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パリサイド 作者:奈備 光

プロローグ

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プロローグ

※注意:前編「ニューキーツ」及び「サントノーレ」のネタバレになります。

前編「サントノーレ」のあらすじ


 タールツーを首謀者とするアンドロの反乱軍からニューキーツの街を取り戻すため、ンドペキ率いる東部方面攻撃隊はその拠点を地下のスラム街「エリアREF」に移していた。
まず目指したことは、シェルタに立て籠もっていると思われるレイチェル騎士団と合流することだった。しかし、後に裏切り者となるニューキーツ防衛軍のロクモン将軍が教えてくれたヒントとなる言葉をどう読み直そうとも、その所在は分からない。
 一方、太陽フレアの極大化によって、地球の生命体は危機を迎えていた。人類の避難先として用意されているベータディメンジョンすなわちアンドロ次元を、人が住める環境とするといわれれるカイロスの装置の謎は解き明かされていく。それに関連するカイロスの刃という宝物を求めてサントノーレという街に旅立ったスジーウォンとスミソ。スジーウォンにとっては、生きているという噂のあるハクシュウと出会うことも胸に秘めての旅だった。
 その頃、チョットマの友達だった少年少女、セオジュンとアンジェリナが行方知れずとなる。やがてレイチェルのSPであり、チョットマを守ることを命じられているアンドロのハワードも姿を消す。チョットマに向けたひとつの言葉を残して。
 太陽フレアはますますその力を増し、街は火の海と化していく。散発的に行われる戦闘。パリサイドからは自分達の宇宙船に逃れるように提案されていたが、人々は受け入れられない。パリサイドは人類をできるだけ救おうと、思念の人アギにパリサイドの肉体を与え始めていた。

 スジーウォンとスミソはカイロスの刃を守るトラップに翻弄され、スミソは殺されてしまうが、パリサイドの肉体を得て復活し、二人はハクシュウとも出会い、無事にカイロスの刃を持ち帰る。と、同時に、レイチェルのシェルタへの扉が開き、ンドペキ達はレイチェル騎士団と合流することができた。レイチェル騎士団は頼りにならない連中であったが、ようやく大勢力となった東部方面攻撃隊は政府建物に侵攻を始める。
 人類の危機を救うため、カイロスの刃を持ったチョットマはニューキーツ政府建物内の広場で儀式を執り行おうとするが、長官タールツーに刃を奪われ先を越されてしまう。ベータディメンジョンへの扉が開き、人々が殺到し、その人の波に押し流されるようにしてンドペキやチョットマを含め東部方面攻撃隊の面々もその半数ほどがベータディメンジョンに移行してしまう。そこで、ンドペキ達は時間をずらしてこちらの次元に戻って来れることを知った。
 その頃、ニューキーツの街の地下では、レイチェルが人々の前に姿を現し、パリサイドの提案を受けて宇宙船に避難することを決め、人々に解いていた。

 大きな謎や小さな謎、個人的な心を発端とする謎や、体制に纏わる謎。言葉として与えられた謎や、目に見える事象として示された謎。それらを繋ぎ合わせてみた時、見えてきたもの、ンドペキは逡巡する。これを話してもいいものだろうかと。
 アンジェリナはカイロスの装置をさらなる高みへ起動させるため人身御供となり、愛し合うセオジュンは彼女に付添った。しかし、セオジュンはハワードそのものだったのだ。アンドロであるハワードは使命と自分の気持ちの狭間で、あのような言葉を残したのだった。
 そしてすべての謎を生み出す元となったもの。それはレイチェル。レイチェルは、前長官キャリーであり、そしてタールツーであった。前長官キャリーは、人類の、いやホメムの子を宿すために、一旦は自分を死んだことにしてタールツーに成りすまし、そしてカイロスの刃が手に入るや否や、ベータディメンジョンへの扉を開き、そこを経由して時間を遡った。そして、レイチェルとしてこの次元に戻ってきたのだった。
 
「パパ! 大変!」
 こんな風にチョットマが駆け込んでくるのは、これで三度目だ。
 最初はサリがいなくなったといって。
 二度目はセオジュンの姿が見えないと。

「そんなに慌てないで」
「プリブが!」
 と勢い込む横から、スミソが顔をのぞかせた。
 チョットマはパリサイドの世界でよく見かける簡素な服装だが、スミソは完全武装している。

 ここはパリサイドの宇宙船団の母船。
 狭い船室。イコマの部屋である。
 パリサイドの身体を得て、下着の一枚さえも持たないイコマにとって、ベッドとテーブルと数脚のチェアさえあれば、事足りる。


 チョットマは顔を紅潮させていた。
「さあてと」
 わざと悠長な声を出して、イコマは自分用の椅子に座った。
 スミソは常に変わらぬ冷静沈着な表情で、そしていつものようにチョットマに付き従うように立っている。

「とんでもないのよ!」
「なにが?」
「逮捕されたのよ!」
「えっ」
「ひどすぎる!」

 つい先刻、数人のパリサイドが現れ、プリブを連行していったという。
「ありえないでしょ!」
「理由は?」
「あいつら、何も言わないのよ!」
「うーむ」


 不安が湧き起ってくる。
 母船を覆う、得体のしれない不安。
 太陽フレアの襲撃から逃れた地球人類やアンドロ達、そしてパリサイドとなったアギは、全員がこの船に集結している。
 ニューキーツの人々が乗った「あけぼの丸」を含め、すべての船も母船内に格納された。

 まだいくつもの命が地球上に残されているだろうが、パリサイドは全員の救出は困難と判断したようだ。
 それらをいわば見捨てたことに、漠然とした不満を持った者も少なくない。
 イコマもその一人だが、ユウの話によれば、仕方ないよ、ということになっている。
「こっちにも制限時間、ってものがあるんだから」
 微妙に棘のある言い方だったが、ユウもそう思ったのか、
「自ら進んで乗り込んでくれる人たちばかりじゃないから」と、申し訳なさそうに言い添えたものだ。


「逮捕ねえ」
 逮捕令状は? なんてことを聞いても、意味はないだろう。
 パリサイド社会の仕組みはまだ全く知らないのだから。
「公式な……」
 それでも思わず口から出た言葉に、チョットマとスミソは顔を見合わせるばかりだった。

「私たちの目の前で連れ去られたのです」
 スミソが申し訳なさそうに付け加えた。
「向こうは武装してましたし、こっちはその時は……」
 プリブを取り戻すことはできなかったという。
 引き立てられていくのを、黙って見送るしかなかったという。
 スミソは表情を変えない男だが、この時ばかりは武器をガチャリといわせた。


「まあ、お座り」
 イコマは冷静に穏やかに話せ、と自分に言い聞かせながら、二人に椅子を勧めた。
 腰を下ろすチョットマの緑色の髪が、ふわりと大きく揺れた。
 舞い上がった髪は、ゆっくりとチョットマの肩に落ちていく。

 この母船の重力は、地球上に比べて半分ほど。
 「あけぼの丸」でのそれは地球より少し小さい程度だったが、パリサイドの世界ではもっと小さいのかもしれない。
 宇宙空間を飛び回る彼らにとって、重力は極限にまで小さい方が都合がいいのだろう。
 天体による引力が働かない宇宙の只中。
 ダークエネルギーだけが渦巻く、暗闇の世界。
 船の中で、どのようにして重力を生み出しているのかイコマは知らないが、パリサイドはそれを自由にコントロールできるのだ。


 「あけぼの丸」が地球の重力圏から離脱し、全員が母船に移乗してから、ひと月足らず。
 太陽系の黄道に直角に進路を取っている。
 惑星が居並ぶルートではない。

 すでに太陽から約0.15光年ほども離れた位置にある。
 黄道に沿って飛んでいるなら、太陽系惑星群やカイパーベルトははるか後ろに過ぎ去り、オールトの雲さえも通り過ぎようとしている計算だ。
 すさまじい速度であるといえる。
 かつて、神の国巡礼教団が地球を飛び立った時の宇宙船の性能に比べて、革新的な進歩である。


「で、隊長は?」
「うん。皆を集めて、これから暫くは単独行動は慎むようにって」
 チョットマがスミソを振り返って、微笑んでみせた。
「事情が掴めるまでは、所在を明確にしておくようにって」

 スジーウォンが下した判断は正しい。
 逮捕、とチョットマはいうが、公式な手続きを経た連行かどうかもわからない今、隊として最善の態度は身を硬くしておくことだ。

「レイチェルには?」
「スジーウォンが」
「うむ」
「万一を考えて、誰かが必ずレイチェルの身辺を固めるって」
「臨戦態勢?」
「ううん、そういう感じでもないけど」
 スミソが言い直した。
「レイチェルに危害が及ぶことはないと思われます。これは我々、隊の問題でしょうから」
「ふむ……」

「パパ、私、どうしたらいい?」
 以前にもこの台詞を聞いたことがある。
 その時のチョットマの上官はンドペキ。
 今回もイコマは、「ンドペキの元へお行き。彼も……」
 守らなければいけないかもしれない、という言葉を飲み込んだ。


 ニューキーツ東部方面攻撃隊。
 「あけぼの丸」に乗り込んで、それは「あけぼの丸自警団」と名を変えた。
 しかし、この母船に移乗するや否や、解体を命じられたのだった。
 もはやこの先、戦闘部隊は必要ないからと。

 その時のスジーウォンの言葉は気が利いている。
「私たちは、戦闘集団じゃないさ。名前は攻撃隊でも、実はただのゴミ拾い集団さ」
「ハクシュウ隊からンドペキ隊ときて、スジーウォン隊になった。それだけのこと。でも、言われる通りしようぜ。東部方面攻撃隊ってのは解散だ」
 と、コリネルスが応え、チョットマ達の拍手を浴びたのだった。
「ゴミ拾い集団スジーウォン隊……」という呟きとともに。
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