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パリサイド 作者:奈備 光

3章

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24 あ、緊張してきた……

 その頃、チョットマはアイーナ市長の執務室の前にいた。
 緊張していないことを確かめると、秘書官に「ドキドキするね」などと言って、反応を確かめた。
 秘書官は、ニッと口元を歪めただけで、アイーナの機嫌がいいも悪いとも言ってくれはしなかった。
「では、開けますよ」という言葉だけで察しろ、というように。

 スミソをドアの前に残し、チョットマは執務室に入っていった。
 部屋はレイチェルから聞いた通りで、窮屈だがいい香りがした。
「失礼します!」
 張り切って声を張り上げた。
 部屋の中央に大きな花柄の白いクッションがある。
 あれだ。

「初めまして。チョットマと申します。レイチェル長官は、仲間の急病に立ち会っていますので、私が代理として参りました。レイチェルのクローンです!」
 すらすらと言葉が出てくる。
 調子がいいぞ、とほくそ笑んで相手の反応を待った。


 それにしても、なんて趣味の悪い部屋だろう。
 これじゃ、市長としての執務もできっこない。
 それとも、これは応接のための部屋?
 なにかのまじないかのように、積み上げられたクッションの山。
 一杯、埃が立つんじゃないかな。
 そんなことを思いながら、アイーナの言葉を待った。

「ふうん」
 やっとアイーナが言葉を発した。
 確かに、中央の大きなクッションだ。
 顔がどこかわからなかったので、チョットマは焦点のやり場に困った。
 しかも、声はそれきり。


 アイーナはパリサイド。
 人の姿を取ることができる部類だ。
 選ばれたパリサイド、あるいは特権階級ということになる。
 なのに、この姿とは。

 人の姿を取ることができるパリサイドはおおむね、素敵な容姿を持っている。
 誰も好き好んで、いまいちの姿を見せることはしない。
 中には、元々の自分なのだろう、はっきりそれとわかる顔をしている者もいるが。
 それにしても、この巨大な丸い体は、アイーナがパリサイドになる前の本来の姿なのだろうか。

 かなり上位のパリサイドであれば、いくつもの姿をストックしておけると聞いたことがある。
 もしそうだとすれば、彼女にはどんな事情があるのだろう。
 この姿を見せているということに。
 とても意志の強い人だということになるし、少し同情してあげなければいけないのかもしれない。

 それにしても、いつまで待たせるのよ……。
 観察はまだ終わらないの?


 もうひとつ、言っておこう。
 大事な要件。
「プリブの件で、なにかお分かりになったことを、お伺いしてきなさい、と言われてお邪魔しました」
「ふうん」
 また、それだけか。

「よし! わかった」
「はい!」
「いや、わからない」
「はい?」
 いい加減にしてよね……。

 と、ようやくクッションに顔の輪郭が見えてきた。
 目もあるし、口もある。
 チョットマはその眼を見つめ、待った。


「聞きたいことがある」
 アイーナが初めてまともな声を出した。
 ハスキーだが、威厳の備わった声だった。
「クローンなのに、本人と同じではないんだな」
「はい」
「顔も姿も、髪の色も」
「そうです」

「お前は何のために作られた?」
「さあ。存じません」
 知っている。
 レイチェルが私やサリに望んだこと。
 しかし、それを話すわけにはいかなかった。
 きっと、アイーナは馬鹿にするだろうから。

「知らない?」
「ええ」
「クローンとは」
 アイーナの言うことは理解できた。
 何らかの役割を持たせるために、生み出されたコピーだということは。
 そしてそれが多くの場合、かなり似通った容姿で作られることも。
 かなり昔に、その技術は禁止されたことも。

「まあ、そうだな。地球のホメム、今は生粋の血筋も絶えようとしている人類の生き残りとして、作ったのかもしれないな」
 アイーナの想像は間違っているが、大きく外れているというわけでもない。
 チョットマは、もしそうだとすれば光栄なことだと思います、と応えておいた。
「まるで、クローンに見えないね。チョットマと言ったか。おまえ、自分の頭で考えている」
 さすがにこれには、「当たり前です!」と反応してしまった。
 生意気に聞こえたかもしれないと思ったが、
「私は、あくまで私です」
 とまで、付け加えてしまった。


「気に入ったよ!」
 と、アイーナが優しく声音を変えた。
「かわいこちゃん! こっちにおいで!」
「はい!」
 かわいこちゃんと呼ばれて、さすがにのけぞりそうになったが、言われたとおりにクッションに近づいた。
 いい香りがますます強くなった。
「さ、ここへお座り」
「ありがとうございます!」
 クッションの横に並んで座った。
 ソファのスプリングはとても硬く、まるで板の上に座っているようなものだった。
 それでもアイーナが立ち上がると、ソファの座面がぽんと跳ね上がった。

「どれがいい? どれでもいいんだよ。いくらでもお食べ」
 アイーナが、ピラミッド状のお菓子の数々をプレートごと持ってきた。
「飲むものも用意するわね。なにがいい? なんでも、思いつくものを言って」
「あ、はい」

 戸惑うチョットマに構うことなく、アイーナは転げるように動き回り、お皿やスプーンやフォーク、手を拭くものなどを出してくる。
 小さなクッションが、あちらこちらに吹き飛んだ。
「何してるんだい。早く、言っておくれ。でないと、私もいただけないじゃないか」
「あ、はい。では、お言葉に甘えて……」
「堅苦しく話さなくていいんだよ」
「はい。じゃ、コーヒーを」

 コーヒーなど、これまで一度も飲んだことがなかった。
 ニューキーツ時代はもちろん、こちらに来てからも。
 でも、あのいい香り。きっと、とても素敵な飲み物に違いないと思っていたのだ。
「はい。じゃ、少し待っててね」
 あ、あんなところにドアが。
 アイーナがひときわ高く積み上げられたクッションの山を崩すと、別室へのドアが隠れていた。


 この調子なら、プリブのことをうまく聞き出せるかもしれない。
 しかし、のんきにここでティータイムなどしている場合ではないのだが。
 遅ればせながらも、バルトアベニューに向かわねば。

 それにしても、この歓待ぶりはなんだろう。
 レイチェルの話とかなり様子が違う。
 素直に受け取っておいていいのだろうか。
 あるいは、まだクローンの出来栄えテスト中?

 とすれば、ケーキを美しく食べなければ。
 絶対にこぼしちゃいけない。
 コーヒーもおいしそうに飲まなくちゃ。
 万一、口に合わなくても、そんな素振りは厳禁ね。
 チョットマは小さく溜息をついた。
 あ、緊張してきた……。
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