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パリサイド 作者:奈備 光

4章

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47 白い大地が広がる

「黒き衣を着た亡者ども、仮面を投げ捨て、時の神に滅びの光を授けるなり」
 昨夜、ライラが別れ際に残した言葉だ。
 意味を問う前に、ライラは珍しく逃げるように駆けていった。

 今夕は、レイチェルや多くの市民との別れがある。
 特別なことはなにもしないが、イコマはチョットマとともに見送りにだけは行こうと思っていた。
「ライラが言ったこと、どういうことかな」
 チョットマはそう言いながら、オーシマンの着陸用シップの格納庫入口の前にできた行列を眺めている。
 レイチェルはまだ姿を見せない。代表的な意味で搭乗口に出向いて手続きをしているはずだ。
 イコマは、もしやと思って、アヤの姿を捜している。


 普段は解放されていない街の一角で、巨大な広場。
 数万人が一堂に会しているが、静かだ。
 遅れてきた人が続々と集まっては、行列の後尾に誘導されている。
 巨大なスクリーンが随所に用意され、メッセージを流している。
 しばらくお待ちください、と。 

「何かを伝えたかったんだろう。ま、その内、話してくれるさ」
 ライラがあえてあのように意味深な言葉を使って伝えたかったことは、きっと今の事態に関係したことのはず。
 ただ、まだ詳しくは話せない、ということなのだろう。
 そう思うしか、今はすることがなかった。


「遅いね」
 搭乗予定時刻を過ぎているのに、まだ案内がない。
 行列は徐々に形を崩し、座り込んでいる者も多い。

 何らかの事情があるのだろう。
 多くの着陸船があるが、当初の予定から変更があり、結局は二艘のみが使われることになっていた。
 オーシマンの船が地球からの避難者専用、もう一艘がパリサイド用。
「パリサイドは乗り込んでいるのにね」
 地球人類が搭乗するオーシマンの船の準備が遅れているのだ。

 ンドペキが近寄ってきた。
 スゥやスジーウォン達も一緒だ。
 結局、東部方面攻撃隊の全員が居残ることになったと聞いている。
 それぞれ、行列の整理スタッフとして各所に配備されている。
「よくない話が広まっている」

 ンドペキによれば、人々の間に不安が高まっているようだ。
「パリサイドの星は風前の灯火らしい」
「どういうことだ」
「攻撃されるらしい」
「ん? 誰に」
「わからない」

 根も葉もない噂なのだろうが、パリサイドの星はキャンティが話していたような桃源郷ではない、という気持ちが生まれていた。
 ありもしないバラ色の暮らし振りを話したばかりに、キャンティは更迭されたのだという噂が流れていた。
「連中、収容所に引き立てられていく囚人みたいな顔してる」
「うーむ」
「心配はあるだろうけど……」
 しかし、それを払拭してくれる者がいない。
 不安が恐怖に変わってもおかしくはない状況だった。

 人々の上空には相変わらず巨大な星。
 宇宙はあくまで暗く、時刻による変化はない。
 朝も昼も夕も、同じ夜の顔。
 黒々とした不毛の表情が、人々の心に恐怖を落としているのだろう。


「しかし、攻撃されるって、そんな様子はないけどな」
 宇宙空間のどこかから弾が飛んで来るとしても、それに対抗するものがあるとしても、そんな話は聞いたことがない。
 聞いたことがあるのは、パリサイド軍はまともな戦闘を経験したことがないということだけ。
「昨日のサーティの話の中にも、なかったけどな」

「ああ。でも、行列の中では、この宇宙船にいる方が安全じゃないのか、なんてことも囁かれてるぞ」
「パニックになりかけてるのか?」
「そこまでではない。しかし、アギの連中の中には扇動するような奴もいる」
 パリサイドの身体を得た記憶の人アギ。イコマと同類だ。
 まともな生を続けてきた者でないだけに、極端な行動に出がちな面がある。
 そうならなければいいが。


「あ、来たのかな」
 見ると群衆の先頭部に動きがある。
 レイチェルの姿がスクリーンに映し出された。
 ざわめきが広がっていった。

「皆さんに、お伝えすることがあります」
 レイチェルはもう名乗ろうとしない。
 誰もが、自分たちの代表としての彼女を知っている。
 映し出されたレイチェルの顔が紅潮していた。

「本日の搭乗は延期となりました」
 語りかけるレイチェルは、どことなく微笑んでいるようだった。
「次回の搭乗予定日時は、追って連絡します」
 ざわめきが大きくなり、所々で歓声が上がった。
「皆さんに申し上げておきたいことがあります。延期は機体のトラブルというような理由ではありませんし、着陸先の環境が芳しくないというような理由でもありません。あくまで、事務的なミスということです。想定よりあまりにも早く到着したことによる、情報伝達の祖語ということです」
 心配は不要だし、不安な要素はなにもない、とレイチェルが強調した。


 やがて、群衆がどっと崩れた。
 一刻も早くこの場から離れたいかのように。
 その波をかき分けてレイチェルが駆け寄ってきた。
「落ち着いて話せるところへ。あ、そうか。どこでも一緒か」
 通りであろうが部屋の中であろうが、既に会話は当局に筒抜けである。
「じゃ、歩きながら」

 オーシマンの失踪。
 それが、原因のすべてだった。
 船長である彼なくして、船は動かない。
 他の宇宙船を着陸船として準備するには時間がかかる。
 パリサイドが搭乗するシップは、予定通り飛ぶということだった。
 現に、既に行列は跡形もない。
「私個人としては、もう少しアヤを探せるってことね」
 と、レイチェルが微笑んだ。

「これからどうするんだ?」
「そうねえ……。市民の名簿は完璧にできたし……。これと言って、することはないわね」
 レイチェルは、後ろを振り返った。
 広場では東部方面攻撃隊の隊員達が目立つだけで、もう人はほとんど残っていない。
「することないって、しかし……」
「ンドペキ、じゃ、どうしたらいいか、教えてよ」
 ふうっ、と二人同時に溜息をついた。

 着陸船が飛ばなくなった。
 しかも、足止めがいつまで続くのかもわからない。
「まあな、行きたい人はほとんどいなくて、どっちでもいい人が半分くらい。行きたくない人が半分くらい、って状況じゃ、たいしてすることはないか」
「アイーナ市長に、行きたくないのです、なんて言いに行く?」
「市長はさっさと着陸船に乗ったんじゃないのか?」
「まさか。いよいよお気に入りのミッションがスタートするのに? それにステージフォーっていうのも気になるでしょ」


「おい! ちょっと待て。あれは!」
 遠くの街並みが、霞がかかったようにぼやけて見えた。
「宇宙船にも霧が出るのか」
「いや、違う! 消えていく!」
 街の北部から、街並みが薄れていく。
 空が大きい。
 パリサイド星がやけに巨大に見えた。

 すでに、街の中央に立つブランジールの展望台から向こうは、白い大地が広がるだけでもう何もない。
 建物の外壁も、道路も模様も街灯も、何もかもが色彩を無くし、そして透明感が増したかと思うとふっつりと消えていく。
 その波の前端部が、もう近くまで押し寄せて来ていた。
「来るぞ! やばくないか?」
「逃げるか」
「どこに!」


 目の前の建物が消えた時、薄れていく歩道に立ってイコマ達は身を固くしたが、景色を消し去る波は音もなく、そしてどんな衝撃も与えずに通り過ぎて行った。
 残されたものは、金属質の床だけ。
 見渡す限り、暗い真平らな世界。
 波に取り残されて呆然と突っ立っている人々が、床から発せられる淡い光にシルエットとなって、浮かび上がっていた。

「あそこに!」
 よく見れば、ところどころの小さな建物が残されている。
 出入り口だろうか。
「スゥ! 行こう!」
 ンドペキが街の北部に向かって、走り出した。
「アヤを探しに! 今なら、見つかるかもしれない!」
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