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パリサイド 作者:奈備 光

5章

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49 まさか収容所

 オーシマンが失踪し、着陸船が飛ばなかった日から、数日が経っていた。
 人々は、部屋の外壁が消え去る様を見て、恐怖におののいた。
 今の今まで自分の身を守ってくれていると信じでいた分厚い壁や天井。
 実は幻を見せられていたのだと知って、背筋が凍りつくほどの恐怖だった。
 そして、ほとんど暴動が起こりかねないほどの怒りも抑えがたかった。

 人々は今、デッキのはるか下部、三層に広がる客室層に引き籠っている。
 環境は激変している。
 地球の街と同じような風情だった上部デッキでの暮らしと打って変わって、ここはまるで収容所。
 船室なのだから、こんなものだという者もいたが、この待遇の違いが、これからの我々の未来を暗示しているという者もいた。
 まるで、片田舎のフェリーの最低ランクの船室。
 油臭くはないし、煙草のヤニが染みついているというわけではないが、埃が舞い、蒸し暑く、かすかな羽音のような音が四六時中していた。
 薄っぺらな色とりどりの敷物を並べただけの空間が広がるのみ。
 ベッドはおろか椅子さえもなく、人々はただ床に直に座り込んだり、寝転んだりしている。
 唯一、ほっとできる空間は、そこここに設けられたシャワーブースの中だけ。
 窓でもあって、星々を眺めることでもできれば、少しは気分も晴らせようが、不愛想な壁が連なっているだけだった。


 イコマは何とはなしに、食糧や日常品や簡易な衣類などの収納庫に並んでいる人々に目を向けていた。
 東部方面攻撃隊の隊員が、それらを掌握し、人々に秩序と理性を求めている。
 結局、アヤは見つからなかった。
 街が消えたデッキでも、この船室でも。
 このフロアには、一部には狭いながらも一応は個室状態となった部屋もある。
 そのどこかにいるのだろうか。

 あれからブランジールからのメッセージは、ただの一度きり。
 街が消え去り、自分の部屋で休んでいた人々が白い床の上に放り出された直後である。
 階段を使って下に降りろと。
 備品は自由に。
 そんなどうでもいいことだけを伝えた船内放送があったきりだ。

 イコマは船室の大広間の隅っこに居場所を定め、ずっと周りを見回しながら過ごしている。
 他の市民も同じようなものだ。
 イコマ達にはスゥがいるおかげでたいていのことは知っていたし、予想することもできた。
 しかし、他の人にとっては知らないことばかりで、疲労も不安もピークだったろう。
 些細な事件は頻繁に起きた。
 ほとんどがつまらないことが発端の喧嘩。
 不満がいやおうもなく募る中、レイチェルがなんとかその暴発を抑えている。
 もうここには警察などいない。そもそも、パリサイド社会の誰もいないのだ。
 以前に増して、東部方面攻撃隊の存在に重みが増してくいる。
 隊長として、スジーウォンもそれなりに忙しくなっていた。


「やれやれ」
 そんな独り言だけが口から出てきて、イコマは自分を戒めた。
 前向きに、緊張感を絶やさずに、と。
 ふと横を見ると、ライラと目があった。
 ぷいと目をそらされて、イコマはまた、やれやれと独り言ちた。

 手持無沙汰だ。
 なんの持ち物もない身。
 居場所を決めたものの、印となるようなものもない。
 広間は各層、最大十万人ほども収容できるとあって、人々は互いに声が聞こえない程度の距離を取り、疎らに座を得ている。

 レイチェルを取り囲むように、攻撃隊の面々が陣取り、それに接してイコマやライラ夫婦が座り込んでいる。
 ンドペキとスゥのペアもすぐ近くだ。
 チョットマは、この際だから、とイコマと同じ場所で寝起きしている。
 彼女が悩んでいることを知っていた。ひとりで、デッキに出ていくことも多い。
 その理由は知らないが、自分が何の役にも立っていないというようなことを考えているのだろうと思っていた。
 相変わらずライラとは話しているようだが、それを指摘したりはしなかった。
 イコマ自身、どんな助言もできそうになかったからだった。


 サーティが訪ねてきた。
「JP01の代理で来ました」
 言わなくてもわかっている。相変わらず、ユウは戻ってこない。
 サーティはユウからの伝言だけでなく、四方山話もしていく。
 ほとんどがミッションについてだったが。
 その内容は難しい。例えばこんな内容だ。

 ベータディメンジョンへの扉を開くための基本的な仕組みはわかっているが、それをこの宇宙船において実現するときの制約について。
 そもそも向こうの次元のどこに出るのが都合がいいのか、ピンポイントでどこに扉のフォーカスを当てればいいのか。
 扉の大きさと性能と消費エネルギーの関係。
 逆流する可能性のあるベータディメンジョンのエネルギー制御について。
 ゲート通過による肉体的影響。特に、パリサイドと地球人類の身体における影響の違い。
 カイロスの仕組みについて、現時点で分かっていること。
 などなどだ。

 パリサイドが考えている次元の扉の制御方法や、システムの中身については語ろうとしない。
 機密に関することなのだろう。
 もっとも、これ以上詳しい話を聞いても、理解ができなかったが。


 しかし、今日の用件は違った。
「今日、我々の試運転にご同席いただきたいと思います」
「試運転?」
「次元の扉を開くシステムです」

 いよいよ、準備ができつつあるという。
「ベータディメンジョンに向かうメンバーとして、数人を選んでいただきたいという件もありまして」
 市民の中からも、有志を募るというのだった。
 有志とはいえ、一度向こうへ行ったことのある者に限るという。
 該当者はごくわずかだ。
 ンドペキ、スゥ、スミソ、チョットマ、ライラ……。
「その方々にも、試運転を見に来ていただきたいと思いまして。他の主だった方々もご参加いただいて結構です」
 では、後ほどお迎えに上がります、とサーティは立ち去った。

 イコマは立ち上がった。
 これは他のメンバーとも話し合っておかなければならない。
 何となく、期待が膨らんでくる。
 このミッションが自分達にどんな影響を与えるか、見当もつかないが、ここに動きがあるのはいいことだ。
 ただ、このミッションについて、他の隊員達や市民にはまだ伏せられている。
 明日にでもパリサイド着陸船が準備されるかもしれず、またしばらくここに留め置かれるとしても、直接関係することとは思えなかったからである。
 そしてもちろん、ユウがこれまで話さなかったことだからである。
 チョットマが早く戻ってくればいいがと思いながら、ライラとンドペキを手招きし、レイチェルやスジーウォンがいる場所へ向かった。


 歩きながらイコマはンドペキと話をした。
「どう思う?」
「なにが」
「なにもかも」
「うむう。何が謎で、何を解決しないといけないのかも、わからなくなりかけてきたで」
「そうやな」
「ここへ来たのが正解やったのか。そんな気分になって来るな。ユウやレイチェルには悪いけど」
「まあな」
 地球から避難し、パリサイドの宇宙船に乗り込むことを提案したのはユウ。
 それをレイチェルが受け入れた。
 それが間違いだったとは、決して思わないが、そんな気分にもなってくる、ということだ。

「パキトポークに会いに行きたいと思う」
 ンドペキはスゥと共に、ミッションに参加するつもりだ。
「万一の時は、アヤを頼む」
「うむ」
「彼女には親として何もしてやれなかった。これが心残りやけど、このままでは、気が変になりそうや。アヤには重々謝っていたと言ってくれ」
「おいおい。帰ってくるつもりはないのか」
「向こうの状況次第では」
「パリサイドの社会に、耐えなれないくらいの閉塞感がある。そう思っているのか?」
「さあな」

 イコマは、ベータディメンジョンとこちらの次元が、かつてのように自由に行き来ができる日が来ることを願った。
 アイーナ市長の思いがどこにあるのかわからないが、もしそうなれば、パリサイドの社会にも変革が訪れるだろう。
 ニューキーツの街がそうであったように、アンドロ達との暮らしがまた始まるかもしれない。
「じゃ、こっちも伝言を頼む。ハワードに会ったら、たまには遊びに来いってな」

「しみったれたことを言うんじゃないよ!」
 後ろから、ライラの声が追いかけてきた。
「それに、状況はあんたらが考えているより、もっとアクティブかもしれないさ!」
「アクティブ?」
「いろんなことが起きるだろうってことじゃないか!」
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