零、始まりの時
全ての始まりは、此処から始まった…
――死神達の総本部【死神連盟】。
種族を問わず、死神に向いている者のみを勧誘する組織。
仕事内容は、暗殺。
連盟の最高責任者は、【議長】と呼ばれているが、殆どの幹部が彼の姿を見た事が無く、存在自体謎とされている。
だが、幹部の中では【最強の死神】といわれていた。
そんな死神達に、ある日衝撃が走った。
其れは、【世界征服】。
事の始まりは、議長の発した一言だった。
『この世界を魔物達だけの世界にする…』
初めは、冗談かと死神達は思った。
だが…議長は、其の言葉を実行に移した。
先ず、初めにした事は――【魔王玉座強奪】。
――魔界。此処は、魔族のみが住まう世界。
この世界は、昔から人間を嫌う派と好む派に分かれており、人間界に出向いて襲っては人間を殺す事が多かった。
しかし、現在の魔王になってから、魔族達は人間を襲う事も殺す事も無くなった。
そんな魔界へ――議長の企みは、ある日突然始動した。
ウーゥン!ウーゥン!!と、魔界内の全ての非常サイレンが鳴った。
魔界城では、
[緊急事態発生!緊急事態発生!!]
と城内に放送されていた。
「なっ!?何事だ!?」
魔王・翠は、驚きを隠せず、書斎から慌てて出てきた。
「へ、陛下!ご、ご無事で御座居ますか!?」
すると、廊下の奥から、翠の一の配下である翼が走って来た。
「わ、我輩は大丈夫だ…そ、其れより!こ、此れは一体何事か!?」
「そ…其れが――」
[無断入界アリ!無断入界アリ!!危険!!!危険!!!!]
「無断入界だと!?今、何処に居るのだ!?」
「はい…今――」
ドスッ!と、何か鈍い音がした。
いきなり翼が、翠の腹に拳を入れたのだ。
しかも、溝内に…
「此処に…(妖笑)」
「クッ!?――ゥッ…」
翠は、霞れゆく意識の中、自分の知らない不気味な笑みを浮かべる翼を見た。
そして、彼は気を失い、其の場に倒れた…
「――うっ…」
何時間経ったのだろうか…翠は、目を覚まし、ゆっくりと躯を起こした。
「此処は――ぅくっ!?」
翠は、腹の痛みを堪えながら辺りを見た。
目の前には、鉄の棒が何本も並んでいて、外側には見張り番役の魔族と死神を巡回していた。
「此処は、牢屋か…我輩もそろそろ潮時か…」
「何や…?誰かと思えば、魔王様やないか…」
「其の声は…!?」
翠は、牢の中を見渡した。
誰も…居ない?
いや…相手が此方に姿を見せていないのだ。
つまり、透明状態。死神のみに出来るといわれている特殊能力。
彼は、更に辺りを良く見た。
すると、壁に黒い大鎌が不自然な形で置いてあるではないか…!
鎌は、死神によって形や色が違い、翠は其の鎌を見て直ぐに誰のだか判った。
「全体的に漆黒の色をした鎌【闇の鎌】…闇火か?」
「ご名答。お久しゅ〜ぅ御座居ます。魔王様」
声の主は、一瞬にして姿を見せると、翠の前で跪いた。
「闇火よ。何故、そなたが此処に居る?」
「ワイも捕まったんですわぁ…翼ハンに。ホンマ、ワイってドジやな〜ぁって今思うてたところですわぁ…アハハハハハ」
翠の問いに、闇火は笑いながら答えた。
「笑い事では無かろうに…」
「あっ、スンマセン…」
「で?そなたが、何故翼に捕まったのだ?あやつにそう簡単に捕まる輩ではなかろう?」
翠は、改めて聞いた。
すつと、闇火は、急に困った顔になる。
「実はのところ…翼ハンは、良〜ぉう分からんのんですわぁ…ハッキシ云うて…」
「はぁ?分からないって…」
「翼ハンは、ホンマ分からんとこがあり過ぎて…急に『お前を牢に入れる』って…」
闇火の言葉に、翠は目を点にした。
つまり、二人は理由も何も知らずに、牢に入れられたのだった。
「さて、先ずは此処から出るか…」
「そうやね…」
「此処から出るには――」
「鍵が要るわな…」
二人は作戦を立て、脱出が出来る時を待った。
そして、其の時がやって来た――
「異常は無いか?」
「異常はありません」
「そうか…ご苦労。交代しよう」
見回りの時間がやって来たのだ。
「にしても…議長様も翼様も何を考えてらっしゃるのやら…」
「だな…我々も苦労するなぁ…」
見回り役の死神たちは、ブツブツと文句を言っていた。
「――今だ…」
翠は、小声で闇火に言った。
作戦開始の合図である。
「お〜い!誰か来てくれ〜ぇ!!」
「ど、如何した!?」
闇火の叫び声に、死神達は急いで駆け付けた。
牢の中を翼見ると、翠がグッタリとした状態で倒れていた。
「なっ!?」
「魔王が死んどんや!死人と一緒に、牢の中に居りと〜ぉないわ!!早ぉ出して〜ぇな!?」
「わ、分かったから、待ってろ!ま、先ずは、死んでいるか確認するから!!」
一人がそう言うと、鍵を慌てて開け、もう一人が翠へ歩み寄り、死んでいるか否かの確認をした。
翠の躯は、もう冷たくなっており、脈も無かった…
「ほ…本当だ!し…死んでいる!!」
「早く運び出す――ぅっ!?」
鍵を開けた死神の首に、闇火の手刀が入り、死神は其の場に倒れた。
「なっ!?何を!?ぅっ――」
其れを目撃したもう一人の死神は、闇火に飛びかかろうとした。
だが…心で居たはずの翠の手刀が、其の死神の首に思いっきり当たり倒れ込んだ。
「流石は魔族やわぁ…やっぱ仮死状態もお手のもんやなぁ…」
闇火は、鉄格子に寄りかかり、拍手をしながら言った。
――仮死状態になり、敵の目を欺く。魔族の意外な特技が此れである。
彼等魔族は、元々心臓など無い。其の為、脈など無く、ただ触れるだけで死んでいると同じに感じるのだ。
しかし、翠の場合は、人間同士の間に生まれた【異色主】――心臓は持っている。
闇火は、其れを利用して、この作戦を思い付いたのだった。
「そなたこそ、芝居が上手いものだな…」
「そないな事は無いでぇ…?って、もう敬語になって無いなぁ…」
「もう良い…普通で。先程は感謝する。我輩の呪いを解いてくれて…」
「ええって…ワイだって、アンサンには感謝しとるさかい…」
お互いに、お礼を言い合い――
「さて、逃げるかな…?此処から」
「そうやな…ほな、行くでぇ!」
こうして、二人は魔界を抜け出した。
そして、人間界へと向かったのだった。
始まりの時 ―完―
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