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パリサイド 作者:奈備 光

6章

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67 あなたは誰!

 その頃、イコマは宇宙船オオサカのグラン―パラディーゾコントロール室の隣室に、スゥ、アヤといた。ライラとスジーウォンも一緒だ。
 コントロール室に比べて広く、ホールのような部屋。
 多くの人が行きかっている。
 ンドペキとチョットマの帰還を待っていた。
 ユウも出たり入ったりしているが、ほとんどの時間はイコマと話している。
 スタッフの面々はは緊張の面持ちだが、だからと言って悲壮感はない。
 おおむね、気持ちのいい興奮状態というところだろう。

 ライラが聞き耳頭巾のショールをアヤに返しながら話している。
 長生きはするもんだね。もう少し早くこれを見つけていればなおよかったけどね。
 どういうこと?
 彼女に会いに行けたかもしれない。
 誰に?
 まあ、そんなことはもう済んだこと。あたしの命ももうすぐ終わりだし。
 そんなこと言わないで。もっと長生きしてよね。
 ありがとうよ。最後まで自分でいれたことがよかったと思ってるよ。
 ライラらしくなく、今日は気弱なのね。
 気弱じゃないよ。あいつの指示で動くだけじゃなくて、自分で考えられたからね。
 よくわからないよ、ライラ。分かるように話してよ。


「ねえ、ノブ」
「ん?」
 ユウがイコマの二の腕に手をのせた。
「これから、どうする?」
 今回のミッションが成功裏に終われば、引き続き第二ステップに移行するはずだという。
 ベータディメンジョンに今いる人々がどうしたいかによって細部は変わるが、ベータディメンジョンに人類のもうひとつ生息拠点を持つ、そしてパリサイド、ベータディメンジョン、地球との間の通行ルートを確立するという根幹は変わらない。
「アイーナが総指揮を執るんやったら、私の実行責任者という立場は変更なし、ってことになると思うねん」

 迷うことは何もなかった。
「ユウについて行く、それだけのことや」
「ありがとう。でも、なんていうか」
「ああ、立場のことやな」
「まあね」
「何でもする。例えば、そうやな、警備員とか守衛とか」
 半分以上は冗談だ。
 ユウと共にいる口実、というか、暮らしの拠点というか。
「腕力ないのに?」
「なら、スタッフの一員として。うーむ、資料整理係とか」
「ハハン、科学的知識もないのに?」
「ユウのお側用人。そやな、お茶汲み係りとか、コピー係りとか」
「そんなん、あかんて。そんな人、いらんし」
「ほらな、どないせえ、ちゅうねん」

 本当に、仕事は何でもよかった。
「ノブは建築家やん。そっち方面は?」
「この作戦室にそんな仕事があるんかいな。それに、建築家をやって、ユウのそばにおれるんかいな」
「そうやなあ」
「やっぱり、お側用人がええな」
「あかんて」
「お、そや。アイーナのお側用人ってのはどや。アイーナの居るところユウ有り」
「さては、アイーナの美貌に惚れてんな」
「違うて。なんでそうなるねん」


 そんな話をしているときだった。
 血相を変えてスタッフがユウを呼びに来た。
 すぐ来てください! システムが異常な動きを示しています!
 やれやれ、大事な話をしているときに。
 ンドペキやチョットマが心配になったが、自分にできることは何ひとつない。
 イコマは不安を胸にしまうと、自分のこれからのことを夢想した。
 仕事はなんでもいい。
 ユウのそばに居れるなら。
 何か、自分にできることは……。


 しばらくしてから戻ってきたユウの顔がこわばっていた。
「ノブ!」
「どないしたんや」
「グラン―パラディーゾがコントロールできない! 暴走してる!」
「……」
「一緒に来て! みんな一緒に!」

 暴走?
 それがどういうことなのか実感はないが、非常事態であることはユウを見れば一目瞭然だった。
 唇が震えていた。
 何はともあれ、コントロール室に向かう。
「おかしいのよ!」
「何が!」
「いうことを聞かない!」


 現在、本来はモードJ。
 待機モードだという。
 こちらと向こうのゲートを開きつつ、消費エネルギーを最小限に抑えておくモードだという。
 それが、モードK、つまり向こうからこちらに人が帰還してくる時のモードに勝手に移行しているらしい。
 まだ、その時刻ではないのに。

「確認できるか!」
「いいえ。認められません!」
 考えられることは、向こうに移動した人が戻ろうとしているということだ。
 緊急時用に、向こう側のゲートにはそのモードに移行するためのスイッチがあるという。
 当然、通信は使えない。自らの判断で帰って来れるというわけだ。
 しかし、向こう側のゲートでそのスイッチが押された形跡はない。
 しかも、ゲート周辺に人の存在は確認できないというのだ。
「誰もいません!」


 そればかりか、グラン―パラディーゾはレベルを上げ続けている。
「間もなくレベル8!」
「なんだと!」
「少しづつですが、確実に上昇しています!」
「くそう!」
 スタッフが様々なことを試しているが、システムはいうことを聞かないのだ。
「どうなっているんだ!」
 手を打つたびにレベルは若干の低下を見せるが、すぐまた上昇を始めてしまう。
「モードは戻せないのか!」
「ダメです! 反応しません!」
「どうすりゃいいんだ!」
 窓から見えるグラン―パラディーゾのゲートは、元は小さなオレンジ色の点だったが、今は幾分膨張しているように見えた。

「ブランジール!」
「ブランジール! 返事をしてくれ!」
 こういう状況になれば、頼るべきは宇宙船のシステム本体であるブランジールだが、一向に返事がない。

 ユウにも手の打ちようがないのだった。
 そもそも、実行責任者ではあるが、科学者ではなく技術者でもない。
 エンジニアでない者は、ただ見守っているしかない。
「隊長! どうしますか!」
 聞かれても、答えようがないのだ。

 かれこれ、三十分が経過した。
 スタッフの焦りの色は恐怖の色に変わりつつある。
「だめだ!」
 やるべきことをやりつくしたのか、スタッフの手は止まりがちになっている。
「あきらめないで! まだ、方法はあるはず!」
 ユウが励まし続けているが、スタッフの反応は鈍い。


 と、スタッフの一人が立ち上がった。
「申し上げます! もう、手がありません。試していないことはただ一つ。シャットダウンのみです!」
「そんなことをすれば!」
「しかし、このままではエネルギーが持ちません! 彼らが帰って来れなくなります!」
 シャットダウンが成功すれば、グラン―パラディーゾはゲートを閉じ、停止する。
 しかし、再起動に時間がかかる。
 もちろん、約束の時刻には到底間に合わない。
 間に合わないどころか、再起動に失敗するかもしれない。なにしろ、現在、システムの異常が起きているのだから。

 ユウが拳を握りしめていた。
 決断を下さなければいけないのだ。
「こんなことが起きるとは……」
 静まり返った部屋に、スタッフの呟きが聞こえた。
「ありえないことだな」と、返す声。
「ブランジールが狂ったとしか思えないな……」

 問題はシステムではない。
 そんな声も聞こえた。
 システムを動かしている人工知能、あるいはブランジール船長の意志の問題ではないのか、と言いたいのだ。
「そうでなきゃ、説明がつかない」

「ブランジール! 返事をしてくれ!」
 スタッフが叫び出した。
「どうしたんだ!」
「ブランジール船長!」
「なんとかしてくれ!」

「どうしましょう! 刻々と膨大なエネルギーが失われています! 止めるなら、早く止めないと、再起動もままならなくなります!」
 決断が迫られている。
 ユウが奥歯を噛みしめて、目をつぶった。
「それに、万一このままレベル十に達したら……」


「ちょっと待って!」
 スゥが大きな声を上げた。
「今、向こうには行けるんでしょ! 私は向こうに行く!」
 ざわついていたコントロール室は水を打ったように静まり返った。
 飛び出していこうとするスゥを、スジーウォンが押し留めようとした。

 ユウが顔を上げた。
「あなたは誰!」
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