壱、十三の神と鍵 第五幕
「あっ!馬鹿!!」
光来も何かに気づいたのか、ルークに駆け寄ろうとしたが、既に遅し――天井に突然出現した何かが、ルークの腹部に突き刺さった。
「え?」
ルークは、何が起きたのか分からず、自分の腹部を見た。
腹部からは赤い血が溢れて来ており、ジワジワと服に赤い染みを作って行く。
「ぼ…僕のお腹に光の矢が…刺さってる…」
そう…天井から落ちて来たのは、光の矢。【天界の民】にしか扱えない其の矢が、ルークの腹部に刺さっていた。
光の矢は直ぐに消え、ルークは其の場に倒れ込んだ。
辺りには、大量の血の海が作り出されていた。
「ルーク!」
ミカエルは、急いで駆け寄り、彼の小さな躯を抱えた。
「そ、そんな…!?」
しかし、もうルークは息をしてはおらず、脈も動いてはいなかった…
「コイツは拙い…終結が酷すぎる…此れは、助かる見込みが無いぜ?」
「わ…私がいけないんだ…私が、ルークの前に現れなければ、ルークは両親の元へ無事に返せたし…家族水入らずに暮らせていた…もう、私に【神】と名乗る資格は無い…」
光来の言葉に、ミカエルは絶望的な言葉を漏らした。
其の声は、最早【神】としての気力が失いかけていた。
「おい…」
「…」
光来の声掛けに、ミカエルは反応しなかった。いや、出来なかった。自分が居ながら、目の前の者を守れなかった悔しさに絶望して――
「アンタは、神様なんだろ?」
しかし、其の言葉に、ミカエルはピクッとした。
「アンタが絶望してたら、他の者まで絶望しちまうぜ?其れでも良いのか?」
「良くない…でも、私は…そんなに全能な神では無い…」
「じゃあ…何だって云うんだ?混血だからか?」
「…」
再び、ミカエルは黙り込み、考え始めた。自分は何の為の神なのかを――
【聖王神】とは、希望と創造の神。ならば、自分は沢山の人々の希望を叶えられる程の器を持つ神なのかと――
「答えは、もう出てんじゃねぇのか?ほら、前に俺に話してただろ?『目の前に見える者からでも良いから、希望を叶えられる神でありたい』って…あれが、アンタの答えじゃねぇのか?」
「あっ…」
光来の言葉に、ミカエルはハッと思い出した。自分が言った事を――
「そうだったな…私は、もう決めたのだったな…すまない…光来」
彼は、そう言うと立ち上がり、【天界の民】の姿に戻った。
そして、光来に手を差し出した。
「ん?何だよ…?」
「私は、光来――お前の今の願いを聞きたい…『目の前に見える者からでも願いを叶えられる神でありたい』と自分で云った限り、私は其れを実行したい…」
「願いか…俺は、今のところ願いはねぇよ…」
「え?」
「アンタの願いは、『ボウズを助けたい』なんだろ?だったら、俺が其の願いを叶えてやりたい」
「光来?」
意外な返事に、ミカエルは首を傾げた。
「代価ってモンがあんだろ?アンタが、魂を他の躯に移す為の代価が…」
「こ…光来!?お前、まさか!?」
光来が自分にしか見せない笑みを浮かべた瞬間、ミカエルはやっと理解した。光来の言葉を――そして、今までの彼の行動を――
彼は、初めからミカエルがこの地に来る事を読んでいたのである。
そう…光来は、ルークを殺そうとしたのではない。ミカエルを救おうとしていたのだ。【長老会】という魔の手から――
「俺には、母親違いだが…息子が二人居る。アンタも知ってるだろ?次男坊が、神と光の混血だってのを――」
「ああ…確か、まだ生まれたばか…ぃ――って、お前!息子二人を残して、私の代価になると云うのか!?」
「ああ…そうだ。其のまさかだ」
ミカエルは、光来の言葉に反論が出来なかった。
何故なら、自分が絶望していた時に、彼の言葉で希望を取り戻す事が出来たのだから… |