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パリサイド 作者:奈備 光

2章

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13 何か、隠していやがる

 スゥの部屋に戻ったとき、ライラだけが留守番をしていた。
「やれやれ」と、顔を見るなり首を捻り、肩を回した。
「行っちまったよ。ピンピンしてね」
「よかった!」

 ンドペキとスミソは意識を取り戻し、スゥと一緒にアヤを探しに飛び出して行ったという。
「行き違いになるといけないから、留守番をしておけって、この年寄りに」
 チョットマは胸を撫で下ろした。
 プリブとアヤ、ンドペキとスミソ。とりあえず、二人は無事だったということだ。
「スゥの薬が利いたの?」
「おや? おまえもあの薬のことを知ってるのかい?」
「ううん。スゥが薬を探しに行ってくるって言ってたから」


 ライラがニヤリと笑って、
「効いたもなにも」
 スゥが持ち帰ったものは、カプセル状のものだったという。
 それを開け、中の粉末の匂いを嗅がせただけで、パッチリ目が開いたという。

「あいつ、どこで手に入れたか、教えようとしない」
 ライラは不満げだが、治ったのならいいではないか。
「完全に治ってたみたい?」
「ああ。ンドペキなんか、くそくそ、俺としたことが! ってわめいてたな」
「スミソは?」
「しきりに面目ないってさ」
「ふう」
 チョットマは安堵の吐息をついた。

 本当にうれしかった。
 この時ほど、心の中にンドペキが住んでいると感じたことはなった。
 プリブやスミソには悪いが、胸の中、恋という名の部屋に住んでいるのはンドペキだけだった。
 いつの間にか、眼に涙が溜まっていた。


「ところで、プリブの一件、どう思います?」
 スジーウォンがぶっきらぼうに問いかけた。
 チョットマもその回答に期待した。
 ニューキーツ一番の物知り、サキュバスの庭の女帝と呼ばれた呪術師ライラなら。

 しかし、応えはそっけなかった。
「さあね。仲良しチョットマに聞きたらどうだい」
「おばあさん……。私、何もわからないのよ……」
 そうだ。スミソなら。
 いや、知っていることがあるのなら、いの一番にスジーウォンの耳に入れているだろう。

「そいうや」
 ライラが思わせぶりに口を開いた。
「あの男、商売用の部屋を探しているとか」
「えっ。そうなの?」
「噂みたいなものさ」
「誰が言ってたんです?」
 スジーウォンにとってはぜひ聞いてみたいことだろう。

「探偵は、情報源を言わないものさ」
「そんなことを言ってる場合ですか! 教えてください!」
 スジーウォンが少し声を荒げたが、ライラは気にも留めないで、
「噂の情報源ってのは、得てして不明ってことさ」と、言う。
「それ以上のことは、何も知らないね」

 商売用の部屋……。
 プリブはどんな商売をしようと考えているのだろう。
 チョットマは、あのプリブの秘密の部屋のことを思い出した。
 変装用の衣装がたくさん隠してあって……。
 そういや、ニューキーツのバザールで、乞食みたいなプリブに声を掛けられて……。
 今となっては、懐かしい思い出だ。

 部屋探し。それがプリブが連行された原因?
 それとも、やろうとした商売がまずかった?
 連行した連中が、警察とか治安部隊だったとは限らないかも。
 商売敵がプリブの邪魔をしようと……。あるいはマフィアみたいな裏世界の……。
 チョットマの想像はそこまで止まりだった。


「うーむ」
 スジーウォンはしばらく唸っていたが、
「隊員達に聞いてみます。ありがとうございました。ここは私達が居ますので、もうお戻りになっても結構ですよ」
 と、声を掛けたが、ライラは椅子から立ち上がろうとしない。
「アヤちゃんのことを、レイチェルに知らせておいた方がいいな」
 スジーウォンが独り言のように一言添えた。
 そう、親友だから。
 その伝言を頼むニュアンスだった。

 しかしライラは、
「スゥの奴とはもう、一緒にやっていけないね」などと言いだした。
「どういうこと?」
 チョットマは聞いてはみたが、ライラの言いたいことはわかった。
 きっと、薬のことを説明しなかった、という類のことだろう。

「でも、おばあさん。今までも」
「そうさ」
 これまでもこんな関係でやってきたのだ。隣同士で店を構えて、喧嘩しながら。
 本当は、まんざらでもないはず、とチョットマは思う。
 その証拠に、ライラはフフンと言いながら、カプセルの残り滓を掌に転がしてみせた。
「どうせ、あいつのことさ。自分で探せって言うんだろ」

「それがあれば安心ね」
 とチョットマは、あえて朗らかに言った。今この時期、妙に張り合われても困る。
 ライラは、「ああ。誰もが欲しがるものさ」と、カプセルを摘んでいる。
「ダメよ。買い占めたりしちゃ」
「ふふん、おまえに言われる筋合いはないね」
「だって」
「あたしゃ、パリサイドが嫌いなんじゃ。やつら、こんな大事なことも言わないで。いや、それはどうでもいい」


 ライラがまた不満顔をみせた。
「それにしても、どうも、解せないね」
「なにが?」
「スゥの奴」

 チョットマとスジーウォンの顔を交互に見て、
「あいつ、おかしいと思わないか」と、声をひそめた。
 思ってもみなかった言葉に、チョットマは驚いた。
「おかしい?」
「何か、隠していやがる」

 そうだろうか。
 スジーウォンは我関せずという顔をして、装備の点検を始めた。
「大体、いつからンドペキを好きになったのか知らないが、あれほどの世話を焼くとはな」
 ニューキーツの洞窟を提供したことを挙げ募っている。
「それはまあいいとしよう。おかしいのは、ここに来てからさ」
 チョットマには、何がおかしいのかわからなかった。

「このところ、あたしはあいつと一緒に行動することが多い。商売する部屋を一緒に探しているからな」
「それで、どうおかしいの?」
「知りすぎている」
「何を?」
「街を。パリサイドのことを。そう感じる」

 チョットマが黙っていると、
「ハハハ。あたしよりスゥの方が物知りだっていいじゃない、って顔しているね」
「いや、そういうわけじゃ……」
「年寄りのやっかみさ」
 と、ライラが今日初めて、嬉しそうに笑った。


 ライラは、レイチェルに知らせてくると言い残して部屋を出て行った。
 ついて行くというチョットマを押し留めて、カプセルをポケットに滑り込ませた。
「頂いていくよ」
 まだ、粉は残ってるからね、もし倒れるようなことがあったら、気を失う前に試してみるさ、と。

 ライラが出ていくと、急に力が抜けた。
 チョットマはまた、ほんとによかった、と呟いた。
 と同時に、足元がぐらついた。
「あ」
 目の前が暗くなり、膝に痛みが走った。
 スジーウォンの声が聞こえた。「大丈夫か!」
 そして、身体がふわりと宙に浮いたような気がした。
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