に包んで、箱に入れた。


---


 と、そんな感じの背景があったればこそ、ザノバは案を出せた。
 案を出したから、ナナホシの積層構造魔法陣も完成した。
 諦めかけた異世界召喚だって成功したのだ。
 きっと、メイドロボだってそのうち出来上がる。
 夢の実現は、そう遠くはない。

 となれば、俺もやる気が出てくる。
 今日も今日とて、足しげくザノバの研究室へと向かう。
 足取りも軽い。

「ザノバ、入るぞ」

 俺はノックを一つ、ザノバの研究室に入った。
 そこには一人の女が、門番のように立っていた。
 決して美女ではないが、しかし気遣いのできそうな女だ。

「おお、ジンジャーさん。お久しぶりです」

 彼女は俺を胡乱げな目で見ていたが、
 挨拶すると、すました顔で頭を下げた。

「これはルーデウス殿。お久しぶりです」

 元シーローン騎士、第三王子ザノバの親衛隊。
 ジンジャー・ヨークだった。
 懐かしいな。

「一度ご挨拶に伺おうと思っていたのですが、少々バタバタしておりまして」
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。妹を無償で護衛していただいたのに、お礼も言えず……」
「アイシャ殿には、無駄のない旅を提供していただきました。こちらがお礼を言いたいぐらいです」

 ジンジャーに通してもらい、研究室に入る。
 ザノバとジュリは、いつもどおり、それぞれの作業をしていた。
 ザノバは輪切りにした魔法陣を書き写し、ジュリはフィギュアを彫刻刀で削っている。
 とりあえず、ジュリの方が出来上がりそうだったので、見てやる。

「どうだ?」
「はい、もうすぐ、完成です、グランドマスタ。どうですか?」
「悪くないな。このザノバ人形。でもちょっとかっこよすぎないか」
「マスタ、かっこいいです」

 うむ。
 まだまだ荒削りだが、いい味は出ている。
 一応、細かい部分を少しだけ指摘してやるが、
 センスはあるのでこのまま伸ばしていくべきだろう。

 ザノバの方は、もう少し掛かるか。
 ふと見ると、ジンジャーが俺の方をじっと見ていた。

「……なんですか、ジンジャーさん」
「いえ、なんでもありません……その、随分と成長なされたようで」
「前にあった時から、4年ぐらいですか?
 そりゃ成長もしますよ」

 最近、色んな人にカッコイイと言われてる気がする。
 男の色気ってやつが出てきたのかもしれん。
 シルフィと結婚しなければ、今頃ハーレムだったのだろうか。
 いや、ハーレム状態はそれはそれで大変そうだ。
 気軽に子作り目的でベッドインなんて出来そうもない。

「そういえば、ジンジャーさんはこれからどうするんですか?」
「ザノバ様のお傍にいさせていただく所存です」
「護衛に戻るって事ですか」
「はい。任務は完遂いたしましたので」

 リーリャとアイシャを無事に護衛するという任務。
 数年にも渡るその任務を、忠実に守っていたらしい。
 見上げた忠節だ。
 ザノバは彼女にもっと報いるべきだろう。
 御恩と奉公だ。

「ザノバ、彼女に何か、報奨を与えた方がいいんじゃないか?」
「いえ、ルーデウス殿、自分は……」
「ふむ。そうですな。ジンジャー。何か欲しいものはあるか?」

 ザノバは大仰に聞いた。
 ジンジャーはきょとんとしていた。
 きっと、今までザノバに何かを返してもらった事はなかったのだろう。
 少し考えた上、ジンジャーは片膝をついて、頭を垂れた。
 そして、言った。

「でしたら、ジュリの教育の許可をください。
 ルーデウス殿の弟子のようですが、ザノバ様に仕えるには少々無作法過ぎますので」
「うむ、許可する」
「ハッ! ありがたき幸せ!」

 教育の許可って。
 なんか思っていたのと違う。
 結局、ザノバのためじゃないか。

 いや、もしかすると奴隷には高度な教育は受けさせない、とかあるのかもしれない。
 人間は知恵の実を食べたせいでエデンの園から追放された。
 知恵が付くまでは、自分がハッパ隊の一員だという事に何の疑問も持っていなかった。
 支配者にとって、下にいる者はアホであればあるほどいい。
 だから教育を受けさせない。
 反乱の危険性が減るからな。
 その代わり、発展の可能性も減るが。

 まあ、いいか。
 土地とかを要求されても困るだろうし。
 多くを望まない忠義の間柄というのは嫌いじゃない。

「さて、研究を進めよう。どこまで進んだ?」
「次は足に取り掛かろうかと」
「思ったんだが、足は腕の魔法陣を研究しきってからの方がいいんじゃないか?
 輪切りにしたら戻せないだろう?」
「うーむ、そうですな」
「クリフ先輩かナナホシあたりに見せれば、何かわかるかもしれない」

 俺とザノバは、あれこれといいつつ、二本目の腕の解体に取り掛かろうとした。
 と、そこでふと、ジンジャーが俺の横に立った。
 見ると、何か言いたげな表情だ。

「なんですか?」
「ルーデウス殿……その、ザノバ様は曲りなりにもシーローン王家の方。
 いかに師弟の間柄であっても、そのような口のきき方をするのは、失礼では?」
「うん?」

 失礼。
 そういえば、今日はザノバに対してずっとタメ語だったな。
 普段はある程度敬語で話そうと思っていたのだが、
 先日アイシャに言われた事もあり、少し気が緩んでいたのかもしれない。

 家臣としては、自分の主人がぞんざいな口を聞かれていたら、いらいらするだろう。
 仕方ない、ジンジャーの前では敬語を使うか。

「そうですね、失礼しました。ザノバ様のご好意に甘えて、つい粗相を……」

 と、言いかけた時。
 ザノバが動いた。

「ジンジャァァァ!」

 ザノバがジンジャーの首を掴んだ。
 そのまま持ち上げ、壁端へと押し付ける。
 ダンと大きな音がした。
 ジュリがビクっとして手を止める。

「貴様! せっかく師匠が余に心を開いてくださっているというのに!
 なんということを言うのだ! 訂正しろ! 師匠に謝れぇ!」
「ぐっ……うっぐっぅ……!」

 ジンジャーが苦しそう。
 って。
 おい、マジで締まってないか。
 やりすぎだろ!

「ザノバ! ザノバ! 手を離せ!」

 俺が叫ぶと、ザノバはパッと手を離した。
 ジンジャーの首には、ザノバの手形がはっきりとついている。
 彼女は首を抑えようとして、「うっ」と顔をしかめた。
 手が上がらないようだ。壁にたたきつけられた時に、肩の骨でも折ったか。

 俺は即座に治癒魔術を詠唱し、傷を癒した。
 ジンジャーはその場で跪いて、俺に頭を垂れた。

「ごほっ……ごほっ……ルーデウス殿、申し訳ありませんでした」

 彼女は、俺に、謝った。
 首を締められて、なお。

「……」

 いたたまれない気持ちになる。
 俺に謝るのは、違うんじゃないのか?
 責められるべきはジンジャーではないだろう。
 ザノバに向き直る。

「ザノバ! お前は馬鹿か!」
「は……? し、しかし師匠、この者は余と師匠の仲を知らずに勝手な事を」
「そういうのは口で言えばいいんだよ!」

 長いこと仕えてきたジンジャー。
 4年間も違う土地で、俺の家族を守ってくれたジンジャー。
 この数年で辛いこともあったろうに、わざわざこうしてザノバの所まで戻ってきた。
 それを、たった一言、失言しただけで、喉を潰され、肩を砕かれるとは。
 さすがに酷い。

 俺と仲良くなったことを大事に思ってくれている。
 それは俺も嬉しい。
 だが、この忠犬のような女をないがしろにしていいわけではないだろう。

「いえ、ルーデウス殿、良いのです。
 しばらく見ないうちに、ザノバ様がご成長なされていたようで。
 自分としては、何の不満もありません」

 ジンジャーはすまし顔でそう言った。
 ……あれ?
 俺が間違ってる?

 彼女はもうちょっと報われてもいいと思うんだが。
 俺がそれを言うのも野暮なのか?

「……ザノバ」
「はい、師匠」
「俺はお前のことは、いい友人だと思ってる」

 そう言うと、ザノバの顔がパァっと輝いた。

「けどな、ジンジャーさんは俺の家族を護衛してくれた。
 前に別れてから、四年ぐらいになるか? その間ずっとだ。
 恩人と言ってもいい。あまり蔑ろにしないであげてくれ」
「わかりました師匠。ジンジャー。すまなかった」

 ザノバは神妙な顔になり、頷いてくれた。
 しかし、ジンジャーは言ったのだ。

「いえ、ザノバ様。そのようなお言葉は不要です。自分はザノバ様に忠誠を誓った身の上、たとえ死しても不平不満は申しませぬ。差し出がましい口を挟み、真に申し訳ありませんでした」

 ジンジャーの畏まった態度に、俺はもう、何も言えなかった。
 これも主従関係か。

 ザノバが間違った時に、きちんと忠言してあげられるんだろうか。
 いや、まぁいいか。
 俺が気にすることじゃないしな。
 シーローンの上下関係の常識を知らない俺が口を挟んでも泥沼になるだけだ。


---


 ザノバとジンジャーの関係はさておき。
 自動人形の研究は順調である。

「さて、腕を先にと言ったが、お前の判断で進めてくれ」
「いえ、ここは師匠の案で行きましょう。バラしてから組み立てるより、同じ腕を作った方が安全でしょうからな」

 こうして、腕から先に解析していく事となった。
 クリフやナナホシに手伝ってもらう形にするか。
 それともザノバが一人で進めるかは、彼に一任する。

 色々と手出ししてみたりはしたいが、
 一人できちんと進んでいける、俺が手出しすることもあるまい。

「任せておいてください、どうやら余はこちら方面の才能があるようですので」
「そうなのか?」
「はい、自分でも驚きですが、最近は毎日が充実しております」

 一日中好きな研究をして。
 隣では専属のフィギュア師が人形を作ってくれる。
 こいつにとっては最高の毎日か。

 にしても、卒業したあとどうすんだろうな。
 ここに住み着くんだろうか。
 まあ、それも俺の決めることじゃないか。

 ザノバがここにいる理由の一端が俺にあったとしてもだ。

「まぁ、頑張ってくれ、また見に来る」
「心より、お待ちしております」
「ジンジャーさんには優しくな」
「無論です」

 そんなやり取りをして、俺は研究所をあとにした。


---


 こうして、人形の研究は進んでいく。
+注意+
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