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パリサイド 作者:奈備 光

3章

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27 思い出を弄ぶ

一部に、前作品「ノブ、ずるいやん」と「ニューキーツ」のシーンが出てきます。
それらを読んでいただいている方にはンドペキの気持ちが少し伝わると思います。ですが、読んでいただいていない方も、そのまま読み進めてくださって結構です。ミステリーを解く意味でのハンディはありません。
 ンドペキは黙り込んでいた。
 スゥもイコマもユウも、誰も口を開こうとしない。
 部屋の明かりは点けているが、今日ほど頼りない光だと思ったことはない。

 結局、アヤの件の進展はない。
 妙案もないまま落ち込んでいるのだ。
 元気出そうよと、スゥがいれてくれたコーヒーも、飲みかけのまま冷めてしまった。

 アヤにはあれから、入れ代わり立ち代わり声を掛けた。
 しかし、インタフォン越しに返ってくる声は、「帰ってください」というだけ。
 あなた方を知らないし何の関係もない、迷惑だ、いい加減にしないと警察を呼びます、と言われて、すごすごと引き上げてきたのだ。

 隊員が一人、ずっと見張ってくれている。
 そこまでしてもらわなくていい、とスジーウォンには断ったが、「あなたが隊長だったら、ここで引き揚げさせる?」と言われて、甘えることにした。
 スジーウォンもレイチェルも、留守番をしてくれたライラももう出て行って、アヤの親四人だけが途方に暮れている。
 思えば、昨日今日とおかしなことが続いている。
 ンドペキ、スミソ、チョットマと立て続けに看病して、最後はアヤの件。
 スゥはさぞ疲れたことだろう。
 ンドペキは声を掛けようとしたが、いい言葉は浮かんでこなかった。


 唐突にスゥが変なことを言い出した。
「ねえ、ンドペキ。私がユウと同期したときのこと、説明して無かったよね」
 ニューキーツ郊外のとある海岸で、海から上がってきたユウが記憶と意識を同期させたのだ、とは聞いたことがある。
 そう言うと、スゥが「その方法はね」と言いながらユウに目くばせした。

 イコマと自分が同期したのは、カプセルを飲むという方法だった。
 洞窟のホトキンの間での出来事だ。
「違うのよ」
「なにが?」
「私とユウの同期の方法は」

 ユウが口を開いた。
「だめだったよ。あの方法も」
「試した?」
「仕方ないね。ノブやンドペキにはもう少し黙ってたかったんだけどな」
「なんだ? どういうことだ? あの方法って?」


 ユウが説明してくれた。
 パリサイドの中には、己を肉体をパウダー状に変えることができる者がいる。
 その能力を持っているのは、一握りのパリサイドだけ。ユウはそのうちの一人。
 微粒子の霧となって瞬時にして相手の皮膚から浸透していく。
 たちまち肉体の隅々にまで入り込み、自分の全ての記憶や意識を送り込むことができる。
 精神を乗っ取ったり、同期することも可能だ。
 スゥと同期したときは、その方法を取ったという。

「なんて恐ろしい能力なんだ」
 イコマの反応だが、同感だ。
 ただ、ユウが化け物になったわけではない。まだ知らないことがある。それだけのことだ。
「そう言うと思った。あまり話したくなかったんだけどね」
 武器として備わったものだし、使用許可が必要だから、普段、使用することはないという。
「スゥの時は、部隊の誰にもばれないように、私だけ先行して海に潜って準備して。ま、そんな話、今はいいよね」
「ああ。聞きたいけど、次の機会に。今日はアヤちゃんのことに絞って」
「だよね」

 スゥが言いたかったことは、パウダーになってアヤの部屋に入り込むことができたら、顔を合わせて話し合うこともできるのではないか、というわけだ。
 しかし、その方法もダメだったという。
「あの扉、一粒子たりとも侵入できなかった。まあ、そうだろうとは思っていたけど」
 パリサイドのプライベートな部屋は、すべてその仕様になっているという。
 この部屋も例外ではないそうだ。

「そうだったのか。残念だな。会って話せば、突破口が開けるかもしれないのに」
「ユウの顔を見れば、思い出すこともあるかもしれないのにな」
 イコマも残念そうだ。
「やっぱり、隊員を部屋の前から引き上げてもらった方がいいかもしれないな。あれでは、アヤは出てこれない」
 ただそうなれば、建物ごと見張らねばならなくなる。
 出入り口は正面の一か所だけのようだが、確実ではない。
 それに万一、裏をかかれたり見失ったとき、取り返しのつかないことになるかもしれない。
 もう二度と、会えなくなる恐れがある。
 ンドペキもスゥも、そしてユウも、その提案に簡単に首を縦に振ることができないでいた。


 聞き耳頭巾の使い手だったアヤ。
 宇宙の未知のウイルスごときに負けるはずがない。
 そう思いたいが、現実にアヤの記憶は失われてしまった。
 現時点では。
 会って話せば、粘り強く話せば、なにかきっかけがあればきっと自分を取り戻すはず。
 ンドペキはそう信じていたいと思った。

 ふと思った。
 もしや……。
 あの夜、聞き耳頭巾で得体のしれない存在の声を聞いたのではないか。

 ンドペキは思い出した。その時の感触を。
 あの頭巾のパワーを自分の身で感じたのは二度。
 最初は大昔、まだ大阪に住んでいたころ。アヤと知り合うことになった京都北部の山奥の村。
 そこで起きた連続殺人事件を解決したとき。
 そして、ニューキーツの北の森で、イコマの記憶を垣間見た時。
 その二回だ。
 いずれの時も、自分の意識が体を離れ、宙に浮かんでいるような感覚だった。

 そんな状態の時に、ウイルスに付け込まれたら……。
 いや、まさか……。
 アヤが聞こうとしたのは、ウイルスと呼ばれる生命体の声……。
 ウイルスの思う壺に……。


 あの村で、三人で川の字になって寝た夜のことが思い出された。
 あの時、アヤが見せたきれいな瞳と、弱気な自分の心。
 六百年経っても色褪せない思い出のひとつ。
 一人ぼっちのアギとして正気を保てたのは、あんな思い出があったから。
 ユウと、アヤと、再び巡り会うことを強く念じていたから……。

 ンドペキは、自分のものとなったイコマの記憶を弄んだ。
 アヤと話したり、アヤのことを考えるときには自然とそうなる。
 それでいい、と思えるようになっていた。
 アヤが、自分を親として選んでくれたのだから。

 スゥも同じようなことを言っていた。
 彼女の場合は、ユウとして。
 そのスゥが、新しいアイデアを言い出した。
「彼女、私達の顔も見ていないでしょう。でも、視覚として顔を認識するだけじゃなく、生の声や臭いや、仕草とかも大事じゃないかな」
 誘い出してでも、拉致してでも、それを見せないといけないのではないか、というのだ。
「誘い出すか……」
 だが、その妙案は浮かばない。

 そもそも、本当にウイルスによる病気なのだろうか。
「さっき、パウダー状になって人の精神を乗っ取ることができると言ったよな」
 その可能性はないのか。
「ユウ、どうなんだ?」

 ユウは思案している。
 昔よく目にしたように、唇を指先でなぞりながら。
「できるけど……」
 ただ、その理由が思いつかない。
 パリサイドの誰かがアヤの精神を乗っ取る理由。そんなものがあるだろうか。
「その場合は……」

 ユウの言葉に愕然とするだけだった。
 もう自分達では手の施しようがない。
 アヤが自分を取り戻せても、犯人の精神や意識は自分では消せない。
 その犯人に、もう一度体内に侵入してもらわなければ……。
「まるで、呪いだな……」

  
 というような話をしているとき、チョットマが帰ってきた。
 アヤのその後の様子を聞いた後、アイーナとの一部始終を聞かせてくれた。
 一服の清涼剤といったところだろうか。
 ンドペキは気持ちを切り替えてその話を聞いた。

「それでね、頼まれごとがあったんだ。レイチェルとスジーウォンには報告済みだよ」
「何を頼まれたんだ?」
 イコマも同じ気持ちだったようで、先ほどまでと打って変わって、明るく合いの手を入れている。
 スゥに至っては、胃腸薬でも飲んでおいたら、などと言って、笑顔を見せている。
 チョットマに向かって深刻な顔をしてみても、何も始まらないのだ。


「イッジが出て行った後、アイーナはそれはそれは大きな溜息をついて、私の腿をポンポン叩いて、こう言ったのよ」
 頼みごとを聞いて欲しい。
 地球から避難してきた人達だけど、どんな様子なんだい。
 大体は聞いているよ。講師連中や、うちの係員から。
 でも、どの報告も上辺しか見ていないような気がしてね。

 そこでチョットマ、あんたに頼みたいんだ。
 みんな、困りごとや、悩みごと、不安に感じていることや、希望していることなど、たくさんあると思うんだよ。
 それを、私に知らせて欲しい。
 どんな小さなことでもいいんだよ。
 きっと分からないことがいっぱいで、私達を不審に思っている人もいると思うんだよ。

 こういうことを頼むのも、パリサイドに着くまで、もうそんなに日数はかからないから。
 向こうへ着いたら、どうしてもらうか、つまり当面は一か所に集まって住んでもらうか、というようなことを決めないといけない。
 でも、どうするのがよいか、判断がつきかねているんだよ。
 もちろんレイチェル長官と話して希望を聞くつもりだよ。
 でもその前に、ある程度は知っておきたいんだ。

 私に報告しておくれ。
 チョットマを信頼しているから。
 そうだな、三日おきくらいでいいよ。
 あんたも何かと忙しいかもしれないから。

 あ、そうそう、ちゃんとお給料は払うよ。
 時間はいつでもいい。
 秘書官に言っておくから、いつ来てくれてもいい。
 もし夜に来るようなことがあれば、誰かがいるから、私に取り次ぐように言ってくれたらいい。
 それから、あまり他人に言いふらさない方がいいよ。スパイみたいに思われたり、メッセンジャー扱いされるのも辛いだろうから。


「ということだったの。分かったって言ったけど、パパもンドペキも、いいでしょ?」
「いいことじゃないか。レイチェルもスジーウォンもオーケーしたんだろ」
「うん」
 ンドペキは、明るい話題だと思ったし、チョットマはもう何も心配はないと確信した。
「それから、サリのことも聞かれたけど、最近会ったことがない、って言っておいた」
 そして呟いた。
「私には、アイーナ、いい人みたいに見えたんだけどな」
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