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パリサイド 作者:奈備 光

4章

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41 拳

 書簡には、恐ろしいことがしたためてあった。
 五人は外へ飛び出した。
「フライトを!」
 スゥが叫んだ。
「こちらです!」
 アイーナの伝令が先に立って歩き出す。
「急いで!」

 いままで何の変哲もなかった舗装に直径三メートルほどの円形の模様が現れたかと思うと、一気に沈み込んでいき、ぽっかりと穴が開いた。
「早くして!」
「少々お待ちを」
 伝令のパリサイドが言い終わらないうちに、鮮やかな黄色い円盤がせりあがってきた。
 オープン座席の乗り物。ベンチがしつらえられてある。六人乗りだ。
「早く乗って!」
 全員が乗り終わると、フライトは再び沈み込んでいき、真っ暗な空間でいったん静止した。
「バーをしっかり握ってください」
 座席の回りだけにほんのりと明かりが灯るやいなや、勢いよく飛び出した。


 アイーナの書簡には、用件が簡潔に記されてあった。

 親愛なるチョットマへ

 (ギー秘書官を遣わします)
 本日一月二日十七時半ごろ、バルトアベニュー近くの一般住宅用建物のバリアから緊急反応が発信され、警察官が急行したところ、ドアが破られ、部屋の中にアヤが倒れていた。
 アヤは重傷を負っており、現在、オオサカ救命リペアルームにて処置中。
 なお、加害者は捜索中。
 以上。

 チョットマ、大変なことになってしましました。
 アヤさんの身元の確認に手間取り、連絡が遅くなってしまい、ごめんなさい。
 急いで、オオサカ救命リペアルームに向かってください。
 詳しことは明日にでも。都合のいい時間に来てください。
 二千六百三十一年一月二日 パリサイド中央議会代表議員 アイーナ


 握りしめていた書簡を読み直そうと、イコマがそれを広げる間もなく、フライトは停止した。
「こちらへ!」
 浮上したフライトの目の前に、大きな黒い金属の壁がそそり立っていた。
 街外れのようだ。
 目立たない小さなゲートがある。
 周りを見回したが、見覚えのある景色ではない。いつも目印にしている街中央の塔もここからは見えない。

 なだれ込むようにバタバタとゲートを潜ると小部屋があり、その先はスキャンエリアだ。
 伝令のパリサイド、秘書官ギーが先を進み、大方のスキャンを解除してくれているようだ。
 五人が駆け込むように通り過ぎても、どんなアラームも発しなかった。

「こちらです!」
 スキャンエリアを通り過ぎると、すぐに広い廊下に出た。
 三車線ほどの幅があり、天井も五階分ほどもある。床壁天井が光を発している真っ白な廊下である。
 街の外周、つまり宇宙船の外縁部を回っているのか、どこまでもまっすぐで、エリアによって、赤や緑や黄色など様々に発光している。
 人影はない。冷たく微かな風が吹いていた。
 目の前に、「オオサカ救命・リペアセンター」と記されたドアがあった。


 待合室のような場所に案内され、イコマ達はしばらく待った。
 アヤの容体は。
 頭の中にはそれしかなかった。
 ンドペキはスゥを抱きしめていたし、イコマはチョットマを抱きしめていた。
 ライラは、案内を乞いに行ったパリサイドが消えた通路を、睨みつけて立ち尽くしていた。

 ひとり、ふたりとパリサイドが通り過ぎてゆく。
 ベンチタイプのソファ、観葉植物、雑誌を収納した本棚といったしつらえが、街の診療所といった機能を物語っていた。
 イコマは壁に掛けられた絵画の図柄をちらりと見た。
 安芸の宮島の大鳥居が夕映えに照らされ、それを覆うように火の鳥が飛んでいく様が描かれていた。
 壁の時計は午後十時丁度を指している。
 それにしても遅い。
 それほどアヤの容体が悪いということなのだろうか……。


 悔しさが込み上げてきた。
 なぜアヤがこんな目に……。
 いったい、アヤが何をしたというのだ……。
 アヤだけではない。
 プリブもチョットマも、そしてンドペキやスミソまでも……。

 この街……、パリサイド……、彼らの星……。
 もう、何も期待はしていない……。
 どうでもいい……。
 どうせ、忌まわしいところに違いない……。

 誰も信用できる奴はいない。
 サワンドーレもアイーナも、ブランジールも。
 会ったことはないが、イッジもミタカライネンも、トゥルワドゥルーも。
 あのキャンティーさえも。
 頼れるのは、自分と自分の家族、そして苦楽を共にしてきたニューキーツの面々だけ。
 やり場のない怒りに、目も霞まんばかりだった。


「遅い!」
 ライラの声にはじかれるように、イコマは顔を上げた。
 ギー秘書官が急ぎ足で戻ってくるところだった。後ろから、医者だろうか、ヌードの体に白衣だけをまとったパリサイドが一人。
「困ったことになりました!」
 ギーの言葉に、悪寒が走る思いがした。
 もうひとりの医者らしきパリサイドが深々と頭を垂れた。

「説明してくれ」
 ンドペキの声も、今にも震えそうだったし、口を開いた医者のか細い声も震え出しそうだった。
「はい。万一のためにソウルカプセルも用意いたしまして、本来は、許可が必要なのですが、緊急のことですので。しかし、リペアは順調に進みまして。それを使う必要もなく、到着後、一時間ばかりは緊急の処置と身元の確認のための」
「おい! 今、アヤはどうしている!」
「あ、はい。それが、その……」
「埒があかんな! 秘書官、あんたが説明してくれ! アヤに会えるのか!」

 医者は縮こまってしまって、口の中でもぞもぞ言っている。
 ギー秘書官は、そんな医者をちらりと見やってから、「残念ながら」と言った。
 その言葉を聞いた途端、ライラはその場にしゃがみ込んでしまった。

「アヤさんはここにはいません」
「な……」
「連れ去られました」
「なに!」
「この医者の言うところによれば、ほんの五分ほど前に、父親だと名乗る男が来て、連れて帰ったそうです」
「なんだと!」
「アヤさんの容態は安定していて、もう心配はないと判断して、引き渡したそうです」


 殴り飛ばされた医者が床に転がった。
「きさまっ!」
 しかし、ンドペキの二撃目はギーによって阻まれた。
 ギーの手がンドペキの拳を掴んでいる。
「ンドペキさん、これは連れ去った犯人に使われるのがよろしいかと」
 代わりにスゥの一撃が医者のみぞおちを襲った。
「てめえ! なんちゅうことをしてくれたんや!」
 イコマの腕の中で、チョットマが激しく肩を震わせた。
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