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パリサイド 作者:奈備 光

4章

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31 おとぎの国の物語じゃない

 イコマはレイチェルと共に、ブランジールと会っていた。
 大阪出身ということで、同郷の誼、突っ込んだ話が聞けるかもしれないと思ってのことだ。
 ブランジールも、先日、もっと話があると言っていたので、面会の申し入れはすぐに叶ったのだ。
 宇宙船にオオサカと命名したブランジールのことだ。大阪弁で話せば、より親しみもわくのでは……。

「お言葉に甘えて、またお話を伺いに参りました」
 レイチェルの挨拶に、聞いていた通り、ブランジールは椅子に腰かけたまま姿を見せない。
 ただ声だけが返ってくる。
「お待ちしていました」

 レイチェルに紹介されて、イコマは自分が大阪の生まれ育ちであることを話した。
「大阪市内の平野という町に生まれまして、成人してからは環状線の福島の近くに住んでおりました」と。
 期待していた通り、
「おお、それは懐かしい! それにお名前もイコマさん、生駒山、懐かしい響きですなあ」という声が返ってきた。
「船長はどちらのお生まれですか?」
「四条畷。ご記憶でしょうか?」
「もちろん!」
 当たり前ですがな!と言えばよかったかな、と思ったが、さすがに初対面。気おくれしてしまった。


「お話の続きとは、なんでしょう。しかし、その前に伺いたいことがあります」
 レイチェルがブランジールに会いに来た理由は、話の続きを聞きたかったわけではない。
 先日の講義の際に連れ去れらた女性を取り戻すためだ。
「返していただきたい」
 強い口調で言うレイチェルに、ブランジールは申し訳なさそうな声で言った。

「不安を抱かせてしまったようですね。あの女性は、あの後お話をして、ご納得いただいたので、すぐにご自宅までお送りしました」
 ブランジールが言うに、以前、あるグループで同じようなことがあり、その時は一人の声が全体を支配する事態となり、講義そのものが中止になってしまったという。
「もう、着陸まで日数がありません。今の段階でまたあのようなことがあれば、皆さんの今後の生活に支障をきたすやもしれません」
 その事件以来、係員を配置しているのだという。
「奴隷にされるとまで言われて、うちの係員もつい手荒な方法をとってしまいました。どうか、ご容赦いただきたいのです」
 パリサイド星到達を前に、乗組員も気が立っているのでと、ブランジールは繰り返した。

「レイチェル長官がおられるグループであれば、あのようなことをしなくてもよかったのですが、それを指示していなかった私のミスです」
 とまで言われて、レイチェルは鉾を収めるようだ。
 くれぐれも市民に危害を加えるようなことがないようにと釘を刺して、私の方こそ、市民をまとめきれなくて申し訳ない、とまで言った。
 イコマはまだ不満もあったが、これから問い質すことの方が重要だ。
 まずは、ブランジールの話しかったことを聞くのが手だろう。


 機嫌を直したレイチェルに促されて、ブランジールが話し出した。
「我々の社会について、あまりお聞きになってはいないだろうことをお話しします。実は」
 その最初の言葉にまず驚かされた。
「ここだけは神の存在を排除しています」
「は?」
「いえ、神などというものは存在しませんよ。いかれた連中が言う何者かを神と呼ぶならばの話です」

 パリサイドの社会には、大なり小なり不思議な現象が起きることがあるという。
「例えば、我々はほぼすべてのエネルギーを太陽から得ていますが、その技術は我々が生み出したものではないのです」
 太陽光を電気に変えるというような、小さなエネルギーのことではないらしい。
 莫大なエネルギー溜まりが、忽然と地上に現れたのだという。
 それも、それが必要となるちょうどその頃に。
「それは我々の太陽の動きと、どうも連動しているようなのです。我々はそこから膨大な熱を得ることができるようになりました。熱をその他のエネルギーに変えることは先人のおかげで容易くできます」
 熱溜まりだけではない。
 プラズマ溜まりも出現し、そこからは直接電気も生み出せるようになったらしい。

「他にもいろいろあります。我々は宇宙の果てのその先、隅々に至るまで、その状況を見ることができますが、これは巨大な望遠鏡や特殊なコンピューターを使ってみているのではありません」
 確かにユウもそんなことを話していた。
 だからこそ、地球の危機を知っていたのだと。

 ブランジールは早口で話していく。
 大海の中に美しい島があって、その中央に湧き出ている泉に願えば見ることができるのです。
 お笑いになるでしょう。なんだ、まるでメルヘンの世界だなと。
 しかし、これは奇妙なことに、事実なのです。

 今、このオオサカが稼働させている航法もそうです。
 理論上は時空の襞を跨いでいけばいいということは理解できても、その方法は、となると我々の技術力では不可能です。
 しかし、現にこのオオサカはそうして何万年光年もの距離を瞬時に移動しています。
 これは私にしかわからないことですが、できてしまうのだ、としか言いようがありません。


「そもそも、あの体はどうやって手に入れたのでしょう」
「身体って、パリサイドの?」
「そうです。あれを自分達の手で生み出したとお考えでしたか?」
「そうだと……」
「違うのです」

 神の国巡礼教団崩壊後、滅びかけた船団は、かろうじてある星に着陸はできた。
「二百五十年ほど前のことです。この話は聞いたことがあるでしょう」
「ええ、さわりのところだけ」
 アイーナから聞いてきたチョットマの話を興味深く聞いた。その後の話なのだろう。
「船は地面にたどり着いた、というべきでしょう。それさえも奇妙な話なのですが」
「というと?」
「宇宙船の中は、死体の山だったはずなのです」
「えっ」
「もう死体さえ蒸発したか、燃え尽きていたかもしれません」
「どういう……」
「人類が生きていける環境ではなかった。千度を超えていたし、人体に有害なガスに満たされていたからです」
「そうなんですか」
「そもそも、もう誰も操船などしていなかった。船は自由気ままに落ちていっただけなのです。都合よく、硬い地面に落ちた。それでも大破もせず、船は原形をとどめていた」

 不思議な話なのです、とブランジールは唸るように言った。
 そして、解明されずに二百年もたてば、神などというものがまたぞろ生み出されるのだろう、と今度ははっきり苦々しげに呟いた。
「それで、あの肉体です。目覚めれば、あの身体になっていた、というわけです」
 そんなバカな! とイコマは危うく言いかけた。
「使いこなすには時間がかかりましたよ。それでも、宇宙的な時間で言えば一瞬です。二、三十年も経てばみんな、空を飛んでいましたよ」

 何らかの力が働いている。
 力か、意志か。
 それを神と呼ぶ者もいる。
「私は何等かの意思が何かを企んでいる、そう考えていますがね」
 ブランジールは、この部屋だけは何を話しても大丈夫だ、聞かれることはない、と再び言った。
「ですが、お話ししたかったことは、ここからです。地球から来られた皆さんに、どうしても聞いていただきたいことです。おとぎの国の子供じみた物語ではありません。皆さんの尊厳に関わることだと思うからです」
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