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パリサイド 作者:奈備 光

4章

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39 EFFE59

 イコマは、時折開くチョットマの瞳を見つめていた。
 その瞳はイコマやンドペキを映しているが、ごめんなさい、迷惑かけて、などと言っては、安心したように目を閉じるのだった。

 イコマの部屋に運び込まれてから、丸一昼夜が経っている。
 レイチェルや、スジーウォンを始めとする隊の面々が顔を覗かせては、チョットマを励ましてくれている。
 今は、イコマとンドペキ、スゥとライラだけがチョットマの目覚めを待っている。


「それで、どうやった?」
 ンドペキとスゥは、バー「ヘルシード」から先ほど帰って来たばかりだ。
 イエロータドから連絡があり、例のパリサイドが二人、来ているということだった。

「聞き出そうと声を掛けたんやけど、警戒されたみたいで、ほとんど収穫はなかった」
 ンドペキが悔しそうに唇を噛んだ。
「ただ、分かったことがある。あれは宗教団体やな。神という言葉が出てた」
「やっぱりそうか。ステージフォーってやつか?」
「さあ、それは分からんが、どうも、地球から来た人相手に、積極的に勧誘活動をしているらしい。それもかなり強引なやり方で」
「そいつら、ああいう乱暴なやり方には反対だとかなんとか、言ってたらしいな」
「ああ。さっきもそんなことを話してた」

 乱暴なやり方、すなわち、アヤのように拉致した上で記憶を無くさせて洗脳する。
 そのことを意味しているのだろうか。
 ただ、アヤとプリブがその毒牙にかかったとは、断定はできない。
 情報がまだ少なすぎるのだ。
 プリブに至っては、その後、姿さえ見かけた者はいない。
 言ってみれば、生存さえ危ぶまれる事態なのだ。

「なんでも、既に数人を帰依させたと言ってやがった」
 その中にアヤやプリブが含まれていないことを祈るばかりだ。
「帰依か。ふざけた言い方やな。で、アヤの名は出したのか」
「ああ。行方を捜しているんだと言ってやった。しかしな、さすがにストレートすぎたんやな。そういう人はいないと言ったきり、そそくさと帰っていきやがった」
「どんな様子やった?」
「何とも言えないな。なにしろあの顔や。表情も何もあったもんやない」
「そうか。そんじゃ、後は専門集団の動きを待つしかないか」

 ンドペキとスゥがヘルシードへ出向くと同時に、治安省長官のミタカライネンにも一報を入れてある。
 きっと尾行でもつけて、やつらのアジトを突き止めてくれるだろう。
 もしアヤが団体のマインドコントロールを受けているのなら、彼らの息の根を止めれば、それを解くことが少なくとも今よりはやりやすくなるかもしれない。
 スジーウォンも彼らの後を追いたいと言ってくれていたが、それは断ってある。
 本職の治安部隊の邪魔になってはいけない。


「それから、さっきの薬の話は?」
 ヘルシードに出かける前に、スゥが話し始めていたことだが、中断されていた。
「うん。気になってね。調べてみたんだ」
 アヤを見つけた時、彼女が買いに行っていたという薬。
「プリンシパルポーションの五十九番、と言ってたな」
「そうなんだけど」

 スゥがライラをちらりと見た。
 ライラは黙ってチョットマの手や腕を撫で続けてくれている。
 スゥがユウと同期していたことを、ライラはまだ知らない。
 それを気にしたのだ。

 ライラがいれば、スゥの持っているパリサイドの知識、すなわちユウの知識は披露しづらい。
 かといって、ライラに席を外してくれと言えるわけもない。
 ほとんど家族同然に付き合っているのだし、ライラは心底からチョットマを思ってくれている。
 しかも、スゥとライラは同業者として、競争相手として、そして師弟関係でさえあるのだ。


「その薬なんだけど、五十九番というのは、かなり危険な薬らしいのよ」
「どう危険なんや?」
「記憶を失わせる薬」
「なんやそれ。やばそうやな。それをアヤは……」
「パリサイドの精神状態がおかしくなったりしたとき、つまりあの身体に入れた記憶や思考の一部が欠損したりしたときに使うらしいのよ」

 パリサイドは記憶をデータとして保存してあるという。
 それをあの肉体に入れて、人として生きていくのだが、上手くいかないことが稀にあるらしい。
「上手くいかなかったら、どうなるんや?」
「奇行に走るとかもあるけど、普通はいわば健康でいられないってことね。あるいは記憶が蓄積できないとか」
「ほんの一時間前に会った人のことを思い出せないとか?」
「そういうこと。ひどい場合は、呼吸もままならないらしいし、心拍にも異常をきたすらしいわ」

 身体をハードとすれば、記憶や思考はソフトということになるが、そのミスマッチが起きるらしい。
「そんなときには、データを入れ直すらしいんだけど、既に入っているものをきちんと消去しないと治らないこともあるみたいで」
「地球ではそんな話は聞かなかったな」
「それだけ、パリサイドの肉体は特殊なんでしょうね」
「それで、アヤはそんな薬を買った。どういうことなんや?」

「さあ」と、スゥが言い淀んだ。
「それにその薬、五十九番は一般人には販売されていない薬。処方箋があってもダメ。それ専門の医療従事者でしか買えないのよ」
「うーむ。ということは、誰かに買いに行かされたということになるな……」
「そうとしか考えられないのよ」


 厳しい話である。
 アヤが置かれている状況は、単に記憶を無くして呆然としているというわけではないのだ。
 背後に誰かがいる。

「くそ!」
 もう何度、この台詞を吐いたことだろう。
「一体全体、どこのどいつが!」
 ステージフォーという宗教団体がその首謀者だとすれば、もはや許すことはできない。
 命に代えてでも、アヤを取り戻し、そいつらを根絶やしにしてくれる!
 イコマは敵の卑劣さに胸を煮えたぎらせた。

 しかし、今はまだ情報を収集し、吟味し、推論を重ねていかなければいけない。
 それに、市長や治安省や警察や軍、そしてこのオオサカのキャプテン、ブランジールの協力も取り付けなければならない。
 あるいは彼らに動いてもらうことを期待しなくてはいけない。
 悔しいかな、自分達では、何もできないのだ。
 まともな移動手段もなく、通信手段さえなく、社会の常識さえないのだから。


「それとね」
 スゥがまたライラを見た。
 そして、意を決したように言った。
「普通は誰も、プリンシパルポーションなんて言い方はしないわ。通称はエフェクトル」
「どういうことや」
「例えば、一番は解熱剤のグループなのね。枝番がついていて、効能の強さによって番号が違う。使用部位や使用方法によっても違う。市民が薬局で購入するとき、プリンシパルポーションの何番なんて言わないわ。エフェクトル5A36、またはそれを略してエフェ5A36なんて言い方をするのよ」
「ほう」

 ここでスゥはライラにとって決定的なことを言った。
「だから、プリンシパルポーションって言われて、最初、私もピンと来なかった。普通ならEFFE59というはずなのよ」
 ライラがちらりとこちらを見たが、その時丁度、チョットマが目を開けた。


 イコマもンドペキもスゥも、チョットマの枕元に前のめりになった。
「チョットマ。どう? 具合は」
「なにか、飲みなさい。喉、乾いただろ」
 イコマはチョットマの額に自分の額を押し当てた。
「熱はないな」
「パパ……」
「大丈夫。ずっと傍にいるから」

「チョットマ、これを口に含んで」
 チョットマが目を覚ますたびに、スゥが口に入れてやるエネルギーチップ。
 見ればそのパッケージに、EFFE12C3と書かれてあった。
 エネルギーを補給するとともに、心臓と肺の動きを安定させる効果もある、ごく一般的な薬だという。


「パパ。お願いが、あるの」
「ああ。なんだい」
「聞き、耳頭巾、貸して」
「もちろん。でも、どうするんだい」
「頭に、掛けて……」
「え?」
「お願い、だから……」

 チョットマはとぎれとぎれに言うが、その瞳にはこれまでにない強い意志が見て取れた。
 しかし、エリアREFでこの聞き耳頭巾のショールを被って、チョットマは幻聴に恐怖したのだ。
 あの怖かったことといったら、と常々言っていたのではなかったのか。
 今、これを被って、何をしようというのだろう。
 チョットマの感受性は鋭い。聞き耳頭巾の力はチョットマにいろいろなものを見せるだろう。
 とても、容体に好影響があるとは思えない。

「でも、これは」
「いいの……、試してみ、る……」
「でも、チョットマ……」
 ライラが静かに言った。
「掛けておやりな。この子は闘おうとしてるんだよ。やつらと」
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