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パリサイド 作者:奈備 光

6章

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71 よくぞ、娘を

 宇宙船オオサカでは、ユウが窮地に立たされていた。
 オーエンは呼びかけに応えようとしない。
 グラン―パラディーゾのレベルは上がり続けている。

 ユウに呼ばれて立ち上がったパリサイドの女性がライラに頭を下げるのを見て、イコマは誰なのか、といぶかしんだ。
「ライラさん。私はサーヤと申します。オーエンの妻でございます」
 そう聞いて、ライラの表情が曇った。
「私のような、神の国巡礼教団に心を奪われ、夫にさえ殺された者が命を永らえることになり、貴方の娘さんのサブリナが命を落としてしまったことに、まことに心苦しく、本当に申し訳なかったと思っております」
 と、さらに深く頭を下げた。

「エーエージーエスで夫オーエンに殺された時には、JP01、ユウさんが私を救ってくださいましたが、ベータディメンジョンからこちらの次元に戻ってきました際には、私はサブリナを見殺しにしてしまったようなものでございます」
 涙ながらに当時の状況を伝えるサーヤを、ライラは黙って見つめている。
「私は炎に焼かれ、もはやこれまで、と死を覚悟しました。再生カプセルを使うのは今しかない、と。そしてこうして生き延びましたが、サブリナの姿がありませんでした。辺りはアンドロの死体がうず高く積み重なっており、彼女を探そうにも、手の付けようのない有様でした。きっと彼女は既に脱出したのだろうと思い、その場を離れましたが、彼女がまだそこに倒れていたのだということを、後で聞かされました。そして、彼女は自分用の再生カプセルを持っていなかったことも」
 サーヤは肩をわななかせ、ライラに許しを乞うている。
 それを誰もが黙って聞いている。
「そもそも、あの宗教にサブリナを引き込んだのは私です。本当に……、本当に、とんでもない罪を犯してしまいました。夫は私を殺しましたが、当然の報いです。夫にも、あなたにも、サブリナにも、謝っても謝っても、許されることではありません。なのに、こんな私のような者が生き延びてしまい、サブリナは死んでしまった。私が不注意なばかりに」


 イコマは思い出していた。
 そんなことがあった。
 ユウがサーヤを伴って、エーエージエスのオーエンに会わせに行った時のことを。ニューキーツでの出来事だ。
 その時、オーエンは怒りに任せて、自分の妻、サーヤを一刀両断に切り裂いたのだった。
 ユウが傍に居なければ、サーヤはそこで死んでいただろう。
 ユウが持っていた再生カプセルで生き返らせたものの、結局サーヤはサブリナと共にアンドロ次元の安全性を調べるために死を決してベータディメンジョンに向かい、帰る途中で極大太陽フレアの直撃を受けたのだった。
 サーヤは自分用の再生カプセルを使ったが、サブリナはそれをロア・サントノーレで死にかけたスミソに使ってしまって、持っていなかったのだ。
 サブリナはその時、まだ息があった。母であるライラが瀕死のサブリナと会っている。ライラが最期を看取ったのだ。
 カプセルを使えば確実に助かった命だったのに。

「私は生きている価値のない人間です。宗教などに他人を引き込み、その家族を不幸にしたばかりか、その人が死にかけているとき、助けようともしなかった。どうお詫びをすればよいのか分かりません……。許していただけるとは思っていませんし、私がここで死んだとしても、罪を償ったことにもならないと思います……。本当に、本当に、申し訳ありませんでした……」
 もう、サーヤは床に突っ伏して泣きじゃくっている。
 イコマは、暗然たる気持ちになった。
 人の心を支配する宗教というものに、そしてそんな妄想を広めて、人々を支配しようとする宗教団体という組織の邪悪さに、改めて強い怒りを感じた。
 そんなものと、とうに決別したはずの人類。
 なのに、またぞろ、ステージフォーなどと名乗る者達が現れて、神などというありもしない存在を担ぎ上げ、組織を大きくしようとしている。そして社会に根を下ろそうとしている。
 人の心の弱みに付け込んで。
 こんな宇宙の只中においてでさえ。
 人類が他の次元に移行することができるほどに、科学が進んだ今でさえ。

 そうか。
 だから、ステージフォーはグラン―パラディーゾを妨害しようとしていたのか。ベータディメンジョンに移行し、地球と行き来ができるようになっては、困るのだ。
 そんな便利なことになれば、神の有難みがなくなるのだ。自分達の組織の優越度が下がるのだ。
 だから……。
 なんという低レベルな発想。
 なんという自分勝手な発想。
 イコマは、ウジ虫がいっぱいの糞ツボに頭から浸かった時のような気分になった。
 ウジ虫が口から耳から、鼻の穴から体の中に這い行って来たような気分になった。


 サーヤが顔を上げた。
 天井を見つめた。そこにオーエンがまだいる、というように。
「あなた! あなた! 私をここで、もう一度、殺してちょうだい! どんな方法でもいい! 償いにはならないけれど、せめて、せめて、少しだけでも、償わせて! お願い! あなた! JP01、もうカプセルは使わないで! 私は死ななきゃならないの! あなた! 早く! あなた! 殺して!」

 固唾を飲んで見守る中、ライラが口を開いた。
「あたしゃ、夫のホトキンも、あんたを憎んでいるよ。心の底から。よくぞ、私達の娘を」
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