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パリサイド 作者:奈備 光

4章

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44 見捨てるわけにはいかない

 ノブ、ごめん。
 アヤちゃんのことも、頼ってしもて、ごめん。
 なかなか帰られへんねん。
 パリサイドに着いたら、毎日一緒に居られる思て、頑張っててんけど、えらいことになってしもてん。

 ヴィーナスって、聞いたこと、あるやろ。
 彼女の代わりに、私がやれってことになって。
 いややて何べんも言うたんやけど、断られへんようになってしもて。
 プロジェクトは、ミッションベータディーていうねんけど、その責任者に。

 でな、ほんまに悪いねんけど、私、パリサイドに一緒に行かれへんねん。
 たぶん、数週間くらいで終わると思うけど、終わったらすぐに帰るから。

 な。ごめんな。
 怒らんといてな。

 ほんでな。
 思うねんけど、どうやろ。
 私とスゥが、もういっぺん、同期するっていうのん。
 そしたら、お互い、様子わかるし。

 スゥは、あんなんもうこりごりて思てるやろけど、頼んでみてくれへん?
 厚かましいやろなあ。
 せっかくンドペキと一緒になってるのに、なんでそんなことせなあかんねんて、怒るやろな。
 せやけど、ちらっと、聞いてみて。上手に。
 ぜったい無理やり頼んだらあかんで。
 彼女をこれ以上、傷つけたくないから。

 もし、もしやで。
 スゥがええよ言うてくれたら、KC36632に言うて。
 やってくれるから。

 それから、ミッションの内容は、内緒やけど、KC36632から聞いて。

 そしたら。
 みなさんに、くれぐれもよろしう言うといてな。
 アヤちゃんのことで、えらいお世話になってるから。

 ノブ。
 ほんまに怒らんといてや。
 頼むから。


 KC36632のイントネーションはかなりおかしかったが、ニュアンスは充分に伝わってきた。
「ありがとう、KC36632」
 この調子では、そんなことではないかと思っていたので、イコマにさして驚きはなかった。

 イコマが今晩皆を集める前に決めていたこと。
 それを話すべき時が来た。
「実は、考えていたことがある。僕はこの船に残ろうと思う」
 アヤの名が搭乗者名簿にない以上、自分がパリサイドの星に行ってしまう道理はない。
 部屋の雰囲気にさしたる変化はない。
 多かれ少なかれ、誰もが漠然とそう思っていたということなのかもしれない。

「どうだろう」
 諾も否もなく、概ね了承という空気だ。
「アヤを見捨てていけるはずもない。アヤがこの船から降りない可能性がある限り」


 アヤの父母はンドペキとスゥ。
 しかし、だからといって、自分はこの船から降りてパリサイドの星に行けるものではない。
 残れば命の保証はないとアイーナに言われようが、どんな咎を受けようが。

 ンドペキとスゥがどうするか分からないが、もし残るならそれでよし。
 パリサイドに行くなら、スゥに頼んで、自分とンドペキの同期を復活させてもらえばいいのではないか、と考えていた。
 そうしておけば、もしアヤと行き違いになり、彼女がパリサイドの星に行ったときに連絡が取り合える、と思っていたのだった。
 できれば、その方がいい。
 チョットマも、彼らに預けることができるから。

「この船に残って、アヤを探すつもりだ」
 イコマは宣言するように言った。
「ユウに言われるまでもなく、元々、そう考えていた」


 事態が飲み込めてきたのか、喧々諤々の議論になった。
 ンドペキが怒り出した。
「親である僕が残らなくてどうする!」
 もっともな反応だ。
 当然、スゥもそれに倣う。

 スジーウォンも、隊員同様のアヤを助け出すために、残りたいという。
「強制はしないけど、隊員達もそうしたいと言うだろう」
 コリネルスも頷いたし、ライラもそうしたいという。
「チョットマは?」
「パパやンドペキと一緒にいる」

 レイチェルは悩んでいるようだった。
 彼女はアヤの親友だが、長官として市民をまとめるという役割もある。
「私は、やはり……」
 人々を見捨てることはできない。
 レイチェルにとっては辛い決断だが、上陸する方を選ぶと言った。
「お願いします。なんとか皆さんで、アヤを助けてください」


「今ここで決めなくてもいいことだ。着陸船の搭乗まで、後二十時間ばかりある。それに、残って欲しいというつもりで集まってもらったわけでもない」
 イコマはそう言ったが、趨勢は決まったようなものだった。
 レイチェルを除き、全員の意志が居残る方に傾いている。

 結果は予想していたことでもある。
 できればンドペキには別行動をとってもらう方が好都合だと思っていたが、翻意させることはできないだろう。
 ンドペキにとっても、どんな罰が待っているのか分らないが、それを恐れる気持ちはないはず。
 ここでアヤを残していく気は毛頭ないだろう。


 イコマは、今後ここで行われるというミッションベータディーについて、説明してくれるようにKC36632に頼んだ。
 聞いておかねばならない。
 ミッションによって、自分達の身に、そしてアヤの身に起きるかもしれない環境の変化を把握しておかねばならない。

「私、呼び名はサーティといいます。KC36632は呼びにくいでしょう。サーティと呼んでください
「わかった。じゃ、サーティ、話せる範囲でいい。教えてくれ。我々やアヤに関係することだけでもいい」

「はい。皆さんに話せないことは何もありません。JP01からもそのように指示を受けています。ですが、まずは基本的なことのみをお話しします」
 サーティはにっこりして話し出した。
 スゥが飲み物を用意して、隣に座るように手招きした。


 元々、このミッションはかなり以前から、アイーナ市長が温めていたものなんです。
 いわば、彼女のライフワークみたいなもの。
 アイーナはパリサイドでの人類の将来に不安を抱いているといいます。
 確かに地球に似た環境で、地球にいた頃と同じように暮らしていけることは、死の淵を彷徨った神の国巡礼教団の生き残りとしては、これ以上の幸せはないと言えます。
 しかし、本当にこれでいいのか、という漠然とした不安がアイーナにはあるそうなんです。

「このことは本人に聞いてもらった方が、いいですね」
 自分達はミッションを遂行はするが、その背景まで正確に理解しているとは限らないから、とサーティは言った。

 このミッションに関わっているのは、アイーナを初めとするパリサイドの主なリーダー達です。
 だからこそ、軍のトップや警察や治安の長官もこの宇船に乗っているのです。
 地球に帰還したいという本来の目的が嘘だったというわけではありません。
 むしろ、地球においてこそ、このミッションんはうまくいくと考えられていました。
 しかし残念なことに、地球は普通の人々が住める状態ではなくなり、予定を変更して地球人類を救出することを優先しました。
 ただ、ミッションの第一段階は既に終えています。


「ミッションのあらましをお話しします」
 目的は、人類がパリサイド以外の空間で暮らしていくための方策を探ることです。
 候補地は、この宇宙以外の場所。つまり、別宇宙か、別次元。
 なぜなのか、それは私は知りません。
 きっと、理由はあると思いますが、それはアイーナの胸の中にあるのでしょう。

 別宇宙。
 存在は明白だが、そこへの移動手段がありません。物理的な意味での距離がありすぎるのです。
 どんな航法を使ったとしても、宇宙の最果てのまだ先に到達することは、私達においても容易ではないのです。
 思念を及ぼすだけでは意味がありません。
 究極の目的は、人類が移住することなのですから。

 となれば、候補は別次元。
 こちらの方が、まだ身近な空間です。
 しかし、その次元の空間的な構成が、人類が生きていけるものでなくてはいけません。
 当然ながら、空間軸が六次元や九次元では人類は生きていけませんし、それが揺らいでも困るわけです。

「結局、最大の候補は、アンドロの次元。そうなったことは必然なのです」
 あの次元なら、空間軸は三次元です。人類がこの姿のままで普通に生きていくうえで、不都合はありません。
 時間軸も、一定ではないものの、この宇宙の、地球のそれに近い。
 問題は渦巻くエネルギーの存在だけ。
 それさえ制御できれば、人類の移住先として最適な空間であるという結論になったのです。


「私達は、大切な仲間をあそこで失いました」
 KW兄弟が、次元エネルギーの渦に巻き込まれて命を落としました。
 その死の本当の理由を知らなくてはいけません。
 その意味でも、私達は再びあの場所に向かわねばなりません。
 そして、兄弟の死因を突き止め、人類が暮らしていける環境に改善できるかどうかを判断し、移住の具体的な計画に繋げていく必要があります。

「それがミッションの目的です。そして」
 サーティが力を込めた。
「もし、あの場所が人類の移住先としてふさわしくないのなら、あそこに残された人々を救い出さねばなりません」


 ンドペキやスジーウォンの目が輝きだした。
 ベータディメンジョン、アンドロ達の次元。
 そこには、数千人の人々がいる。アンドロだけでなく、マトやメルキトも。
 パキトポークも。
 科学者ゲントウが作ったカイロスという装置を頼って。
 そして、カイロスを守るためのに人身御供となった、アンジェリナやセオジュン。
 彼らの傍にいたいと言ったニニも。

 チョットマが顔を上げた。
 そして、きっぱりと言った。
「私にも、できること、あるはず」
 ショールを握り締めていた手を挙げた。
「あの場所に行ったことがある人はそれほど多くない。ンドペキ、スゥ、スミソ、ライラ、そして私。道案内だってできるわ!」
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