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パリサイド 作者:奈備 光

3章

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29 これからどうする

 二日後の夜。
 宇宙船の中は、気候も変わらなければ街の人通りも普段と変わらない。
 プリブの行方も、アヤの様子も、そして連れ去られた女の行方も、進展はない。
 それぞれがそれぞれの場所で、思案にくれていた。

 イコマは自分の小さな部屋んでひとり、机のシミを見るともなしに見ていた。
 アヤの部屋の前で、沢山の思い出を話して聞かせた。
 出会ったときのことから、彼女が大阪にやって来たときのこと。
 中学生だった頃のアヤ、大学の受験勉強に勤しんでいたころのアヤ。
 離婚したアヤが戻ってきて、また三人の暮らしが始めた後の、楽しい中にもどこか無理をしているような会話の数々。
 そして、ニューキーツで再会したときのアヤ……。

 聞いているのか、いないのか分からないまま、イコマは話し続けた。
 涙声にならないように気をつけながら。
 固く閉ざされたままのドアの向こうに、アヤがいることを信じて。

 もう一つ、イコマの胸を占めていることがあった。
 ユウのこと。
 浮かない顔をしていることが多い。
 彼女の悩みはアヤのことだけではない。
 仕事のこと。


 はっきりと言ってはくれないが、イコマにはおおよその予想があった。
 どんな任務なのかは分からないが、パリサイドの星に意外と早く到着することが、ユウの予定を狂わせたのだろう。
 今のところアヤに話しかけることに時間を割いてくれてはいるが、それが終われば一目散にどこかに出かけてしまう。
 帰ってきても、疲れた体をすぐにアヤの部屋に運び、今後のことを話し合う時間もない。

 アヤのことをそのままにして、今後のこともなにもあるはずがないが、それでもイコマはユウと話しておきたかった。
 パリサイドの星に着いた後のことを。
 大阪で過ごした時のように、幸せの続く家庭を作ろうということを。

 もし、アヤの記憶がすぐには戻らないとしても、身近なところにいて欲しい。
 そのためにはどうすればいいのだろうか。
 これもユウに聞いておきたかった。
 もう、時間がない。
 手だてを講じないまま星に着けば、離れ離れになってしまい、二度と会えなくなる可能性もあるのではないか。
 そんな不安が頭から離れなかった。



 ンドペキも、黙ってスゥと見つめ合っていた。
 特に、アヤは自分を親として選んでくれたのだから。
 自分やスゥが何とかしなければ。

 疲れがピークに達していた。
 アヤが出かけて行ったあの夜以降、まともな休息をとっていない。
 しかし、ゆっくりしようにも、心に渦巻いている様々な思いがそれを許してはくれなかった。

 もうひとつ、気がかりなことがある。
 東部方面攻撃隊の今後。
 スジーウォンに隊長を任せたのだから、と思ってもみるが、それでも隊員達の身の処し方をスジーウォンが示してやれるわけでもない。
 自分にしても、そしてコリネルスにしても同じことだが。
 だが、ハクシュウから託された攻撃隊。自然消滅、という形だけは取りたくなかった。

 レイチェル騎士団……。
 そんな言葉が消しても消しても浮かんできた。
 その可能性はないだろうか……。

 それならきっと、隊員達に異存はないだろう。
 ただ、レイチェルはどう言うだろう。
 喜んではくれるだろうが、困らせるだけだろうか。
 もうそんな必要はないのよ、と。

 パリサイドの星はもう近い。
 なんとか結論を出さなければ……。



 レイチェルはすっかり暗くなった街を歩きながら、考えていた。
 サワンドーレに、パリサイド着陸にあたっての詳しい説明を聞いてきた後だ。
 混乱や不満が起きないよう、できる限りのことをするつもりで。

 ただ、ユーキーツ長官という肩書はもう不要だ。
 しかし、地球から来た人類として、代表者は必要だ。少なくとも、パリサイドの社会に溶け込むまで、当面の間は。
 アイーナに言ったとおり、今すぐにでも決めなければいけない。
 できることなら、着陸前に。

 ただ、その方法は?
 廃れた方法だが、選挙を実施するか……。
 その時間は、もうないだろう。

 では、誰かを推挙するか。
 しかし、誰を。
 ンドペキやスジーウォン、コリネルスが適任だが、彼らは受けてはくれないだろう。
 ただでさえ、プリブやアヤのことに頭を痛めているときに。
 他に誰かいるだろうか……。
 チョットマ……。あるいはイコマ? ライラ……。 


 覚悟を決めなくてはいけないのかもしれない。
 自分が、と。
 しかし、そのためにどんな手続きを踏めばいいのだろう。
 成り行きで、いつの間にかそうなっていた、というのだけは避けなければいけない。
 たとえ、自分がただひとり、ホメムの生き残りだとしても。

 それにもう、ホメムだとかマトだとか、メルキトもアンドロも、そんな区別は必要ない。
 自分自身も、ベータディメンジョンを経由して生まれ変わった人間。
 生粋のホメムだと胸を張って言えるわけでもない。



 チョットマは、時々、自分の心の中を覗き込んでみることがある。
 今夜の、このざわついた感触は何だろう。
 苦く冷たいものが喉を流れていき、体中に毒のあるものが回っていきつつあるような。

 もちろん不安なことがたて続けに起きて、先行きがみえないことが原因だ。
 しかも自分にとってとても大切な人が。

 しかし、それだけだろうか。
 もうすぐパリサイドの星に着くというのに、どんな予定も、どんな希望もないどころか、どんな暮らしになるのかわからないことも原因だろうか。
 なんだか、それだけではないような気がして……。
 そんなことを深刻に考えるのは、私らしくないし……。


 私はプリブがどれくらい好き?
 アヤのことは?
 どれくらい好きなのかという、言葉では表せないことにこんなに悩んだことがあっただろうか。
 好きで好きで堪らないけど……。
 でも、それはどれくらい?
 それからスミソのことは?

 なにか、違う……。

 そういえば……。
 あんなに好きだったンドペキのこと、昨日も今日も一度も思い出していない。
 私の初めての恋だと思っていたけれど……。


 チョットマは小さな溜息をついた。
 そして、私は何の役にも立てないし、と呟いた。
 その呟きが言い訳に過ぎないこともわかっていたが。

 オペラ座のひとり用ブース。
 正面に浮かんでいる画面にそっと指を這わせ、マスカレードと書かれた文字のところで止めた。
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