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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第10章 青少年期 新婚編

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第九十五話「披露宴・準備」

 家のリフォームが完了して一週間。
 シルフィはアリエルに七日間の休みをもらった。
 シルフィは円満な結婚生活を送れるようにと、アリエルが考慮してくれたらしい。
 俺はそれに甘え、七日七晩、シルフィに甘え、シルフィに甘えられ、どろどろの甘い夜を送る……。

 というわけにはいかない。
 俺も一国一城の主となったわけで、やらなければならない事がある。

 この世界では、結婚して家を手に入れたら、親しい人を招待して食事を振る舞うのが常識だそうだ。
 どこの国の常識かは知らないが、少なくともシーローンとミリスには、そうした風習がある。
 ただ家を買っただけならやらなくていいらしいが、
 結婚して家を、となると、宴会を開かなければいけないらしい。
 いわゆる、披露宴だな。

「というわけで、知り合いを呼んでパーティを開く」
「はい」

 リビングのソファで向い合って座り、シルフィと額を突き合わせる。
 俺たちの見下ろす先には、パーティの招待状を送る名簿がある。
 それと、席順を決めるべく用意した紙。

「しかしながら、我々の知り合いは多岐に渡る」

 俺の方は、
 エリナリーゼ、ザノバ、ジュリ、クリフ、リニア、プルセナ、バーディガーディを呼ぶ。
 あとはジーナスとゾルダートをどうするかって所だ。

 シルフィの方は、
 アリエル、ルーク、その他二名。

 全部で約11人プラスマイナス。
 出来れば、パウロとかも呼びたかったんだが、いないものはしょうがない。
 結婚したという手紙は出しておいたが、さて、届くのはいつになるのやら。

「王族、獣族、魔族、奴隷、冒険者……中には口の悪い奴もいて、問題が起こる事が想定されている」

 リニア、プルセナはアリエルに対してまだわだかまりがあるようで、
 顔を付きあわせれば、険悪な状況になる事が予想される。
 これが前世の結婚式なら、席を離して顔を合わせないようにもできるのだが、
 いくら大部屋が広いとはいえ、所詮は民家。
 ダンスができるほどの広さというわけでもない。

「そうかな、アリエル様はそういう場では問題起こさない人だけど……」
「とはいえ、我が家での会食で気分を悪くして帰ってもらいたくはない。
 いっそ、二回に分けるか……問題児を隔離して……」
「うーん。けど、ルディの知り合いって将来的に要職につきそうな人も多いから、アリエル様、かなり張り切ってるんだよね」

 俺の脳裏に、気合を入れて化粧をしているアリエルの姿が浮かんだ。
 結婚式の披露宴には普段外に出てこないイケメンが多いからチャンス!、とか言っている。
 いや、そうじゃないのはわかっているんだが。

 要するに、特別生とのパイプを作りたいのだろう。
 アリエルも打算的だ。

「じゃあ、アリエル様の方は自己責任できてもらうとして。
 問題は席順か」

 適当に座ってもらう、というわけにも行かない気がする。
 とはいえ、偉い順といっても難しいな。
 どういう順番にすれば失礼に当たらないのか。
 とりあえずバーディガーディは現役魔王なので一番偉いのだろうが、
 しかし、その下には、アリエル、ザノバ、リニア、プルセナ。
 王族か王族に相当する奴らがひしめいている。

 クリフもあんまり席順を下の方にすると文句を言いそうだが……。
 いや、奴もあれでいて教育は受けている。
 案外大丈夫かもしれない。
 それに、エリナリーゼと隣合わせにすれば問題ないだろう。

 ジュリは身分的には奴隷なので席順は末席となるが、ザノバと引き離すのは可哀想だ。
 まだ言葉もうまく喋れない子供だしな。
 俺の直弟子という事で、なんとかならんだろうか。

「アリエル様の従者の方は身分的にはどうなんだ?」
「えっと、中級貴族だよ」

 シルフィの話では女性らしいが、彼女らをどこに配置するかも難しい。
 ルークもそうだが、アリエルとそう大きく離さない方がいいだろう。
 まさか俺の知り合いにそんな奴はいないと思うが、アリエルが暗殺されたら大変だしな。

「あれ? 誰か忘れてない?」

 シルフィが名簿を見ていて、ふとそんな事を言い出した。
 言われ、俺も名簿を見る。
 忘れている人。
 誰だろうか。
 誰も忘れていないと思うが。
 ゴリアーデさんか?

「あ、そうだわかった!
 ナナホシさんだよ!
 彼女も呼ばないと!」

 言われて、俺は名簿を見下ろした。
 確かに、そこにサイレント・セブンスターの名前は無い。
 おお、ナチュラルに忘れていた。
 とはいえ、

「あいつは……参加すんのかね」
「きっと来るよ」
「とりあえず呼んでおくか」

 仲間はずれにするつもりはないんだが、
 この世界での事は完全にシャットアウトしたいみたいだし。
 いや、それと誘わないのは別か。
 名簿に名前を追記しておこう。

「こうやって用意するだけして誰もこなかったら、どうしような……」

 思い浮かぶのは、生前に見た某アニメのクリスマス。
 張り切ってどでかいケーキを用意したものの、誰も来なくて大暴れした。
 そんな切なくなる映像。

「少なくともアリエル様とザノバ君が絶対来るよ」

 俺の不安は、シルフィが一言で切って捨てた。
 アリエルご一行の四人と、ザノバとジュリの弟子二人。
 この六人は確かに来るだろう。
 ザノバは例え呼ばれていなくても、当日に門の前で五体投地して祝わせてくれと言いそうだ。

「アリエル様は、ルディとは親交を深めておきたいって思ってるしね。
 ザノバ君はもし来なかったら、ルディの信頼が崩れるって事ぐらいわかってるだろうし……。
 ルディってそういうの、結構気にするもんね」

 ききき、気にしねえし。
 細けぇことはいいんだよ系男子だし。

「リニアとプルセナも来るんじゃないかな。獣族って、格上からの誘いには絶対に断らないし」
「そうなのか?」
「うん、もし来なかったら、もう一度二人に思い知らせてやればいいよ」

 それでも理不尽と思わないのが獣族。
 だそうだ。
 思い返せば、大森林でギュエスに土下座されたのも、
 獣族側からすれば、ルイジェルドが大暴れしてもおかしくない状況だったから、なのかもしれない。
 エリスに蹴られても何も言い返さなかったもんな。
 逆に、俺はあっさり許したから、その後もナメられた、と。
 気づかぬうちに格下扱いされていたってわけか。
 まあ、実際はどうかわからんが。

「まあ、クリフも呼べって言ってたから来るか」
「ボクとしては、エリナリーゼさんは来てほしいかな……」

 と、シルフィはぽつりと言った。
 エリナリーゼ。
 何かあるんだろうか。
 あまり二人が喋る所は見たことないが。

「ちょっと聞きたい事があるんだ。大したことじゃないんだけどね」

 なんだろう。
 もしかして、俺と性的な関係があったか、とか聞きたいんだろうか。
 少なくともエリナリーゼとの間には、探られて痛い腹はないが。


---


 ある程度方向性はまとまった。

 さて、10人以上も客が来るとなれば、相応の食材が必要である。
 そのため、まずは買い出しを行う。
 シルフィと二人、並んで商業区へと赴く。

「その前に、ルディの服を買おうと思うんだけど」

 シルフィの提案。
 服、と言われて、俺は自分の服装を見下ろす。
 いつもどおりの鼠色のローブ姿である。
 昼間なら防寒具は必要ない。

「えっとね、ボクはルディのローブ姿好きだけど、
 やっぱり、そういう擦り切れたローブを着てると、見る人が見るとね、その、ね?
 あ、それとも、そのローブ、気に入ってる?」

 俺はあまり服装に気を使わないし、
 冒険者の中にはもっと酷い格好をした奴もいた。
 ゆえに気にならなかったが……。
 あまりボロい格好をしていると、シルフィの品位が疑われるな。
 俺一人ならまだしも、シルフィに恥をかかせるわけにもいくまい。

「そうだな。魔大陸で初めて買ったローブで、愛着はあるけど、少々みすぼらしかったな」

 あと俺が持っている衣類といえば、毛皮のベストぐらいだ。
 魔術師には見えないというので、しばらく着てないが。
 あれもシルフィの横に立つには、ちょっと品位不足だ。
 山賊にしか見えないからな。

「では服屋に行くか。シルフィ好みにコーディネートしてくれ」
「うん、まかせて」


 赴いたのは、高級そうなお店だった。
 俺一人なら決して近寄らない所だ。
 こんなローブで来る所じゃない。
 シルフィもサングラスをつけて、『フィッツ』になっている。

「これはこれは、いつもお世話になっております」

 シルフィはこちらをよくご利用なすっているようで、店主が深々と頭を下げてきた。
 という事は、つまりフィッツ先輩に変装したアリエル王女も利用しているという事だ。
 アスラ王家御用達。
 お金足りるのかしら。
 怖いわ。

「魔術師用のローブを見せていただけますか?」
「はい。こちらでございます」

 こういった高級な店でも、魔術師用のローブで通じるらしい。
 そりゃそうか。
 魔術師ぐらいどこにでもいる。
 ましてここは魔法都市シャリーア。
 貴族のガキも魔術師になる都市だ。

 と、案内された先には、それはもう高そうな生地で作られたきらびやかなる衣類の数々が……。
 というほどでもなかった。
 ローブなんてどこの店でもそう変わらないらしい。
 細かい刺繍なんかが入ってはいるが。

「失礼ですが、お客様の得意系統をお聞きしてもよろしいですか?」
「あ、はい。一応、水と土になりますかね」
「でしたら、こちらなどはいかがでしょうか。
 大森林のレインフォースリザードの革で作られたものです。
 水に対して極めて高い耐性を持っています
 デザインはフォグレン。ラノア王室の魔術師団のデザインを担当された方になります」

 いきなり爬虫類系のコート……もといローブを勧められた。
 レインフォースリザードは別に水に対して高い耐性はもってないはずだ。
 簡単に凍ったしな。

「土でしたら、こちらもいいでしょう。
 ベガリット大陸の大蚯蚓(ビッグワーム)の革で、砂嵐の中にあっても傷ひとつつきません。
 デザインは新進気鋭のフローネ。
 フローネは独創性の高い色合いが特徴的で、こんな見た目ですが、魔物に見つかりにくく、実用性が高い」

 そう言って、デザート迷彩柄のローブを見せられた。
 高級店ではデザイナーの名前も言うのが基本なのだろうか。

 迷彩柄は嫌いじゃない。
 が、何か違うな。
 これなら、同じ感じのでも冬季迷彩の方がいいな。

「シル……フィッツ先輩は、どんなのがいいと思う?」
「そうだね……こっちのなんかいいんじゃないかな。ルディの今着てるのに近い感じで」

 と、彼女が手にしたのは、現在着ているものより黒に近い灰色のローブだった。
 こういう色、なんて言うんだっけな、チャコールグレイ?

 俺が現在着ているものよりパーツが多い。
 ポケットもあるし、袖をしぼるための黒いボタンもついている。
 ベルト代わりの紐もセットらしい。

「そちらは魔大陸、ラッキーラットの皮より作られたものでございます。
 デザインはカズラ。
 落ち着いたデザインが特徴で、やや年配の方に好まれております」
「○ッキーマウス?」
「ラッキーラットでございますお客様。
 マッキーラットの上位種で、D級に相当する魔物にございます。
 衣類の生地としても、上位に当たり、毒や酸に対する強い耐性がございます」

 俺の脳裏には、赤い半ズボンをはいた黒いアイツが浮かんでいた。
 ぶんぶんと振り払う。
 深夜に来客がきてしまう。

 ちなみに、魔大陸を旅している時に見たことがあるが、マッキーラットは50センチぐらいあるでかいネズミである。
 上位種なら、ラッキーラットは一回り大きいだろう。
 依頼で初めて奴らを見た時、ぞっとしたものだ。
 なにせ、そんなデカイネズミが、倉庫にひしめいていたのだから。
 ラッキーラットもその中に1匹いた。
 ドン引きした俺を尻目にエリスとルイジェルドが蹴散らしたっけ……。

「名は体を表すって言うし、これにするかな」

 思い出はともかく、ローブの方は気に入った。
 うちの嫁はセンスがいい。
 しかしさて、気になるお値段は。
 と、値札をみてみると、はい。衣類の値段じゃないの来ました。
 いやー、さすがお高い。雑魚とはいえ、魔大陸の素材はお高い。
 魔大陸なら家が立ちますね。

「名は体を……? お客様、失礼ですがお名前を伺っても?」
「あ、はい。ルーデウス・グレイラットと申します」
「なんと、グレイラット家のお方でしたか。これは失礼を致しました。
 ルーク様には大変ごひいきにさせていただいておりますので、今回もお安くさせて頂きます」

 それはあれか、ルークによろしくって事か?
 いや違うな。次もまたよろしくって事か。
 何にせよ、安くなるのはいいことだ。

「ルークはよく来るの?」
「フィッツ様もご存知でしょう?」
「あ、うん。ええと、ボクと来る時以外で」
「はい、いつも違う女性の方とおいでになりますよ」

 シルフィが店主と話をしている間に、俺は店員に連れられ、採寸へ。
 店頭においてあるのはあくまで見本であり、サイズを測って仕立てるそうだ。
 俺は女の店員に巻尺でサイズを測られた。
 この巻尺、道具屋で売ってるんだろうか。
 シルフィのスリーサイズを実地で測るプレイをしたい。

「材料はありますので、三日ほどで出来上がります。ご住所を知らせていただければ、お届けにあがりますが?」

 というので、俺たちは嬉し恥ずかし、新居の住所を教えたのであった。


 その後、食料品を買い込む。
 まず香辛料を購入。
 それから、保存の効くものを買っていく。
 ナナホシが開拓したという流通ルートのおかげで、食用油も安く手に入るので、購入しておく。
 日持ちのする野菜類や、冷凍した魚。
 肉は注文しておいて、前日に取りに来る事にした。

「シルフィは料理は出来るのか?」
「うん。お母さんと、リーリャさんに習ったからバッチリだよ。
 あ、でもルディの口に合うかなぁ」
「消し炭でもうまいといって見せるさ」
「消し炭って……もう、誰のために頑張って覚えたと思ってるのさ」

 服のセンスがよくて、料理もバッチリとは。
 そういえば、洗濯も掃除も出来ると言っていたな。
 見た目と違って、案外女子力が高いのか、うちの嫁は。

「シルフィエットさんが理想の嫁すぎて、わたくし、釣り合いがとれているか不安でなりません」
「ルディはその、ボクの理想のお婿さんだよ?」
「も、もし理想と違う所があったら言ってくだせぇ。努力して理想に近づきやすんで」
「じゃあ、もっと自信を持って、堂々と振舞ってよ。ちょっとルディって卑屈すぎる所あるからさ」

 堂々と、だと。
 そんな事をして通りすがりの神様のご機嫌を損ねたらどうするんだ。
 この世の中には、相手が気に入らないといきなりぶん殴って殺そうとしてくる奴もいるんだぞ。
 ……いや、しかし自分の夫が自信もなく、背中を丸めてリビングで小さくなって新聞を読むような奴ならどうだろう。
 嫌だろうな。
 よし、もっと自信を持っていくか。
 今日から俺は俺様系だ。

「ふん。シルフィ。俺様を愛する努力を怠るんじゃないぞ」
「えっと、なんかちょっと違うけど……うん、でもそうだね、頑張ります」

 シルフィはそう言って、ぐっと拳を握りしめた。
 やーん、シルフィたん可愛いよぉ。ちゅっちゅしたいよぉ。
 しかし我慢じゃ。
 シルフィは天下の往来でのバカップルは好まぬ。
 ここで触ったり舐めたり揉んだりしたら、確実にお叱りをうける。
 一度や二度ならお叱りで許されるが、
 しかし、何度も繰り返せば、その小さな苛立ちは蓄積され、嫌われる原因となる。
 ここは我慢じゃ。
 でも、肩を抱くぐらいはいいよね?
 いや、まずは手ぐらいにしておくか。

 と、思ったが、現在俺の両手は買い物の袋で一杯なのである。
 ぐぬぬ。

「大皿とかも買っておかないとね。
 あ、でも、それはルディが作ればいいのか」
「石の皿でも、大丈夫なのか?」
「ルディの作るお皿なら、石には見えないから大丈夫だよ」

 見た目の問題か。
 まあ、見た目が良ければいいというのなら、鏡のようにツルツルに磨き上げたものを作ろう。
 日本の焼き物っぽい感じの皿は不評みたいだからな。
 陶磁器もかくやという程に気合を入れて作るか。
 どうしても色は灰色か茶色系になるがね。

「他に何が必要かな」
「ええと、おもてなし用のお茶かな」

 紅茶とティーカップか。
 よしよし。
 ついでに、じゅうたんなんかも買っておくべきだろうか。
 一応、来客用に客間とかも作っておいた方がいいんだろうか。

「客間用に、ベッドやクローゼットもいくつか買っておくか」
「あ、そうだね」

 家が広い分、用意するものが多いなぁ。
 金がどんどんなくなっていく。
 いやほんと、魔道具とか買って無駄遣いしなくてよかった。

 家も安く買えたのでまだ金には余裕がある。
 しかし、事あるごとに消費していれば、いずれなくなるだろう。

 ちょっと魔物でも狩りにいけば金ぐらい稼げるが……。
 いやいや、そんな軽い気持ちで討伐依頼に出て、死んだらどうする。
 ……なんか騎士に戻って定期収入を得たパウロの気持ちが少しわかった気がする。

「えっと、ルディ、安心して、ボクもアリエル様から頂いたお給金はちゃんと取ってあるから」
「うぅ、ごめんよ、不甲斐なくて……」

 いざとなったらゾルダートあたりのパーティに入れてもらうか……。
 いや冒険者は何日も家を空けることになる割に収入は別に多くないんだよなぁ。
 俺も、仕事を探さなきゃいけないんだろうか。

 結婚って難しいなぁ。


---


 その晩。
 俺はシルフィを風呂へと(いざな)った。
 表向きはシルフィに風呂の入り方をレクチャーするため。
 裏向きはシルフィを思う様に揉み洗いするためである。
 その真意はシルフィとお風呂でイチャつきたいのである。
 ナレーション風に言えば、今、一人の可憐な少女が変態の毒牙に掛かろうとしている、といった所だ。
 今夜はやるぜ、俺はやるぜ。
 見ててくれよオヤジ。
 オヤジっても、パウロか。見なくてよろしい。

「さて、我が家の風呂のルールは、少々アスラ王家とは作法が異なる」

 まずは洗濯場兼脱衣所へ。
 そこで、脱いだ衣類は籠の中にいれる事をレクチャーする。
 俺自ら、シルフィの衣類を脱がし、それを畳んで籠へと投下。

 シルフィの体は細く、脂肪も少なくて全体的に小柄だ。
 かといって、貧相な感じがしない。
 というのは、細くても筋肉があるからだろう。
 腰のあたりはしっかりとくびれがあり、細くて小さいながらも、女らしいラインを描いている。
 胸は無いのだが、それがゆえに男と女の体の違いというものがよく分かる体である。
 見ているだけで、鼻息が荒くなってしまう。

「あの、えっと、ルディがボクを脱がす必要はあるのかな?」
「必要はない」
「どうして鼻息が荒いのかな?」
「興奮しているからだ」
「お、お風呂に入るのに興奮する必要はあるのかな?」
「必要はない」

 シルフィの質問に的確に答えつつ、自分もテキパキと脱いで風呂場に入る。
 シャワーも鏡も無いが、桶とイスはおいてある。
 桶には、遊び心でケ□リンという文字を入れておいた。

「湯船に入る前に、肩からお湯を浴び、このイスに座り、布と石鹸を使って体を洗うんだ」
「ねぇルディ、このイス、なんで真ん中に溝があるの?」
「もちろん体を洗いやすいようにだ」

 そう言いつつ、俺は布をお湯で濡らすと、石鹸で泡だて、シルフィの体を洗う。
 耳の後ろや、鎖骨のくぼみ、背中、汚れやすい所を重点的に洗ってやる。
 しかし、時には手による洗浄も必要である。
 柔らかい場所や、布でこすっては行けない場所は手で洗うのだ。
 このための溝である。

「あの、ルディ、なんか、さっきから布使ってないんだけど、あとエッチな所ばっかりなのと、あと当たってるんだけど……」
「おっと失礼」

 気持ちが先走りすぎてしまった。
 いかんいかん。
 我が家の風呂にこんな作法は無いのだ。

「る、ルディ、我慢出来ないんだったら……その……いいよ?」
「それは風呂が終わってからだ」

 今は風呂が優先である。
 体を洗うのだ。
 洗うのだ。

「体の隅々まで洗い終わったら、次は頭だ。目をつぶってくれ」
「う、うん」

 シルフィはギュっと目をつぶった。可愛い。
 俺はキスをして押し倒したくなるが、思いとどまる。
 一瞬の油断が命取りである。
 ふぅ、まったく洗浄は地獄だぜ。

「頭をお湯で濡らした後、石鹸をつけて泡立てるんだ。
 髪というより、毛の生えている頭を洗う、という感じで。
 頭を洗うのはたまにでいいだろう。石鹸で洗うと髪が痛むからな」

 と、シルフィの頭を洗いつつ、レクチャーする。
 彼女の髪は短く、洗いやすい。

「終わったら、お湯でしっかり流してくれ」

 俺は魔術でお湯を作り、シルフィの髪に流した。
 すると、シルフィはくすくすと笑い出した。

「なんか、初めて会った時の事を思い出しちゃった」

 そういえば、あの時もお湯で流してやったな。
 いや、懐かしい。
 あの時の少年が、嫁になるとは。
 人生は思いもよらない。
 いや、少女だとわかって一年ぐらいで俺のモノにしようと心に決めたのだったか。
 なら、願いが叶ったという所だろうか。

「さて、体を洗い終わったら、次は湯船だ。足元が滑りやすいから、注意してくれ」

 シルフィは俺に言われるがまま、湯船にとぷんと体を沈ませた。
 混浴を長いこと楽しむため、ぬるめにしてあるが……。

「あ、なんか手足がじんわりする。気持ちいい……」

 丁度いいようだ。
 よしよし。
 それを見届けてから、俺も体を洗う。
 本当なら、シルフィの体をタオル代わりにして、と言いたい所だが、
 今日の所は我慢だ。
 全てを一度にやる必要はない。

 というか、そんな事をされたら、間違いなく我慢できなくなる。
 なるべく優しくしてやるのだ。
 一度目は媚薬を使った野獣プレイは記憶にある。
 あんなレイプまがいの行いはしてはならん。

「……」

 ふと気づくと、シルフィがじっと見ていた。
 洗い方を外から見ているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
 自分にないものが気になるようだ。
 好奇心だろう。

「ふぅ」

 洗い終えて、湯船に浸かる。
 布を頭にのっけることを忘れずに。
 湯に浸かると、冷えた手足に血が通う感覚が広がる。
 風呂はいい。文化の極みだ。

「ちなみに、体を洗った布は湯船に入れてはいけない」
「どうして?」
「お湯が汚れるからだ」

 家庭で使う分には問題ないし、この世界には公衆浴場なんて無いので、守る必要は無いが。
 まあ、一応だな。
 なんて考えていると、シルフィがそっと寄り添ってきた。
 俺の手を握り、濡れた頭を肩に載せてくる。

「これ、いつまで入ってればいいの?」
「骨の髄まで温まったな、と思えるぐらいまで……」

 俺も彼女の肩に手を回し、抱き寄せる。
 するとシルフィは体を回転させ、俺の上に乗るように、体を移動させた。
 そのまま、向かい合わせで密着する。
 シルフィのさくらんぼが俺の胸に当たっている。
 いかん、我慢できなくなりそうだ。

 男は我慢だ。
 で、女は愛だ。
 後ろに汁とか液とかつけちゃいけないぜ。

「んふふ、なんか楽しいね」

 シルフィを見下ろす、細い背中に小さなおしり、すらりとした足がパチャパチャと水面を蹴っていた。
 俺の胸やら肩やらには、さわさわした感覚。
 シルフィは俺の首筋の辺りに埋まるように抱きついている。
 そんな体勢で、俺をなでさすっているのだ。
 ふふ、思う様に撫でるといい。
 そのための筋肉だ。

 それにしても。
 その昔、シルフィを見て、こいつは将来美男子になる、と思ったものだが、
 可憐な美少女に育ったシルフィは、俺の想像を凌駕している。
 何か嫁補正的なモノがかかっているのかもしれないが。

 そんな美少女が全裸で俺に抱きついているという状況。
 このままだと排水口をつまらせるような結果に繋がってしまいそうだ。

 俺も手を伸ばし、シルフィの背中をさわさわする。
 そのまま、脇とか横腹あたりもさわさわ。
 うーん、細い。

「ルディ、くすぐったいよ」

 シルフィはそう言って、身を捩る。
 先ほどから俺の欲望の象徴が押し付けられているわけだが、特に文句は言われない。

 シルフィは往来で触ると怒るが、
 こういう場面で触ると身を差し出すように力を抜く。
 なすがままだ。

 そして、俺の目を見てくる。
 俺も彼女の目を見る。当然ながら目が合う。
 シルフィはえへへとはにかんで笑った。

「ルディ……大好きだよ」

 そう言って、頬にチュっとキスをしてきた。
 あかん。

「わわっ!」

 俺はシルフィをお姫様だっこすると、ザバッと湯船から立ち上がった。
 風呂の入り方が途中だが、終わってからもう一度入ればいい。

 俺はびしょ濡れのまま二階へと駆け上がり、寝室へと直行した。
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