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パリサイド 作者:奈備 光

5章

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58 うそうそ。冗談よ。

 翌日、家族全員でアイーナに礼を言いに行こうということになった。
 イコマ、ンドペキ、スゥ、アヤ、チョットマの五人である。ユウとは向こうで落ち合うことになった。
「すみません。お忙しいところ」
「いいえ。忙しくはないわ。JP01が全部やってくれているから」
 アイーナに勧められて、いたるところに置かれた猫脚のチェアや、花柄のファブリックのソファに腰を落ち着けた。

 アヤを救ってくれた一連の出来事に、イコマは喜びを溢れさせて何度も頭を下げた。
「そんなにお礼を言ってもらえると、恥ずかしいわ。かわいこちゃんのお姉さんだというから、少し気にかけていただけ」
 礼を言いながら、イコマの目はアイーナに釘付けになっていた。
 再び、巨大クッションの体ではなくなっている。
 ダイエットなどと言っていたが、違うようだ。

 絶世の美女とはこういう人を指して言うのだろう。
 美の基準は人によって違うだろうが、アイーナはまさにすべての人の美の基準の最高位にあると言えた。
 ふくよかな頬に輝く瞳。
 大人の女性にはなかなか見られない、きれいなピンク色をした形の良い唇。その上にすっと盛り上がった真直ぐな鼻の線。
 細面の端正な顔の輪郭を余すことなく見せながら、グラビアのように変えていく表情がどんな人をも惹きつける。
 それに、艶のある緑色の長い髪。
 単に緑というより、深い森の中、神秘の湖を思わせるエメラルドグリーン。
 アイーナが頭を動かすたびに、森の小さな妖精が零れ落ちるように輝いた。

「あら、イコマさん。どこを見てらっしゃるの」
 言葉遣いまでが、今までと違う。
 唯一、これがアイーナだという印は、聞き覚えのあるハスキーな声だけだった。
「あ、いえ」
「この髪?」
「え、まあ。見事な……」
 まさか、見とれていましたとは言えない。
「チョットマと同じ、緑の」

「全然違うよ!」
 チョットマがイコマの腕を引っ張った。
「市長の髪が断然きれい」
「ううん、チョットマ。貴女の髪も、とってもきれいよ」
 アイーナに笑いかけられて、物怖じしないはずのチョットマも、さすがに顔を赤らめた。

「先日も、この髪だったんですけどね」
 アイーナが髪を弄ると、まるでそこから本物の花の香りが目に見えるかのように匂い立った。
 グラン―パラディーゾの試験運転の日だ。
 確かに、巨大クッションの体ではなかったことは分かっていたが、髪は?
 髪どころではない。顔も記憶に残っていなかった。
「あ、いえ、その、申し訳ありません」
「謝るようことじゃないですよ。きっと皆さん、アヤさんのことで頭が一杯で、周りを観察する余裕なんてなかったのでしょうから」
「え、まあ……」

「ノブ。なんか、見てられないねえ。なに、あがってるん?」
 ユウがにやにやしている。
「なんというか、勝手が違うというか……」
「確かにね。市長がこんなにきれいな人だったとは、知らなかったわ」
「まあ、JP01に褒められるなんて、光栄ね」


「あの、市長」
 チョットマが顔を火照らせたままで、アイーナに聞いた。
「どうして、あの、丸い身体をしていたんですか?」
「おいおい。それはいろいろ事情が」
 イコマがたしなめる間もなく、アイーナは幸せを振りまくように笑った。
「いいのよ。かわいこちゃんらしい質問よね」
 アイーナは相変わらず、かわいこちゃんと呼ぶが、彼女はチョットマを一目見た時から気に入っている。
 きっと、この髪もその理由のひとつなのだろう。
 アイーナの手がすっと伸びて、チョットマの緑色の髪を撫でた。

「教えてあげようか」
「はい」
「市長室の前に、世界中の王子様が行列を作っちゃ、困るでしょ」
「あ、そうか!」
「うそうそ。冗談よ。そんなに私、自惚れちゃいないから。本当は、嫌な奴から体を守るため、あの分厚い装備をしていたのよ」
「へえ! あれって、装備だったんですか」
「そうよ。私の肌を連中に晒さないためのね」
「だからあんなに分厚い服を。でも、じゃ、もうその嫌な奴はいなくなったの?」
「そうねえ。そう思わない?」

 アイーナはそれをチョットマに言うようでいて、その場の全員に聞いているようだった。
「イコマさん。この世界には不思議な意識が存在することをお話ししましたよね」
「ええ」
「私、そういうの、大嫌いなの。許せないのよ。生理的に。背後から人を支配するような」


 その時、来訪者があるという連絡があった。
「キャンティが来ました」
「通してください」
「では、この辺で。いつまでもお邪魔していてはいけないと思いますから」
「いえ、お時間が許すなら、皆さん、もうしばらくいらしてください。イコマさん、きっとあなたもお聞きになりたいでしょうお話をしますので」

 アイーナに引き止められて、断る理由はない。
 キャンティ。
 一度だけ、講師を務めたかわいい女の子。すこぶる優秀で、十五歳にして就職が決まっているという。
 オペラ座のテストプレーヤーをしていたということだったし、地球市民の心をたった一度のレクチャーで掴んでしまったものだった。

 しかし、キャンティはサワンドーレの娘。
 娘に罪はないが、イコマは心がわななくのを感じた。
 サワンドーレめ!
 プリブを語って、アヤを連れ去った男。
 ステージフォーに洗脳されたのかどうか知らないが、だからといって許せる相手ではない。

「でも、イコマさん。キャンティを責めないでくださいね。アヤさんのことは、彼女には関係ないことですから」
 心を読んだかのようなアイーナの念押しに、イコマは思い出した。
 そうだ。
 聞き耳頭巾を届けてくれたのは、キャンティだった。しかし、
「当然です」
 とは言いながら、胸に沸き起こった怒りを何とか表情に出さないことに苦労していた。
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