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パリサイド 作者:奈備 光

2章

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7 例の錠剤

 部屋からほんの一キロも行かないところで倒れているンドペキを見つけたのは、夜明けからまだ半時間も経っていないときだった。
「ンドペキ!」
 脂汗をびっしりかいて、ベッドに横たわったンドペキ。
 チョットマは何度も呼びかけるが、反応はない。
「どうしたのよ! ンドペキ!」

 傍らでスゥがライラと話し込んでいる。
 ンドペキの意識を戻す妙案はないようで、ボソボソ声しか聞こえてこない。

 スジーウォンはちょっと覗いただけで、飛び出していった。
 隊員たちを集め、アヤの捜索に向かってくれるという。
 スミソの件のすぐ後。しかも、パリサイドは出歩かないという「双戯感謝祭」。
 命に別条がないのなら、隊員たちをあえて動揺させることはない。だから、ンドペキのことはまだ伏せておいて欲しいとスゥから頼んである。

 ンドペキの心肺には異常はない。身体のどこにも怪我などない。
 ただ、眠りから覚めないのだ。
 夢にうなされているのか、時々、びくりと身体を震わせている。
「ンドペキ……」
 汗を拭き、呼びかけることしかできないチョットマ。


 だめよ、震えちゃ。
 チョットマは、自分に言い聞かせていた。
 取り乱したりしたらだめよ、と。

 ンドペキを大好きだった。今もそれは変わらない。
 何度、助けてもらったことだろう。
 ンドペキのおかげで、私は少しづつ大人になったようなもの。
 彼への気持ちをどんな言葉で言い表せばいいのだろう。
 ああ、ンドペキ……。

 ここで自分がスゥのお荷物になってはいけない。
 彼女の助けにならなくてはいけないのだから。

 それでも、弱音を吐きそうになる。
「どうして……」
 硬く目を閉じ、歯を食いしばっているンドペキの額を撫で、腕をさすりながら、涙がこぼれそうになるのを必死で抑えていた。


「スミソが!」
 と、隊員が走りこんできた。
「倒れている!」

 飛び上がったチョットマ達に、隊員が叫んだ。
「とりあえずこの部屋に! ベッドを!」
 そして目を剥いた。
「なっ! ンドペキ!」


 スミソも全く同じ状況だった。
 違いといえば、少し息遣いが荒いことくらい。
「どういうことなんだ……」
 隊員が困り果てたように呟いたが、スゥもライラも応えようがない。

 チョットマはだんだん我慢ができなくなってきた。
 ンドペキ、スミソ、そしてプリブ……。
 みんな、自分が大好きな人ばかり……。
 堪えきれなくなった涙が頬を伝った。

「きっと、私がなにか、いけないことを、したから」
 チョットマの声を、ライラがぴしゃりと遮った。
「変なこと、言うんじゃないよ!」
「うっ」
 しゃっくり上げそうになるのを堪えて、チョットマはライラを見つめた。
「でも」


 ライラが厳しい声を上げた。
「チョットマ、おまえ今、理由もなく自分を責めて、事態がなにか好転するのかい!」
「……」
「スゥ」と、ライラが向き直った。

「知っていることがあるなら、早く教えな」
「私が?」
「そうさ」
 ライラの瞳が強く一瞬光ったが、すぐに声音を変えた。
「同業の誼じゃないか」
「うん。でも、どうしたらいいか、私も知らないのよ」
「そうかねえ」
「私の呪術の先生は、サキュバスの庭の女帝と呼ばれたライラ。その先生が分からないことを、私が分かるはずないじゃない」
「ふふん」と、ライラが鼻を鳴らした。

「あたしゃ、忘れたことはないよ」
「なにを?」
「数か月前、あの洞窟で。おまえがンドペキに錠剤を飲ませたことを」
「ああ、あれ」

 ライラは、あれがンドペキとイコマが同期するための薬だったのではないかという。
「どうやって同期するのか、そういう説明はなかったが、あたしが思うに」
「ライラ、ちょっと待って」
「だろ?」

 スゥが、ふうと溜息をついた。
「それと、今回のことと、どう関係するの?」
「知らないさ。でも、図星なんだね」
「違うわ」


 チョットマも、ンドペキとイコマの意識と記憶が同期していたことは知っている。
 そういえば……。
「ねえ、パパは大丈夫かな」
 今頃、倒れてやいないだろうか。
「そんなこと、ないと思うよ」と、スゥは言ってくれるが、心配になってきた。
「ねえ、その錠剤って、パパにも飲ませたの?」
 そう言ってから、自分の勘違いに気がついた。
 スゥは、「まさか。フライングアイに?」と微笑んでから、ライラを睨みつけた。

「くだらないこと言うから、チョットマが心配するじゃない」
 ライラは、「さあね」と、大げさに腕を広げてみせた。
「ンドペキとイコマが同期していたのは、あの錠剤によってじゃないし、今回の事件にも関係ない!」
 スゥがきっぱり言っても、「あれにどういう作用があるのか、結局、教えてくれてないからね」と、とぼけた顔をする。

 チョットマにも、少しだけ記憶がある。
 あの洞窟、「ホトキンの間」で、パパとンドペキとスゥがいた時のことではないだろうか。
 あの時、自分はレイチェルとのことで頭がいっぱいだったが、三人がここで何をしていたのだろうとは思ったものだ。
「ねえ、スゥ。その錠剤って」
「ふたりとも、しつこいよ」
 スゥは濡れ手拭いをことさらきつく絞って、ンドペキとスミソの額に当てた。
「こんな時に……、いい加減にして欲しいよ」

 チョットマは謝ったが、ライラは「お前なら、いい薬を持っているんじゃないかと思ったんだがね」と、開き直っている。
 その眼は、少しも悪かったと思っていなさそうだったし、微笑んでもいなかった。
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