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パリサイド 作者:奈備 光

7章

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81 真相3 黒き衣衆

「ライラは愛おしそうに聞き耳頭巾の布を撫でて、これがあたしを助けてくれる、あたしをあたし自身でいさせてくれる、と言った。逆に言えば、聞き耳頭巾がなければ、ライラは自分自身でいられなかったということだろうね。

つまり、その後に起きたことを合わせて考えると、オーエンに心を支配されず、自分で考え自分で行動できた、ということじゃないだろうか。そして、まさしくあのミッションが行われた日、彼女はこう言っている。あいつの指示

で動くだけじゃなくて、自分で考えられたからね、と」
 イコマは黙って聞いている面々の顔を眺めた。
 そこに喜びはない。
 誰もが知っているのだ。
 この謎が明らかになったところで、プリブは戻ってこないし、ライラも帰ってくることはないのだ。誰かを裁くということさえできない。
 もし、ライラが言い残してくれたヒントをもっと早くに解けていれば、とは思うが、そうできたからといって、二人が助かった見込みはない。

「ライラが残してくれたヒント。それは、ステージフォーとは別の組織の存在を示していた。そして、彼女自身もその組織の一員であるということも。そして、オーエンの口からも黒き衣衆という言葉が飛び出した。ライラに向か

って」
 そろそろ、プリブに話を戻す時が来た。
「プリブを連れ去ったのは完全武装した数人。アヤを連れ去ったのは? パリサイド数人。武装はしていなかった。そのことからも、プリブを連れ去ったのはステージフォーではない可能性が高い。そしてステージフォーがミッシ

ョンを阻止しようと挑んできたとき、アヤはその部隊に放り込まれた。それなのにプリブはいなかった。アヤより戦闘能力が高いのに。
 それに……、ステージフォーに洗脳されたアヤは僕のことさえ思い出せなかったのに、プリブはチョットマを救うべく、自分の命を顧みずに宇宙空間に飛び込んでいる。つまり、プリブはステージフォーの洗脳を受けたとは思え

ない。こう言っちゃなんだけど、アヤは聞き耳頭巾の使い手として、奈津婆さん、すなわちきっとライラのお友達だったネイチャーに鍛えられて、岩の発する声を聞けるほどに精神を研ぎ澄ます力を付けていた。そんなことができ

るほど強い心を持った人間。そのアヤがあんな風に洗脳されてしまうのに、プリブは自分を見失わないでいられたのだろうか。
 もう答えは簡単だ。
 さっきも言ったように、プリブは東部方面攻撃隊にいた黒き衣衆の一員によって拉致されたんだ」

 イコマはそう結論付けた。
 誰からも異論は出ない。
 パリサイドの政府関係でなく、ブランジールでもなく、ステージフォーでもないとすれば、残る選択肢はそこにしかない。
「ただ、黒き衣衆の実態はよくわからない。
 それがここへきて、一気に活動を始めたわけだ。オーエンの指揮の下、パリサイドの神、悪意を持っていたかもしれないロームスを滅ぼすために。きっと、グラン―パラディーゾの起動を千載一遇のチャンスと捉え、オーエンが

始動したんだ。何十年も、あるいは何百年も潜伏させていた黒き衣衆を目覚めさせ、コントロールして。
 彼らの目的については、ベータディメンジョンでンドペキやチョットマがヌヌロッチから聞いた話が参考になる。地球から来たある女性がこう話していたという。
 自分は別の世界から来た黒衣衆の一人。
 ベータディメンジョンの莫大なエネルギーによって、宇宙を滅ぼす。パリサイドを瞬時に消滅させ、人類の未来を保つために来たのだと。
 図らずも、自分はベータディメンジョンに来てしまった。そのために覚醒が中途半端に終わってしまい、自分には手の打ちようがないし、何の指令も届かない。百人の仲間がいるはずだが、互いにその存在を知らない。仲間だと

思う人は名乗り出て欲しい、と。
 百人。
 思い出して欲しい。イエロータドのバー、ヘルシードで聞いた話。ステージフォーが捕まえて洗脳したのはたかが数人。多くても十数人だろう。
 じゃ、それ以外は?
 簡単だ。
 黒き衣衆。
 プリブはその中に含まれるに違いないんだ」

 イコマはここで話を切って、皆の反応を確かめた。
 やはりそうか、とまではいかなくとも、なるほど、という顔をしている。
 自分がそうであったように、誰もがある程度は予想できたことなのだ。
 ライラの話を耳にしたことがある者なら。

「ところで、パリサイドの星に上陸する前日、オーシマンの船の乗船者名簿にない名前がたくさんあった。彼らはどうなったんだ? スジーウォン、聞いていいかい?」
 スジーウォンの返事を待たずに、イコマは質問を投げかけた。
「攻撃隊の隊員にも不穏な行動をするも者が数人いた。それがプリブを拉致した実行犯であり黒き衣衆のメンバーだが、彼らは、どうなったんだろう。最後に見たのはいつだい?」
 スジーウォンが肩をすぼめた。
「ミッションの前日かな」
「どうなったんだと思う?」
「さあ」
「オーエンに消されたんだと思う」
「そうね……」
「オーエンの気性を知ってるだろ。彼なら、不要となった者を消すことに何の躊躇もない。攻撃隊に含まれていた黒き衣衆はまだ、役立った方なんだろう。そこまで生き延びていたのなら。僕はこう思う。パリサイドの星に上陸す

る前日時点で、かなりの人数がすでに消滅させられていたんだとね。ミッション開始時点まで残っていたのは、誰と誰だと思う?」
 この質問はンドペキに投げかけたものだ。ベータディメンジョンで黒き衣衆の噂を聞いているンドペキなら、今話していることに最も早くに気づいたはずだ。
「まずはオーエン、プリブ、ライラ……」
 ンドペキが口ごもった。
 それは当然だ。その先の人物名となると、想像でしかない。

「あてずっぽうで言うと、その三人に加えて、ホトキン。ライラの夫で、オーエンの右腕、技術者だ。彼は最後の最後まで必要だったろう。オーエンはブランジールを無力化した。そして、この宇宙船のあまたのシステムを手に入

れた。しかしアギであるオーエンができないこと、物理的に何かをしなければいけないこと、それはホトキンの担当だったはずだ」
 アギという言い方、なんだか懐かしいね、と言ったが誰も微笑みさえしなかった。
「そして、消えたオーシマン」
「えっ、あけぼの丸の船長も?」
 こちらにはチョットマから反応があった。
「そうとしか考えられないね。まさか今更、パリサイドのオーシマンがステージフォーに囚われたとは思えない。黒き衣衆だろう。彼も、最後までいたと思う。輸送船の船長とはいえ、このオオサカ号のシステムを少なくとも地球

から来た誰よりも熟知していたはず。きっと、ホトキンと一緒になって、グラン―パラディーゾに対して様々な細工をしたに違いない」

「ねえ、パパ」
 チョットマが話を遮ってくれた。でなければ、想像を逞しくしたする必要のない話をもっと続けていただろう。
「それで、プリブはどうなったの?」
「嫌な言い方をするけど、怒らないで聞いて欲しい。プリブは、最後までオーエンに生かされていた。役に立つから」
 証拠はないが、イコマは自信を持って、説明した。
「なぜ、プリブが拉致されたか。それは、彼が心をオーエンに奪われなかったからだ。ライラが言っていた。聞き耳頭巾のおかげで自分でいられると。プリブもそうだったんだ。つまり」
 イコマは言葉に詰まった。
 これを言って、いいのだろうか。
 チョットマが、そしてスミソが傷つくのではないか。
 しかし、プリブが死んだ今となっては、彼らは彼ら自身の力で乗り越えなくてはいけないことだ。
「きっとプリブは、チョットマを愛するあまり正気を保っていたんだと思う。強い愛のおかげと言ってもいいかもしれない。来週、またマスカレードで会おうなんて約束をして。それがオーエンの逆鱗に触れた。俺の言うことが聞

けないのか、なんてね。そして黒き衣衆に拉致された。そしてどんな処置を受けたのか、それは想像さえできない。しかし、彼は最後まで自分の意識を持っていたんだ。チョットマ、君を愛す、とね」

 チョットマは泣くまいと歯を食いしばっている。
 スミソは審判を受ける者のように目を閉じている。
「でも、プリブは消されなかった。最後に、彼しかできない仕事があったから」
 チョットマが口を開きかけたが、何も言わなかった。
「プリブの仕事。彼は変装の名人。というか、きっとそういう能力を持っているんだと思う。アイーナに成りすまし、ミッションを確実に実行する指令を出すこと。プリブなら巨大クッション姿であろうが、成りすますことに何の

問題もない。彼のストッカーに巨大クッションのコスチュームがあろうがなかろうが、そんなことは大したことじゃない。オーエンは、万一最後の段階でミッションが中止にならないよう、万全の態勢を敷いたんだ。アイーナを一

時的に眠らせ、影武者役をプリブにさせたんだ」

 すべてを話し終わった。
 しかし、それでなんだというのだ、という気持ちが残った。

「実際、じゃ、黒き衣衆とは何だったのか。これについて、僕は何もわからない。唯一の手がかりは、ベータディメンジョンの黒き衣衆が語ったという言葉、パリサイドを瞬時に消滅させ、人類の未来を保つために来たのだ、とい

う言葉。つまり、パリサイドは敵になったわけだ。いつか、未来に。もちろん、ロームスに操られた人類が。それを阻止する部隊が黒き衣衆……」
 プリブはライラと供に黒き衣衆のメンバーだった。
 しかし、黒き衣衆とは、なんなのだ。
 結局、それは確かなことは何もない。
「言えることは、僕たち人類の未来で戦いがあった。ロームス率いるパリサイドと、人類の間に。人類は負けた。あるいは絶飯寸前に追い込まれた。そこで、未来の人類は過去に遡り、パリサイドもろともロームスという宇宙生物

を滅ぼそうとした」
 なんの根拠もない。
 想像するだけだ。
 イコマは正直にそう言った。
「でも、それでいいんじゃないか。ライラやプリブ、そしてオーエン、奈津お婆さんも未来から来た人間で、自分達の手でこの時点でロームスを根絶しなければいけないという役目を負っていたと考えておいて。僕たちはまだこう

して生きているんだし、生きている限り、人類の未来に僕たち自身、責任があるわけだから」

 チョットマの目が潤んでいた。
 その眼を拭って、聞いた。
「ねえ、パパ。それで、ライラおばあさんは死んだの?」
「ああ。死んだと思うよ」
 宿命とか運命とか、最も嫌いな言葉だったが、ここで他にいい言葉は思い浮かばなかった。
「それが彼女の定めだったんだろう。人類は過去に遡っていくことはできるようになった。例えば、ベータディメンジョンを経由して。しかし、未来に行くことはできない。未来の人類もそうなんだと思う。彼女は、プリブも、オ

ーエンもホトキンも、片道切符しか持っていなかったんだ。未来の人類を絶滅から救うために、時間を遡り、将来の敵であるロームスを倒す機会を待っていたんだ。そしてことを成し遂げた後には、自ら消滅する定めだったんじゃ

ないかな」

 イコマはポケットから、小さな石を取り出した。
「これは、宇宙船がパリサイドから地球にスキップしたとき、僕のすぐ横に落ちていた石だ。明らかに人工的に作られた石。グラン―パラディーゾが暴発し、ベータディメンジョンのエネルギーがほとばしるまさしくその時、僕は

ライラのすぐ後ろに立っていた。ライラは、こう呟いていた」
 これで奴は滅びる。
 もう未来永劫、人類を襲うことはない……。助かった……。
 長かった……。長い旅だった……。
 私の使命も、これで……。
 さあ、オーエン。私もひと思いにやっておくれ……。

「僕は、この石はライラだと思う。形見じゃない。きっとライラ自身……。僕はこれを握りしめて、今までのことが何だったのかを考えてきた。この石が、ライラが、何かを教えてくれたような気がするし、そうでないような気も

する。いずれにしろ、捨てられる代物じゃない。しかし、もしこれがライラだったら、僕が持っているより、もっとふさわしい人がいる。その人に渡したいと思う」
 長官レイチェル、サキュバスの庭の女帝ライラの友人であり弟子でありライバルであったスゥ、ラリアがこよなく心を寄せた聞き耳頭巾の持ち主アヤ、そして可愛がってもらったチョットマ。
「さあ、どうするか、四人で話し合って」
 そして、スゥやチョットマが涙を見せる中、ライラの石はアヤが預かることになった。
 きっと聞き耳頭巾がライラを慰めてくれるだろうからという理由で。
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