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パリサイド 作者:奈備 光

4章

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43 無意味な仮説

 スミソは無表情だが、その意志の揺らぎは痛いほどわかる。
 もし、イコマの想像が正しければ。
「思うんだが……」
 スミソは言い淀んでいるが、誰も助け舟の出しようがない。

 チョットマはどんな反応をするだろう。
 イコマはそう考えると、心が痛かった。


「マスカレードで会ったという、あの……、EF16211892という男。あれはコンピュータが作り出したキャストではなく、本物の人間じゃないかな……なんて思うんだけど……」
 チョットマが不安そうに顔を上げた。
 誰の顔にも、「どうしてそう思うのか」と書いてあった。
「……」

 スミソは自分の想像を場に投げるだけ投げて、黙り込んでしまった。
 イコマは思った。
 スミソはこの後、何を期待しているのだろう。
 いや、何も期待などしていないだろう。固まってしまった状況を進展させようとしているだけなのだろう。
 あくまで冷徹に。私情を交えず。

 チョットマはあれから聞き耳頭巾のショールを手放さない。
 今も、膝に掛けている。
 それを握る手が小さく震えていた。


 部屋の沈黙がスミソを苦しめている。
 イコマは自分から話すことにした。
「実は、僕もそう思う」
 チョットマと目が合った。
 動きにくい顔の筋肉を思い切り使って笑いかけてから、
「さらに言えば」と、話を進めた。

「あれはプリブだったのではないか」
「えっ!」
 さすがにチョットマの顔が引きつった。
「ぼろを着ていたんだね。それってプリブらしくないかい?」
 かつてニューキーツで落ち合った時のプリブの変装姿とそっくりじゃなかったかい?

「それに、EF16211892という名前。捻ってみようか」
 数字をアルファベットの順番に当てはめてみると、十六番目はP、二十一番目はU……。
 EFというのはイーストフォースじゃないかな……。
 東部方面攻撃隊の……。


「そもそも、それを思いついたのは、もしその男性がコンピュータが作り出したキャストなら、翌週に約束したチョットマとのデートをすっぽかすはずがないと思ったから」
 チョットマは口をあんぐり開けていた。
 しかし、そこにあるのはまだ驚きだけで、それ以外の感情はないようだ。
 いずれ悲しみに輪をかけることになるかもしれないが。
 ライラが舌打ちをした。
 この場で言う必要があるのかい! と、言いたげに。

「警察にプリブが注目されていたのは、ヴィーナス殺しの容疑者として。つまり、マスカレードにプリブがいたからに他ならない」
 チョットマとの約束どおり、マスカレードに姿を見せなかった理由はもう説明するまでもない。
 アヤと同じように記憶を無くされたのか、拉致された先で拘束が続いていたのか、あるいは警察に捕まっていたのか。
 話しながら、イコマ自身も、このことがプリブ発見に繋がるのかどうか、全く見えてはいない。
 しかし、だからこそ、この段階でこの仮説を立てておこうと思ったのだった。
 そして、プリブに関してはもうひとつ、重要な情報がある。

 チョットマはまた俯いてしまった。
 泣くんじゃないよ。
 堪えて。
 まだまだ先は長いのだから。
 イコマは心の中でチョットマに声を掛けてから、言葉を続けた。

 スミソがなぜそう思ったのかは、言うまい。
 アラブのお姫様に二人目に声を掛けたミドリトカゲが、実はスミソだったとしても。
 それをチョットマに打ち明けたのかどうか、知らない。
 聞いておくことでもない。
 二人の問題だから。


「アヤの件を話す前に、その他の情報を整理しておこう。注目するべき点かどうか分からないが」
 サワンドーレの件。
 彼がンドペキにささやいた言葉はイコマの耳にも入っている。
「神が、ある一組の男女を探しているようです」
 それがどんな意味を持つのか、今なら想像することができる。
 パリサイドの地下組織、ステージフォーという秘密結社は宗教に染まったものだという。
 アヤやプリブの事件は、その組織が関係している。
 言い切れるものではないが、今のところそう考えておくのが普通だろう。

 サワンドーレはアヤを知っている。プリブも知っている。
 あいつが、何らかの手引きをしたとは考えられることである。

 サワンドーレは講義に顔を見せなくなった。
 それはとりもなおさず、警察ないし治安に拘束されたからではないのか。ステージフォーの構成員のひとりとして。
 現に、その娘であるキャンティーも元旦の講義には来てくれたものの、二日には顔を見せず、また他の人に変わってしまっていた。

「もう一点、ブランジールの情報、実際はアイーナから聞いた話だが、パリサイドに着陸する船の名簿にない名前が、百ほどもあるという」
 パリサイドだけではない。地球から来た者の名も四十ばかり含まれるという。
 そのリストまで見せてもらったわけではないが、アヤの名も、プリブの名もその中にある。


 最後に話すのはアヤの件だ。
 アヤを襲った犯人は見つかっていないし、父親を名乗り、アヤを連れ出した者も見つかっていない。
 アヤを拉致した連中も特定できていない。
「実はアヤの件で、とんでもない情報がある」
 イコマはこれを話すことが辛かった。
 嘘であって欲しい。
 何らかのまやかしであって欲しい。

「あのリペアセンターに入るためには、スキャンエリアを通過しなくてはならない。ヴェインロード、つまりリペアセンターの前の広い道だが、そこに至るまでのスキャンエリア。そして、リペアセンターの待合室の二か所」
 リペアセンターの待合室の方に、記録が残っていたそうだ。
 自分達が到着する直前に通過した者の名が。
「プリブ」


 さすがにスジーウォンやスミソが目を剥いた。
「そんな!」
「何かの間違いでは?」
 イコマは努めて冷静に言った。「そう。間違いであって欲しい」

 しかし、間違いだと決めつけるわけにはいかない。
 もし、プリブがステージフォーとやらに洗脳されてしまっていたのなら。
 そして、アヤを取り戻しに来たとしたのなら。

 部屋の中には唸り声だけが残った。
 チョットマはすでにこの話を聞いている。
 今は、微動だにせず、ショールを握りしめて俯いている。
 ンドペキは顔を紅潮させて立ち上がり、イコマを見つめ、何かを言おうとしたが、結局は天井を睨みつけている。
「街からヴェインロードに入るときのスキャンエリアには、プリブの名はなかったそうだ」
 と言ったところで、凍り付いた場を溶かすことはできなかった。


 ドアを叩く者があった。
 久しぶりに見る顔。サリの顔。
 KC36632。ユウの部下。
 狭い部屋にすらりとした長身の置き場を探すように見渡し、結局、入口近くに立った。
「お取込み中のところ、すみません。ご無沙汰をしています。いつぞやは、大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」
 と、頭を下げた。

「ん? なんのことだ?」
 ンドペキの問いかけに、KC36632は「レイチェル長官が貴隊の隊員に……」と、言った。
「うん?」
 KC36632は、自分がサリの姿をしていたばかりに、本物のサリを見抜けなかったのでは、という。
 結果としてレイチェルはサリに刺され、水中に没したのだが、だからといって、KC36632に責任はない。
 ただ、今もまたサリの姿をしていることに違和感はあったし、できれば慎んで欲しいという気持ちはあったが。
 誰もそれを指摘しないなら、イコマが言うことではない。
 KC36632は、きっとユウからの大切なメッセージをもたらしに来たのだろうから。

 はたしてKC36632は、早速ですがJP01、ユウさんからの伝言があります、と切り出した。
 イコマさん宛てなのですが……。
 構いません。ここで話してください。
 はい、では。彼女が話した通りにお伝えします。
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