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パリサイド 作者:奈備 光

6章

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63 手を繋いで

「ここに!」
 置手紙!
「暗くて読めへんぞ」

 船室は真っ暗だった。
 いつもはこんなことはない。
 夜でも仄かな明かりはついている。
「電源が落ちたんか」
「のようやね」
 非常灯なのか、緑色のランプがあちこちに点灯している。
「チョットマのやつ、どこに行ったんや」
「あっちで読も」


 パパ、ママ、ごめんなさい。
 私やっぱり、アイーナ市長に会って頼んでみます。
 チョットマ

 とだけ書かれてあった。

「そうか……」
 チョットマは居ても立ってもいられなかったのだ。
 納得できないのだ。
 自分がベータディメンジョンの調査に参加できないことが。
 男性に限ると言われたことが。

「やれやれ」
 それにしても、何も好き好んで危険なことを選ばなくても、とは思ったが、もうチョットマは出かけてしまっている。
「自分で決めて自分で行動する。それでいいやん」
「まあ、そうやけどな」
 祈ることしかできないもどかしさを感じながら、イコマはまた、しようのない奴やな……、と呟いて短い手紙を読み返すしかなかった。
「大体、パパが優柔不断やと、こういう娘に育つ」
「ふん」
「旦那が優柔不断やと、大抵こういう妻になる」
「おい。きついこと言ってくれるやないか」
 耳が痛い。
 愛に対する己の優柔不断さは重々承知だ。
 しかし、それはもう過去のこと。
 の、はずだったのに。

「それはまた今度。で、今のん事故か?」
 と、その時、再び揺れが襲った。
 先ほどの揺れほどではないが、遠く、爆発音も聞こえてきた。
「まずいかも」
 ユウは元の姿に戻っていたが、たちまちパリサイドの姿になると、
「ノブ、一緒に来て。私が抱いていくから」
「ん?」
「早く!」
 と、その大きな腕に包み込まれてしまった。
「この方が速いから」


 他の人々も不安げな表情で起きだしていた。
「ンドペキ! チョットマがアイーナに会いに行っている。行き違いになるかもしれへんから、もし帰ってきたら、みんなと一緒に居るように言うてくれ!」
 そう叫んでおいて、イコマはユウの翼の中に納まった。
「まず、市長のところへ」
 ユウはもう駆け出していた。
 特殊な走法があるのだろう。飛ぶように速い。

「こういう場合のユウの持ち場は?」
「決まりはない。でも、行かな。その前にアイーナのところへ!」
「今、何時や?」
「午前四時!」
「後、三時間」
「そやね!」

 揺れは収まっているし、爆発音ももうない。
 ただ、その原因如何によっては、ミッションに支障があるだろう。
 きっと今頃、市長はじめミッション関係者はてんやわんやだ。
「チョットマは僕が探すから、ユウは行くべきところに行ったらどうや」
 しかし返事はなかった。
 どこかと通信して、状況を確認しているのだろう。
 イコマは黙って、それが終わるのを待つことにした。

 下手な想像を膨らませても意味はない。
 今後、自分が取るべき行動を考えてみることにした。
 もし、ミッションが中止ないし延期になった場合の。
 父として、夫として。

 しかし、もどかしいことに、何の考えも浮かんでこない。
 自分は今、どんな仕事もしていない。
 隊の中にも、自分の立ち位置はない。
 あるのは、チョットマの父であり、ユウの夫である、ただそれだけ。
 それなのに、自分がどう振る舞えばいいのかさえ、分からないのだ。
 ただユウに抱かれて運ばれていくだけ。
 情けない、とイコマは呟いた。


 市長執務室に到達するまで、ほんの数分。
「あ」
 ユウが小さな声を上げた。
「チョットマ!」
 長い殺風景な廊下のその先、執務室の前で、チョットマが膝を抱えて座り込んでいた。
 うな垂れて目を瞑っている。

「あ、パパ、ママ」
 ユウがぐんぐん近づいていく。
 と、チョットマを挟んで向こうから、アイーナを中心とする一団がやって来た。
 巨大クッション姿は遠くからでもよくわかる。
「市長!」
 両者がチョットマのところで一緒になった。
「うむ」
「トゥルワドゥルーの元へ向かいます!」
「うむ」

 情報の交換はない。
 状況は互いに既知のことなのだろう。
 ユウはおはようと、チョットマの頭を撫でると、じゃ、行ってくると飛び去っていった。


 アイーナはあれこれと指示を出し続けている。
 機体の損傷は軽微。ブランジールによれば、エネルギー庫が狙われた模様。流出したエネルギー量はこちらで確認する。
 あなた方はグラン―パラディーゾの損傷の有無と、その復旧に全力をあげなさい。それが最優先事項。
 市民の安全確認は警察に一任。くれぐれも、不安を与えないように。そのためにも、船室の電力を直ちに復旧させなさい。

 アイーナが部屋に入ってしまう前に、チョットマが進み出た。
「私もミッションに参加させて下さい!」
 しかし、アイーナはまだ、指示を出し続けている。
 現場に向かっている軍には、軽々に発砲しないように伝えなさい。相手が誰であろうと。
 友船二隻への攻撃がないかどうか確認し、こちらの被害状況を第一報として伝えなさい。

 部屋に入る前にようやくチョットマの方へ顔を向けると、
「そう決まってるじゃないか! 何を寝ぼけているんだい! 今更、妙なことを言うんじゃないよ!」
 と、執務室に消えた。
 ロームスがまたぞろ入り込んでいないか、調べなさい。
 星との通信はまだ復旧しないのか。
 そして、「あ、イコマさん。昨夜はすみませんでした」という言葉を残して。


 イコマとチョットマだけが、廊下に取り残された。
 船室と違って、こちらは煌々と明るい。
 呆然とその場に立ち尽くしているチョットマにイコマは声を掛けた。
「さあ、帰ろか」
「うん……」

「なんや、ようわからんなあ」
 久しぶりに手を繋いで歩いている。
「アイーナの態度も、今の状況も」
「ここに来てからのこと、全てね」
「そうやな」

 時折、政府関係者とすれ違うが、誰もが、悲壮な顔をしている。
「よかったやないか。ミッションに参加できて」
「よくわからないけど、そういうことみたい」
「アイーナは何を謝ってたんやろな」
「さあ。前夜祭に出なかったことじゃない?」
「まあなあ」
「みんな、もう起きてる?」
「ああ」

 チョットマが立ち止った。
「ん?」
 手が離れ、大きく伸びをした。
「さ、切り替えよう!」
 そして、上げた腕を下す反動で、大きくぺこりと頭を下げた。
「パパ! ありがとう! ベータディメンジョンに行くこと、許してくれて!」
 顔に生気が戻っていた。
 晴れ晴れとした目をしている。
 長い緑色の髪を大きく揺すった。
「父親なら誰もが持つ不安は、娘の自信に打ち消された、ということや」
「へへ! じゃ、走るよ!」
 もう手を繋いでくれそうになかった。
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