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今日のゲーム『人身焼却 ~ウィッカーマン~』

作者:MARC
ジ……ジジジ……


ザーーーーーーーー


ピコン


ターララッタラーターララー♪


~コインを入れてね~


ガシャン


~ゲームを選んでね~


チッ、チッ、チッ…


~ゲームを選んでね~


チッ、チッ、チッ…


~ゲームヲ選んでネ~


チッ、チッ、チッ…


~残り10秒!急いデ~


チッチッチッチッチッチッ


~ゲームヲ撰ンデネ~


チッチッ……ブブーッ


~残念!時間切レ!~


~ゲームヲ勝手に選ぶヨ!~


ピピピピピピピピピピ…


ピッ、ピッ、ピッ…ピッ……ピッ…………


ポーン


~今曰のゲ一ムワこレ!~


人 身 焼 却 (ウィッカーマン)


ターララーダーララーダラリラダラリラ~♪


ヒーヒッヒッヒッヒッヒッヒッ


ブツン


……


…………


………………ヒヒッ


   ◇   ◇

”裏野ドリームランド”の奇妙な噂まとめ■

ウワサ1:廃園になった理由■
・遊園地内で子どもがいなくなるらしい(・・・)

ウワサ2:ジェットコースターで謎の事故■
・どんな事故だったのか誰に聞いても答えが違うらしい(・・・)

ウワサ3:アクアツアーの不気味な生き物■
・アクアツアーで謎の生き物の影が見えたらしい(・・・)

ウワサ4:ミラーハウスでの入れ替わり■
・ミラーハウスから出たあと別人みたいに人が変わったらしい(・・・)

ウワサ5:ドリームキャッスルの拷問部屋■
・ドリームキャッスルの地下に拷問部屋があるらしい(・・・)

ウワサ6:廻るメリーゴーラウンド■
・誰も乗ってないメリーゴーラウンドが勝手に廻って綺麗らしい(・・・)

ウワサ7:観覧車から聴こえる声■
・観覧車の近くを通ると「出して…」と声がするらしい(・・・)

ここに記したウワサは虚偽ではない■

ロクでもないと思わないで欲しい■

最低でも筆者はそう考えている■

連絡をくれ、誰かウワサの真相を確かめてくれ■

ルールは無い、これを読んだ人に全てを託す■

↓■

2015.8.3■

…………

 この記事を境に、ブログの更新は途絶えているようだ。

   ◇   ◇

「お兄ちゃん……」

 う……ん……ここは……?

「お兄ちゃん、どこー?」

 アレは、懐かしい、声。

「うえーん!お兄ちゃーん!」

 マユ……マユなのか……?

「ごめんなさいー!置いてかないでぇー!」

 そうだ。手を……

「手……」

 この手を、離しては、イケナイ。

「噓つき」

 ドロリ。生々しい感触。

 恐る恐る、自分の手を見る。

 その手には、しっかりと右手(・・)が握られていた。

 いや。それしかなかった。

 その先(・・・)がなかった。

 右手しか握られていなかった。

「わああああああ!!!」

 思わず手を離す。いや、離れない。振り回す。

「離さないでってお兄ちゃん絶対に離さないって言ったよね約束したよねなんでどうして手を離したの私を置いていったの正直に話してお兄ちゃんの噓つき絶対に離さないんじゃなかったの私が何か悪いことしたの悪い子は置いていくの嫌だ離さないでこんな場所にいたくない繋がってない手が痛くない暗い寒い怖いごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 手がドロドロに溶けていく。

 やめろ!やめてくれ!!

「でもね」

 ダメだ。その先を言うな……

「全部全部、お兄ちゃんのせいだよ」

 歪む。世界が歪む。粘土のように。溶ける。世界がドロドロに溶ける。飴細工のように。グルグル回る。世界が混ざり合っていく。コーヒーに垂らしたミルクのように。四肢が歪む。溶ける。混ざり合う。

 記憶が駆け巡る。あの日の記憶が。あの日の情景が浮かび上がってはフェードアウトしていく。いや、違う。これは誰の記憶だ。宙に舞う人。じっと睨む目玉。可笑しな動き方。弾ける飛沫。止まらない音楽。開かない扉。そして、いなくなる……

「ヒーッヒッヒッヒッヒッ」

 この笑い声は……

「ようこそ~裏野ドリームランドへ~♪」

   ◇   ◇

「うわああああああぁ!!」

 思わず飛び起きる。ゴンッと衝撃音が響く。なんだ、夢か。汗でピッタリとシャツが貼り付く。気持ち悪い。天井に頭をぶつけたのも意に介さず、自分の掌を見る。いや、大丈夫。ちゃんとある。何も握られていない。どうやら寝落ちしていたようだ。今は夜の九時前。

「また、か……」

 この悪夢を見るのも久々であった。何故、急に再発したのか。その理由は疑いようもなく……

 枕元のスマホに目をやると、メッセージが届いていた。

『今日来る人~?』

 そうだ。今日はクラスで肝試しやるのだ。場所は廃園になった遊園地、あの(・・)裏野ドリームランドで……

『参加で』

 メッセージを返す。覚悟を決める。あれから一度も足を踏み入れたことはなかった。あの因縁の地に。しかし、それも今日まで。ゆっくりと二段ベッドから下りる。

   ◇   ◇

 僕は勇者になりたかったんだ。

 ただ、それだけ。

 それだけの理由で、妹を失った。

   ◇   ◇

 遊園地の前に着くと、既に何人も集まっていた。誰もがワイワイ騒いでいる。そんな彼らを傍目に、園内を覗き込む。

「大丈夫か?」

 タクヤが声を掛けて来る。幼稚園からの幼馴染にして親友。昔から二人でよく遊んでいたものだ。

「大丈夫……」
「そうか。まさか来るとは思ってなかったよ。だって……」
「いや、いつまでも現実から逃げてちゃ、ダメだからな」
「ああ。あれから七年も経ったのか」

 大分みんな集まって来た。しかし、主催者のマサトがまだ来ていない。どうしたんだと誰もが口々に喚く。と、みんなにメッセージが届く。

『ゴメン!家の急用で俺はドタキャン!マジすまんに!』

 主催がドタキャンとはどういことか。これだけ人を集めておいて。

『でも昨日準備したから大丈夫!俺抜きで肝試し始めてくれ!みんなテンションアゲアゲ!』

 肝試しのために前日から準備するとは、どれだけ力を入れているんだ。それでドタキャンとは、むしろ可哀想になってくる。

『ランド内の至る所にコインを置いたから、それを沢山集めて来た奴が優勝!チーム組んでも可!制限時間は二時間!賞品は期待してくれ!じゃあみんなガンバロー!』

 メッセージに次いで、兎のマスコットが描かれたコインの画像が送られてくる。さらにはご丁寧に裏野ドリームランドの七つの噂まで届く。恐怖を煽っているように見せかけて、ここと関係する場所にコインがあることを示唆しているのだろう。何とも手際が良い。

「っしゃー!絶対優勝するぞー!!」
「あの……僕と一緒に回ってもらえませんか?」
「私ってば霊感有りまくりなんだけど。ヤベーわ」

 思いの外、みんなやる気満々である。さて、俺はどうするか。タクヤに目をやると……

「アクアツアーとかシャレにならないってー!だって従兄弟がマジで見たって言ってたしー!」
「アタシも観覧車で亡くなった女の子の霊を見たって聞いたけど……?」
「ジェットコースターの事故は悲惨だったわ。うん、アレはヤバイわー」
「噂を丸呑みしちゃいけないよ。まぁ、所詮は人間が作った噂だからね。大体が誇張されているものさ」
「へぇー!」
「でも、噂だからって侮っちゃいけないよ。少なくとも噂の元となった何らかの事実が存在する訳だから。つまり、噂ってのは半分の嘘と半分の真実で構成されてると思っておけばいい」
「タッくんスゴーイ!」
「さっすが!学年トップの天才!」

 まぁ、放っておいてやろう。仕方ない。一人で回るか。

「あの!」

 突然の声に振り向く。

「ナツミ……ちゃん?」
「あの、一緒に……どうで、しょうか……」

 最初とは打って変わって消え入りそうな声になる。誰かと思えばナツミであった。彼女との接点といえば、サッカー部のマネージャーというくらいだろうか。普段はあまり話したこともない。後方では彼女の友人らしき数人がニヤニヤしている。応援しているつもりだろうか。

「よかった。ちょうど相手がいなかったんだ。一緒に……」

 彼女から差し出された右手を見る。

 手を……


『どウしテ離シたノ?』


 脳内に声が響く。声に詰まる。汗が止まらない。立ち眩みがする。手が上がらない。

「ごっ、ゴメン!先約があったんだ!この埋め合わせはするから!また今度ね!」

 そそくさとその場を去る。ダメだ。未だにトラウマが払拭されていない。手を繋ぐという行為を、身体中が拒否するのだ。どうしようもない。こんな役立たずの手など……無くなってしまえばいいのに。

   ◇   ◇

 ゲートの前に移動する。門は開いていた。腐り、錆び付き、崩れ落ち、ギイギイと音を立てて揺れている。まさに心霊スポット。

「ガチで怖いんだけど。マジで幽霊いそう~」
「幽霊なんて出ても怖くないよ。だって、あいつら透けるんだぜ?何の危害も加えられないから、人間を驚かせるしかないって訳」
「ふむ。そういう考え方もありますね。しかし!我々物理部はそもそも幽霊など存在しない説を推します。断言します。全てが単なる見間違いでしかないでしょう!」
「なら、お前は一人で回れよ?」
「それとこれとは話が別です。怖くないとは言っていません」
「駄目じゃん!!」
「まぁ、本当に怖いのは人間だよ」
「じゃあ、二時間後にまたここに集合!勝手に帰るんじゃねーぞ!肝試しスタート!」

 誰もが懐中電灯を構え、ゲートを潜り、蜘蛛の子を散らすように闇の中に消えていく。園内に明かりはない。

「あれ?タクヤお前……」

 グループに溶け込んでいたはずのタクヤが、まだ残っていた。

「いや、なんだ。カズキが暴走しないか心配でね」

 どうやらさっきの一部始終を見られていたようだ。それに、俺の過去を知っているのだから尚更。

「ってな訳で、一緒に回るぞ。但し、ガチで回るぞ!目指せ優勝!」
「マジか……しゃあねーな!」

 タクヤが駆けていく。それを追い掛けゲートを潜る。


『ようこ……ぁの……らぼへ……』


 振り向くが、誰もいない。

   ◇   ◇

 裏野ドリームランドの真ん中にそびえ立つドリームキャッスル。

 この中のアトラクション「ミステリーツアー」では、子供の中から一人、魔王を倒す勇者が選ばれる。

 無事に魔王を倒した勇者は、記念のメダルが貰える。

 勇者に立候補して選ばれたのに、妹を一緒に連れているという理由で辞退させられた。

 だから僕は怒った。

 手を、離した。

 それっきり。

 二度と見付かることはなかった。

   ◇   ◇

「だーっ!全然見付かんねぇ!出遅れたか!」

 タクヤと二人で園内を回るも、コインは見つからなかった。観覧車は既に捜索された後だった。メリーゴーラウンドでは、どうにかして動かせないか画策する物理部しか見つからなかった。ジェットコースターはそもそも危険なので立ち入り禁止になっていた。

「次は何処に行くか。アクアツアーか、ミラーハウスか……」
「ドリームキャッスルは?」

 タクヤが絶句する。

「お前……いいのか?」
「ああ。大丈夫。行こう」

 覚悟を決めてここに来たのだ。ドリームキャッスルをスルーしては何のために来たのか。

「分かった」

 二人でランドの中心に向かう。

「そう言えばさ。マサトのことなんだけど」
「まさか主催者がドタキャンするなんてな。逆に驚きだよ」
「いや、そもそもアイツって、こんな入念に準備をするキャラだったか?客観的に考えて」

 言われみれば、そんな奴じゃなかった気がする。言い出しっぺではあるが、プランは適当。そんな人間だった。今回のこの力の入れ具合は……?

「それに普段のメッセージもこんな語尾だったっけ?テンションアゲアゲなんて打つ感じだったか……?」

 タクヤの言わんとしていることは分かる。そんなことを言う奴ではあったが、メッセージで打つ感じではない。むしろスタンプや絵文字で表現する感じ。

「あと、例のコインってここのゲーセン用のコインだろ?一体何処で調達して来たんだろうな?廃園になって久しいのに」

 裏野ドリームランドには確かにゲーセンがあった。しかし、とうの昔にゲーセンは潰れ、その場所は既にアクアツアーとなっている。考えるだけ不思議ではあるが……

「まぁ、それだけ力を入れてて、無駄にテンション上がってたってことだろ。コインもネットオークションで落としたか、それとも昔ゲーセンに通ってた遺産を発掘したか……」

 そう考えれば自然である。自然ではあるが、既に一つ、見落としていた。知らず知らずの内に、現実から目を逸らしていた。

   ◇   ◇

 出口で母親が待っている。

「カズキ。マユはどうしたの?」
「ううん」

 ちゃんと面倒を見ると約束した手前、バツが悪くなる。

「手を繋いでてって、言ったでしょ?」
「ううん」

 必死に言い訳を考える。

「ううん、じゃ分からないでしょ!どうして手を離したの!?」
「うう……」

 涙が零れる。母親は僕を置いてスタッフの元へと駆けていく。置いていかれる。一人ぼっち。こんなにも悲しいことだったなんて。自分で経験して初めて理解する。あとで、ちゃんとマユに謝ろう。

 その機会は、一生来ることがなかった。

 消えてしまった。

   ◇   ◇

「俺たちが一番乗りだったな!これで6枚目!」

 ここに来てまさかのコインの大量ゲット。タクヤは既にテンションアゲアゲ状態である。朽ちかけた不気味な城を見たときは入るのを躊躇ったが、いざ入れば目の前にコインが落ちている。奥へ進めば進むだけコインが拾える拾える。強いて言うなら、マサトはもうちょいバランスを考えるべきだったな。

「っし!7枚目ぇ!」

 一本道の迷宮を抜け、勇者選別のフロアを通り過ぎ、動かない魔王を一瞥し、記念メダルの入った宝箱を覗き込み、ミステリーツアーは終了した。当時の記憶がありありと目蓋に焼き付いて離れない。七年経った今でも、当時と変わらない。懐かしさと苦しさで目頭が熱くなる。それを、タクヤには悟られまいと隠す。

「ミステリーって言うほどミステリーじゃなかったな。まぁ、子供向けだからしゃーないか」
「ああ。そうだな」

 出口から外に出ようとすると、ドアが開かない……?

「げっ!来た道を戻れって言うのか」

 ドアは鍵が掛かっていた。開けようにもガチャガチャと音がするばかり。メイン出口の鍵が、外から……?

「じゃあ、スタッフ用の通用口は?」
「開かないんだなそれが。じゃ、戻るぞー」

 タクヤは来た道を歩き出す。いや、なにか可笑しくないか。普通は内側から解錠できるもんじゃないのか。これではまるで、中の人間を逃がさないための……

 少し気に掛けるも、タクヤの後を追い掛ける。

「おっ!見っけ!これで9枚目!なんだ。行きに見逃しやすいコインを帰りに見付けるよう、逆走させるのか。なるほどなるほど」

 そうだったのか。今までのことは単なる杞憂だったのか。

 来た道を戻る。行きとは逆向きに曲がる。右に曲がり、左に曲がり、右へ……

 違う……?記憶と違う。

「おい、右になんて曲がらないぞ?」
「へ?」

 そう。次に曲がるのは左のはず……まさか!?

 今来たばかりの道を駆け戻る。宝箱を過ぎたから、次は魔王の間。行きに右に曲がったから、帰りは左。記憶に依れば……距離的に考えて、ここに魔王の間から出る扉があったはず!

 扉は無かった。左はただの壁と化していた。いや、壁にうっすらと切れ目が見える。反対側は扉のはず。元からそういう作りなのだろうか。順路を逆に進ませないための作り。確かに、扉が開いていると通路が隠れて一方通行となる。

 なら、隠されたその先は?コノ道ノ先ハ……?

「おーい」

 おーい、おーい、と声が木霊する。果てしない暗闇。タッタッタッ……子供の駆ける足音。ダメだ。行っちゃダメだ……!

「おい!どうした!?」

 ハッ、と我に帰る。

「いや、何でもない……」
「急に逆走するから何事かと思ったぞ。ったく……」
「すまん」

 考え過ぎだ。このまま進めば、普通に外に出れるんだろう。そうでなきゃ、マサトだって出口にコインを置きに来れる訳がない。大丈夫。タクヤを心配させる必要は無い。

 記憶に無い道をひたすら歩く。何の変哲も無い道。

「もう全然コイン落ちてねぇなー」

 通路の奥に辿り着く。絶望的に袋小路。

「どういうことだよ……」

 ここに来て、タクヤも顔を曇らせる。

「まさか、道を間違えた?」
「しっ!静かに……」

 耳を澄ますと、音が聞こえる。ジジジ……と。

 ふと、袋小路の端に機械が置いてあることに気付く。恐る恐る、近付く。

 それはゲーム機であった。パッ、と画面に明かりが灯る。暗闇を(まばゆ)く照らす。一瞬、驚く。それを頭が打ち消す。ただの赤外線感知か。

「うおっ!まぶしっ!電気まだ通ってんのか!」
「それよりも、なんでゲーム機がこんなところに……?」


ザーーーーーーーー


ピコン


ターララッタラーターララー♪


 砂嵐から一転、軽快な音楽が流れる。

「えっと、なになに……GOLD(ゴールド)MONSTER(モンスター)。黄金を守る怪物を倒してコインをゲット!だとさ。潰れたゲーセンからここに持って来たのか」


~コインを入れてね~


 突然、画面の表示と共にゲーム機が喋り出す。二人は思わず身構える。


~コインを入れてね~


 ゲーム機の上にコインが一枚、置いてある。それを手に取り……

「おっ!10枚目!って、おいおい。ゲームで遊んでる場合かよ」

 画面に促されるままにコインを入れる。


ガシャン


~ゲームを選んでね~


 ゲームの選択画面に移る。これは、ゲームなのか?

「何だよ、これ。趣味悪いな。こりゃゲーセンも潰れるわ」

 映し出されたメニューを見る限り、ゲームらしからぬタイトルが並ぶ。

「鞭打ち、絞首、八つ裂き、水責め、ファラリスの雄牛に鉄の処女(アイアン・メイデン)まであるぞ。これじゃまるで……」


チッ、チッ、チッ、チッ……


~ゲームを選んでね~


 液晶の文字に釘付けになる。少なくとも、これを作った人間はゲームだと思っているようだ。


拷問(ゲーム)を選んでね~


「おい。客観的に見てヤバイ気がするんだが……」
「いや、ここまで来たら、引き返せない。ただ、もう少しで、俺の知りたい真実に辿り着ける気がするんだ」
「はぁ……仕方ねーな。お前は昔から無茶をする奴だった。最後まで付き合ってやるよ」

 おまかせボタンを押す。


ピピピピピピピピピピ…


ピッ、ピッ、ピッ…ピッ……ピッ…………


ポーン


~今曰の拷問(ゲーム)ワこレ!~


人 身 焼 却 (ウィッカーマン)


 燃え盛る人間のアイコンが表示される。

「ウィッカーマン?」
「聞いたことがあるぞ。確か……」

 不協和音の音楽と不気味な笑い声がゲーム機から吐き出される。気持ち悪い。夢の中でも聞いた、そのままの笑い声。何なんだこれは。そのままブツンと、画面の光が消える。そして……


ゴゴゴゴゴゴゴ……


 袋小路の壁が開く。中を覗き込むと、地下へと下りる階段。裏野ドリームランドのウワサを思い出す。


ウワサ5:ドリームキャッスルの地下に拷問部屋があるらしい(・・・)


「……どうする?」
「行くしかないだろ」

 率先して階段を下りる。一段一段、慎重に。じめっとした空気が頬を撫でる。溜め息を吐きながらタクヤも下りてくる。

「はぁ……気付いちまったんだが」
「何を?」
「ゲーム機の名前。略してみ?」

 頭の中で考える。

 …………何てことだ。

 引き返すには、もう遅い。

   ◇   ◇

 階段を下りると、小さな部屋に辿り着いた。相も変わらず暗闇。懐中電灯の電池が持っていることだけが唯一の救いか。

「何の部屋だ?これと言って特に恐ろしい物は無いが」

 テーブルの上に紙が散らばり、壁には本棚が並び、その先には更に奥へと続くであろう扉がある。

「ダメだ。鍵が掛かってるな。テーブルにでも置いてないか……?」

 その時。見付けてしまった。

 知るべきではなかった真実を。

 少なくとも、知らない方が幸せだった。

「う、嘘だろ……」
「なんだ?何かあったか?」

 見付けた書類の束をタクヤに渡す。みるみる内に青ざめる。

「はぁ!?人体実験の報告書だぁ!?日付は……6年前!?」
「あぁ……どうやら……ここ裏野ドリームランドは……非合法かつ、倫理上表沙汰にできない、人体実験を……うっ!」

 吐き気が込み上げる。胃の内容物をブチまけたい衝動に駆られるが、踏み止まる。吐露したら負ける。そんな思いが自分自身を突き動かす。

「だっ、大丈夫か?」
「ああ。大丈夫。大丈夫……」

 言い聞かせるように呟く。ダメだ。その先(・・・)を、考えてはいけない。人体実験。そして、行方不明。結び付けてはいけない。現実を受け止めきれない。何が起きているんだ。この世界は地獄なのか。

「くっ……人体実験だけじゃない。世間に知られてはならない生物・化学実験や、挙げ句の果てに拷問まで!?それらをアウトソーシング事業として確立……つまり!ここ裏野ドリームランドは!非人道的な実験と拷問の外部委託機関だったってことだ!くそっ!ふざけんじゃねぇ!!」

 書類の冒頭を読んだタクヤがテーブルを叩きつける。こんなに怒った顔は見たこともない。吐き気や気持ち悪さ以上に、怒りが止めどなく爆発しているのか。

「しかも!この機関の一番の売り(・・)は!被験体となる人間を自給自足(・・・・)できるところだと!?どこまで人をバカにしている!有り得ねぇ!!」
「で、でも……そんなことしてたら、すぐにバレるんじゃ……?」

 俺は、未だに現実から目を逸らす術を探していた。そんなバカげたことが、この遊園地で起きていたなんて。まだ、頭では信じたくないのだ。

「いや……知ってるか?日本の行方不明者は、一年間で10万人前後だ」
「なっ……!?」
「たが、その中でも最後まで見付からない……本当の行方不明者は、年間で1000~2000人。それでも十分に多い。つまり、そこから数十人程度増えようと、バラツキの範囲に埋もれてしまうだけだ。余程のことが無い限り、簡単にはバレないだろう……」
「嘘……だろ……」

 その時。俺は気付いてしまった。

「タクヤ……裏表紙……」
「あぁ?」

 書類の裏を懐中電灯で照らす。そこには……

『本遊園地、裏野ドリームランドにて起きた事件・事故に関して、日本政府、及び日本の警察機関は一切を関知しない。2000.4.15』

 条文の末尾には三人の署名と押印。日付は、裏野ドリームランドが開園した日……

「総理に警視総監に前市長のサインだと!?みんなグルじゃねぇか!!何が関知しないだ!何が黙認だ!何が法治国家だ!!」

 遊園地として名を馳せ、全国から集まる人々を誘拐。そして秘密裏に事件として処理。ひいては人体実験に利用……!?理解が、追い付かない。いや、嘘じゃないのか?単なる手の込んだイタズラじゃないのか?

 ふと、タクヤの言葉が思い返される。


『でも、噂だからって侮っちゃいけないよ。少なくとも噂の元となった何らかの事実(・・)が存在する訳だから』


 そして、裏野ドリームランドのウワサが……


ウワサ1:遊園地内で子どもがいなくなるらしい(・・・)


「この地図によると、どうやらミラーハウスの地下に研究施設があって、遺伝子や細胞の研究をしていたらしい。うっ……ヤバイ、な……人間の脳をイジる研究だと……小脳、脳幹、前頭葉……」


ウワサ4:ミラーハウスから出たあと別人みたいに人が変わったらしい(・・・)


「これは……記憶改竄(かいざん)実験!?ジェットコースターでの落下事故の隠蔽工作。関係者と目撃者に精神ケアと称して薬剤投与と外科手術。海馬と大脳新皮質にまでメスを入れてやがる……」


ウワサ2:ジェットコースターでどんな事故があったのか誰に聞いても答えが違うらしい(・・・)


「生物実験の末に誕生した巨大生物の経過観察記録……水槽に入り切らなくなる。増築が終わるまでアクアツアーの湖にて一時的に飼育中……」


ウワサ3:アクアツアーで謎の生き物の影が見えたらしい(・・・)


「これは、日誌……?閉園後にメリーゴーラウンドを稼働すると、ランド内に残っていた人間がフラフラと集まってくる。それはまるで光に(たか)る虫のように。今後も定期的に稼働させるべし。ランド内の掃除と材料調達(・・・・)にはもってこいだ……」


ウワサ6:誰も乗ってないメリーゴーラウンドが勝手に廻って綺麗らしい(・・・)


「2010年12月13日PM8:36。施設から子供が一名脱走。4分後に観覧車内にて無事保護。多数の一般客に声を聞かれてしまったものの、周囲は照明が少なく薄暗かったため、実際の目撃者は少ないと思われる。放っておいて問題ないだろう。つまり、出して欲しいのは観覧車からじゃなくて、ランドから……」


ウワサ7:観覧車の近くを通ると「出して…」と声がするらしい(・・・)


「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ……」
「おい!」

 タクヤに肩を叩かれる。正気に戻る。

「辛いのは分かる。だが、現在から目を背けちゃダメだ!俺たちのやることは何だ!そう!告発だ!!日本中に……いや、世界に公表するんだ!!俺たちにしかできない!!」
「でも、これが真実だなんて。信じられない」
「信じたくないの間違いだろ。これを見てもまだ言えるか」

 タクヤは読み漁っていた書類の山から紙切れを一枚手渡す。


『A Murder Nano Lab』


「これは……?」
「この研究機関の名称だ。裏野ドリームランドの裏の(・・)名前だな。直訳すると、『殺人ナノテクノロジー研究所』だ。しかも冠詞にはtheじゃなくて、aが使われている。ここの他にもまだ研究所が日本に点在したのか……」
「つまり……何が言いたいんだよ?」

 タクヤが紙にペンを走らせる。文字を書いていく。

A Murder Nano Lab

「まず、全てを小文字にする」

a murder nano lab

「単語をぶつ切りに分ける」

a m ur der n ano la b

「文字群を並べ替える」

ur ano der a m la n b

「真ん中のeとrを入れ替えて、文字をくっ付ける」

urano dream lanb

「ランド内にはミラーハウスがある。最後の文字を左右反転させると……」

urano dream land

URANO DREAM LAND

うらのどりいむらんど


『裏野ドリームランド』


 全身に衝撃が走る。ランドの看板がフラッシュバックする。言葉を発することすらできない。俺は、真実を目の当たりにした。

「これでもまだ、真実じゃないって言い切れるか?」

 誰かの言葉が脳内に響き渡る。


『本当に怖いのは人間だよ』


   ◇   ◇

 散らばった書類の写真を撮る。こんなことが許されていいのか。いや、許される筈が無い。俺たちの手で明るみに出さなければ。白日の下に晒さなければ。全ては永遠に闇に葬り去られる事だろう。

「くそっ!圏外だ!」
「俺もそうだ。一旦、戻ろう」

 一瞬、嫌な予感がする。そもそも何故、こんな重要書類がテーブルに散らばっているんだ?いつの間に圏外になっていた?地下に入る前はアンテナが立っていたはず……

 そして、その予感は最悪の形で的中する。

「開いてない!壁が!閉まってる!チクショウ!」
「やっぱり……」

 これ以上、選択肢は無い。つまり……

 書類の山から発掘した鍵を取り出す。

 先に進むしか無い。

「行くぞ」

 ガチャリ。解錠の音。心臓がドクンドクンと高鳴る。鬼が出るか、蛇が出るか……

ギイィィィ……

 ここも暗闇。何も見えない。周囲を照らしながら中に入ると……

「なんだ、これ?変な……機械?」
「違う!それは……!つまり、ここが……!!」

 気色悪い装飾の施された器具。俺も、気付いた。危惧していた通り。ここが拷問部屋(・・・・)であった。

 突如、パッと部屋が明るくなる。

「ようこそ~裏野ドリームランドへ~♪」

 幾度となく耳にした声。遂に思い出した。記憶の底に封印していたトラウマ。数年前と変わらず、甘ったるい、耳障りな喋り声。

 前方のスクリーンに兎の人形が現れる。そう、コインにも描かれていた。アイツこそが、この裏野ドリームランドのマスコット。

「お待たせ~みんな大好き~ウラビットだよ~♪」

 ウラビット。くすんだピンク色の、上裸のウサギ。首には蝶ネクタイ。キモ可愛いマスコットを売りにしていたが、最終的に気持ち悪さしか残らず、万人に一切受け入れられなかったマスコットキャラクター。

「みんなは~ウラビットのこと~好きだよね~♪」

 脳が拒否する。全身が嫌悪する。やめろ。その声を止めろ!耳を塞げという本能的な命令を、辛うじて無視する。

「僕は~みんなのこと~大っ嫌いだけどね!!!」

 ノイズ混じりの大音量が響き渡る。音が割れる。タクヤは唖然としている。

「ヒーッヒッヒッヒッヒッ」

 そうだ。この気味の悪い笑い声。それが気持ち悪さに拍車を掛ける。誰だ。こんなキャラ付けをさせたのは。

「さてさて~楽しい拷問(ゲーム)の始まりだよ~♪今日のゲームは~これだぁ!人身焼却(ウィッカーマン)!!」

 先刻、俺たちが選んだゲーム。一体、何が始まるというんだ……?

「ご存知の通り~ウィッカーマンとは~古代ガリアで流行ってた人身御供(ごくう)だね~?人型の檻に閉じ込めた供物を~焼き殺して神に捧げる~お祭りだよね~?」

 何てものを選んでしまったんだ……

「今回はそれを~僕なりにアレンジしてみたぴょ~ん♪みんな~準備はいいかな~?それではイッてみよう!イッツ拷問(ショー)タイム!」

 コンベアに乗って、大きな装置に取り付けられた人型の檻が流れてくる。左右から、それぞれ一つずつ。

「対戦者は~この二人!」

 俺とタクヤがスポットライトを浴びせられる。二人って、まさか……

「ふざけんな!俺たちで戦えって言うのか?俺たちに殺し合え(・・・・)って言うのか!?」

 コロシアイ……?訳が分からない。非現実的なワードに脳が追い付かない。

「そんなことは言ってないよ~♪君たちには~ゲームをしてもらうだけ~♪ただ~……結果的に死ぬかもしれないけどね!!!」

 スクリーンから返答があった。録画ではない。今まさに繋がっているのか!?リアルタイムで……このマスコットと……

「あ、もちろん~拒否権はないよ~?強制参加だぁ~!存分にお客さんを楽しませてね~♪みんな白けるような~くっだらない展開はやめてよ~?生殺与奪は~僕の気分次第だからね!!!」

 全てが罠だった。まんまと誘い込まれた。一体、何処で間違えたんだ?どの時点で迷い込んでいたんだ?楽観視していた自分に不甲斐なさと憤りを感じる。どうすればいい……?いや、もうどうしようもない。手の打ちようがない。

「ここから無事に出られるのは~ゲームの勝者ただ一人のみ~♪ちゃんと生きていればね~?」

 タクヤの方に向き直る。

「タクヤ……俺はどうすれば……俺はお前が……」
「触るな!!」

 タクヤに手を弾かれる。

「近寄るな!こうなったのも!全部お前のせいじゃないか!それなのに、まだノラリクラリと……いい加減にしろ!現実を見ろ!」
「なっ……」

 確かに俺のせいだ。ただ、タクヤも同意の上で一緒に付いて来たはず……

「いいか!俺はまだこんなところでは死にたくない!俺は生き残ってやる!そのためには……手段は選ばない!ゲームに勝ってやる。俺の全脳力を賭けて、お前を打ち負かす!覚悟しろ!俺は、お前を殺して生き残る!!」
「な、何を言って……」

 いや、冗談ではなかった。その顔は、真剣そのものであった。試験直前に見せるそれと同等であった。本気モードだ。既に集中している。全力で俺を殺す算段を考えるがために……

「客観的に考えてみろ。どちらかしか生き残れない。なら!どう考えても俺が生き残るべきだろぉ!!なぁ!?安心しろ!ちゃんと世間に真実を公開してやるから!安心して俺に殺されろ!」
「そういう問題じゃ……」
「何だよ!?お前が真実を知りたがって……お前が過去をいつまで引きずってるから!こんなことになってんだろ!?いなくなった妹のことなんか、さっさと忘れろ!どうせ生きて無いんだからよぉ!!」

 プツンと。俺の中で、何かがキレた。

「……ざけんな……てめぇこそふざけんじゃねぇ!!親友だと思ってたのに……てめぇがその気なら……俺も全力でぶっ殺す!覚悟しろ!」
「おぉ~いい感じに温まってきたねぇ~♪ヒッヒッヒッ」

 コイツは……この状況を見て愉しんでやがる!怒りが込み上げる。全てに対する怒り。この理不尽なふざけた世界に対する怒り。全てを燃やし尽くすような怒りが。

「じゃあ~ルールを説明するよ~♪耳の穴をかっぽじって~よぉく聴いてぴょ~ん♪」

 もう、後戻りはできない。

 二度と、元には戻れない。

   ◇   ◇

「ルールは簡単~まずは君たちの身体を六つに分けるよ~♪頭・胴体・右手・左手・右足・左足で六つだね~?それぞれに1~6番まで好きな番号を振ってね~♪あとはお互いに相手の身体を番号順に当てていって~先に全部当て切った方が勝者だよ~♪」

 それだけ?たった、それだけ?単純じゃないか。どんなゲームかと思ったら、大したことないじゃないか。

「ちなみに~相手に当てられた身体の部位には~ペナルティが課されるよ~♪恐怖で冷えた身体を任意の温度で10秒キッカリ温めてあげちゃいま~す♪温度はどんどん上がっていくよ~♪気になる温度は~この通り!」

 スクリーンにフリップが現れる。顔が強張る。前言撤回。これは想像以上にヤバイ。ペナルティの範疇を超えている。意味が分からない。

1番:40℃
2番:60℃
3番:80℃
4番:100℃
5番:200℃
6番:2000℃

「あと~補足ルールが四つ~♪自分のターンはスキップできないよ~♪一度当てた身体の部位は選べないよ~♪同一の番号を当てている最中に~同じ身体の部位を二度回答することはできないよ~♪選択肢が一つしかない場合は勝手に回答されるよ~♪」

 特に可笑しいことはない。普通のルール。可笑しいのは、ペナルティだけ。

「右でも左でも~好きな(ゲージ)を選んでね~♪ゲージ横の液晶に番号を入力したら~準備オッケ~♪よぉく考えてね~?」

 タクヤは左のゲージに向かい、番号を入力している。俺も、やるしかない。覚悟する。頬を叩く。右のゲージに向かう。

 人身焼却……六部位当て……いや、実質五部位か。最後の選択は一ヶ所しか無いのだから。

 勝てるか……?あの(・・)タクヤに。本気のタクヤに。学年一位の天才だぞ……!だが、俺も万年二位で終わるつもりは毛頭無い。最後の大勝負。絶対に勝つ!そのためには……

「二人とも入力が終わったね~♪じゃあ、ゲージの中に入ってね~♪入ったかな~?君たちも今日からウィッカーマンだぁ~♪」

 人の形をした、人間一人が入るのに丁度いいサイズのゲージ。前半分が開く。ツンと鼻をつく異臭。気にも留めずに中に入る。これまでにここで起きたことなど、考えたくもない。網目の隙間からタクヤの顔が見える。正面切って向かい合い、お互いの様子を探る。同情するな。今は敵なんだ。心を押し殺す。

「みんなお待たせ~♪じゃあ~いっくよ~拷問(ゲーム)スタート!」

 カーンと鐘が鳴り響く。ついに始まった……


カズキ:頭・胴体・右手・左手・右足・左足 残り6部位
タクヤ:頭・胴体・右手・左手・右足・左足 残り6部位


「まずは先攻と後攻を決めてね~♪」

 疑う余地も無く、先攻が有利である。話し合いで決まるのか?それとも、コイントス的な……

「お前が先攻でいい」
「えっ?」

 タクヤが先攻を譲る。どういうことか、分かっているのか?

「そもそもこのゲームを始めたのはお前だ。なら、お前が先攻なのが普通だろ。客観的に考えて」
「そうか……」

 まさか、今までのは全て演技だったのか……?俺にゲームを受けるよう仕向けさせ、最終的に勝ちを譲るという……いや、まさか……?

「じゃあ、俺が先攻で」
「了解だよ~♪さっさと相手の部位を選んでね~♪」

 さて、どうするべきか。確率は六分の一。しかし、1番目の部位は40℃。つまり、当てられたとしても身体的なダメージはほぼ皆無。むしろ、後になればなる程、当てられたダメージは大きくなる。ならば、最初に持ってくるべきは、リスクを最小限にしたい部位。自分自身が一番大切な部位。常識的に考えれば、だが……まぁ、最初は様子見でいいだろう。

「じゃあ、『頭』で……」
「頭だねぇ~?あぁ~頭に来ちゃったねぇ~♪さてさて~正解は~?ヒヒッ」

 スクリーンに大きく×マークが表示される。血で塗りたくったような赤い印。

「ざ~んね~ん♪ハズレだぴょ~ん♪」

 違った。流石にそんな安牌(あんぱい)に置く訳が無いか。問題ない。先攻の理を失しただけ。

「交代だよ~♪」
「『右足』だ!」

 間髪入れずにタクヤが答える。

「おっ!回答が早いね~♪本当にそれでいいの~?」
「ファイナルアンサーだ」
「右足だねぇ~?あぁ~足が出ちゃうねぇ~♪正解は~?」

 スクリーンに映し出される。○である。真っ赤な丸である。当てられた。六分の一を、一発で……!

「大正解~♪それでは~ヒーターON!右足40℃!」

 後方の機械が唸り声を上げる。ガシャンという音と共に、右足が金属のカバーで覆われる。付け根から爪先まで。続いて、ジーンと温まる感触。熱い。

「どうして!どうして分かった!?イカサマか?入力してるのを見てたのか!?」
「そんなチャチなことはしねーよ。全てを論理的に考えた結果だ」
「それは、どういう……?」
「この身体の六部位は、三つに分類できる。手と、足と、その他の重要部位だ。自分が1番目に設定した部位を答えることは無意識に避けるはず。つまり、頭は無い。すると、同じ分類で連想される胴体も無い。手と足が残る訳だが、お前は自分の手にトラウマを持っている。こんな役立たずの手なんか無くなってしまえと、そう思っているはずだ。なら、ダメージを受けない1番目に手を持って来るのは不自然。むしろ、手は6番目の可能性が大。よって、足が残る。右足と左足、お前がより大切だと感じる方を1番目に置きたいという心理が働くのは自明。サッカー部として大事なのは軸足よりも、ボールを直に操る方。繊細な動きが要求される方。以上より、右足(・・)しか有り得ない。それに、中学時代には愛称が付いてたなぁ?黄金の右足って……」

 タクヤが薄ら笑いを浮かべる。本気だ。本気で勝つ気だ。本気で殺しに掛ってる。着々と追い詰められている。よもや、先攻の方が不利になるとは……

「交代だよ~♪二回戦~♪」

 ターンが回ってくる。まだ考えがまとまらない。頭が回らない。頭では無かった。タクヤが一番大事にしていると思われる頭脳では無かった。先程は間髪入れずに右足と答えた。ならば、足は無いか?ボロが出るのを防ぐために速攻で答えたのか。ただ、初回のダメージゼロを考慮すれば、普通の人間なら手か、胴体か……いや、その裏をかく可能性も……

「早く~答えてよ~?僕は気が短いんだからさ~?」
「っ……胴体!『胴体』だ!」
「胴体だねぇ~?あぁ~どうだろうねぇ~♪正解は~?」

 浮かび上がる、×の文字。

「残念残念~♪二連続不正解だぴょ~ん♪おめでと~♪交代だよ~♪」

 胴体、でも無い。残り四つ。

「ふん、その顔。確率で考えているようじゃダメだな。だから一位になれないんだ。推論に基づいて考えろ。2番目は60℃だったな。人間が火傷をする温度は45℃以上。ただし、長時間高温に晒された場合も含む。10秒程度なら60℃でもほぼリスク無しと考えられる。だが、80℃は?100℃は?晒された瞬間(・・)に火傷をする温度は70℃以上。少なくとも後々のリスクを考えると、2番目には手足以外の重要部位を置くのが定石。内臓も大事だが、それ以上に熱から守るべきは脳。よって、『頭』で確定だ!」
「ぐっ……」

 これは、俺にヒントをくれているのではない。俺よりも優位に立つため。俺の考えなどお見通しだと。俺の思考を掻き乱すための策略。そう、分かっているのに頭が反応してしまう。敵に回ると、こんなにも恐ろしいとは。

「頭だねぇ~?あぁ~あったまって来たねぇ~♪正解は~?」

 首の皮が一枚繋がった。

「バッテンだぴょ~ん♪あれれ~?ドヤ顔で推理してたのになぁ~♪」
「つまり、頭ではなく胴体だったか。まぁ、いい。次で当てる」
「次は三回戦だよ~♪」

 ここで当てなければ、追い付く望みは限りなく薄くなる。どれだ?右手か、左手か、右足か、左足か……?いや、待てよ。俺がタクヤなら……?

「タクヤ……俺が最初に(・・・)右足を選ぶことが分かっていたな。いや、最初から、その確率が高いと踏んでいたな。だから先攻を譲った。俺の答えを聞いた上で確信した。そうでなきゃ、即答なんてできない。最初から右足だと分かっていた(・・・・・・)ならば、俺が選ぶことを避ける選択肢も分かっていたはず。俺が最も躊躇う選択肢……同じもの……つまり!答えは『右足』だ!」
「ホントに~?ホントにホントにいいの~?」
「問題ない」
「右足かぁ~?足元が掬われるよぉ~♪正解は~?はい残念!」

 スクリーンに正否が浮かぶ前にネタバレされる。違った。×だった。またしても、間違えた。自信はあった。これだと、思ったのに……

「俺の番だな。『胴体』で決まりだ!」
「胴体だねぇ~?あぁ~どうしても胴体がいいかぁ~♪はい正解!レッツ加熱!胴体60℃!」
「うっ、ぐうううぅ……」

 絶望。今の気持ちは、この二文字が相応しい。60℃。10秒間。決して我慢できない熱さではない。しかし、身体よりも心が参っていた。既に大きく引き離された。事態は切迫している。どうすれば……


・三回戦終了時点
カズキ:頭・右手・左手・左足 残り4部位
タクヤ:頭・胴体・右手・左手・右足・左足 残り6部位


「四回戦いっくよ~♪最期まで諦めないでね~♪諦めたら~そこで拷問ゲーム終了したら~ツマンナイからね!!!最期まで足掻いて!醜く足掻いて!希望を掻き集めて!みんなを愉しませて!最期の最期に絶望して死ぬといいよ!!!」

 諦めない。諦めてはいけない。その後のことなど、今は考えない。集中。集中しろ……残る選択肢は右手、左手、左足。この中で最も大事なのは右手だろう。次いで左手、左足。むしろ、右足が不正解だった時点で、左足も無いだろう。もはや足に拘る理由もない。足が片方だけノーダメージというのも、本来なら意味を成さない。明確な理由も無く、自分の手を犠牲にしてまで左足を賭けるか?リスクが見合わない。よって、右手か、左手の二択に絞られる。無難なら右手。裏をかけば左手。なら、裏の裏をかけば……

「手、だな……」

 タクヤは無反応を貫く。

「お前程の捻くれた人間なら、残すのは左手だな。最悪、訓練すれば右手と同等に使えるようになる。そう考えているんじゃないか?」

 ピクリと、反応する。左の眉が一瞬上がる。いや、これまで無反応でいたのだ。余りにも不自然。

「そういうことか。左じゃない。答えは『右手』!」
「それでいいのかな~?いいんだね~?」

 ウラビットが回答に対して反復する。どっちだ……どっちの意味だ?合ってるのか?間違っているのか?確かにゲームで大差を付けられることは望んでいないだろう。しかし、タクヤは答えの可否を問われた上で正解だった。一回戦ではあったが。むしろ、大差付けさせて絶望させてやろうというハラか。俺を笑い者にするためだけの遊びか?どっちだ……?

「それでいい!答えは変えない!」
「右手だねぇ~?あぁ~手癖が悪いねぇ~♪正解は~?」

 恐る恐る、スクリーンを見る。祈る。浮かび上がったのは……

「ざ~んねぇ~ん!!!ハズレハズレ~♪大ハズレ~♪せっかく僕が聞き返してあげたのに~♪聞く耳を持たないから~♪ヒヒヒッ」
「がああっ!!くそっ!くそぉ!!」
「愉しいな~♪あぁ~愉しいなぁ~♪交代だよ~♪」

 タクヤが真っ直ぐにこちらを見据える。

「ったく……合理的に考えろっての。カズキ……分かっているだろうが、ここで俺が当てれば、お前は終わりだ。残り3部位になれば、全て間違えても5ターンで勝ちが確定。6ターン目にゲーム終了。奇跡でも起きない限りお前の負けだ。何か言い残すことはあるか?」
「まだ……分かんねぇだろ……」
「分からない?そう思うか?誰がどう考えても一択じゃないか。次は80℃。辛うじて頭が耐え切れる可能性(・・・)のある温度。少なくともここ(・・)で頭を置かなければ、待っているのは明確な死だ。良くても重度の障害。何にせよ、ゲーム続行は不可能。最終的に死ぬのは変わりない。死期が早まるだけだろう。これでも、まだ分からないと言えるか?」

 俺は押し黙る。タクヤが言っていることは正しい。

「これで終わりだ!『頭』!」
「頭だねぇ~?あぁ~頭がいいねぇ~♪正解は~?」

 正しいが!前提が違う!

「あれれ~?バッテンだねぇ~?大間違いだぴょ~ん♪惜しかったねぇ~♪ヒヒッ」
「なっ!?バカな!そんなバカな!?お前はバカか!!」
「そうだ。馬鹿野郎だな。万年二位の大馬鹿野郎だ」
「まさか、頭を捨てた(・・・)のか!?戦略としての意味は分かる!意味は分かるが訳が分からない!」
「残念ながらアテが外れたな。お前の推論はこの時をもって全て瓦解した!ここで仕留め損なったのとを後悔するといい!」

 依然として負けているのは俺だが、心理的な優位は一時的に手にすることができた。これを維持できれば……

「それじゃあ~五回」
「『左手』で確定だ!」

 ウラビットの進行を遮って答える。次こそ当てる。自分自身の期待に応える!タクヤはまだ堪えている。

「左手だねぇ~?左手で決まり手だねぇ~♪やったぁ~♪遂に正解だぁ~♪スイッチON!左手40℃!」
「……っ!」

 大きく映し出される赤丸。五回目にして正解を勝ち取る。所詮は二分の一の確率。しかし、この正解の意味は大きい。

「あと、一つ」
「ちぃ……」

 苦虫を噛み潰したような顔で睨む。タクヤもまだ二回しか当てていないのだ。ここに来て先攻の理が生きてきた。

「さぁ~追い上げなるかぁ~?交代~♪」
「一回当てた程度でなんだ!次は五分の一だぞ!お前に当てられるか!?対して俺は二回当てた上で三分の一だ!」
「あれあれ?確率で考えているようじゃダメなんじゃないの?万年一位さーん?ちゃーんと推論に基づいて考えきゃね」
「ぐっ……だが、状況は変わらない!残るは右手、左手、左足。せっかく右足をノーダメージで残したのに、左足を犠牲にするとは考えにくい。二本揃ってこその足なのだから。そして、80℃であれば、まだ辛うじて軽度の火傷。治療すれば問題なく完治する程度。大事となるのは、これより後の温度。手よりも足を大事にするお前が、ここで足を切り捨てる訳が無い!『左足』だ!」
「左足だねぇ~?あぁ~足切りは嫌だねぇ~♪正解は~?」

 心理的な揺さぶりは、効果を発揮しなかった。論理的な思考は止まらない。打ちのめされても持ち直す。流石は本気モードのタクヤである。実に強敵……だが……!

「なんと!大~正~解~♪温度UP!左足80℃!」
「うっ……熱っ!っつああああ!!あぢいいいい!!」

 10秒が経過し、カバーが外れる。冷たい空気に安堵を覚える。ヒリヒリする。首が思うように動かせないのでよく見えないが、露出していた皮膚は赤くなっている。ただ、(ただ)れてはいない。風に当たるとピリピリ痛む。大丈夫……落ち着いてきた。思考は正常に戻る。まだ(・・)

 しかし、ここで当てられたのはとても痛い。再度、引き離されてしまった。キッとタクヤを睨む。平然な顔で佇む。

 差は、縮まらない。


・五回戦終了時点
カズキ:頭・右手・左手 残り3部位
タクヤ:頭・胴体・右手・右足・左足 残り5部位


「勝負も身体も白熱して六回戦~♪どっちが勝つかな~?お客さ~ん?もうBETは締め切ってるよ~♪」

 ったく。悪趣味な奴らがいたもんだ。人の気も知らずに……!左足の痛みは引かないが、問題ない。脳の深層まで思考をダイブさせる。タクヤは言っていた。合理的に考えろ(・・・・・・・)と。合理的とは……?タクヤにとっての合理性とは、つまり……

「タクヤ。確か、お前が2番目に答えたのは()だったな。どうして頭にしたか。散々自分で説明してたな。詰まるところ、その答えが一番合理的(・・・)だったから。お前は頭を3番目以降に……80℃以上に置くことに、少なからずリスクを感じていたはず。あとは自明だな。2番目は『頭』だ!」
「頭だねぇ~?あぁ~頭が固いなぁ~♪でも正解!追撃が止まらないよ~♪面白くなってきたよぉ~♪熱々を召し上がれ!頭60℃!」
「ぅ……ぁ…………!っ…………!!」

 タクヤの顔がカバーで覆われる。声にならない声。そのまま10秒が経過する。

「はぁっ、はぁ……っ……想像以上にキツかったな。しかし、脳も無事。眼球も無傷。声帯も正常。ゲーム続行には何も影響が無い。対して、お前は(・・・)どうなるかな?」

 ニヤリ。悪魔のような笑み。

「交代だよ~♪逃げ切れるかな~?」
「逃げ切るも何も、ここで当てれば俺の勝ちだ。勝利確定。何をしようとも勝敗はひっくり返らない。詰みだ。残念だったな」

 確かに。俺が勝つには最短で(・・・)残り4ターン。しかし、タクヤがここで当てたなら、勝利まで最長で(・・・)残り3ターン。決して覆ることはない。だが、俺にはもうどうすることも出来ない。やるだけのことはやった。俺の命は全て、タクヤの選択に委ねられた。

「ふぅん、(だんま)りか。いいだろう。引導を渡してやる。全て理解した。お前はルール説明から導かれるある推論(・・・・)に全てを賭けたんだ。つまり、各部位を温める時間は10秒キッカリ(・・・・・・)という事実に。任意の温度で熱する場合、少なくとも加熱時間が必要。また、高温のままカバーを外す訳にはいかないから、冷却時間も必要。さらに、任意の温度(・・・・・)と公言してしまった手前、その温度を超えて熱することは許されない。目標値を大きく(・・・)オーバーシュートしてはいけない。指定温度の間隔が最小でも20℃であることを考えれば、10%以内……オーバーするにしても目標値から+2℃以内には収めたい。以上より、急激に加熱してか緩やかに目標値へ近付かせる、温度-時間の関係でグラフ化すれば、上側に膨らんだ弧を描く曲線で加熱することが望ましい。冷却も同等。それを全て10秒以内(・・・・)で行うと考えれば、目標の温度が高くなるにつれて難しくなる。つまり、目標温度100℃で熱せられるのは確かだが、仮に(・・)加熱・冷却で各々3秒掛かるとすれば!実際に100℃付近で熱せられるのは実質(・・)4秒!加熱・冷却で4秒掛かる場合は実質(・・)2秒!ならば!例え頭を温められたとしても!ゲームを続行できる程度には耐え切れるのではないか!そう、考えたんだろう。例え、眼球がやられて視力を失おうとも、()声帯(・・)さえ辛うじて無事ならば、ゲームはできる。そう踏んだな?」
「…………っ」

 額から、汗が、垂れる。俺は、なんて化け物を相手にしていたんだ。確かに、それは考えた。頭が辛うじて耐え切れる温度。常識の、その先を。装置の状況から、声のみでゲームが進行することに賭けて。そこまで踏み込んで、タクヤも考えて来るとは。いや、元から考えていたが、その可能性は低いと唾棄していたのか?思考がまとまらない。脳が沸騰する。ここまで追い込まれるとは。ここまで……

「図星だな。今度こそ終わりだ!俺の回答は『頭』だ!」
「頭かぁ~♪それでいいんだねぇ~?本当にホントにいいんだねぇ~?ヒヒヒッ」
「無論」
「頭だねぇ~?あぁ~頭が重いよぉ~♪正解は~?」

 あと一歩だった。

 追い込まれたが、追い詰められてはいなかった。

 前提が異なるのだから。

 無事に勝つことではない。俺の戦略の大前提は!タクヤに一泡吹かせるためならば命の犠牲(・・・・)(いと)わない!

 スクリーンを目の当たりにしたタクヤが愕然とする。驚愕する。幻滅の表情を見せる。記された文字は、紛れもなく×!

「ざ~んね~ん♪大ハズレだぴょ~ん♪愉しいゲームはまだまだ続くよ~♪」
「カズキ……お前は正気か!?最初から死ぬ気だったのか!?」
「まぁ、死ぬ気でやんなきゃ、タクヤには敵わないだろうからな」
「どんだけ無茶な……いや、無茶苦茶だ……」

 進んで死ぬ気は無いが、死ぬ気で勝負に出た。それが功を奏した。命は繋がった。

 流石のタクヤも一泡吹いたようだ。

 悔いは無い。


・六回戦終了時点
カズキ:頭・右手・左手 残り3部位
タクヤ:胴体・右手・右足・左足 残り4部位


「遂に大詰めの七回戦に来たよ~♪接戦だねぇ~♪油断したら~すぐ負けちゃうかもよ~♪」

 俺の答えは、既に決まっている。

「何て言ってたっけな。脳は大事だけど、内臓(・・)も大事、だったよな。胴体を100℃以上の高温に晒すと、内臓機能に多大なる支障を(きた)す可能性が高い。お前ならそう考える。ここで置かなきゃ何処に置く。他の選択肢は有り得ない。よって、『胴体』!」

 外すはずが無い。80℃でも十分リスキーなのだ。頭や胴体を100℃以上に置くなど、頭がイカれている奴しかいない!

「胴体だねぇ~♪どうってこと無いよぉ~?正解は~?」

 どうってこと無い(・・・・・・・・)という言葉にビクッと反応してしまった。いや、アレはウラビットの適当な文句だ。胴ってこと無い訳がない!

「あれれ~?なんと~?正解だぁ~♪熱源スタンバイ!胴体80℃!」
「あ、あぁ……ぐっ!があああ!っつああああ!!」

 タクヤが苦痛に顔を歪める。みるみる顔が赤くなる。耐える。耐える。10秒間。

「追い付いちゃったねぇ~♪追い付かれちゃったねぇ~♪ヒヒヒッ」
「うっ、ふっ……はあぁ…………ふうぅ…………」

 熱から解放され、深呼吸をしている。そうだ、熱いだろう。俺が経験したのも、その熱さだ。共に80℃を経験した。

「耐えた!耐え切ったぞ!胴体を80℃で!傷付いたのは体表のみ!内側の重要器官に影響は無い!脳も内臓もこれ以上のリスクは皆無!」
「だが、追い付いた」
「そういう戯言は、俺が外してから言うんだな。ターンチェンジだ!」
「じゃあ~交代だよ~♪抜けるかな~?並ぶかな~?どっちに転ぶか見ものだなぁ~♪」

 そうだ。追い付いたのは事実だが、不利であることには変わらない。相手の方が一手先を行っているのだから。タクヤが外さなければ……

「はぁ……残念。実に残念だよ。万年二位のクセに、お前は予想以上によくやった。俺を脅かし兼ねない存在だと再認識した。近い未来にライバル足り得る人間だと。だから、残念でならない。今日この時をもって、自分の手で葬り去るのだから」
「既に当てた気になっているようだが、どうなるか分からないぜ?」
「それが、分かるんだよ。それより、お前こそ分かっているのか?俺がこれを当てたら、王手だということを。チェックを掛けられるという事実を。マッチポイントになるという現実を」
「まぁ、そうなるな」
「強がりもいい加減にするんだな。分かっているんだろう。俺に一部始終を見られていた(・・・・・・)ことを。残る選択肢は右手か、左手。仮に200℃以上に晒したら良くて重傷。下手したら一生使い物にならない。2000℃など言わずもがな。つまり、左右のうち消してしまいたい方(・・・・・・・・・)の手を5番目、または6番目に持って来ているはず。それこそが、離してしまった手。妹の手を離してしまった、失ってしまった要因。一生の別れ。悪夢の始まり。因縁の手。問題は、それがどちらか。そして今日、ナツミちゃんに差し出された右手を、お前は掴めなかった(・・・・・・)な。右手を出すことができなかった。全てを確信した。お前が恨んでいるのは自分自身の右手!故に、答えは『左手』だ!」

 物凄い剣幕で言い放つ。気圧される。やはり、見ていたのか。そう、差し出された右手を掴むことができなかった。トラウマによって。

「左手だねぇ~?あぁ~手を取り合ってるよぉ~♪正解は~?」

 脳裏に浮かぶ、右手。絶対に離さないって言ったよね。約束したよね。どウしテ離シたノ?ドうシて?なンで?どウしテどウしテどウしテどウしテ……

 もう二度と、握ることはできない……

 その右手を、掴むは……

「は?」

 タクヤは一文字しか発せられなかった。たが、その一文字に全てが込められていた。

「残念残念残念~♪ざ~んねんながら~超々大ハズレ~♪おめでと~♪同点のままだぁ~♪完全に並ばれたぴょ~ん♪」
「な、んで……?」

 恨めしそうにこちらを見る。その表情には苦悩すら読み取れる。

「タクヤも自分で言ったじゃないか。差し出された右手(・・)を掴むことができなかった。そう、言ったろ……」
「まさかっ……!!」
「俺はトラウマで右手を出せなかった(・・・・・・)訳じゃない。相手の右手を掴めなかった(・・・・・・)だけだ。確かに、正面を向いての握手ならば、差し出された右手に対して右手を出すだろう。だが、一緒にアトラクションを回る……つまり、横に並んで歩く(・・・・・・・)としたら?」
「差し出された右手を、掴むのは……!!」
「そう、左手(・・)だ。俺がこの世から消し去りたいと思っているのは!自分自身の左手だ!!」
「つまり、答えは、右手……」

 まさか、左手に命を助けられるとは。皮肉だな。

 いや、助けてくれたのは、マユか……

 今でも見守ってくれているのか。こんな兄でも。

 ゴメンな。そして、ありがとう……


・七回戦終了時点
カズキ:頭・右手・左手 残り3部位
タクヤ:右手・右足・左足 残り3部位


「愉しい時間が過ぎるのは~早いなぁ~♪もう八回戦だぁ~♪勿体無い~勿体無いよぉ~!」

 遂に並んだ。並んだ上で回答権がこちらにある。一見すると有利に思えるが、そうとも言えない。八回戦でタクヤは確実に(・・・)当ててくるのだ。そう、既に一択(・・)なのだから。つまり、ここで当てなければ、追い付いた意味など無い。本当に追い付いたとは言えない。外せない……

「右手に、右足に、左足……バランスが悪いな。二本揃ってこその足、だったか。四肢ならば、100℃ではまだ犠牲とは言えない。200℃以上が完全なる犠牲。片足だけ残すのは不自然。つまり、ここまで来たら左右の足を犠牲したと考える。俺の逆。足よりも手を選ぶ。大事な右手を切り捨てられる訳が無い。『右手』だ!」
「右手だねぇ~?あぁ~手に余るよぉ~♪正解は~?」

 念じる。祈る。願う。タクヤと言えど、常識は捨てられないと。

「そうだ。右手だよ」

 ポツリ。呟く。

「やったぁ~♪正解だぁ~♪沸騰開始!右手100℃!」
「熱っ……ぎゃあああああ!!手がっ!でがあああああああぁ!!!どげるぅうああああぁァア!!!」

 叫び声が響く。背筋が冷える。ゴクリと、生唾を飲み込む。俺もまた、同じ未来を辿るのだから……

「交代~だけどぉ~?選択肢が一つしかないねぇ~♪答えは『右手』だねぇ~?あぁ~手加減しないよぉ~♪煮沸消毒!右手100℃!」

 一瞬。右手の指先から一瞬にして熱くなる。先刻の左足の比ではない。血が、沸騰する。煮え滾る。これは比喩ではない。血液の沸点は、水のそれと変わらないのだから。

「づぁあああァアアアア!!!」

 長い。10秒間が、とてつもなく、長い。

「いがあおおぁあああああ!!」

 まだ、終わらない。今、何秒。あと、何秒。数えられない。思考が途切れる。

「オォぁあがアァあああ……ぁ……」

 気付けば、終わっていた。

「あああぁ……はぁ……はぁ……」
「ゔっ……あ……ふっ……はあぁ……」

 二人して呼吸を整える。右手は?俺の、右手は?溶けたのか?否、残っていた。無事とは言わないまでも、残っていた。部分的に赤く爛れ、腫れ上がる。まだ水膨れこそ無いものの、猛烈な痛みと灼熱感が未だに拭えない。深さで言えば、Ⅱ度の火傷だろうか。浅いか深いか判断でき兼ねるが、個人的には重傷。問題は……

「っああああ!!100℃で!!コレかよ!!」

 タクヤが叫ぶ。

 奇しくも同じことを考えていた。

 残るは200℃。

 そして、2000℃……

 ここに来て、自身の戦略を後悔した。

 だが、もう遅い……


・八回戦終了時点
カズキ:頭・左手 残り2部位
タクヤ:右足・左足 残り2部位


「来た来た来た来たぁ~♪九・回・戦!決まっちゃうかなぁ~?これで決まっちゃうのかなぁ~?ヒヒヒッ」

 お互いに、肩で息をしながら視線を交わす。

 今。俺の選択に全てが掛かっている。

 リアルな死を間近に感じた。

 これ以上、ペナルティは受けられない。

「へっ、大丈夫か……?」
「大丈夫な訳が無いだろ」

 唐突に話し掛けてくる。交渉でもする気か?決裂すると分かっていながら?

「そんだけ元気なら大丈夫だ。さっさと選べ」
「はっ……」

 違和感を感じる。大丈夫だと?何が?

 考える余裕も余力も無い。

 決めなければ……

「そうだな。右足と左足。普通に考えれば右利きが残したいのは右足。それが自然だ。だが、それでは馬鹿正直過ぎる。この二択が最後に残ると分かっていながら、右足を残すか?逆に非合理的だな。スポーツでもやってない限り、右足も左足も大して変わらない。ならば、捨てるのは右足、残すのは左足。それが合理的だ」
「そうか。流石だよ」

 それは、どういう意味だ?撹乱か?答えを変えさせたいのか?

「俺の答えは!『右足』だ!!」

 痛みを忘れて叫ぶ。シン……と、束の間の静寂。

「いいんだねぇ~?本当にそれでいいんだねぇ~?僕はどうでもいいけどぉ~♪その選択で~後悔しないねぇ~?ヒッ」
「これが、俺の答えだ!」
「右足だねぇ~?あぁ~明日から頑張るよぉ~♪正解は~?」

 空気が張り詰める。来い。来い!来い!!

「ざ~んね~んながらぁ~」

 残念?間違い……いや、残念ながら(・・・)

「なんと~大・正・解!ピンポンピンポーン♪大正解だぴょ~ん♪やったやったぁ~♪まさかの大逆転~♪」

 やった、のか……?俺は、勝った、のか……?

「そうだ。カズキ、お前の勝ちだ」

 タクヤが声を出す。不思議と、悔しそうでは無い。むしろ、慈愛に満ちた表情にすら感じる。

「んじゃあ~やっちゃうよ~?あたためスタート!右足200℃!」
「あ、ああ……」

 タクヤの表情は一瞬で掻き消される。絶望的なまでに圧倒的な恐怖に飲み込まれる。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!」

 大音量が部屋中を駆け巡る。耳をつん裂く。聞いていられない。どれだけの苦痛か、想像もできない。が、俺も経験するかもしれない。只々、タクヤの悲鳴に耐えるしか無かった。

 終わる。悲鳴が終わる。

 ただ、ゲームはまだ(・・)、終わっていない。

「いい声で鳴くねぇ~♪あぁ~脳がとろけるぅ~♪負けちゃったのは~しょうがないねぇ~♪気を取り直して~拷問(ゲーム)再開だぁ~♪是が非でも一矢報いちゃうといいよぉ~♪それとも~?まだ勝てる見込みが~?あったりしてぇ!!!」

 そう。まだ、その可能性があるのだ。相手の頭を200℃で焼けば、死亡またはゲーム続行不能となって、勝てるかもしれないのだ。タクヤがそれに気付かない訳が無い。そして、このままでは負けると分かっているのであれば、その選択に賭ける可能性は極めて高い。一矢報いるよりも、勝てる可能性を……

「ぁ、ぁぁ……ゃ……っ…………」

 タクヤは見るからに消耗していた。服は燃え、右足は満遍なく焼け爛れ、赤というよりは、ドス黒い。誰がどう見ても重傷。広範囲のⅢ度の火傷。皮膚の再生も見込めないだろう。200℃まで上がってしまっては、加熱・冷却時間など元も子もない。

 アレをやったのは、誰だ?

 そう、俺だ。

 吐き気が込み上げる。ダメだ。吐いては、吐いてはいけない。

「はぁ……ぁぁ……だぁい……じょぉ……ぶ……もぅ……ぃたみ……は、無い……っ!ああっ!!」

 痛みが、無い?ヤバイ。ヤバイじゃないか!

「そんなっ!」

 無意識のうちに声を出す。そんな?同情するのか?なら、お前も同じのを受けてみるか?いや……嫌だ……

「苦しい……だけ、だ。身体が、脳、が……警鐘、するだけ……続行……っ!!」

 どう足掻いてもゲームを続ける気だ。その真意は。

「俺の……負け、だ……もう、諦めるさ……一矢、報いる……つもりもない……俺は、どっちを、選べばいい……?頭か、左手か……?」

 何を言っているんだ。ワザと外すから、答えを教えろだと……?信じられるか?そもそも、発破を掛けてきたのはタクヤの方……
 何かが、おかしい?それでも、正解を教える訳にはいかない。何故なら……

「どうした……答えられない、のか……?そうだ、ろうな……仮に頭が正解ならば、左手を選べと言う。だが、それは……頭を選べば、お前の勝ちだと、暴露してるようなもの……左手が正解なら、頭を選べと言う。だが、それは……左手を選べば、一矢報いて死ねる、ということ……」
「頭だ。頭を、選んでくれ」

 真っ直ぐに、タクヤの目を見る。この選択で、よかったんだよな……?本当に……

「ふぅー…………」

 タクヤが大きな溜息をつく。

「この後に及んで、嘘を吐くとは……最期くらい、親友を信じてみろよ。ったく、世話の焼ける奴だ……」
「なっ……!?」
「いいか……お前は、無茶をする奴だ。俺を倒すために、そりゃあ、物凄い無茶を……するだろう。さて、頭と左手、どっちを最後に置くのが無茶か。まさか……左手を最後まで残して、200℃に頭を置いて寿命を縮める奴が存在するなんて、誰が予想するか。そんなことするのは、お前くらいだよ。でもな……最初にも言ったろ?お前がラストに手を置くことぐらい予想済みだって。手なんて跡形もなく、無くなってしまえと、そう考えていたんだろう?導かれる結論は一つ……」
「あぁ……」

 ダメだ。もう、お終いだ。タクヤは頭を選ぶだろう。そして、俺は死ぬだろう。200℃で頭を焼かれて。脳は無事では済まされない。明確な、死。戦略を誤った。ここまで俺の考えを読み解いているとは……全て読み解いて(・・・・・)いた……?

「ってな訳で、あばよ。俺の回答は!『左手』!これで絶対確定だ!!」
「は?」

 理解ができない。深読み?いや、深読みする意味が無い。二つのルートから同じ結論を導き出しているのだから。計算結果を検算した上で、別の答えを書く馬鹿がいるか?

「左手だねぇ~?あぁ~これ以上の手は無いよぉ~♪正解は~」
「間違い、だろ?」

 スクリーンに映し出されるは、×の文字。

「なんと!残念残念~♪ハズレだよぉ~♪あれれ~?残念そうじゃないねぇ~?」
「なっ、どうして!?どうして!!そっちを選んだ!?」
「最初から、そういう運命だったのさ。まぁ……合理的に考えてみろよ」

 タクヤは、そう言い放ち、確かにニコリと笑った。


・九回戦終了時点
カズキ:頭・左手 残り2部位【勝利確定】
タクヤ:右足 残り1部位


「泣いても笑っても死んでも生きても十回戦!愉しい拷問(ゲーム)も遂に終わり~♪いや~今日も愉しかったぴょ~ん♪最後のは期待外れだったけど~まぁ~いいさぁ~♪最後の最期のお楽しみが待っているんだからぁ~♪」
「待て!待ってくれ!」
「待たないよぉ~♪みんな待ち切れないんだからぁ~♪この瞬間がさぁ!!!もう君に選択権は無いんだ!だって~一択しか無いんだよぉ~♪」
「そんな!ふざけんな!!待てよ!!やめろ!!!」
「という訳で~ラストは~右足かぁ~?あぁ~足が棒じゃなくて灰になっちゃうううううう!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ~♪レッツ焼却!右足2000℃!」
「やめろおおおおおおおおおおお!!!」

 タクヤは目を閉じていた。何も言わなかった。始まってしまう……拷問が……処刑が、始まる……

 残念ながら(・・・・・)大正解の意味を、ここに来て初めて正しく理解した。

「■■■■■■■■■■■■■■■~!!!!」

 声にならない、声。金属のカバーが真っ赤に変色している。燃えているのだ。熱しているのでは無い。本当に、焼却しているのだ。

「タクヤぁああああああああああああ!!!」

 これ程までに長い10秒間は、人生で初めてだった。

   ◇   ◇

「タクヤ!タクヤ!!おい!起きろ!!」
「あ、あぁ……?なんだ、カズキか……夢だった、のか……?」
「ああ!夢だ!!悪い夢だ!!」

 一瞬信じかけたタクヤの脳が、それを即座に打ち消す。スクリーンが見える。そこで点滅する文字は……

『WINNER:カズキ』

「そうだ、そうだ。俺は負けたんだな。そろそろ俺は、死ぬんだろう」
「バカ言うな!そんな訳が無いだろ!まだ間に合う!今から病院に行けば!!」
「無事にここから出られるのは一人、だろ?それに、もう助からないことは、分かってる……皮膚の20%以上が重度の火傷なんだから……もっとも、痛みは全く無いんだがな。あぁ、無いからか。なるほど、これが幻肢って奴か……」

 タクヤの右足は、何処にも無かった。根元から、骨まで溶かされて、消えて、無くなった……

「馬鹿野郎……なんで、最期に……ワザと負けた……」
「なーに、言ってんだ。最期じゃねぇよ。最初から(・・・・)、だよ。何年一緒にいたと、思ってんだ。お前の思考を、読み取ることなんざ……数学の模試で満点取るより、楽勝だよ……」

 言葉が出ない。これが絶句する、ということか。思い返せば、ゲームの節々で不自然な点はあった。突然の挑発。解説染みた発言。合理的に考えろという示唆。俺を思いやるような言動。そして。最期の選択。

「そんなことが……出来る訳……」
「出来るんだよ。俺は、学年トップの天才だからなぁ。まぁ、それも終わり。今日から、お前が一位だ」
「やめろよ……」
「地下の書類を見た時点で、ある程度は覚悟してたさ。こんなゲームになるとは、思って無かったが……かなり危ない橋は、渡ったが……最初に四連続で外すとか何だよ。冷や汗かいたわ。答えに適当な理由を付けるのにも、苦労したぜ。それに、右手と左手って……最後に俺があんな凡ミスすると思うか?はぁ……ただ、お前ならやれるって、信じてたぞ」
「こんな回りくどいこと……すんじゃねぇよ……」
「いや、打ち合わせなんてして……ゲームを盛り下げたら……二人とも殺されてただろ……お前、演技下手だし……」
「タクヤ……何処まで演技だったよ……なんで!俺なんかのために死ぬんだよ!!!」

 タクヤは笑う。

「この裏野ドリームランドの実態を知って……俺は……怒ってただろ?でも、俺の怒りなんざ、所詮……お前の境遇を知った上での……同情による付け焼き刃でしか、無いんだ。自分の身には、何も降り掛かっていないんだから。ここで知ったことを、どんなことがあろうと、絶対に世間に公表する。そういう意志の強さで、心の奥底で燃え滾る執念の深さで比べたら、どう考えてもお前が生き残るべき、だ。客観的に、考えてな……」

 タクヤは目を閉じる……

「目を開けろ!死ぬな!俺なんかのために!死ぬな!!」
「お前のために、死ぬんじゃ、ねぇよ……人類のため……真実のために、死ぬんだ…………だから、あとは………………頼んだ」

 俺の左手を握ったまま、タクヤは動かなくなった。

「嘘、だろ……?」

 ゴロンと、床に転がる。

「嘘だって、言ってくれよ……」

 虚ろな眼。

「ほら、起きろ。ここから出るぞ?」

 これが、死。

「うわああああぁああああああああぁ!!!」

 涙が零れる。悲しみよりも、怒りが込み上げる。

 許せない……いや、許さない……!!

「てめぇらあああああああぁ!!絶対に許さねぇぞぉおおおおおお!!!」

 カメラに向かって、叫ぶ。スクリーンには、もう何も映っていない。

 ……どれだけ経っただろうか。

 気付く。奥の扉が、開いている。

 そうだ。俺は出なければ。生きてここから、出なければ。一切の重傷を負ってないのも、タクヤのお陰だった。

 扉を抜ける前に、横たわるタクヤを一瞥する。

 あとは……任せろ!!

   ◇   ◇

 通路を進んでいくと、光が見えた。

 遂に、出口か。長かった。

 走り抜ける。振り返らずに。

 ふと、気付く。

 今まで真っ直ぐな通路(・・・・・・・)だったじゃないか!

 嫌な予感がする。

 通路を抜けるとそこは……

「なっ……」

 部屋だった。明かりの灯った部屋だった。

 そう、俺は階段を上がっていない。

 まだ、ここは地下だ。

 影が動く。

「誰だ!!」
「ひぃいいい!!殺さないでええぇ!!!」

 そこに居たのは、マサトだった。

 ドリームキャッスルでの不可解な疑問が、全て氷解した。

 コイツは既に(・・)捕まっていたのだ!

「マサトォ!!」
「ひぃい!!って、カズキ。カズキじゃねーか!!何で来た!?お前にもメッセージは伝わってなかったのか!?」
「はぁ?お前のメッセージなら届いてるぞ?」
「そうじゃねーよ!!そういう意味じゃねーよ!!」
「それより、お前に()って、言ったよな。他に誰に会ったんだ?どうして、今は一人なんだ……?」
「ああ……ハルカちゃんが……違う。俺のせいじゃない。俺は悪くない。俺じゃない。やったのは俺じゃないんだぁああああ」

 その時、全てを察してしまった。

 コイツも、俺と同じなのだと。

 そして、そんな人間を二人も集めて、これから何を始めるのか。

「ようこそ~初戦突破おめでと~♪お待ちかねの二戦目だよ~♪」

 スクリーンに、奴が現れる。

ここ(・・)から無事に出られるのは~ゲームの勝者ただ一人のみ~♪ちゃんと生きていればね~?」

 どうやら、俺たちは勘違いしていたようだ。

 この部屋(・・・・)から無事に出られるのは、ただ一人。

 悪夢は終わらない。

 だが、俺は……負ける訳にはいかない。

 二人(・・)のためにも。

 左手を、グッと強く握りしめる。
最後の謎
Q1.ブログに隠されたメッセージとは?
Q2.マサトの送った真のメッセージとは?
Q3.ゲーム機の名前の意味とは?

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