挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
パリサイド 作者:奈備 光

7章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

80/82

80 真相2 全くの想像ですよ

「まあ、とはいっても、奴が事件の真相に迫る重要な言葉を吐いたわけではない。むしろ混乱させたというべきだろう。ある日、講義が終わった時に、奴はンドペキにこう言った。神が一組の男女を探している、とね。その言葉に

よって、その男女とは、アヤとプリブではないか、と考えてしまった」
 結局、サワンドーレはそれ以降、我々の前に姿を見せていない。
「ステージフォーの一員だったわけだ。それもたぶん筋金入りの」
 アヤをリペアセンターから連れ去った「プリブ」は、サワンドーレだった可能性が高い。
 それはアヤが正気に戻った後で話してくれた「証言」による。
「ステージフォーの集団の中にプリブはいなかった。少なくとも、アヤが目にした限りでは」

 イコマはアヤの顔を見た。
 話してしまうけど、いいかい。
 アヤは俯いている。
 彼女も、いわばこの事件の被害者といえるかもしれない。
 完全に洗脳されかかっただけでなく、危うく死にかけた。そして、昔の傷を逆なでされて。
 今ここでその顛末を話すことはもちろん、アヤには了解済みだ。
「フイグナーという男がいた。ンドペキに謝りたいといって、訪ねて来たパリサイドだ。ニューキーツの仮想の海で暮らしていた特殊なアギ。イルカの少年。こいつも僕と同じようにパリサイドの体を得ていた。しかし、こいつは

とんだ食わせものだった。元の名をミズカワヒロシという。アヤの最初の結婚相手」
 かなり心の痛みは薄まったとはいえ、易々とミズカワヒロシにアヤの居場所を教えてしまい、結果としてアヤに重篤な傷を負わせてしまったことは悔やみきれない出来事だった。
 奴の心は分からないまま、死んでしまったわけだが、アヤと再び関係を持てないのなら、もしかすると最初から心中するつもりだったのかもしれない。
「しかし、奴のこの行動によって、サワンドーレが言った一組のカップルの意味がはっきりしたといえる」

 パリサイドに巣食う宇宙生命体ロームス。
「はっきり言えることがある。奴らは、いや奴はというべきかな、は人間のある特殊な意識に興味を持っていた。それはチョットマが聞き耳頭巾を使った奴との会話で推測することができる」
 恋、あるいは愛……。
「最初に取りつかれたンドペキは、ユウやスゥ、そしてレイチェルの夢を見た。スミソも同様だ。そしてチョットマは、ンドペキの夢を見た。そして、決定的な話。チョットマが聞き耳頭巾のショールを頭に巻いた途端、チョット

マの頭の中に木霊した声。それは、こう言っていたのだ。ンドペキを想う気持ちとはどんな気持ちなんだと」

 パリサイドの星に充満する白い霧。
 宇宙船オオサカの街に流れていた白い霧。
 マスカレードの中でさえ渦を巻いていた白い霧。
 それは、宇宙生物ロームスの意識。

 彼らが知りたかったのは、恋の激情、愛の深遠。
 人の脳裏にある記憶を網膜に映してみせ、言葉にならない質問を発することによって生まれる、あるいは変化する意識を読み取ろうとしていたのだ。
 彼らには、彼らの言葉を借りると、一人は全体で、全体は一人。つまり、個というものは存在しない。
 相手というものがない。もちろん異性もいない。
 恋や愛という感情が生まれる素地はない。
 人の心を占めるその大きなものに、興味が湧いても不思議ではない。

「彼らが知りたいそういった感情。その一つの究極点として、奴はアヤに目を付けた。その相手は、アヤが離婚した相手、ミズカワヒロシ。二人を引き合わせることによって、二人の心に生まれる何かを見たかったわけだ」
 イコマやンドペキがあの時、ミズカワに後を付けられるというへまをやらかさなくても、早晩、ミズカワはステージフォーの「計らい」によって、アヤの部屋を訪れていたことだろう。
 実際、ステージフォーの幹部がそれらしいセッティングをしている。
 アヤとミズカワを二人きりにする演出を。
 ロームスに操られた連中が。


 ふう、とイコマは息を吐き出した。
 プリブがステージフォーとは何ら関係がないという事実の証明は、これで十分だろうか。
 いや。
 プリブの姿がどこにも出てこないというだけで、そこにいないという証拠にはなっていない。
 この話をするしかない。
 イコマはチョットマとスミソの顔を代わる代わる見た。

「チョットマ。最初、君が言ったことを思えているかい」
「なあに」
「プリブを逮捕した連中、彼らはどんな服装だった?」
「えっと、武装していて、あっという間に……」
「スミソ。君はどうだい?」
「私もそのように覚えています」
 イコマは思わず鼻を鳴らした。
「もっとあるだろ。君たちが入れてくれた情報は」
 チョットマとスミソが顔を見合わせた。

 彼らは覚えていないかもしれない。
「君たちはこう言ったんだ。数人の武装したパリサイドが現れて、とね」
「あ、そうです。そう言いました。そのパリサイドは完全武装していて、僕達の目の前でプリブを捕まえたのです。僕もチョットマも抗議しましたが、受け入れてくれるどころか、全く無視されたも同然で。あっという間に走り去

って、後を追うこともできませんでした」

 たいして重要なことではない。
 しかし、それが初期段階の思考を、全く果実のない方向へ導いたのだった。
 今ここでそれを指摘して、この二人を責めることが目的ではない。
 推理をより正しい方向へと誘う、前触れとして彼らの自尊心に少しだけ犠牲になってもらうだけだ。
 イコマはあっさりと話を進めていった。

「武装した者。あの宇宙船の中で、それは軍か、警察か、治安か、ブランジールの私兵しかなかったわけだ。つまり、パリサイド。しかし、もう一つ、ある。分かるよね。ニューキーツ東部方面攻撃隊。スジーウォンの部隊」
「えっ」
 チョットマの驚きの声と共に、スジーウォンの顔が引きつった。
「もちろん、スジーウォンが差し向けた者ではない。でも、彼らがパリサイドだという証拠はあるかい?」
 チョットマやスミソにそれがあろうはずがない。完全武装していたのだ。
 その装甲の中身がパリサイドだったのかどうか、分かりようがないはずだ。
「僕は考えた。アイーナの配下である軍ではなく、警察でもなく、治安でもなく、そしてブランジールの部下達でないなら、東部方面攻撃隊しかないではないか、と」
 しかし、自分の仮説に自信を持てないでいた、とイコマは正直に言った。
「でも、ある時から、それは少しづつ確信に変わっていったんだ」


 と言いつつも、憶測でしかない、と考えていたと、イコマは断りを入れた。
 本来はもうする必要のない話だと思う。
 ライラが何者だったのか、ということを、それぞれに想像を膨らませているはずだから。
 しかし、自分が見落としていたヒントを列挙していこうと思った。
 ライらはそれを望んでいたはずだから。
「なので、頭を整理するという意味で、順に話していこう。結局、決定的証拠なんてなかった。すべては、そう考えれば辻褄が合う、というだけで」
 やはり長い話になってしまった。
 アヤとチョットマが配った料理はほとんど手を付けられないまま、冷めてしまった。
 これだけの人数がいて、ワインのボトル一本さえ新しく栓が抜かれていない。

「これは多くの人が聞いた言葉じゃない。ライラが呟いた言葉。パリサイド星上陸の前夜、僕が事件の拙い解説をした後のことだった。この言葉を聞いて、僕は違う何かを想像し始めたんだ」
 黒き衣を着た亡者ども、仮面を投げ捨て、時の神に滅びの光を授けるなり。
「ライラからみれば、それはまたとないタイミングだと思ったに違いない。その夜まさしく僕たちは、事件の謎を解くための話をしていたのだから。悪戦苦闘どころか、全く先の見えない状態だったけど」

 もう分かるよね、とイコマは一同を見まわした。
「ライラが呟いた言葉を列挙してみようか」
 掛けておやりな。この子は闘おうとしてるんだよ。やつらと。
「ライラは知っていたんだ。チョットマの脳に巣食った者が何者かを。僕らがまだウイルスだなんて言ってた時、それがパリサイドの星に住む宇宙生物ロームスであることを。そして、さっきの台詞だ」
 黒き衣を着た亡者ども、仮面を投げ捨て、時の神に滅びの光を授けるなり。
「あの時、その言葉の意味を問う間もなく、ライラは逃げるように去った。きっと、詳しく聞かれたくはなかったのだろう。実際、その言葉の意味についてチョットマと話したことがあるが、いつか話してくれるだろう、というこ

とになって僕たちはそのことを忘れてしまった」
 イコマはチョットマに同意を求めた。
「ライラはそれから、なんとなくだけど、僕たちと距離を置いていると感じなかった?」
 チョットマはこくりと頷いたが、私はそうは思ってないけど、という気持ちがありありと出ていた。
 それはそうだろう。
 チョットマにとって、とても大切な人ライラ。そう感じていたとしても、そう言えるはずもない。
「かなり苛ついていたしね。で、ライラの次のフレーズはこれだ。これはンドペキがミッションに参加し、パキトポークに会いに行くと言った時のこと。ライラは、しみったれたことを言うんじゃない、と叱りとばした後、こう言

ったんだ」
 状況はあんたらが考えているより、もっとアクティブかもしれないさ! いろんなことが起きるだろうってことじゃないか!
「これから何が起きるのか、知っていたみたいだと思わないか。そう。彼女は知っていた。僕たちはもっと早くに気づくべきだったのかもしれない。そして、ブランジールの不安に気づくべきだったのかもしれない」
 ああ、とチョットマが溜息をついた。
「そう。チョットマがライラを紹介したとき、ブランジールは明確にこう言ったんだ。不思議な……、出生に……」
 チョットマとレイチェルが互いの目を見交わした。そうだったねと。
「そのブランジールの不安は、なんて失礼な!、ということで収まったけれども、少なくともブランジールはなにかを感じていたんだ。ライラという女性がここにいることについて。それから前夜祭での出来事」

 ライラはこれまで以上に聞き耳頭巾に強い関心を持っていた。
「彼女は、聞き耳頭巾の布を貸して欲しいと言った。そして、まるで頬ずりするようにそれをかき抱き、こう言ったんだ」
 ネイチャー、あんた、いったい、どこに行ったんだい。
「そして、僕たちにはピンとこない説明をしてくれた。そしてこう言った」
 こういう姿になるとはねえ。
「明らかにライラは、この聞き耳頭巾の布のこと知っていた。この形かどうかは別にして。珠と言っていたから」
 イコマはアヤを見た。
 アヤはもう分かっているのか、すました顔で見つめ返してくる。
「アヤにこの頭巾を授けたのは奈津という女性。お婆さんだ。京都の山奥の村の。僕もユウも会ったことがある。奈津、NATU、ネイチャー……、綴りは……。あ、全くの想像だけどね」
cont_access.php?citi_cont_id=936031928&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ