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パリサイド 作者:奈備 光

4章

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46 寄る辺のない孤独

 真顔に戻ったサーティが、「プライベートなことなんですけど……」と、一同を見渡した。
「あ、でも、席を外して欲しいという意味ではありません」
 私達の思考の成り立ちについて、ご存じないと思いますので、少し話を。
 秘密でも何でもありませんし、私達にとっては普通のことなのですが、地球から来られた方には違和感のあることなので。
「JP01の指示にはありませんでしたが、私の一存で、お話ししておいた方がいいと思いますので」


「私は、イコマさんを愛しています」
「えっ」
「なっ」
「おお?」
 そんな反応に、サーティは困ったように手を額に当て、
「すみません。私の一部は、と言い直します」と、ますます分からなくなるようなことを言った。
「……?」
「驚かれたでしょう。しかし、もう少し話を聞いていただければ、意味をご理解いただけると思います」

「私は、実際にこの目で地球を見たことがありませんでした」
 サーティは百四十歳だという。
 パリサイドの年齢は見かけでは全く判断ができない。
 分かってはいるつもりでも、百四十歳と聞いて、動揺を抑えることができない。
「ええっ! 私と同じくらいかと思ってた」
 チョットマに、サーティは「ええ。私もここでは若年層ですよ」と微笑んだ。

「私の思考の一部はJP01です」
「ふん。そこが分からないね」
 と言うライラだが、実際は気付いただろう。
 つまり、イコマとンドペキの関係、ユウとスゥの関係と同じようなことだろうと。
 しかし、予断せずにサーティの話を聞こう。


 パリサイドは地球のことを忘れないため、様々な手を尽くしてきた。
 いつかは地球に帰ろうと。
 しかし、百年単位の年月が過ぎ去り、新しく生まれてくる命が増えるにしたがって、望郷の念を持つ人々に危惧が生じた。
 いつか地球に帰ろうという希望は叶えられないのではないか、と。

「そこで、地球を知らない人々に、地球で育った人の記憶を植え込むことにしたのです」
 望郷の念を失わないように。
 帰還の夢を持ち続けるように。
「私に植え込まれた記憶は、JP01のものでした。なので、私はサーティですが、心の中にユウの意識も同じようにあるのです」
 大阪弁も、それなりにうまく喋れたでしょ。
「私にとって、JP01は他人だけど、他人じゃないような感覚なのです。だから、一度、ノブって呼んでみたかったのです」
「それって、イコマを取り合うことになるわけ?」
 スゥの質問に、
「いいえ」と、サーティはきっぱり答えた。

「JP01の記憶や意識が私に入ってきたのは、かれこれ百年以上前のことです」
 同期しているわけではないので、その時点でのJP01の記憶です。
 いわば、過去の彼女の感情。
 それはそのまま私のものともなりましたが、私にもあれからいろいろなことがありました。
 イコマさんを、ユウの意識として、愛していると言えます。
 でも、私は私。
 ユウとしての意識はありますが、それはあくまで他人の意識だという、頭の中の住み分けはできています。


「ふう!」
 思わず、イコマは溜息が出た。
 ややこしいことに巻き込まれることはなさそうだ。
「なんともはや」
「私は私。でも、そう割り切れない人もいるようですけどね」
「というと?」
「きっと、JP01が記憶を渡した相手は、五百人は下らないでしょうから。中には」
「ええっ! 五百とな!」

「JP01は選ばれた人。誰もが記憶を渡すにふさわしい人物とは限りませんから」
 神の国巡礼教団の生き残りとしてこの星にたどり着いた者の内、選ばれた者は二千人ほど。
 おのずと、記憶を渡す相手は数百人ずつということになる。
 そしてこの記憶の伝承は、別の効果も生んだ。
 ある人の数百年分の記憶と経験が継承されることによる教育効果は計り知れない。
 もちろん、マイナスの面もあるだろうが。

「これからも、増え続けるんでしょうね。JP01の記憶を持った人が。彼女たちには、地球にいったん帰還し、イコマさんと再会した記憶が渡されるのです。どんな反応をするんでしょうね」
「うーむ。そんな記憶を渡された方は困るんじゃないかな」
「ですよね。かなり特殊な記憶だし。でも、記憶を渡されるのは十五歳になってからだから、問題は少ないかも」
「うーん。早熟な子だったらどうする?」
「大丈夫とは言えませんけど、一般的にパリサイドは晩熟ですから」


 イコマはまた溜息をついた。
 はやり、ややこしいことに巻き込まれる可能性はあるということだ。
 なにしろ五百人。ノブと呼んでみたいと思う人が。
 誰もがサーティのようだとは言い切れない。
「そうそう、イコマさん。あのJP01が正真正銘のユウだということは、保証しますよ。JP01の記憶を持った他の誰かさんだということは、決してありませんから」
 などと言われては、ますます気が滅入ってくる。
「はああ」と三度、吐息を漏らさずにはいられなかった。

「ユウは、あなたに記憶を渡したことを知っているのか?」
「誰が誰に記憶を渡すのか、公表されている?」
「同じ性別?」
「新しく生まれた人は全員?」
「どんな方法で?」
「そもそも、あなたはJP01の記憶だけ?」
 といった質問に、サーティは簡潔に答えていった。
 記憶の渡し役と受け取る人はランダムに決められるが、性別は同一。
 対象は十五歳以上全員だが、貰う記憶は一人分だけ。
 授受のペアは公表はされていないが、調べようとすれば誰でも知ることができる。
 記憶の渡し役は、自分の都合のいい時に、いくつかの方法から好きな方法を選んで実行する。
 なので、記憶を受け取る方は、それがいつになるのかは分からない。
「きっと皆さんも、誰かに記憶を渡す役になると思いますよ」
 と、サーティは話を締めくくった。
「長々とお邪魔しました。そろそろ失礼して、JP01に報告してきます」


 サーティが帰っていった後、イコマ達は沈黙しがちな時を過ごした。
 アヤを取り戻す、プリブを見つけ出す、という目的はなんら進展なく、意気込みは萎んで、誰の顔にも疲れだけがあった。
 いよいよ明日はパリサイド星への上陸。
 スジーウォンとスミソは、隊員たちと話し合うからと早々に引き揚げていったが、レイチェルやライラはまだ話し足らなそうにしている。

 イコマはこれまでのことをもう一度振り返ってみた。
 状況を大きく捉えよというブランジールの忠告。
 その通り、出来ていただろうか。
 見落としはないだろうか。
 何が謎で、何が事実? これは整理できているだろうか。
 そもそも、相手は誰なのだろう。
 ステージフォーという宗教団体?
 本当にそうなのか。

 プリブがアヤを連れ去った?
 本人ではない誰かがプリブに成りすまして、ということだと思う。
 しかし、それは事実か。
 プリブ本人だとしたら……。

 ヴィーナスの事件。
 これは無関係だろうか。
 それとも、ブランジールの言う、様々な社会の大きなうねりの中のさざ波の一つで、互いに関連した事象なのだろうか。
 そして今サーティから聞いたミッションとの関係は……。


「ねえ、チョットマ」
 レイチェルが口を開いた。
「なに?」
「同期しない?」
「そうねえ……」

 なるほど。
 チョットマが宇宙船に残るのなら、同期しておればレイチェルもこの場に居合わせることができる。
 チョットマもそれは念頭にあったようで、レイチェルの提案に驚きはしなかった。
 快諾はしなかったが。
「どうかな……」

 チョットマが返事をする前に、スゥが口を挟んだ。
「それはできないよ。少なくとも一方がパリサイドじゃないと。レイチェルもチョットマも、記憶や思考がデータ化されていないから」
「そう……」


 ライラが立ち上がった。
 さて、そろそろ帰ろうかね。
 じゃ、私も、とレイチェル。
 お疲れさま。

 見送りに出たイコマは目を見張った。
「おお! これが!」


 街の上空に巨大な天体が見えていた。
「パリサイド……、これが……」
 天井部に映し出された映像なのか、宇宙船の外殻が透過性のあるものになったのかわからないが、そこに空を覆い尽さんばかりの星があった。

「暗い星……」
 火星の表面のように凸凹だらけ。
 赤っぽい岩が冷たく連なるばかりで、そこに人は住めそうにない。
 植物はおろか、大気も水もない極寒の地。
「あの穴ぼこの中?」
 ところどころに地殻の裂け目があり、そこから淡い光が漏れ出している。
「そうかもな」

「ふーむ。動くものは……ないな」
 距離感はつかめない。
 その星がどれほどの大きさを持つものか、実感はない。
「太陽はどこに……」
「ないみたい……」
 温めてくれるもののない星は、きっと寒かろう。
 キラキラと遠く瞬く星々に囲まれて、その天体は寄る辺のない孤独を宇宙のひと隅にかこっていた。

「あ、後ろにも」
 よく見ると、目の前にある天体に半ば隠れるようにして、同じような大きさの星があった。
 近接して宇宙に浮かんでいる。
「双子星か……」
 二つの星にたいして違いはない。
「どちらの星にせよ、地球とは大違いだな……」


 イコマはチョットマと並んで、いつまでも暗い空を仰いでいた。
「ねえ、パパ。きっと、上手くいくよね」
 チョットマの手が温かかった。
「ああ。何もかもね」
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