弐、旅立ち 序章
――ラリアス王国東部にある街、ウィング・シティ。通称【風の街】。
ラリアス王国には他にも、北に【水の街】アクア・シティ、南に【炎の街】フレア・シティ、西に【雷の街】エレキ・シティという街がある。
其れらを【四聖の街】と言い、季節によって各地で交代で祭りをやっていた。
今は春。ウィング・シティの祭りの季節である。
街の人達は、今日も来週から始まる祭りの準備を賑やかにやっていた。
「おっ、若ではないスか!」
町の入り口で看板を付けていた男・リヴァスは、下に立っているチャイナ風の服装をした少年に気付き声を掛けた。
「よぉ、リヴァス。つか、俺を『若』と呼ぶのはよしてくれよ…雷兄の方が上なんだからさぁ…」
「何云ってるスか!?オイラにとって、雷鳴様は【御頭】で、龍稔様は【若】でやんすよ!」
「んな事云われると、此方が照れるじゃねぇか//」
リヴァスの言葉に、少年・龍稔は顔を真っ赤にしながら言った。
「そう云えば、御頭と姐御は一緒じゃねぇんですかい?」
「ん?あぁ…雷兄と義姉さんか…今、花の調達に出てるよ。なぁ、俺になんか手伝える事はねぇか?今、暇でさぁ…」
「良いんですかい?そんじゃあ…この看板の右側の釘打をお願いしやすかねぇ…?」
「分かった」
リヴァスに頼まれ、龍稔は看板の右側の釘打をし始めた。
この街では、上下等の関係はあまり無く、皆で助け合いながら築いていた。
そんな街に――
「あれ?」
入口横に屋台を建てていた少女・リーヴは、街道の方から此方へと近付いてくる影に気付いた。
其の影は段々と大きくなり、形を現した。
其れは、白馬が運ぶ豪華な馬車だった。
「アレは…若!」
リーヴは、其れが何処の馬車か分かると、直ぐに龍稔を呼んだ。
「何だ?リーヴ」
「お、王族の馬車が来ます!」
「はい?」
龍稔は、キョトンとした。
この街には、滅多に王族の馬車は来ない。来るとしたら、春に行なわれる花祭りの当日…一週間前に等来ないのだ。絶対に…
其の場者が今来たという事は――
(何か遭ったのか…?)
龍稔は、そう心の中で思い、馬車が来ている方向をジーッと見ていた。
「如何しやす?若」
「参ったなぁ…今、雷兄居ないしなぁ…」
龍稔は、釘打を止め腕を組む。
彼が言う『雷兄』とは――母違いの兄・雷鳴の事である。
雷鳴は、ウィング・シティの若き領主で、父・光来の影響もあり、街の人達からの信頼が厚い。
しかし、ラリアル国王直属の部隊【傭兵隊】を指揮する隊長でもある為、何時も街に居ないのだ。今日は、違う理由で居ないのだが…
おっと…説明し忘れていたが、彼の名は、神 龍稔。この街に住む十六歳の少年である。ただ、彼には幾つか秘密があり、この先は物語を見れば、お分かり頂けるかと思うが…
「仕方が無い…俺が出迎えるよ」
龍稔はそう言うと、金槌を看板を支える台に置き、一気に飛び降りた。
彼の躯は、宙を舞い、フワリと地面に着地した。
其の瞬間、馬車は彼の前で急停止する。
「何奴だ…?この馬車が、ラリアス王家の者であると知っての事か!?」
「(ん?雷兄に用があって来たのか…そう云えば、雷兄宛てに国王の手紙が…)知ってますよ。ようこそ…ウィング・シティへ。俺は、この街の領主の弟で、名前は神龍稔。生憎…兄は不在でして、宜しければ、俺が承りますが…?」
「何故…我等が、領主に用があると知っている!?」
龍稔の言葉に、家来らしき男は驚きを隠せずに居た。
「兄宛ての手紙は、全部事前に俺が見てますから…」
彼は正直に答えるが、家来らしき男は疑い深い目を見せている。
「如何かしたか?」
すると、馬車の中から声が聞こえて来た。
「あ…国王様…実は――」
家来らしき男は、馬車の中に入り、国王に事情を説明する。
其の一部始終を龍稔は、神族の特殊能力である【霊視】で様子を覗っていた。
そう…彼は、神族なのだ。
神族とは、特殊能力を備え持つ種族の中では、一番世界の実権を握っている一族で、世界は神族によって動かされているのは過言では無い。
神族は、主に天界に暮らしているのだが、そんな一族の一人である龍稔が何故この人間界に居るのか――其れは、彼もまた光族との混血系の【異色種】である為、処刑を免れる為に避難したのだ。勿論、其の光族とは、光来の事である。
「成程…良いだろう…」
(この声が国王…?あれ…?此れ、何処かで聞いた事があるような…)
「し、しかし…」
「構わない…此処からは、僕一人で入る」
国王は、ゆっくりと馬車から降りた。
「あ…」
龍稔は、見た事があった。自分がよろず屋として城に出向いた時に、直接では無いが遠くからチラリと…
だが、今回は間近で見られる事もあり、緊張をしていた。
国王は、降りて直ぐに、龍稔に近付き――
「やあ、久し振りだね…」
と、面識も無い筈の龍稔に言った。
「え…?」
龍稔は、訳も分からずに首を傾げた。
(俺…前にあったっけ…?でも、この声…何処かで…)
彼が心の中でそう思っていると、国王は更に分かり易いように言う。
「私だよ…【ケイアス】」
「へ…?い〜ぃぃぃぃぃ!?」
其の言葉で、龍稔は声の主が誰なのか思い出した。
そう…彼はこの者と五年前に会っているのだ…天界で。
姿は違うが、【霊視】で直ぐに分かった。ある人物である事に――
「ミ、ミカエル!?」
「無礼者!この方は――」
「大きくなったね…ケイアス」
「え…!?」
事情がイマイチ呑み込めない家来は、二人の間で戸惑いを見せていた。
「こ…国王様…其方の方とは、何時からお知り合いで…?」
「何時って…もう五年も前から――」
「え!?五年前って、まだ就任前で、城に閉じ込められていた筈じゃ…!?」
「あ…!」
家来の言葉に、国王・ルークは思わず口を押さえた。
そう…五年前とは、彼が玉座に就く前で、就任式典を一ヵ月後に控え監禁されていた時だった。
恐らく、隠し通路を通って、潮を抜け出したのだろうが――
「国王様?」
「オッホン…帰りはこの者に送って貰うから、もう帰って良いよ」
「畏まりました。では、陛下…道中お気を付けて…」
「ちょ、ちょっと待て!」
ルークの命令に、執事らしき男が承諾すると、家来は反論する。
「信用出来ぬか?カラス」
「はい!全く!!」
如何やら、龍稔を信用していない様である。家来・カラスは、まだ彼に疑いの目を向けていた。
「君の上司である、この僕の弟だと云ってもかい?」
「ぇ?」
カラスは後ろを振り向いた。
其処には、茶髪の青年が立っていた。其の背後には、殺気が漂っている。
カラスは其れを見て、息をゴクリと飲み込んだ。
「い、いえ…とんでも無い…隊長の弟だったら、文句は云いません!では、失礼します!!」
彼はそう言うと、慌てて馬車に乗り、ラリアス・シティへと出発した。
『おかえりなさい!御頭!!』
「おいおい…父さんじゃないんだから…普通で良いって…」
茶髪の青年を町の人達は出迎えると、彼は照れながら言う。
この青年こそが、神雷鳴。龍稔の腹違いの兄である。
彼は、龍稔と違い純血系の光族で、現長を務めている傍ら、ウィング・シティの領主と【傭兵隊】の隊長をやっており、ラリアスとウィングを行き来する毎日を送っている。
此処で一つ補足しておこう…
ラリアスとウィングの間は往復四〜六日なのだが、彼は何時も六時間で往復している。
如何やってしているかは先の話である為、此れは此処までにしておくとしよう… |