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パリサイド 作者:奈備 光

7章

79/82

79 真相1 プリブはどこへ行った

 イコマは大きく息を吸い込んだ。
 とうとう、この日が来てしまった。プリブ事件の真相を語る日が。
 彼は死んでしまった。
 チョットマを助けるために、宇宙空間に飛び込んで。
 ようやく駆けつけてきたユウが、暗い空に漂うプリブを助け出した時には、宇宙線が降り注ぐ極寒の世界に十分以上も放置され、血まで凍った状態だった。
 嬉しくはない。
 もう、幸せな結論にはなりえないから。
 できればこの解説という役を誰かに代わってもらいたいくらいだ。
 しかし、誰もが何らかの傷を負い、何かと戦い、何かに苦しめられた中で、自分だけが何の役割もなく、何ができるわけでもなく、ただただ右往左往していただけだ。
 その自分が語れないとあっては、ンドペキやスゥ、アヤやチョットマ、ユウやレイチェルに、そしてライラやプリブに申し訳ないと思った。
 どこから話すべきだろうか……。
 やはり……。 


 マスカレード。
 仮面舞踏会。めくるめくとはああいうことを言うのだろう。
 ただ、雰囲気に呑まれるというのではない、心を揺さぶられるというのでもない、意識が吹き飛ばんばかりの幸せ。
 チョットマが楽しそうに踊るのを三階の貴賓席から眺めるだけだったが、イコマにとってあれは忘れることのできない一夜となった。
 プリブが拉致されたのは、その翌日。

「チョットマとスミソがプリブが逮捕されたといって駆け込んで来てから、僕が調べたこと、知ったこと、そしてそこから生まれた仮説については、すでに話しました。まだそれほど日は経っていないので、覚えてると思います」
 パリサイド星への上陸を翌日に控え、イコマは当時まだ行方不明だったアヤを探して、この宇宙船オオサカに残ることを話した日である。
「その夜、いなかった人もあるので、要点だけ話しておきます」

 拉致される前夜、チョットマのダンスの相手になるべく近寄ってきた男三人。その中のぼろを着た男が首尾よくチョットマの心を掴むことができ、翌週の舞踏会でまた会おうと誘った。
 しかし、男は現れなかった。
 現れなかったということは、コンピューターが作り出したキャストではなく、我々と同じようにそこに参加した人物である可能性が高い。
 プリブではないか。
 拉致されてしまったのだから。
「それに、その男が名乗ったEF16211892という名。数字をアルファベットに置き換えると「プリブ」となる。しかし、推理はそこから停止した。全く、何の手がかりも、ヒントもないばかりか、どちらを向いて何を探せばよいのかも分からない状態だった。しかも、」
 その直後、アヤが行方不明になっている。
 ンドペキが倒れ、スミソが倒れ、果てはチョットマまで悪夢に倒れている。
 プリブには悪いが、それどころではなかった。
「しかし、小さな出来事は、目を凝らさなくては見えないほど微細なヒントは、身近なところにいくつかは落ちていたのです」

 話を端折っていきますが、とイコマはチョットマの顔を見た。
 視線がまともにぶつかった。
 もう、すべてを知っているのだろうか。
 チョットマが真剣な目をしている。きっと、知っているのだ。
 イコマは、視線をスミソに向けた。
 こちらも、同じような目をしているが、少し笑っているような表情だ。

 スミソ。
 イコマはこの男を見るとき、自分に重ね合わせてしまうことがある。ころほどチョットマを愛しているのに、まだ報われない男……。
 自分と同じという意味ではない。自分は十分に幸せを謳歌している。
 スミソの、力のなさ、押しの弱さ、を思ってしまうのだ。チョットマを想うあまりに一歩下がってしまうところ。そこが自分と似ていると思うのだった。

 スミソが膝を乗り出した。
 関心があるのだ。彼自身の理由があって。
 しまった。
 この話をするつもりはない。
 スミソの顔に泥を塗るつもりはない。今や、サブリナの顔を持つこの男に。
 しかし、話の間が空きすぎた。
 スミソがぽつりと言った。
「二人目の男というのは、僕です」
 そう。
 何となくだが、そう感じていた。
 すでに、チョットマにもそう話している。本人に確かめたかどうかは知らないが。
「だよね」
 聴衆には意味が分からないだろう。
 マスカレードでチョットマにダンスの申し込みをした二人目の男。スミソが、それは自分だと名乗ったわけだが、それが事件に関係するわけでもない。
 それはわかっていて、あえてこのタイミングを選んだのだろう。
 チョットマに告白するために。
 スミソらしい、としか言いようのないタイミングだったが、イコマはまた、自分と重ね合わせていた。

 スミソがチョットマのどんな反応を期待していたのか分からないが、チョットマは黙って何度も頷くだけだった。
 しかし、その顔には幸せの色を貼りつかせていた。そしてスミソを見つめた。ありがとうというように、瞳を輝かせて。
 スミソにはそれで十分だったのだろう。
「すみません。関係ないことだったみたいですね」と、笑った。


 イコマは、プリブが殺人事件の容疑者として拘留されたという考えを持った、と話した。
「そんな状況の中、耳寄りな、というか、関連しそうな情報が入って来ていました。ユウから聞いた話です」
 ヴィーナスという市民中央議会の議員が殺されたという情報。
「その女性は、オペラ座で殺されたというのです。しかも、僕たちが楽しんだマスカレードで」
 人気のあるアトラクションだから、知っている人も多いと思います。
 マスカレードは一週間に一度しか開かれない開催時期固定のアトラクション。
 イコマとチョットマ、そしてプリブが楽しんだ、楽しんだかどうかは疑わしいがスミソが参加したちょうどその日に、ヴィーナスは殺されたことになる。

 最初にチョットマが発した「逮捕された」という言葉に惑わされたとは言わなかった。その代り、当時、疑問に感じたことを披露した。
「オペラ座は誰でも出入り自由です」
 使用中のブースはオペラ座の廊下から消え、普通、人はそのブースに入ることはできない。ドアも壁と同化してしまうからだ。中央議会の議員ともなれば特別な、例えばVIP用のブースなどがあるのかとも思ったが、聞いたところ、そのような配慮はない、とのことだった。
 つまり、ヴィーナスは自身がマスカレードに参加している時、同じく参加している人物に、その仮想的に作られた空間において、殺されたことになる。
 しかし、そんなことが可能だろうか。
 可能である。特殊な条件下においては。
「しかし、それは的外れだった。なぜなら、ヴィーナスが殺されたその方法、つまり手口がプリブにはなし得ない方法だと思われたからです」
 ソウルハンド。
 一部のパリサイドが行使できる「武器」。
 人の精気を吸い取ってしまうというおぞましい能力。
 プリブがそんな力を持っていたとは思い難い。
「結局、手口の情報を得て、プリブの行方探しは全くもって行き詰ってしまいました」

 そう言いながら、イコマは自分が嘘をついているという気がして仕方がなかった。
 プリブの行方を捜して求めていたかというと、実際はそうでもなかったからだ。
 ンドペキ、スミソ、そしてチョットマと続いた原因不明の病気があったから。
 そして依然としてアヤが狂信者集団「ステージフォー」に操られていたから。
 それどころではなかった。


「警察に囚われたのではない。治安省にでもなく、ブランジールの部下達によって連れ去られたのでもない」
 イコマは当時、市長のアイーナを信用していたといえる。
 その配下である警察省や治安省でないとすれば、宇宙船オオサカの船長ブランジールを怪しむことになるが、彼に諭された言葉に心を揺さぶられたのだ。
 その当時は、物事を大きく見ろという言葉に、生意気なと、反発したものだったが、それはアヤのことが心を占めていた時に聞いたもの。素直に受け取れるはずもない。
 しかし、今にして思えば、その当時から心の中では、ブランジールの言葉はもっともだと思っていたし、そしてブランジールはプリブの件に無関係だと考えていたと思う。
 しかも、彼らに捕まるどんな理由も考えられないのだから。
「そして、安易に考えてしまった。プリブもあの連中に囚われたのではないか、と。アヤと同じように」
 宗教団体といえば聞こえは普通だが、つまりは狂信者集団「ステージフォー」の実体が明らかになっていた時期だった。

「ありもしない存在。頭の中でひねくり出した神というもの……。よくもまあ、そんなものを持ち出して……。たぶらかそうたって、そうはいかない……。それがこれまでの僕の宗教に対する反応だったが、今回はさらに始末が悪かった。というより、不愉快極まりない」
 イコマは不愉快という穏便な言葉を使ったが、ここで神などという言葉を使うことさえ虫唾が走ることだった。
「そいつはロームスという名を持つ、宇宙生物だった」
 ロームスとは、パリサイドのいかれた連中が付けた名である。
 チョットマが聞き耳頭巾のショールを使って、そいつと言葉を交わしている。

「実際問題、僕は気が気ではなかった。チョットマがそんな奴と話している。普通ならそいつに思考を奪われてしまうところなんだし、チョットマは戦っていたんだが、本当にもう、一歩間違えば……。僕としては祈ることしかできないし……。しかし、その会話の中で気づいたことがある」
 イコマは、心の中に渦を巻き始めた宗教に対する嫌悪感を押し留めて、こう言った。
「ところで、サワンドーレって奴を覚えてる?」
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