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パリサイド 作者:奈備 光

2章

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16 ルン、チャッチヤ

 誰もが声をあげて笑った。チョットマに聞こえるように。
「で、その可哀想なカエル、どうした? 後で見に行ってやったのか?」
 ンドペキがチョットマの腕をポンポンと叩いた。
「まだまだ……先があるよ……お話はこれから……が本番……」
 チョットマも少し笑った。


 私達の席の前まで来たけど、パパはカーテンを下ろしていた。
 今の話を教えようかなと思ったけど、時間には限りがあるしでしょ。
 仮面舞踏会遊びが何時間くらいあるのか知らなかったし。
 コスチューム選びに、私、時間掛けすぎちゃったから。

「カエルの話を聞きに、ずいぶんと道草したしね。で、その後は?」
 イコマは、そう言って話の続きを促した。
 チョットマは目を輝かして、また話し出した。


 ホールに降りていくと、すぐさまダンスの申し込みを受けたわ。
 さすがに、オペラ座ね。
 それも二人同時に。
 お客さんを飽きさせない。

 ひとりは大男で、ものすごい髭を生やして、角の生えた鉄の帽子を被っていた。
 分厚い胸板やブーツには鋲がびっしり並んでいて、とても手を取って一緒に踊れるような相手じゃない、みたいな。
 大げさな剣をガチャつかせて、「お嬢さん、一曲、いかがでしょう」と、手を差し出されても。
 手甲にも棘棘がついているし。

 もうひとりは、体型は普通だけど、コスチュームが……。
 まるで緑色のトカゲ。
 体にフィットしているというか、全身ぴちぴちの。
 どんな素材でできているのかわからないけど、黄色に緑に発光しているの。
 目だけが本物の眼なんだけど、さすがに目を合わせるのも恥ずかしい、みたいな。
 同じように「踊りませんか」と言われても。


 ここは断るべきなんだわ。
 マスカレードの頭脳は、もっといい相手を差し出してくれるはず。
 いや、ここでどちらかを選ぶのがシナリオなのかな。
 待てよ。
 こうやって悩んでいる間に、私を巡って決闘でも、なんて考えてみたり。

 という間に、もうひとり、現れたの。
 もう少しまともなのが。
 といっても、奇妙には違いなかったけど。
 頭の上からつま先まで、ぼろぼろのローブ姿。
 別に特別な臭いはしなかったけど。

 彼はまず名乗った。
「畏れ多くもアラブのプリンセスよ。名乗ることをお許しください。わたくし、EF16211892と名付けられし者、一介の兵士でご

ざいます」
 と、パリサイド流の名前。
 兵士というには服装が、と思ったけど、ここは仮面舞踏会。

「どうか、暫し、わたくしのお相手を」
 継ぎはぎだらけのローブをたくし上げて、きれいな手を差し伸べてきたわ。
 私がその手を取ったから、先の二人は出した手の持って行き場に困ってたわ。
 トカゲなんか、大男と握手しようとしてたけど、可哀想に払いのけられちゃって。

「ありがたき幸せ!」
 と、ぼろ服は恭しくお辞儀をしたわ。
 その拍子に、掛けていたサングラスの奥が見えたの。
 パリサイドの眼じゃなかった。私たちと同じ目をしていた。


 彼は、ううん、EF16211892と呼ぶべきね、ちゃんと名前を聞いたんだから、は上手に人波をすり抜けて私をホールの中央まで

連れて行ったわ。
 エスコートされて、ホールの主役になった気分。
 ときめきっていうと違うけど、胸が高鳴るってこういうことを言うのね。
 EF16211892の手が私の手を優しく包み込んでいる。
 もう一方の手が私の腰に回され、私は彼の肩に手を置いて。

 シャンデリアが揺れている。
 明かりも揺れている。
 周りで踊っているペア達の姿が視界から消えていく。

 音楽は降り注ぐ。
 胸の高鳴りは止められない。
 繋いだ手の温かさ。
 彼の漏らす吐息。
 私の息遣い。

 さあ、最初の第一歩はどうするの。

 彼の足が踏み出された。
 私の腰にある手が身体を押し、それに合わせて私の足も動き出した。
 彼のサングラスの奥にあった目を見つめて。


 お姉さんに歌を教えてもらっていて本当に良かった。
 リズムというものは私の身体にある。少し変わったリズムでも、何とかなるわ。
 それに宮殿に入ってから、このリズムに身体を合わせていたからね。
 ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ。
 踊りなんて適当。
 まずはリズムよ。
 ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ。

「申し訳ない」
 と、EF16211892は何度も言う。
「いえ、大丈夫です」と、私は応える。
 ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ。
 靴を踏まれようが、たたらを踏もうが、気にしない気にしない。
 私も彼の向う脛を何度蹴とばしたことか。

 音楽は盛り上がり、テンポが増していく。
 かと思えば、スローダウン。
 その都度、彼はテンポを外し、手は汗ばんでくる。
「申し訳ない」
「いいえ、気になさらないで」なんて、私の言葉も変わっていく。

 回る回る。
 調子に乗って。
 ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ。
 今度は左回りね。
 スカートを翻して。
 可憐に軽やかに。
 上手に引っ張ってね。
 ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ。


 一曲が終わった。
 さあ、どうするの?

 もっと踊っていたい。
 やっとコツが飲み込めてきたから?
 それとも、この楽しさを終わらせたくないから?

 パパは見てるかな?
 と振り返ろうとした途端に、新しい曲が始まった。
 EF16211892の手が私を軽く押し、脚がリズムを刻み始めた。
「もう少し、一緒に」
 と、彼の声が聞こえた。
「ええ」

 二曲目、EF16211892は饒舌だった。
 ダンスに慣れてきたのだ。
「貴女のような素敵なプリンセスに、こうして踊っていただけるとは、この上ない幸せです」
「身分の違いを感じさせない、貴女はお優しいお方です」
「このような楽しい夜、もう二度とはないでしょう」
 などという。

「貴女がこの宮殿にお入りになって来た時から、いえ、馬車に乗られていた時から、私の眼は貴女に釘付けでした」
「それは、どうかしら」
 ここで突っ込むことではないが、からかってやりたくもある。
「でも、馬車に乗っていた時と、服装は全然違うもの」
「いいえ、プリンセス。貴女から発せられる高貴さは、百万本のバラよりも香しく、たとえどんな服装をされようとも、私のよう

な無粋な者でもはっきりと感じられるのです」
「そう?」
 そういうことにしておこう。
 ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ。
 次の曲も、また次の曲も、ルン、チャッチヤ、ルン、チャッチヤ。


 あ、パパが見えた。
 首を回した途端、少しテンポが乱れたのだろう。
 EF16211892の声が沈んだ。
「この曲が終われば、パパの元へお届けさせていただきます。それまでは、どうか」
 彼のリードでチョットマはクルリと回った。

 もう少し。
 あるいは、この曲が少しでも長く。
 チョットマは声には出さず、彼の提案を拒否するかのように、激しく舞った。
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