壱、十三の神と鍵 終幕
――ラリアス王国の首都【ラリアス・シティ】。
其の中心部に聳え立つのは、この国の王が住む城――ラリアス城。
そして、この城内の一角にある一室――其の部屋こそ、ラリアス王家第二十代王位継承者ルーク=アーサー=ルネスト=ラリアスの部屋である。
[ミカエル…天界が大騒動になってるぜ?]
其の部屋の窓から室内に入った、三つの尾と角を持つ小さな蒼き獣は椅子に座り、違う窓の外を眺めている少年にそう言った。
「私の知った事では無い…其れに、今の私は【ルーク】だぞ?」
少年はそう言い、ムスッとした顔をする。
そう…この少年こそ、五年前に死んだ筈のあのルークであり、魂を他の躯に移す能力を利用し、この躯に移したあのミカエルでもあった。
では…この小さな蒼き獣は、というと――
[ワリィワリィ…影武者としてやってるのに、こうして見ると何と無しに云っちまうんだ…]
「まったく…感謝して欲しいものだ…私は、お前の為に多少は努力したつもりだが…?」
[ヘイへイ…感謝してますよ〜ぉだ]
「お前は、相変わらず変わっておらんな…【光来】よ…」
[アンタもな…?]
そう…あの光来である。
其れは…代価とする対象者の魂を別の躯に移す能力。
五年前…盗賊のアジトからミカエルが姿を消した後の事。
光来は、コッソリと城へ侵入し、ミカエルであるルークに会っていたのだ。
彼は、元々二十歳から二十七歳までの間、この城の軍に所属していた為、城の隠し通路などは熟知しており、簡単にルークの部屋に入れた。
「よう、ミカェ――うぐっ!?」
ルークの部屋までの隠し通路を出て、彼に再会の挨拶をしようとすると、光来は口を思いっきり押さえられた。
「ば、馬鹿!今は拙いから!!」
「ぶはっ!な、何で!?」
「兵士に見つかったら、豪い事になるのだ…だから、話すのなら場所を変えよう…」
「豪い事にねぇ…分かった。ついて来な!ついでに、隠し通路を全部教えてやるから」
「其れは有難いな…では、行こう」
「ああ…」
二人は、隠し通路を通り、城の外へ出た。
「嗚呼…やはり、外の空気は新鮮で格別だな…」
外へ出ると、ルークは両腕を空高く挙げ、躯をう〜ん…と伸ばした。
「あれ?ミカエル…まさか、この一ヶ月間…」
「うむ…部屋にずっと閉じ込められていた…」
「あらら…そうだったんだ…」
そう…ルークの誘拐事件以来、城の警備は更に厳重なものとなっていた。
ルークは王位継承者である為、此れ以上の危険を晒してはならないのでは?と話し合った結果、国の特別議会で『城から外へ出してはならない』と決定し、彼は外へ一歩も出しては貰えていなかったのだ。
「光来、感謝する…私を外に連れ出してくれて…」
「そんなに畏まるなよ!こっちが照れるじゃねぇか…」
ルークの感謝の言葉に、光来は照れながら言った。
「さて…何処で話す?」
「私は何処でも構わない…」
何処に行くという目的も無く、二人はただただ歩いていた。
「ふ〜ん…じゃあ、俺が良く一人で修行している秘密の場所に行くか?」
「秘密の場所?」
「そ、俺のとっておきの場所☆」
「秘密の場所か…一度行ってみたいな…」
「なら、行こうぜ?」
「え?でも…外に出ては――」
「良いから良いから…よっ!」
「ちょ、ちょっと!?光来!?」
遠慮がちなルークを見て、光来はそんな事お構い無しという感じで彼を抱き上げると、肩で担ぐかの様にしてある所まで更に歩いた。
ルークは「降ろせ!」と顔を真っ赤にし、足をバタバタと動かしながら言うが、光来から見るとまだ子供――彼の蹴り等全く効かなかった。
暫く歩くと、城の裏にある森の中に、不思議など洞窟が見えて来た。
中に入ると、水晶の塊が幾つも散らばった形で見えた。
「お、此処此処…」
光来は、少し歩いてから足を停め、ルークを其の場に降ろし、水晶の塊の中で彼が座れそうなのに座らせた。
「此処は…神族しか入れない聖なる洞窟では無いか…!何故、此処に連れて来た…?」
「此処なら、普通の人間が入って来る事も無いだろ?」
「成程…考えたものだな…」
「そりゃ、どうも…」
光来も、水晶の塊に腰を掛けた。
「なぁ…俺って、五年後死ぬんだよな…?ミカエル」
「ああ…確かな…」
「そう云えば、さっきから気になったんだけど…あのボウズの言葉遣いじゃねぇな…」
「で?何用で、私の所へ来たのだ…?」
光来の言葉を流し、ルークは聞いた。
すると、光来は暗い顔になった。
「アンタに頼みたい…俺は、息子――龍稔の成長を見届けたいんだ…だから…」
「つまり…『私の能力で如何にかしてくれ』と?」
ルークの問いに、光来はコクリと頷いた。
其れを見て、ルークはハァ…と大きく溜め息をつく。
「今回だけだぞ?」
「勿論、其れは分かってる…」
「但し…条件がある」
「条件?」
話は戻り――
[あの条件はキツかったなぁ…]
光来は、其れから今までの事を振り返っていた。
[まさか、この霊獣の能力が【複製】で…オマケに、条件がアンタの【影武者】だもんなぁ…]
「で?この五年で慣れたかい?私がやっていた仕事は…」
ルークの問いに、光来は[大分慣れてきた]と答えた。
そして、子供の様子は?と聞くと、悲しげな顔になり――
[龍稔の奴、ヨネのババアに色々と叩き込まれていたみてぇだ…だけど、やっぱり…昔の俺と一緒で、独りぼっちだった…]
「そうか…あと五年程したら、私も天界へ赴く…其の時に、彼に会う事にしよう…」
[あっ…そうだ。此れをアルベルトから渡されたんだっけ…]
光来はそう言って、背中をルークに向けた。背中にはリュックがあった。
「アルから?まさか、例の物か…?」
ルークは、リュックを開け、中からある物を取り出した。
其れは、光来が背負うリュックに入り切れない程の大きな箱で、中には十三の鍵が入っていた。
実は、このリュック――魔法みたいに何でも入るのだ。
「やっぱり…」
[おい…何だよ?其れは…]
「此れ?此れが、あの例の【十三の鍵】さ…【長老会】を慌てされる為にやったのさ」
[はい!?アンタ、さっき『知らない』って云っ――!?]
光来が言おうとすると、ルークは口に人差し指を立てた。
十三の神の証である【十三の鍵】――天界では今、騒動の元となっている物。
普通は、称号を持つ者に渡される物なのだが、ルーク――いや、ミカエルは実際に受け取った事が無かった。
其処で、疑問に思ったのだ…【長老会】は、何か良からぬことを隠しているのでは無いかと――
其れが確信となったのは、此れから四年後――ルークが、【聖王神】ミカエル=コールドとして、天界へ久々に帰った時の事である。生憎、現段階でのこの辺りの話は、NGとさせて頂きたい…
さて、其の後の【十三の鍵】の行方は、というと――ルークが各地に隠したという。
そして、月日は流れ――
【長老会】が、ある少年に【十三の鍵】と、【十三の神】の称号を持つ者達の捜索を命じる事になる。
ミカエルが人間界へ降りルークと出逢ってから、十六年の月日が経っていた…
『壱、十三の神と鍵』 ―完―
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