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パリサイド 作者:奈備 光

5章

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52 「なんてことだ!」

 急襲だった。
 ステージフォー構成員百名ほどが、四つの部隊に分かれて次元の扉のシステムを破壊しようとしていた。
 どこからともなく現れて、行き当たった人を誰かれなく殺して突き進んでいる。
 試運転が終わって、わずかに生じた気の緩みを突かれたようだった。
 ミッションそのものを阻止しようというのだ。

 軍はすぐさま体制を立て直したが、敵の動きに追随するには間があった。
 敵の破壊対象がどこにあるのか、把握できていなかったからだ。
 どこに向かえばいいのか、分らない。
 システムはこの宇宙船の航行システムなどと密接に関係している。
 各所に張り巡らされたシステムと一体化しているとさえいえた。

 しかも、相手の装備は想定をかなり上回っていた。
 もともとパリサイドはその肉体が武器になりうる。
 システムや機器を破壊すればよいというのであれば、誰かがその場に到達さえすれば、達成されかねない。
 ただ、むやみに破壊すれば、宇宙船もろとも彼らの命も危うくなる。
 それに、エネルギー供給や情報システムは、幾通りもの迂回ルートが用意されている。
 その点では、ミッションにたちまち重大な危機が生じるとは考えられていなかったが、かといって猶予はない。
 軍、警察、治安の各部隊、及びブランジールの乗組員はシステムの重要ポイントを守るとともに、敵を迎え撃つ態勢をとった。

 スジーウォンは部隊を引き連れ、後方支援にあたることになった。
 パリサイドと本気で撃ち合うことになれば、勝機はない。
 市民を集め、安全を確保する任務である。
 アイーナの警護及び軍の連絡将校付きとして十名程の隊員も派遣している。
 ンドペキとイコマはそこに同行していた。
 もちろん、アヤと会うチャンスを求めて。


「指令室は確保した! グラン―パラディーゾはどうだ!」
 イコマは、次元の扉へ登る階段が実体を持った構築物でないことを、その時知った。
 物質的な硬さを有した幻影。
 デッキ床に張り巡らされた駆動部がそれを実現するという。
「展開完了! しかし!」
 グラン―パラディーゾが実体化する甲板への出入り口は、百ほどもあるということだった。
 もちろん閉鎖されている。
 しかし、破壊されては侵入を許すことになる。
「人数が足りません! 奴らが来ないうちに、人員の補強を!」

 ステージーフォーの四つの部隊の現時点での位置は補足できている。
 しかし、その向かう先の予測がつき難かった。
「ブランジールめ! なにをしてやがるんだ!」
 本来開けないはずの扉が次々と開けられていく。
「くそ! なぜ、こんなことに!」
「エネルギー庫に向かっているぞ!」
 固く守られているはずのエリアが、いとも簡単に突破されていく。
「現在、デッキに向かう敵はない! しばらく待機!」
「了解!」


 ンドペキとイコマは、司令室にいた。
 むっつりした顔でアイーナが中央に陣取っている。
 いつの間にか、またあの巨大クッション姿に戻っていた。
「ユウ!」
「よかった! ここで会えて!」
「状況は!」
「よくない!」
 ステージフォーの動きを含め、戦況報告が飛び交っていた。
 所在は分からないが、軍の本部ルームと通信が結ばれている。
 同じ映像がモニターに映し出され、音声もクリアだ。
「間もなく接敵! 戦闘許可を!」
「許可する! システムを守ることを最優先せよ!」
 戦闘員に取り付けられたカメラから、状況がリアルタイムに送られてくる。
 巨大なモニターは、たちまちエネルギー弾が放つ光の渦で埋まった。

「くそ! これでは」
 アヤを探すどころではない。
 モニター画面では極彩色の光が躍るばかりで、人の姿は判別できない。
「ポイント三六六へ迎え! 途中の扉は破壊してよい!」
 指揮官が叫んでいる。
「敵はすでに目標地点に到達した模様! 何らかの工作を始めていると思われる! 遭遇次第、攻撃せよ!」
「捕獲は考えなくともよい! 遠慮なくやれ!」
 軍のトップ、トゥルワドゥルーの声が聞こえた。


「うむう!」
 ンドペキが唸り声を上げた。
 ここにいてはだめだ。
 アヤを救い出すどころか、みすみす殺させてしまう。
 アヤはもとよりパリサイドではない。
 足手纏いになることを避けてこの戦闘に参加していないことを祈るばかりだが、なんの保証もない。
「おい!」
 ンドペキが立ち上がっていた。
 東部方面攻撃隊としての武装はしている。
「俺は行く! じっとしていられるか!」

「勝手な行動は許さん!」
 司令室の前で警護していた兵が、きさまに許可は出さぬ、と言い放った。
「娘の命がかかっているんだ! 俺を止められるなら止めてみろ!」
「邪魔をする気か!」
「あんたらのミッションに興味はない! 大事なのは娘の命だけだ!」
 押し通ろうとするンドペキに、兵士が飛びかかった。
「行かさんぞ!」

 ユウが立ち上がった。
「私が」
「えっ」
「あなたはミッションの総責任者です!」
 ンドペキともみ合う兵士の動きに一瞬の隙が生じた。
「あなたは、人として何が最も大切なのか、わかっていないわ!」
「そういうことだ!」
 ンドペキが兵士の腕を逃れ、駆けだした。
「行くぞ!」

「ちっ、余計なことを!」
 それでも、警護隊の隊長は数人の兵士に後を追わせた。
「JP01を守れ!」
「ノブ! しばらくそこにいて! 何かあれば連絡して!」
 と叫ぶユウの声は、もう遠くなっていた。


 しかしイコマは思った。
 自分がここにいても、何もできない。
 ここでアイーナとモニターを見つめていたところで、アヤを救えるわけでもない。
 むしろ、宇宙船の中を歩き回っている方がいいのでは。
 あるいは、チョットマと一緒にいる方がいいかもしれない。
 きっと、いてもたってもいられないはずだ。
 戦闘に参加しようとするかもしれない。

「JP01の言うとおりだよ」
 イコマの心を読んだのだろう。
 アイーナが言った。
「あんた、娘を探しているんだろ。ステージフォーに拉致された娘を。それならここにいることだね」
「なぜだ」
「そのうち、分かることもあるってことだよ。さあ、座って」


「なんてことだ!」
 兵士が叫んでいる。
「敵の本隊か!」
「ちきしょう! まだいやがったか!」
「落ち着け!」
 グラン―パラディーゾのデッキに波が押し寄せるように、百人ばかりの敵が出現していた。

「兵の絶対数が足りません!」
「くそ! 間に合わないか! 二十秒後! 敵が到達する見込み! デッキ北東部に集中しろ!」
「了解!」
「持ちこたえろ! 二分後には予備隊を送る!」
 じりじりする二十秒だった。
「トゥルワドゥルーのぼんくらめ! いったい、どこに予備隊を集めていたんだい! どいつもこいつも!」
 たちまち光線に埋め尽くされたモニターに向かって、アイーナが毒づいた。

 すでにモニターは五つの画面に分割され、それぞれの戦況を映し出している。
「モードを変えろ!」
 モニターから発せられる光が消えた。
 光の渦は透明化され、視界は暗いが兵士達の姿がくっきりと映っている。
「うむう」
 デッキでは、劣勢は明らかだった。
 兵数が全く違う。
 しかも、こちらは遮るもののない甲板上で応戦せざるを得ない。
 どの出入り口を選ぶか、敵の権利。
 格好の標的だ。
 一人二人と、味方が倒れていく。
「持ちこたえろ!」

「特定化準備完了! 表示しますか?」
 係員が叫んだ。
「不要だ!」
 と叫んだ指揮官に向かって、アイーナがまくし立てた。
 何を言ってるんだい!
 しかし、こちらの声は向こうには届かない。
「入れろ!」
 トゥルワドゥルーの声がした。
 当然だろ!
「了解しました!」
 モニター画面の右端に、人の名らしきものが並び始めた。
 イコマの目は、そのリストに釘づけになった。
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