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パリサイド 作者:奈備 光

2章

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14 ソーダー水だよ!

「地球人類のようにはいかないわ。パリサイドは」
 寝込んでいるチョットマを囲んで、ユウがスゥやンドペキと話している。
 ライラも駆け付けてくれている。スジーウォンとスミソも心配顔だ。
 イコマはチョットマの手を握って祈っていた。

「地球人類はすべての病気を克服したけど、パリサイドはまだ」
 ユウによれば、地球では見られない身体異常がいくつかあるという。
「宇宙空間に漂っている無数のウイルス。解明されきってはいないのよ」
「チョットマは病気なのか?」

 ンドペキは憔悴した顔だ。
 アヤの捜索から、急遽戻ってきたのだ。
「そうとも言えるし、違うかもしれない。あなたやスミソが罹った症状も、本当に病気なのかどうかもわからない」
「うーむ」
「としか言えないのよ」
「じゃ、薬は?」
「ないわ」
「ない! しかし!」
「チョットマの状態と、あなた達の状態は違うわ」

 チョットマは目を開けたままピクリとも動かなかった。
 眠っているのだろうか。意識を失った状態だろうか。
 あるいは、意識はあるが身体が動かないということなのだろうか。
「俺たちの声、聞こえているのか」
「少しはね。目も少しは見えていると思う。判断できているかどうかは別にして。彼女は今、病気と闘っているのよ。意識の奥底で」
「ウイルスと?」

「さあ。わからないわ。発見されていないから。いずれにしろ、こういう状態を抜け出す薬はないのよ」
「おい! じゃ、どういうことになるんだ」
 ユウがふうと溜息をついた。
「待つしかないのよ」
「……なんてことだ」
「チョットマを信じて。きっと回復するから」
 そう言って、ユウはチョットマの額に手をやった。
「大丈夫よ。みんな、ついているからね」


 パリサイドの世界では、主にふたつの病気があるという。
 ひとつはンドペキやスミソが罹ったもの。眠りに落ち、様々な夢を見るもの。
 薬があればたちまち回復するが、放っておくと稀にひと月も眠り続けるという。
 回復が早ければ別条はないが、長すぎると精神に異常をきたす場合もあるらしい。
 もうひとつは今のチョットマの状態。
 身体が全く制御できなくなり、かすかな意識をかろうじて維持している状態。

「きっと、大丈夫」
 ユウが繰り返している。
「大丈夫でなかったら?」
 チョットマに聞かせるわけにはいかないのだろう。
「だめよ。そんなことを心配しちゃ」と、目くばせした。
 そしてまた、チョットマに声をかけた。
「楽しい記憶を呼び出すのよ。それを強く思って。他のことは考えなくていいから、楽しかったことを」


 イコマはチョットマの眼を食い入るように見ていた。
 焦点が定まらない宙に向けた瞳。
 艶やかな輝きを持ってはいるが、時々瞬きをするだけで何も捉えていないようだった。
 イコマは声にならない叫びをあげていた。
 チョットマ!
 チョットマ!

 何もしてやれないとは!
 代わってやることもできなければ、少しでも楽にしてやることさえできないとは!


 ユウが腕を掴んだ。
 黙って、こちらに来いという。
「ンドペキ。チョットマを励ましてあげて」と言い残して、チョットマに声が届かないところへ。
 イコマは嫌な予感がした。
 この状態を抜け出せなければ……。

 ユウが小声で話してくれた。
 万一の場合を。
「あのままの状態が続くことはないのよ」
「……」
「いずれ、早ければ今にも、目が覚めるはず」
「そうなのか」
 ほっとしたのも束の間、
「その時が一番大切なのよ」と、釘を刺された。


 ウイルスの脅威から抜け出せるかどうかは、目覚めてからの数時間にかかっているという。
「楽しかったこと、うれしかったこと。そういうことをしっかり思って、自分を見失わないようにしなくちゃいけないの」
「自分を見失う……」
「それができれば、数時間後には元のチョットマに戻ることができるわ」
「できなければ……」

 ユウが言いにくそうに、しかしきっぱりと言った。
「精神が壊れてしまうわ」
「なっ……」
「つまり、気が狂う……」
「……」
「でも、それは稀」
 九割以上の確率で回復するという。
 安心してよいのか悪いのか、わからない話だったが、一割以下とはいえ危険が迫っていることだけは確かだ。
「一見、回復したようでも、なんとなくその人じゃなくなってしまったような例もあるけどね」
 すっきり治るというわけでもないようだ。

「それって」
 後遺症?
 あるいは、ウイルスに負けてしまったということだろうか。
 身体や意識を乗っ取られてしまった、というような。
「そういう発現率はかなり多いみたい。まあ、普通の生活に支障があるわけじゃないから」
「再発は?」
「わからないわ。すべての患者のその後が延々と追跡されているわけじゃないし、そもそも原因さえ掴んでいるわけじゃないから」
 イコマはチョットマが気になって、ユウのいう意味がはっきりとは飲み込めなかったが、今やらなければいけないことだけはわかった。
 チョットマが意識をしっかり持つことができるように、声を掛け続けることなのだ。


「だから、しっかり思い出させてあげて」
「わかった」
「あまり古い過去のことより、最近のことの方がいいみたい。まだリアルに思い出せることを」
「よし」
「できれば、ノブが話すより、チョットマ自身が話す方がいい。その方がチョットマが集中できるから」

 ユウがスゥに声を掛けた。
「飲み物を用意して。チョットマが目覚めたときのために」
「わかった。なにがいい?」
 ユウが向き直った。
 どうする? と。

 チョットマが好きな飲み物……。
「ソーダ水だよ! レモンも入れておあげ」
 ライラが叫んでいた。

「それから、口に入れるものも」
「リンゴだよ!」

「音楽は?」
「スタンド・バイ・ミーだ!」と、ンドペキが叫んだ。
「でも、プレーヤーなんてないよ」
「じゃ、僕が!」
 スミソが立ち上がった。
「どこへ行く?」
「ヘルシード! チョットマの先生を!」と、飛び出していった。
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