壱、十三の神と鍵 序幕
――ある日の事。
【天界の民】が一人、人間界に舞い降りた。
そして、其の者は翼を静かに折り畳んだ…
「此処が…人間界…」
彼は、辺りを見渡すと、そう呟いた。
辺りは荒れ果てており、人々は飢えている。
そして、目の前には、誰も住んでいない様な荒れた空家があり、中を覗くと、子供達がグッタリとした状態で倒れていた。
「な…何て有り様だ…私が見てきたのは――」
私が見てきたのは…?と、彼は首を傾げた。
「私が見てきたのは、見てきたのは…一体何なのだ…?と云うより、私は誰なのだ!?」
彼は、頭を抱えた。
そう…彼は、記憶が無いのだ。天界での自分の記憶が――
自分は、一体誰なのか…?
自分は、一体何者なのか…?
自分は、何故人間界へ降り立ったのか…?
【天界の民】である事以外の何もかもが、彼の記憶から消えていた。
思い出そうとすると、頭が痛い…!と、彼はそう感じていた。
しかし、彼の記憶は、とある少年によって完全に戻るのであった。
「うっ…」
空家の中に倒れていた子供の中の一人が、意識を取り戻した。
彼は、無意識の内に其の子供の元へ歩み寄った。
子供――少年は、まだ気力がある様に見えた。
如何やら、食事も碌に口にしておらず、お腹の空き過ぎのあまり、其の場に倒れ気を失っていた様だ。
「おじさん、誰?」
「ヘ?(お…おじさんって…(汗))」
少年の問いに、彼は目を点にした。
しかし、彼は、ふと何を思ったのか、腕を組み少し考え――
「(ちょっと待てよ…?)しょ、少年よ…わ、私が【視える】のか?」
「うん」
念の為に聞いてみると、少年は頷いた。
本来――【天界の民】は、人間界へ降りた時、普通なら人間には視えない。視えるとしたら、彼等が人間の姿になっている場合以外考えられない。
しかし…少年は、彼が視えている。【天界の民】の姿をしている彼が――
ただ一つだけ考えられるのは、神の称号を持つ者…だが、少年はまだ与えられる年齢では無い。
称号を持たず視える者を彼等は【適合者】と見定めていた。
「僕、ルークっていうんだ。おじさん、名前は?」
ルークという少年は、無邪気な笑顔で彼に聞いた。
彼は、ルークを見て、ふと思い出す。
「わ、私の名前はミカエルだ」
自分が、何者なのかを…
自分が、何故此処に降り立ったのかを…
自分の記憶の全てを…
「ミカエルさんかぁ…僕、お父様とお母様と一緒に居たんだけど、何時の間にか逸れちゃって…此処三日間何も食べてないんだ…」
ルークはそう言いながら、お腹を擦った。
ミカエルはそんな彼を見て、「此れ食べるか?」と自分のナップからパンを出し聞いた。
「え?良いの?」
「私は天界の者だ…腹を空かせた者を見棄てる訳にはいかない…ほら、此処に沢山あるから、他の子供達にも分けてあげなさい…」
「うん!」
ミカエルに言われ、ルークは周りに居る飢えた子供達にパンを一つずつ分けて回った。
分け終わると、ナップの中にパンは一つも入っていなかった。
「あれ?ミカエルさんのが無いよ?」
「私は良いのだ…ルーク、お前が食べなさい…」
「やだ!半分個にする!!」
ルークは、パンを半分に契るとミカエルに渡した。
「わ、私は――」
「駄目!ちゃんと食べなきゃ!!」
ミカエルが断ろうとすると、ルークはそう言い、パンを彼に押し付ける。
子供の割りには説得力があると、彼は思った…
そして、彼は少年の服装に疑問を抱いた。
この辺りでは見慣れない高価な服。其れに、自分の両親を『お父様、お母様』と高貴な言い方。
明らかに、この辺の集落の者では無い事は確かだった。
「ルークよ…」
「ん?なーぁに?ミカエルさん」
「お前は、一体何処の子なのだ?」
ミカエルは、ルークに単刀直入に聞いた。
「僕?僕は、ルーク=アーサー=ルネスト=ラリアス。ラリアス王国の第一王位継承者さ」
「お、王位継承者!?」
ミカエルは驚いた。
まあ…驚くのも無理は無い。流石に疑えないのだ…首に掛かっているペンダントに刻まれている紋章を見てしまっては――
ペンダントに刻まれた紋章は、ラリアス王家の証。十字架に双翼、十字架の上にリボン…そして、習字鹿下に剣と弓が交差している。
このペンダントは、勿論王家の以外は身に付けてはいけないのだ…
「何で、王子様が此処に…?」
「其れが、お父様とお母様の仕事について来たら、悪者の人に攫われちゃったみたいで…」
「おいおい…」
何故か照れながら言うルークを見て、ミカエルは呆れた顔をした。 |