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パリサイド 作者:奈備 光

6章

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64 いよいよだね

 指定された時刻に、イコマ達はグラン―パラディーゾ準備室に向かった。
 そこで、どこからどんな攻撃を受けたのか、発表されるだろう。
 船室の照明はあれからすぐに復旧されたし、巡回する警察官に聞いても、状況を説明してくれる者はいなかった。
 市民はおおむね平静で、朝食を摂る様子もいつもの朝と同じ光景だった。

 念のため、ンドペキとチョットマは愛用の装甲と武器を持参したかったが、先日の放電以降、エネルギーの補てんはされていない。
 必要なものは……、とチョットマはいろいろ考えていたが、結局は少々の食糧チップをポーチに忍ばせただけだった。
「なんだか、みんなとピクニックに行った時のことを思い出すね」
 ンドペキは思い詰めたような顔をしていたが、チョットマはいたって元気そうだった。
 ンドペキは、パキトポークと会うことに加えて、チョットマを守らなくてはいけないことになったことで、緊張を漲らせているのだろう。
「ねえ、ンドペキ。パキトポーク、元気だといいね!」
 チョットマは、そんなことを言っては、ンドペキに纏わりついていた。
 ミッションが実施されることを、少しも疑っていないようだった。

 一行は、ユウを除く家族五人だけ。見送りはない。
 スミソには伝えないでおこうということになった。
 アイーナのあの様子では、彼女も相当混乱している。
 チョットマが行くということになれば、スミソは自分もと言い出すだろうが、却下される可能性も大きい。
 そうなれば、ひと悶着あるだろう。大事な仕事を控え、ユウを困らせることは何としてでも避けたかった。


 準備室には大勢の人々が集まっていた。
 誰もが忙しく動き回っている。
「ノブ!」
 入り口に突っ立ってその様子を眺めていたイコマ達に気づいて、ユウが駆け寄ってきた。
「さあ、早く準備して! ていうか、準備なんてないか」
 と、笑顔で言う。
「グラン―パラディーゾの起動時刻が早まってん。さ、こっちへ」

 参加者の控室へ向かう途中、ユウの短い説明では、攻撃は大したことではなかったらしい。
「やな感じやねん。相手は、ステージフォーの連中」
「まだいたのか」
「ううん。捕まえたやつを星に送り返したやん。その船が引き返してきて、このオオサカに特攻をかけたみたい」
「えっ」
「全員即死」
「なっ」
「こちら側の乗組員は、すんでのところで脱出したからよかったけど」
 数百人が死んだことになるが、ユウの顔が曇ることはない。
 さすがに笑顔は引っ込めているが、ミッションが予定通り実施されることが、よほど嬉しいのだろう、むしろ喜びが見え隠れしている。
「通信だけじゃなく、オオサカの観測機器全てがダウンしてるから、気付かなかったのよね」
「なぜ、そんなことが」
「原因? 黒幕? そんなん決まってるやん。やつらが神と崇めるロームスやろ。きっと。どこにでも入り込めるやから」
「ステージフォーの連中も、自分がなぜ死んだか、分からんかもな」

 ユウはもうそんなことに関心はない。
「グラン―パラディーゾの運転に支障がなかったことが不幸中の幸い」
 あくまでミッションが、彼女の思考の中心だ。
 ステージフォーの特攻攻撃はオオサカのエネルギー庫を狙っていたというが、失われたエネルギーは致命的というほどではなかったらしい。
「今となっては、小さなエネルギーも無駄にできない状況やけどね」
「それで、スタートを早めた?」
「それもあるけど、船体に穴が開いたでしょ。また例の霧が紛れ込まないか、アイーナは心配みたい」
「なるほど。でも、オオサカの運航には支障はないのか?」
「全然。相手はそもそも輸送船だし、この船のサイズに比べたら、象とありんこ」
「そうか。で、グラン―パラディーゾの準備は?」
「いつでもオーケー。準備万端!」


 控室に行っても、何の説明もない。
 それどころか、斥候隊はすでに出発したという。
 その帰還を待つのみだが、不安な様子を見せている者はなく、それぞれの準備に余念がない。
 部屋の隅に巨大クッション姿のアイーナが座っているが、彼女だけが目を瞑って黙然としている。

「いい? ゲートは向こうの街イダーデの中心やなく、元々は地球の街と繋がっていたホールに開く予定。チョットマは行ったことあるよね」
 ユウが手短に説明してくれる。
「一番注意しなくちゃいけないことは時刻のこと。調査時間は二時間丁度。向こうの時間概念で言うと、計算上、二時間三十二分十秒ということになるわ。ただしそれは、イダーデの街の中心の交差点を基準にしての場合。覚えてるよね。向こうの時間の進み方」
 東に進めば進むほど時間の流れは速く遅くなり、西に行くと逆に速くなる。
「そうよ。だから、東に行くときは注意して。東で一時間経ったと思ってたら、帰ってきたら一時間半経ってたってことになるから」
「ああ。経験済みだ」と、ンドペキが応えた。
「よし。その通り」と、ユウが一見古風な腕時計を取り出した。
「ここを見てね」
 デジタル表示ではなく、長針と短針が回るタイプだ。
 ただ、普通の時計と違う点は、文字盤に二つの時計が並んでいる点。
「左がこちらの次元での時間。右が向こうの次元の時間。自動的に位置を把握して時間の流れを調整して表示してくれる。必ず左側の針を見るのよ。わかった?」
 念のため、気圧計も実装してある便利な時計だった。

「向こうに着いたら、ンドペキとチョットマは一応、自由にしていいことになってる。でも、帰還時刻の前に、必ずアイーナと合流して。どうするか、行ってから、様子を見てアイーナと相談して」
 後続のチームはないので、必ず余裕をもって集合時間を守ること。
 ユウが何度も念を押した。
「こっちに帰って来なかったからといって、ゲートを開き直すエネルギーはない、と思って」
 二人は神妙に聞いていたが、それでも不安に思うのか、こう付け加えた。
「できれば、ずっとアイーナと一緒にいてくれるとええねんけど」

 今回の調査は、アイーナを軸に回る。
「今回は時間も短いし、調査員の大量投入もしないから、カイロスの調査はしないことになってん。アイーナはきっと歩き回って、向こうの大気の状態や浮遊エネルギー量や、有害線の有無などを調べるだけになる」
 だから、アイーナ一行といつも一緒にいれば安心だという。
「頼むから、変な冒険心、起こさんといてや」


 ンドペキが気になっていたことを聞いた。
「もし、向こうの人たちが、一緒にこっちに来たいって、大挙して押し寄せてきたらどうするんや?」
 ユウはちゃんと答を用意していた。
「それはアイーナの専権事項。彼女がどういう態度をとるか、向こうの希望者の人数にもよるけど、今回は代表者十名ほどを連れ帰ることになってる。で、第二陣で、後日受け入れると伝える」
「納得しなかったら?」
「ふふん。聞きたい?」
「人質を置いて帰る」
「えっ! 人質!」
 にわかにンドペキの顔が曇った。
「それ、まさか」
「ンドペキとチョットマ? 違う違う! パリサイドの中から二名。すでに任命されてる。必要ならばっていう場合だけどね」

 ユウが持ち場に戻ってしばらくしてから、斥候隊の内一名が帰還してきて、拍手で迎えられた。
 向こうの状況は環境的には問題ないという。
 ただ、ゲートが開く地点で観測してきただけで、他の地点は不明だ。
 十分おきに一名ずつ、計三名が帰ってきた時点で、本隊が出発することになっている。
「後、三十分。いよいよだね!」
 チョットマの目が輝いた。
「みんな、そろそろ、ゲート前に移動するよ」
 アイーが立ち上がっていた。

 きっかり三十分後、アイーナを先頭に、ミッションベータディー調査隊が、白く光るグラン―パラディーゾの最上段、次元の扉をくぐっていった。
 階段の足元、イコマとスゥ、そしてアヤは、他のスタッフに混じって、米粒みたいに小さく見えるンドペキとチョットマに手を振って見送った。
 空には満天の星が輝き、先日と同じように、パリサイドの星は階段とは反対側、オオサカの船尾にその姿を見せていた。
 ユウの晴れがましい声がアナウンスに流れた。
「さあ、みんな! 例の準備にかかりましょう!」
 調査隊の帰還を祝う秘密のアトラクションを用意してあるということだった。
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