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パリサイド 作者:奈備 光

5章

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50 モードE

 試験運転の見学ルームは、それらしくない部屋だった。
 高校の教室を二つ繋げた程度の広さはあるが、アンティークな白い家具が所狭しと置かれている。
 中央に、様々な計器が仕込まれたデスクが陣取り、甘い匂いが立ち込めている。
 そこに座っているのは、顔色の良い、しかし少々くたびれた肌をした女性だった。
 目つきは鋭いが、微笑んでいるような唇をしていた。

 その横に控えているユウは、数日会わなかっただけで、別人かと思うほど、やつれて見えた。
 ここはミッションの中枢、指令室。
 気後れする雰囲気だったが、イコマは構わず声を掛けた。
「ユウ! どないしたんや! 疲れとるぞ! 働きすぎと違うか!」
 抱き付いてくれはしなかったが、それでもユウは普段の言葉で、イコマを安心させてくれた。
「今日、うまくいったら、家に帰るから。ごめん、心配かけて」
「家なんか、ないけどな!」

「あの、ずいぶん……」
 チョットマが中央の女性に声を掛けている。
「ずいぶん、なに? かわいこちゃん」
「いえ、その、とてもスリムで……」
「でしょ」
 え、市長! と、イコマは目を剥いた。
 あの巨大クッションの?

 アイーナは想像もできないくらいに、痩せていた。
 痩せたといっても、普通の人間と同じ体型だが。
「この方が、いいでしょ」
「はい!」
 と応えたものの、チョットマはそれも失礼かと思ったようで、
「丸いお姿も素敵でしたけど……」と、口ごもった。
「だめだめ。心にもないことを言っちゃ」
「はい!」


「ダイエットのことはさておき、さあ、始めましょう!」
 アイーナが宣言した。
 係員達がてきぱきと動き始め、照明が落とされ、様々な計器やモニターの存在感が増していく。

 調度品のコンソールデスクやカップボードが姿を消し、カーテンが開け放たれ、その背後に隠されていた大きな窓が姿を現した。
 おお、という感嘆の声が上がった。
 窓の外には果てしもない空間が広がっていた。
 星々が煌めいている。
「あれが、ミッションの中心装置。名づけてグラン―パラディーゾ」

 宙に浮かんで、長大な階段が威容を誇っていた。
 装置らしき物は何も付属していないし、ボルト一本ない。
 細い、そして華奢な段板が百段ほどもあろうか、真っ暗な宇宙空間に、照明を浴びて緩やかに伸びていた。
 そしてその先は……。

「あそこに扉が出てくるんですか」
 チョットマがアイーナに聞いている。
「そうだよ。起動すればね」
 今はただ、階段の先は暗闇に吸い込まれているだけだ。

 兵士達がきれいな等間隔で、空に浮かんで、階段を守っている。
「ここは、宇宙船の中じゃないんですね」
「中だともいえるし、外だともいえるね」
「へえ」
「元々は、船外として計画していたのさ。でも、それだと、かわいこちゃん達が行けないだろ」
「そうですね!」


「では、初めておくれ」
 アイーナの合図で、装置が起動された。
 階段自体が光りだす。
 上部にいくにつれて強く。

「おおっ」
 階段の最上部先端に、光り輝く小さなゲートが出現していた。
 人ひとりが通れるくらいのサイズだという。
「設置完了!」
 係員の声が響いた。
「では、モードCへ」
 アイーナが解説してくれた。
 モードCとは、あらかじめ指定された向こうの次元のある地点を、自動的に探索し、安全を確認することだという。

「完了しました!」
 係員が、向こうの環境指数を読み上げていく。
「よし! 想定通りだね。じゃ、モードDへ!」
「扉を開きます! まずは、オープンレベル1!」
 レベルに応じて開き具合が変わるらしい。
「少しづつだよ!」
「はい!」

 装置の限界レベルは、計算上48まであるらしいが、5程度で人が行き来できる設計だという。
「コンタクトしました!」
「環境指数、再確認!」
「変わりありません!」
「よし! では、次のレベルへ!」
「レベル2まで上げます!」


 そのようにして、手順を踏んでレベル10まで上げていき、再びレベル5まで下げてきた。
 装置は順調に動き、なんの不具合もない。
 向こうの環境指数も、若干の揺らぎはあるものの、人間が移行して問題ない範囲で推移している。
「では、いよいよ、モードE!」

 次元と次元を繋ぐチューブ状のスペースを具現化するモードだ。
 その他のモードも順に丁寧に確認されていった。
 通過する人の肉体的負荷を最低限に抑えるモード。
 負荷を犠牲にして移動物質量を確保するモード。そしてその中間。 
 緊急停止モードなどなど。
 ただし、緊急全開モードは、その所作のみまでだ。
 全開して、ベータディメンジョンの膨大なエネルギーがこちらに噴出しては困ることになる。
 あの小さなゲートからでも、向こうのエネルギーが流れ込めば、この宇宙船を含む宇宙空間のかなりの範囲が瞬時に吹き飛ばされてしまうだろう。
 しかも、もしゲートがそのエネルギーに持ちこたえきれなくなった時には、想像を絶する被害がこの宇宙に及ぶかもしれないという。


「以上を持ちまして、予定しておりました試運転は、すべて滞りなく終了いたしました!」
 係員の声に、アイーナは満足そうに頷いた。
「よろしい。皆、ご苦労だった。最後の点検をして、今夜はゆっくり休むように。四日後、この装置が幸せを運んで来てくれますように!」
 見れば、階段はゆっくりと暗闇に沈みゆきつつある。
 アイーナやユウがその様を凝視している。
 係員達も感慨深そうにその様子を見ている。
 レイチェルやライラも、そして誰もが黙って、光の消えかけた階段を見つめた。


 ベータディメンジョンに向かうパリサイド側のメンバーが紹介された。
 斥候隊、第一陣、第二陣、第三陣、技術チームや救護隊などに分かれ、総勢九十九名。
 ユウの名はなかった。
 しかし、アイーナの名があった。
 市長自ら向かうのか、とイコマは違和感を持ったが、彼女にも思惑があるのだろう。
 ただ、それほどのプロジェクトなのだ、と思った。

 地球人類からは、ンドペキ、スゥ、スミソ、チョットマの四人が向かうことになった。
 アイーナと同じ第二陣に同行する。
 できることならチョットマに行って欲しくはなかったが、彼女の意志は固かった。
 チョットマなりの理由は様々にあるが、引き止めることを断念した言葉がある。
 私は、友達のニニを向こうに残してきた。会えるチャンスがあるのに、私の方から会いに行かないなんてことは考えられないの。


「さあ! 今夜最後の一仕事だよ! かわいこちゃん、一緒に来てくれるね!」
 ようやく階段から視線を外し、アイーナがチョットマに声を掛けた。
 ユウが腕を組んできた。
 イコマはその腕に自分の手を乗せた。
 ライラが心配そうにチョットマを見ている。
 アイーナが、にこりとした。
「ブランジールのところへ!」
「はい!」
 チョットマが嬉々とした顔を見せた。
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