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パリサイド 作者:奈備 光

5章

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55 三度の呼びかけに

「ん? こいつ、敵じゃないですか!」
「敵じゃないよ! それに、こいつでもない! 私たちの家族!」
 チョットマの剣幕に、男たちが渋々、装甲を外しにかかった。
 万一に備えて、銃口を向けつつ。
「おい! あんたら、それは何の真似だ!」
「敵ですから」
「なんだと!」
「ふん。文句があるなら、このままにしておきますけど。そのうち、回収車が来ますから」

「ごちゃごちゃ言ってないで、直ちに彼女の装甲を外しなさい!」
 アイーナの声がした。
「あ、市長! 来てくれたんですね!」
「かわいこちゃんが心配だったからね」
「ありがとうございます!」
「JP01も無事だよ。ンドペキと一緒にこっちに向かっている」
「よかった!」


 装甲を外している間、アイーナが簡単な説明をしてくれた。
 どういうわけか、携帯型のエネルギーパットがすべて、一瞬にして放電してしまったのだという。
「敵も味方も、エネルギーがなければ、装甲は厄介な鉄の檻。指一本動かせないさ」
 ここでのエネルギーパットは地球のものと違って、戦闘状態でも二千時間は持つという。
「言っただろ。ここは不思議の星だって」
「何らかの意思?」
「今回ばかりは味方のようだね。結果的に我々のミッションは継続できるってわけさ」
 幸いに、次元移行装置グラン―パラディーゾのシステム基幹部分に致命的な損傷はないという。
「イコマさん。もうしばらくJP01をお借りしますよ。直さなくちゃいけないところがたくさんあるので」
「彼女はエンジニアじゃないですが」
「そうね。でも、彼女が必要なのよ。彼女の指示ならなんでもきく、って連中がたくさんいるんだよ」
「わかりました」
 ここで文句を言っても始まらない。
 全員無事だったことが何よりだ。
 あとは、アヤ……。


 いよいよ、アヤの装甲の頭部が取り外される時が来た。
 イコマは期待に胸を膨らませた。
 久しぶりに見るアヤの顔……。

「間に合った!」
 ユウとンドペキがやってきた。
「アヤちゃん!」
 勢い余ってユウは男達を突き飛ばし、アヤの体に抱き付いた。
「今、外してあげるからね! ほら、お顔を見せて!」


 ヘッダーが外れるか外れないうちから、アヤの声が聞こえてきた。
「やめろ! 離せ! 私をどうするつもり!」
 イコマは血の気が引いていくのを感じた。
 ダメだったのだ。
 アヤの洗脳は続いている……。
「私はアヤなんていう人じゃない! あんた、いったい、私に何の用なの!」
 と、アヤの目がイコマを捉えた。
 その瞳は、言葉の鋭さとは裏腹に、思考が停止している者の固定化された暗黒のみがあった。
 なんということだ……。
「アヤ……」
 そう言うのがやっとだった。

「まあまあ、話は後でね!」
 がっくりと肩を落としたイコマやンドペキの横で、ユウはむしろの楽しげな声を出して、アヤを励ましている。
「苦しかったでしょ。もうすぐ全部外せるからね。あと少しの辛抱よ!」

 頭部を覆っていた装甲がすべて取り払われた。
「ふう! どこにも怪我はないようね。大丈夫! アヤちゃん! 大丈夫よ!」
 と、今度は胸の装甲を外そうとしている。
「くそう! 邪悪な者共め! 神の怒りを招くぞ! その汚い手で触るな!」
 アヤが口汚く叫んでいる。
 男達がまた銃口を向けた。
「待ってくれ! 敵じゃない!」


「あっ」
 小さな声を上げたのはチョットマだった。
 男達が後ずさりした。
「聞き耳頭巾ね!」
 ユウの声は、いたって楽しげだ。
 布が再び鎌首をもたげたかと思うと、するするっとアヤの顔に巻き付いた。
「ほう!」
 アイーナは興味深げにその様子を見ている。

「頼むぞ」
 イコマは思わず、聞き気味頭巾に囁いた。
「さすがね」
 ユウは手を休めることなく、胸部の金属板を外しかけている。
「なによ! これ! 汚らわしい! 窒息させる気!」
 アヤの声が聞き耳頭巾を通して聞こえてきたが、やがておとなしくなった。
「さ、これで楽に息ができるでしょ」
 ユウは次にアヤの肩に取り掛かっている。


「ぐわっ!」
 突然アヤが苦しげな叫び声をあげた。
「アヤ!」
 ユウも驚いて手を止め、聞き耳頭巾の布に触れた。
「わっ」
「えっ」
「冷たい」
「まずいのか?」
「いや、信じる」
 アヤが激しく首を振り始めた。
「ぐっ」
「アヤちゃん!」

 ぐっ、ぐっ。
 何度もアヤは苦しそうに声を吐き出した。
 ぐっ。
「頭が!」
「アヤちゃん! アヤちゃん!」
「アヤ!」

 ぐえぇぇっ!
 やがてアヤは、がっくりとうな垂れ、布が力を失ったようにはらりと床に落ちた。
「アヤちゃん!」
 ユウの両手がアヤの頬を包んだ。
「アヤちゃん! しっかり!」
 持ち上げたアヤの顔は血の気がなかった。
「しんどかったね。でも、もう大丈夫よ」
 ユウが優しく声を掛けているが、アヤは聞こえていないのか、固く目を閉じている。

「ぼやぼやしてないで、早く装甲を外してあげるんだよ!」
 アイーナに叱咤されて、男達がアヤの体に飛びついた。
「ノブ。アヤちゃんの頭を支えていて!」
「よし」
 ユウがまた肩の装甲を外しにかかった。
「アヤ……、しっかりするんだ……」
 アヤの顔はほんのり温かかった。


「じゃ、後はかわいこちゃん、任せたわよ」
 と、アイーナは立ち去っていく。
 チョットマが、その背中に、ありがとうございました、と頭を下げた。

「アヤ」
「アヤ」
「アヤ」
 三度の呼びかけに、アヤの目が薄く開いた。
「アヤ……」
 唇が動いた。
「お、じ、さん……」
「アヤ!」
「よかった! 気がついたのね!」
「ユ、ウお、姉さん……。お父さんも……」
「もう大丈夫よ! よく頑張ったね!」
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