ファンタジーショートショート:お祭りに召喚された勇者
「この国を救えるのはお前さんしかおらんのじゃ!理不尽かとは思うが、勇者としてこの世界を救ってくれ!」
王宮には王と側近達そして召喚された青年が居た。
青年は暫く考え込んでいたが決意したのか王にこう告げる。
「分かりました。私の力でどこまでお役立てできるか分かりませんが力を貸しましょう!」
その一言で王宮内はわっと明るくなった。
「ありがとう勇者殿。さぁこれから皆で力を合わせて魔王を討つのじゃ!」
王がその場に居る全員に聞こえる位の大声を上げ拳を振り上げた。
しかし次の瞬間には満面の笑顔になりこう切り出した。
「さぁ儀式も終えた!祭りじゃあああああああああああ!」
驚く勇者を尻目に彼方此方から歓声が上がり、鐘もあちこちで鳴り出す。
「さぁ魔王軍と勝負じゃあ!皆の者続けぇぃ!」
王と側近は全員外へ走り出してしまいそこには、勇者だけが取り残された。
「どうゆうことだ?」
勇者が混乱しているとそこへ貴族風の男が現れた。
「勇者様もこの祭りの重要な要素だと言うのに説明もせず行ってしまわれるとは・・・始めまして私はこの祭りを今回取り仕切っている者です。」
「祭り?」
勇者がそのフレーズに混乱しているとその男は丁寧に説明してくれた。
「そうです。この祭りは、魔王軍との戦いの中から生まれました。お互いに疲弊していた両軍は、このままではどちらも共倒れになる事を恐れ和議を結んだのです」
「何?と言う事はこの世界は平和だと言う事か?」
「そうですね。ただ和議を結んだとしてもお互いしこりが残り小競り合いが絶えませんでした。それを何とか発散するべく考えられたのがこの祭りなのです」
今一その説明だけでは理解できない勇者に貴族は「では祭りの会場へ向かいましょう」と言って勇者を誘った。
そこは一面真っ赤に染まっていた。
「こ、これは・・・」
勇者が愕然としていると貴族は嬉しそうに語りだした。
「どうです!すごいでしょうこの祭りは!」
人間も魔族も関係なしに皆で赤い実をぶつけ合っていたのだ。
その赤い実の汁で人間も魔族も建物も真っ赤に染まっていたのだ。
「お互いにこの赤い実を投げつけることにしたのです。勿論殺傷能力はありませんよ?」
その貴族の言葉に勇者は耳を疑った。様々なゴーレムや巨人種族が散弾のように赤い実を投げつけるとそこに居た人々が吹っ飛ばされる。かと思えば魔法使いがなにやら呪文を唱えると赤い実が巨大になっていき、砲弾よろしく魔族の真上に落とされるのだ。
「これで死者が出ないと・・・?」
「勿論です。安全対策に抜かりはありませんよ!」
満面の笑顔で返されて勇者は黙るしかなった。
「つまり私があの場で魔王と倒すと宣言するまでが儀式だったと言う事なんですね?」
「そうゆうことになりますね」
「と言う事は私の役目はもう無いのではありませんか?元の世界へ帰してもらえませんかね?」
「勇者様にはこの祭りの大取りを勤めていただかないと!」
勇者が首をかしげていると貴族は説明する。
「魔王との一騎打ちですよ!あの赤い実でね!」
その話を聞いて露骨に嫌な顔をする勇者。
「この祭りで最後の勇者と魔王の一騎打ちで勝敗が決まるのです。勝ったほうに幸運が訪れるとか・・・!」
勇者は自分達で作った祭りで幸運も何も無いだろうと呆れかけたが、ふと思いついたことを口にした。
「そういえば魔王は?」
「勇者様。先ほど我々の王宮の隣にあった立派な城。あれが魔王城でございます」
その言葉に勇者は唖然とした。
「この祭りをきっかけに休息に関係が良くなりましてな。この祭りのために移動するのもめんどくさいとお互い言い出し結局、隣同士に城を建てたのです」
もう勇者は呆れを通り越して力なく笑うだけだった。
「さぁ勇者様の出番です!頑張って!」
山車の上に乗せられた勇者は所在なさげに目をキョロキョロしていた。彼方此方から声援が送られる。そして道の先に同じ位の大きさの山車が現れた。
「ほう!今年はそいつが勇者か!楽しませてくれよ!」
そう言い放ったのは、魔王であった。期待に目を輝かせている所が子供みたいであったが筋骨隆々のその体でやられては気持ち悪いの一言であった。
「では行くぞ!勇者よ!」
「こい!魔王!」
やけくそ気味に勇者も叫ぶ。
お互い手に一杯の赤い実を持った最終決戦の火蓋が切って落とされたのだ。