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パリサイド 作者:奈備 光

4章

43/82

42 推理というのもおこがましい

 ンドペキの部屋には、ンドペキ夫婦、イコマ、チョットマ、ライラ、スジーウォン、コリネルス、スミソ、そしてレイチェルが顔を揃えている。
 イコマが呼んだのだ。
 アヤが連れ去られてから二日が経っている。
 いくつかの情報はあるが、アヤの所在はまだ分かっていない。

「皆さんの意見を聞きたいのです」
 ユウは今晩も帰ってきていない。
 できれば一緒に考えたかったのだが、仕方がない。
 昨日今日と、手分けして、アイーナ市長、イッジ警察省長官、ミタカライネン治安省長官、ブランジール船長とは会っている。
 現時点で彼らから得られた情報は限られているが、それを披露するという意味合いもあった。
 披露する内容は実際は、ユウの知識を持ったスゥから得た情報が主になっているのだが。
「今の我々の状況を整理しておきたいのです。その上で、今後のことを話し合いましょう」
 イコマはそう言って、話し始めた。


「ブランジール船長にこう言われました。もっと大きく捉えた方がいい。プリブのことも、社会の様々な大きなうねりの中で、たまたま目に見える形で現れたさざ波のひとつ、だと。」
 イコマだけが、議長役といった格好で椅子に座っているが、他の者は床に尻を付けている。
 飲み物やスナックが配られ、長期戦の構えだ。時刻は午後九時を回っている。
 イコマにはひとつの考えがあった。
 それを図るには、もう今晩しかない。
 明日にでも、パリサイド重力圏突入モードに入り、その準備のために、この部屋のプライバシーもなくなる。

 話すのはアヤのことだけではない。
 ブランジールに言われたように、アヤの件もプリブの件も、チョットマのウイルスも、すべてどこかで繋がった出来事ではないかという気がしていた。
 まだ答えはおろか、思い付きレベルの推論さえ見えてこないし、推理というのもおこがましい。
 ただ、一旦ここで、整理しておきたい気持ちがあった。


「一連の事件はプリブの拉致から始まった」
 イコマは単刀直入に、自分の考えを語ろうと考えていた。
 様々な推論を並べ立てたところで、意味はない。
「最初、プリブは警察に捕まったのだと思った。原因は、あのオペラ座のマスカレードで起きた事件」
 イコマとチョットマがマスカレードで遊んだ夜、三階の貴賓席で一人の女性が殺された。
 ヴィーナスという中央議会の女性議員。
 プリブはその容疑者だったのだ。
 警察省長官のイッジが、こう言っている。
 プリブを一刻も早く見つけ出そうと努力を続けている、と。
 その時のニュアンスは、言われるまでもなく探していますよ、というものだった。

 しかし、それ以上のことは分からない。
 警察がその捜査状況を、初めて会うチョットマがいる席で話すとは思えない。
 たとえ、すでに拘束していたとしても、そうとは言わないだろう。


「しかし、その線はない」
 イコマはその理由を話した。
「というのは、ヴィーナスという女性の死因が、プリブではなしえない方法だったからだ」
 イッジの言うことが嘘でないのなら、ヴィーナスの死因は、ソウルハンド。

「聞くところによると、その方法はパリサイドにしかなしえない。しかも、そんな肉体的武器を持っているのは、限られたパリサイドのみ。かなりおぞましい話なんだが」
 パリサイドの中には、奇異な能力を持っている者がいる。
 翼を何十キロに渡って広げ、宇宙線や光線や、浮遊している粒子からエネルギーを摂取するだけでなく、目の前にある物に触れることによってそれが持つエネルギーを自分のものにすることができる者がいるという。
「ソウルハンド。そんな方法によって、殺されたということだ」
 そういう能力を持ったパリサイドがヴィーナスの体に触れ、彼女のエネルギーを吸い取ってしまったということである。
「ソウルハンドを使うことは禁止されている。人に対して使うことはもちろん、目の前にあるリンゴに対しても」

 これはスゥに聞いた話である。
 実は、ユウもその能力を有しているらしい。
 パリサイド全体で言えば、数百人に一人くらいはいるらしいから、極めて稀ということでもないらしい。
「恐ろしい武器だな」
 スジーウォンの感想のとおり、とんでもない武器である。
「その能力の強い者にかかれば、一瞬でとはいかないまでも、ほんの数秒で人を殺せるということだ」

 ただ、では誰が、ということになると、皆目見当がつかないというのが現状だ。
 実は、ユウは殺されたヴィーナスのことをよく知っていたという。
 スゥによれば、ある意味でユウの上司にもあたるらしい。
 あるプロジェクトの総指揮官ということになっていて、ユウはその配下というわけだ。
 しかし、そのプロジェクトの内容は、ユウの口から聞いて欲しいと、スゥは語らなかった。
 イコマも、その方がいいと思っていたので、内容はまだ知らない。


「単純に考えて、ヴィーナスの政敵、ないしはそのプロジェクトやらの反対者、そのプロジェクトによって害をこうむる者が犯人だろう。もちろん、全く違う理由もさまざまに考えられるが」
 違う理由、つまり、色恋に関係した話や、何らかの復讐や、殺したいほど憎まれている理由や、あるいは無差別殺人などの理由も考えられるが、今ここでそれらを想像してみても、得るものはない。
「そこで、アイーナに聞いてみた」
 アイーナはヴィーナスの死をひどく悲しんでいた。
 悲しむだけでなく、大きな痛手だと悔しがった。
 自分の右腕として、ヴィーナスの手腕を買っていたと。

「政敵? 多いわよ。私以上にね。でも」
 ただ、犯人の心当たりはと問われれば、首を傾げざるを得ないようだった。
「排除するにしても、殺してまで? しかもああいう野蛮な方法で?」
 政敵というなら、失脚させる方法がいくらでもあるではないか!、と血相を変えたのだった。
「それに、なにもマスカレードで」
 と、首を捻ったのだった。

「アイーナが本当のことを話しているのか、なにか隠していることがあるのが、嘘をついているのか。それは分らない。彼女も、ヴィーナスの私生活まですべて把握しているわけではないようだし」
 イコマは、ヴィーナスが率いている、あるプロジェクトのことについては問わなかった。
 そもそも、ヴィーナスが殺されたこと自体が、イコマには関係のないことなのだ。
 プリブの拉致やアヤの件に繋がること、あるいはヒントになることはないかという思いだけで聞いているのだ。
 いらつくアイーナに、これ以上の詮索はできることではなかった。


「ということで、プリブのことはまだ全くの白紙状態」
 だれも返事をしなかった。唯一、
「人殺しとして捕まったということではない、ということだな」と、スジーウォンが反応しただけだ。
「ああ。ただ、念のため、ひとつ確認しておきたいことがある。チョットマとスミソに」
「はい」
「プリブが連れ去られた時、相手は武装していた。そうだね?」
「そうです」
 スミソが頷いたが、チョットマはうつむいたまま黙っていた。

 イコマは話題を変えた。
「拉致された後、すぐに姿が消えたという。これは何を意味するのか。考えられることがいくつかある」
 犯人の目的地が、拉致現場のすぐ近くだったということも考えられなくはないが、今は取り上げない。そんなに簡単なことなら、警察はすでに突き止めているだろうから。

 まず、ひとつ目。この宇宙船のバックヤードに逃げ込んだという考え方。
「バックヤードは当然ながら、厳しく管理されている。宇宙船のエンジン部やエネルギー庫や広大な倉庫やデータセンター、そして着陸船などの格納庫、そういう心臓部ともいえる極めて重要な施設に通じる道だから」
 街の中には、そういう場所に出入りするドアがたくさん隠されているそうだが、そこはもちろん乗組員しか利用できないし、厳重に管理されている。
 きっと、幾重にもバリヤーが張り巡らされていることだろう。
「ブランジールによれば、その時間帯に、街に出入りした乗組員はいない」
 つまり、乗組員は犯人ではないし、同時にバックヤードが逃走経路として使われた、ないしはそこにプリブが連れ込まれたとは考えにくい、ということになる。
「ただし、ブランジールが嘘を言っている、あるいは管理がお粗末でなければの話」

 次に、街とバックヤードの緩衝地帯ともいうべき、あの通路を通ってどこかに姿を消したという考え方。
 先日、救急センターに行ったときに見たあの通路。
「あの通路は、ヴェインロードと呼ばれている。沿道には、公的な機関が軒を連ねているらしい。特に、機密保持が必要な施設が」
 従って、出入りは監視されている。
 通過した人物のデータをチェックし保管しているのは、やはりブランジール。

 そして最後に、これは最近知ったことだが、地下の交通手段であるフライトという円盤に乗ったという考え方。
 しかしあの円盤は、いわば緊急車としての扱いで、行政マンの中で使用許可のあるもの、警察、治安、軍など、公的な場合しか使うことができない。宇宙船のクルーも使えないそうだ。


 あえて、ブランジールが怪しいとは言わなかった。
 そもそも、ブランジールがプリブとどんな接点があって、どんな用があるというのだ。
 ただ、そこに何らかのヒントがある、と思っていた。

 イコマはスゥから仕入れた知識を次々に披露していくが、その情報源について質問を口にする者はいない。
 最も口を挟みそうなライラも、以前スゥがユウと同期していたことを既に知っているはず。
 黙って聞きながら、時々スゥの顔を見ているだけだ。

「ここまでで、質問は?」
 イコマは言葉を切って、誰かが話し出すのを持った。
 誰も、疑問を持たなかったのであれば、自分の話し方が拙かったということだ。
 ひとつの重要な推論をまだ話していなかった。
 話すタイミングが難しかった。
 話す必要があるのかどうかも怪しかった。
 誰かが気付いてくれれば話しやすいのに、と他人頼みの気持ちがあった。

 スミソの手が挙がった。
 よりによって、スミソとは。
 いや、これでいいのかもしれない。
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