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パリサイド 作者:奈備 光

1章

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3 真夜中の訪問者

 ンドペキはいなかった。
 心配顔のスゥが留守番をしていただけ。
 チョットマはスゥと話しながら、しばらくはンドペキの帰りを待ったが、夜が更けていくだけ。
 すでに零時を回っている。

「私も探しに行こうかな」
「だめよ」
 と言われても、いったんそう口にした限りは簡単に引き下がれない。
「ねえ、スゥ。私もアヤちゃんと同じように……」
 不思議な声を聴くことができるのだから、きっとアヤやンドペキと出会えるはず……。
「だめ」と、スゥに念を押された。

「チョットマまで危険に晒すわけにはいかないわ」
「危険?」
 チョットマは、その危険とはどんなものか、見当もつかなかった。

 確かにプリブは、目の前で連行された。
「でも、プリブのこともあるじゃない。何かが起きているのよ。だから、ここで待っていても」
「自分勝手に動かないで」
 スゥは穏やかに話しているが、うむを言わせない厳しさがあった。
「あなたが夜の母船をうろついても、プリブを取り返せるはずがないでしょ」
「うん」
 自分でもそう思う。
 でも、なにか手がかりが、などと思ってしまう。。
「ンドペキやアヤちゃんが、今頃なにか見つけて」
「力づくでも行かせないよ」
 スゥの目くばせで、スミソがゆっくりと移動し、その巨体で扉を覆い隠した。


「ふう」
 チョットマはため息をついたが、自分に何かができると本気で思っていたわけではない。
「待つしかないか」
「そうよ」
「ねえ、スゥ」
 ふたりはいろいろな話をした。

 ニューキーツの思い出。
 今の状況。
 イコマのこと、ンドペキのこと。
 レイチェルのこと、スジーウォンのこと。


「誰か来たようです」
 スミソがドアの前で武器を構え直していた。
 スコープにはひとりのパリサイドが映し出されている。

 パリサイドが再びブザーを鳴らした。
「フイグナーという者です」と名乗っている。
 かなり小柄なパリサイドだ。
「こんな時間に失礼ですが、ンドペキ殿はご在宅でしょうか」

 フイグナーと名乗ったパリサイドは、深々とお辞儀をして、再び案内を乞うた。
「何の用だ」
「ンドペキ殿とお話をしたくて参りました」


 パリサイドを中に入れるわけにはいかない。
 スミソはドアの前で武器を水平に構えている。
 パリサイドの肉体を持っているが、そのパワーを引き出す術をまだ持っているわけではない。
 パリサイドから見れば玩具としか言いようのない、地球人類の武器だ。
 対抗できるとは思えないが、これでも無いよりはましだ。

 スゥが立ち上がった。
「スゥ、ちょっと!」
 まさか、中に入れるのか。
「実体はないから、手出しはできないかも」
「だめよ!」

 スゥが短剣を手に取り、ドア横のスイッチを押そうとしている。
 そんなことをすれば、たちまち、パリサイドの姿がドアに浮かび上がる。
 地球ではすでに使われなくなった装置だが、パリサイドの世界ではまだ実用されている。
 スミソは一歩下がったが、武器は構えたままだ。
 たとえ、ただの立体映像だからといって、安心できるはずもない。
 部屋の中が相手にも見えるわけだから。


「だめだって!」
 チョットマはスゥの手を抑えたが、スゥは柔らかく微笑んだ。
「こんな夜中に訪ねてくるのは、パリサイドじゃないはず」
 普通、パリサイドは夜中に歩き回ることはしない。
 しかも、今日は双戯感謝祭。
 彼らの慣習に反している。

「きっと、あれだと思う」
 アギのパリサイドではないか、というのだ。
「そんなこと、わからないじゃない!」
「もしパリサイドなら、プリブのこと、聞けるかもしれないでしょ」
「でも」

 そうこうしているうちに、訪問者がまた言った。
「お詫びを申し上げたいことがありまして……、それにご相談したいことも……」
 あ、と思った時には、スゥがスイッチを押していた。
「他の人に聞かれたくないでしょ」と。


 浮かび上がったパリサイドは、やけにか細く、背丈も小さい。とても危害を加えに来た者だとは見えなかった。
 声はしっかりとはしているが、どことなく少年のような声音をしている。
 ありがとうございます、と今は見たこともない大げさで古風な仕草で、深々と頭を下げた。

「ンドペキ殿は……」
「今は、いない」
 フイグナーは落胆したのか、がっくりと肩を落とした。
「お戻りは」
「わからない」
「そうですか……。では、出直してまいります」


 出ていこうとする立体映像の背中に、スゥが話しかけた。
「どういうご用件? 謝りたいこととか、相談したいこととか」
 フイグナーはちらりと迷った様子だったが、実は、と話し始めた。

「ありがとうございます。では、自己紹介をさせてください」
 考古生物学者だという。
「ンドペキ殿とは一度、お会いしたことがありまして。ここでご相談できる人は、ンドペキ殿しかないと」
「それで?」
「やっと、ここにおられることを知って、矢も楯もたまらずお伺いしたのです」

 フイグナーはようやくリラックスしたのか、わずかな笑みを見せた。
「ンドペキ殿には大変失礼なことをしたと、悔やんでおります」
 それは海、とまで言ったとき、フイグナーの姿がふいに消えた。
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