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パリサイド 作者:奈備 光

3章

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22 代役、どうってことないよ

「場所は?」
 イコマは叫んだ。
「そんなに早くは走れない!」
「バルトアベニュー十七番街!」

 ンドペキとスゥが、隊員と共に前方を駆けていく。
 ライラは部屋に残り、イコマはユウと道を急いだ。
 チョットマはンドペキと一緒に行きたがったが、これはスジーウォンが思い留まらせている。
 スミソはもちろん、スジーウォンもチョットマの身を案じて後続隊に同行してくれている。

 街並みはいつも通り、宇宙船の中とは思えない少々くたびれた風情を見せ、通りを行く人々もどことなくのんびり歩いている。
 アシカのようなパリサイドの身体で歩いている者が大半だが、人らしい顔をして服を着ている者に関心を持つでもなく、全身の黒い素肌を見せて悠然と歩いている。
 イコマも彼らと同様、一糸纏わぬ姿。恥ずかしいという気持ちは薄くなってきたとはいえ、まだ腰の辺りが心もとない。
 それにまだ、飛ぶことはおろか、走ることさえままらないのだった。
 ンドペキ達の姿はもう見えなくなった。
 早くアヤの元へ、と気持ちは焦るが、他のパリサイド同様、のんびりと歩くしかなかった。

 結局、アヤが自分の名を覚えているのか、という質問には応えてもらえずじまいだった。
 彼女が何をしようと街を歩いていたのかも。
 彼女の言う、自分の住まいとは。
 そして、行方知れずになってから、どうしていたのかも。

 チョットマが一団の先頭を行く。
 もうすっかり元気だよ、というような足取りで。

 チョットマについては、もう心配はないとユウが太鼓判を押した。
 ウイルスに打ち勝ったのだと。
 彼女の気力と意志力がウイルスにまさったのか、それとも彼女の肉体的特徴がウイルスを跳ね返したのかはわからないが、チョットマの様子を見る限り不安な要素は見つからないということだった。


 最後尾のスジーウォンとレイチェルが話している。
「市長の方はいいのか?」
 スジーウォンはアイーナの方を、プリブの件を優先してくれとは言わなかったが、レイチェルにもスジーウォンの言いたいことは伝わった。
「ンドペキの時も、チョットマの時も、私は駆けつけられなかった」
「いいんだよ、そんなこと」と、前を行くチョットマが笑ったが、レイチェルはごめんね、と言い返し、そして、
「二人のことよりアヤちゃんの方が大事だっていう意味じゃないけど、アヤちゃんは私にとって、ただひとりの親友」と、きっぱりと言った。
「忘れた?」

 レイチェルの意志はそれで十分だった。
 バルトアベニューに向かう気だ。
「彼女を助けることができるのは、私かもしれない。それなら、私、行かなくちゃ」
 記憶を無くしたかもしれないアヤ。
 それを取り戻させることができるのは、確かにレイチェルかもしれない。
 エーエージーエスで死にかけた二人。あの事件で実際、アヤは片足を失い、レイチェルは顔面に大怪我を負った。
 アヤにとって、忘れたくても忘れられない出来事なのだから。
 レイチェルが話しかければ、アヤの記憶も……。

 スジーウォンは何も言わなかった。
 アイーナ市長とのアポイントメントを反故にすることになる。
 結果として、プリブの捜索はますます難航するかもしれない。
 何も言えなかったのかもしれない。
 それほど、仲間であり長官であるレイチェルの声は、毅然として有無を言わさぬ響きがあった。

 イコマも黙っていた。
 アヤの方を優先して欲しいからではない。
 口出しするべきことではないから。
 長官として、そしてアヤの親友として、レイチェル自身が決めることだから。
 もっと言えば、レイチェルとスジーウォンの間で了解すべきことだから。

 そして今、レイチェルは重い決断をしたのだから。


 えっ。
 一歩前を行く、チョットマが立ち止った。
 まさか、そんな手を……。

 イコマの嫌な予感は的中した。
「私が行ってきます」
「ん?」
「アイーナ市長のところへ」
「おい!」
 スジーウォンが血相を変えた。
「さっきの話を聞いただろ!」
「うん」
「何をされるか、わかったもんじゃないぞ!」
「でも」
「だめだ!」

 スジーウォンが止めたが、チョットマは顔色一つ変えず、
「市長の部屋、どこに行けばいい?」と、あっさりした声で聞いた。
「チョットマ……」
 レイチェルもそこまで考えていなかったのだろう。躊躇を見せて口ごもった。
「どこって。でも……」
「出来栄えを見せてあげればいいんじゃない?」
「そんなこと……」

 チョットマは平然としている。
「レイチェルはアヤちゃんのところへ行く。そして記憶を蘇らせる。私はレイチェルのクローンだから、代理としてアイーナ市長に会いに行く。それで、どこがおかしいの? クローンを連れて来いって言ってたんでしょ」
「チョットマ、ありがとう。でも、それはいくらなんでも……」
「レイチェル、プリブは私にとって大切な人。それに、スジーウォン隊にとっても大切な人よ。隊員である私がここで働かないと、スジーウォンやンドペキ、ハクシュウに顔向けできないじゃない」


 よく言った、とイコマは褒めてやりたかった。
「大丈夫よ。ねちねち嫌味を言われるだけでしょ。どうってことないよ。もしかしてプリブのことが少しでも分かるなら儲けもの、じゃない」
「でも」
「レイチェル、いつからそんなに気弱になったの? 私さ、レイチェルの凄さを知らなかったなあ、ってよく考えるのよ。スゥの洞窟でことごとく楯突いてたけど、レイチェルはすごいなって」
「そんなこと……」
「私、レイチェルのクローン。恋人探しのために作られた。でも、その役割は果たせなかった。期待に応えられなかった」
「本当にごめん。でも、もうそんな話は……」
「ううん。嫌味で言ってるんじゃないのよ。少しくらい、私に役に立たさせて、ってこと」

 チョットマはレイチェルからアイーナ市長の部屋を聞き出し、駆け出していった。
「念のために」という言葉を残して後を追うスミソ。
「頼んだよ」と呟くスジーウォン。
 レイチェルはチョットマの姿を目で追うこともなく、口元を引き締め、「さ、行きましょう。早くバードの元へ」と、彼女にとっての呼び名でアヤの名を呼んだ。
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