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  資料 作者:神威 遙樹
NO,72: Rainbow-colored snow 〜Shall We dance?〜
 聖夜のベルが鳴り響き、大広間からは活気溢れる喧騒が溢れて周りに零れる。
クリスマスディナーを楽しみにしている生徒、後半のダンスパーティーで誰かを狙っている生徒、様々いるが彼女はどうか?
肩甲骨辺りまで伸びた赤毛を今日は上に纏めてキャップの下に隠し、いつもと変わらない笑顔を顔に貼り付けたこいつは?
今何を考え何に笑っているのだろうか?








SEIREI
NO,72: Shall we dance?
HITOMI








 人は何かがどんなに好きでも、ほぼ間違いなく例外がある。例えばどんなに鳥が好きでも、死肉を啄むハゲタカの様な鳥も好きなのか?
大方、鳥好きという人達が好むのは美しい声でさえずる小鳥達か、勇猛果敢な猛禽類、見た目麗しい鶴や白鳥の様な優美な鳥類だろう。
全ての鳥が好きという者などそうはいない。
 同じように祭好きで名が通っているこいつも、好きではない祭は存在する。

「凄いよね〜、女の子みたいな顔だな〜とは会った時からず〜っと思ってたけど〜、いざ女装したらあ〜なるとは〜!」
「……本人的には嫌だろうがな」

 学院、大広間。
もうここに来て三年、このクリスマスイブのみ異常に雰囲気の変わる大広間には慣れた。
未だ入口で呆けている後輩達とは違い、なんの疑問も驚きもなく一度大広間の入口をくぐればそのまま空いているテーブルへ直行だ。
学院では他学年、即ち先輩と後輩が接点を持つのは基本的にサークルのみ。
故に普段も今日も、大広間には一年なら一年が、二年なら二年が自然と一ヶ所に集まる。
ならば自分達が座るテーブルの周りも自然と三年生ばかり、見知った奴らばかりなので似合ってないとか可愛いーとかちゃちゃを入れられる。
喧しい、似合ってないのは重々承知だ。
そう言ってもなおちゃちゃが続くのは、三年間共に過ごしてきたから遠慮も何も無いからだろう。
低学年には畏怖の対象になる三年最優秀班という肩書きも、同学年なら、ミラという超が付く程フレンドリーな奴がいるなら畏怖の対象にはならない。

「テセウス可愛い〜だって〜」
「ジョークも大概にして欲しいな」

 ミラがニヤニヤニヤニヤとチェシャ猫みたいに隣で笑う。
部屋出る前に散々この姿をいじったくせに、まだいじり足りないのかこのド畜生は。
 溜息一つ、空いてるテーブルの椅子を取り、無造作に座るが何故かミラは座らない。
後、そう言えばシンもいない。
またディアナにホイホイ着いていったのか?

「……どうした?」
「クリスマスの裏側取材するって言ったでしょ〜テセウス?」

 先程までの笑顔が一転、不機嫌そうな表情になり唇を尖らせる。
……あぁ、そう言えばそんな事言ってたか。
裏側と言っても、教授達の方に行くだけなんだが。
どうせ学長がいつもの様にド派手に一言言って、例年通り機械人形オートマタの皆さんが空中演奏をする中でのダンスという展開なんだろう。
けどまぁ……あの学長は毎年何かやらかすから、今年もそれなりに何か変な事をしてくれるだろう。

「しゃあねぇ、晩飯はお預けか。ナイゼルさんに取っとく様に頼むか?」
「う〜ん……一応保険で頼もっか〜」

 ナイゼルさんとは俺達の班専属の機械人形だ。
別に下の最優秀班、即ちサーヤさんやフィーネさんの様な感情は持っていない。
しかも女性型ではなく男。
個人的にはディアナに対してどうしても後一歩が出ないシンに向かって放つ直球過ぎる言葉が面白くて気に入ってる。
感情が無くても充分仲間の一人に数えられるイケメンだ。
そんな彼に頼めば、取り敢えずミラが暴走しても今夜のディナーは食べれるだろう。

「んじゃあそういう事でよろしく頼みますね、ナイゼルさん」
「……了解しました」

 この人、もといこの機械人形さんの特技は神出鬼没。
今ちょうど隣で澄ました顔して立ってるのに気が付いた。
今までどこにいたのか知らないが、ともかくいたから頼んで席を立つ。
ミラもやっとニカッと笑って機嫌が戻る。
……教授達の集団のとこに堂々と行けるの、学院の生徒はたくさんいるが多分ミラだけだ。
その度胸は凄い。
 軽くスキップしながら前を行くミラの背中を見ながら、今日の後半どうしようかと考える。
暴走させない様に手綱を取りつつ、こちらの仕事もやらないと。

「おぉ〜っと、面白い人見〜っけた!」
「……ルイスか」

 二年の集団の中でも一際目立つカウボーイハット。
見た目はユウキに負けず劣らず女だが、あれはルイスだろう。
周りの女子の目付きと、ルイスのチームメイトがいるし。
何よりあのカウボーイハットの子の周りに結界が張られてるのが確認出来る。
あんな事しないといけないのは学院広しと言えどルイスだけだからな。

「ニヒヒ〜ッ、女の子になってるね〜」
「錬金術だな。フィーネさんと同じだ」

 錬金術による変装、というか異性装。
目鼻がくっきりしているルイスが普通に女装したら違和感しかないだろうが、そこら辺は錬金術によりカバーされている。
何故そんな事するかは不明。
例の争奪戦はクリスマスに関してはチームメイトの三人に軍配が当に決まっているから、わざわざあんなややこしくしなくてもいい気がする。

「いよ〜ルイス君! ユウキ君に負けず劣らず美貌を放ってるね〜」
「こんにちはミラ先輩。ユウキに負けず劣らずってどういう意味ですか?」

 バチコーンっと後ろからルイスの背中を叩き、強烈な挨拶をするミラ。
この結界、二年にしか反応しないなんとも都合の良い物だ。
……というか、間近で見て気付いたが、これは結界じゃなくてまじないだ。
女避けの。
……相当念を入れてるな、この三人。
 ミラの強烈な挨拶にも動じず、ルイスはにこやかに言葉を返す辺りは流石だ。
今の顔が顔だからか、周りの二年男子連中はその笑顔に困惑している。
……落ち着け、こいつは男だ。

「何ってあれだよ〜、あれユウキ君〜」
「……へぇ、ユウキもフィーネさん辺りに錬金術でこんなメイクを? ローゼン対策ですか?」

 深読みし過ぎだルイス。
そもそもあれはお前と違って素の顔だし、ローゼンには気付かれた。
まあ、錬金術のメイク無しでああなるのは凄い事だが。
背も低いし、顔だけ女の子のルイスと違い、リアルに女の子に見えるから。

「メイクなんてないよ〜、素っぴんだよ素っぴん〜。なんかあんな可愛くなったらあたし達女の子としては微妙なんだけどね〜」
「……なんでっすか?」

 ミラははっちゃけた行動ばかりが目立ち、周りからは別段そう思われていないが、実は美人。
……黙ってさえすればの話しだが。
黙っていれば美人なのに、言動がぶっ飛んでいて中々そう思われない不幸の奴なのだ。
寝顔とかは可愛い。
寝相は悪いが。
そしてルイス、お前はもうちょっと女心を理解しろ。
普通に考えて、女子は女装した男子に可愛さで負けたくないだろう。
なんでって、当たり前だろ!

「ルイス君は顔は可愛いけど〜、体とのバランス悪いよね〜」
「ぐっ……それは言わないで下さいミラ先輩。私もそれ気にしてたんですから!」
「あの……さっきの俺の質問は?」

 ルイスはユウキと違って引き締まった筋肉が凛々しいというか、ともかく鍛えられた筋肉は中々ガッチリしている。
ユウキも見た目は華奢で腕っぷしはあまり無さそうだが、実際はスポーツをずっとやってきて引き締まった体、結構な体だ。しかしルイスは更にそれに筋肉が多めに追加されている。
故に、顔は美人だがかなり引き締まって強そうな腕やガッチリした肩幅が見え、バランスが悪い。
要は全体を見るとなんとも言えない微妙な姿。
顔は良いが、体がなぁ……不釣り合いだ。
アーニャはそれを気にしていたらしく、容赦無くそう言い放つミラに止めてと頼んでいるが、俺は分かる。
きっと止まらない。
 なお、ルイスの質問はもう流されている。
ルイスには発言力など皆無に等しい物なのだ。

「ど〜してこんなのしたの〜? フィーネみたいのにすればい〜のに」
「実はですね……」
「おい、俺は無視か!?」

 ルイス、お前には発言権が無い。
いくら言っても流されるぞ。
アーニャが何事かをゴニョゴニョとミラに耳打ちする。
勿論少し離れた場所にいる俺もルイスも聞き取れない。
なんですかねっと不思議そうに訊いてくるルイスだが、十中八九お前の事だ。
さぁなと適当にあしらって、ルイスの横に座ってご満悦そうな金髪の少女、ラルに何の作戦か訊いてみる事にする。

「……おい、アーニャの奴は一体何を狙ってるんだ?」
「うぇ!? て、テセウス先輩じゃないですか、ビックリした! え? 作戦ですか? ルイス君を女の子と間違えた事にして、クリスマスの勢いそのままにバスルームへ連行するんです」
「……犯罪じゃないか? っていうか流石のルイスもそれには気付くんじゃ」
「大丈夫です。ルイス君は結構周りの雰囲気に流されやすいので、雰囲気さえ作れれば成功します」

 何胸張ってそんなダメな事言うんだ、こいつは。
それは道徳的に間違ってはしないか?
無理矢理バスルームへ連行って、なぁ?
流石のルイスも逃げるだろうし気付くだろう。
雰囲気に流されても、なんか命の危険を感じで逃げると思うぞ、俺は。
目が既に怖いからな。

「で〜、今年は誰がゲットしたの〜? ルイス君のダンス相手〜」
「去年はラルだったよな、壮絶な死闘の末」

 去年は荒れた。
入学早々に自分の意思とか何の関係も無くハーレムを作り上げたルイス。
クリスマスのダンスパーティーなんて聞いたらもう、戦争が勃発した。
学院内は通常、魔術行使禁止。
なのに何故か十二月、クリスマスが近付く毎に廊下で色々と魔術が飛び交うは、薬品が飛び交うはの大騒ぎ。
今年は教授達が目を光らせて巡回していた程だ。
 しかし今年は何故か、そんな戦争が起きなかった。
普通に考えてあり得ない。
奇跡? そんな筈はない。
もし奇跡なら度合い的に死者が甦るぐらい奇跡だ。
あり得ないって事の比喩だ。
甦らんぞ死者は。

「フフッ、それはですね――」
「三人で同盟組〜んだ、ってとこかな〜?」
「……知ってるのになんでわざわざこの話振ったんです?」
「あらら〜図星〜?」

 このミラとかいう破天荒娘は妙に鋭かったりする。
変な時にその鋭さが発揮され、大した役にはならないのだが、やはり戦闘スタイルが原因なんだろうか?
口調が変化したりするしな。
 アーニャが知ってたんですか? とミラを見るが、残念、こいつのこういう発言は基本的に信憑性、確信性はゼロだ。
要するに当てずっぽう。
本人の感覚は、当てちゃった、あたし凄っ! 的な感じだろう。
無論知らなかったに決まってる。

「……同盟か。確かにそれなら三人は安泰だな」

 三人結束すればたとえルイス狙いの女子の群れとて跳ね返せるだろう。
それが最優秀班であり、己の努力の成果でもある。
……出来ればこんなとこで成果を見せてほしくはなかったが。
もっと発揮すべき場所とかタイミングはある気がするんだがなぁ。

「去年がラル。今年がルナ。来年が私と計画を立てています」
「フフッ、ボクが今年♪」
「……成程な」

 口では適当に返すが、内心では舌を巻く。
……アーニャ、策士め。
最後の年のクリスマスに賭けてやがる、こいつ。
それまでの二年間で二人が、ましてや他の女子がルイスを落とす事など先ず不可能と判断したな。
そして学院生活最後のクリスマスのダンスのペアになり、なんだか良い雰囲気に持っていき、既成事実を作る気だ。
それに最後のクリスマスまでにルイスとアーニャがそんな関係なら、このイベントは最高の思い出作りの場となって、どう転んでもアーニャの勝ちか。
逃げろルイス、逃げろ!

「ごめんねアーニャ〜、最後なんて不憫ね」
「えっと、ごめんなさいアーニャちゃん。私が貰います」
「フッ、精々頑張れば?」
「ふ〜ん。策士だね〜アーニャちゃん」
「「策士!?」」
「……ミラ先輩?」
「え〜だってほら〜、のわわっ!?」
「失礼した」

 場を乱すな。
自分達でアーニャの計画に気付かせろ。
フェアにいけフェアに。
先輩おまえが全てバラしてどうする?
パニック起きるぞ。
っていうかお前、アーニャの作戦に気付いてたんだな。それは凄いぞ、お前的には。
普段はのほほんとしてるのに、意外と頭がキレるじゃないか。
 ラルとルナ、アーニャ最大のライバルは「策士」という言葉に敏感に反応するが、なんか場がヤバそうなので俺が無理矢理終止符を打つ。
これ以上拗れたら俺も、そして何よりルイスも保たない。
いや、ルイスに自覚は無いだろうが。
気が付いたらやられてる最悪のパターンだ。
勝手になんかに巻き込まれて、気が付いたらそこら辺でくたばってるパターンだ。
それは色々と困る。
後処理とか後始末とか。
大体同じか。
 ともかくアーニャの策が露呈して騒ぎになるのはマズイ。
アーニャとルイスのペアが一番良いとは思ってないが、というかそこら辺はよく分からんが、騒ぎになるのはダメだ。
このお喋りお転婆グルグル娘を引っ付かんで、挨拶そこそこに立ち退かしていただく。
後ろからの喧騒は聞こえない事にする。
どの辺がグルグル?
脳内に決まってる。

「テ〜セ〜ウ〜ス〜、な〜んで強制撤退なの〜?」
「ハァ……先ず元々ルイス達がお前の本当の取材目的じゃない。次にお前があれ以上喋ったら事態の収拾がつかなくなる。最後に、強制じゃない自主撤退だ」

 二つの理由と一つの訂正を懇切丁寧に教えてやると、ミラはそこでやっと自分の目的を思い出したのかおぉと手を打ち納得する。
……こいつを丸め込むのに慣れた俺は、不憫な気がするな。
常に損な役回りだ。
いや、たまには良い時もあるか。
九対一で損な役回りに訂正しておく。
どっちにせよ殆ど損。

「で、教授達の方に行くんだろ? 早くしてくれよ、俺にも一応仕事があるからな」
「仕事? なぁ〜に? テセウスにそんなのあったっけ〜?」
「エドワード教授に頼まれた事だ」
「あぁ〜、パシりか〜」
「……喧しい」

 本日ロンドン市街にいる家族サービスの為欠席のエドワード教授。
毎年の事なので今更驚きも何も無い。
次の授業は教授の愛娘と愛する妻のクリスマス思い出話で潰れたな。
また写真見せびらかしてくるよあの人。
奥さん美人だからちょっと羨ましいし。
 そんな愛妻家且つ親バカなエドワード教授に頼まれた事。
去年も頼まれたからミラは分かる。
パシりと一言イラッとくる言葉で片付けられた。
パシりじゃねぇよ。

「……に、しても教授達の席に近付くにつれて周りの喧騒がでかくなるのは何故だ?」
「あ〜、あれじゃないかな〜?」

 ミラの視線の先には学長とユリア教授が何やら言い争っている……とまでは行かないが、何やらもめているのは間違いない。
ユリア教授が箒を持っている辺り、大体察しがつくが。
もう一つ。
ジュエリー教授と連盟の江原さん。
こっちは確実に言い争っている。
面倒そうなので学長の方へ行くこと決定だ。
おいミラ、そんなキラキラした目でジュエリー教授と江原さんを見るんじゃねぇ。
絶対寄るなよ、面倒だから。巻き込まれてなんかよく分からん事態になるから寄るなよ。

「だから、その箒で二人一緒に飛ぶの!」
「無理ですよ! 箒は一人乗りが原則です!」

 何やらもめてる二人。
片や学院の最高権力者、片や普通の教授。
よくユリア教授はあんな態度貫けれるな。
普通教授ならもう少し穏やかにいかないか?
っていうか、箒は一人乗りが原則って初めて知った。
そんな規則あったか?
いや、魔女秘術ウィッチズスキル使えないからよく知らないが、そんな法律みたいな物があるとは驚きだ。
車やバイク同様、箒にも制限速度があったりするのか?
……連盟なら冗談抜きでしてそうだな。

「ならばその原則ルール、敢えて破ろう!」
「教育機関の最高責任者が何言ってんですか!?」

 ……やっぱこっちとも関わりたくない。
元々学長は教育者としてはどうかと思うような発言、行動、ついでに外見をしている。
外見はともかく、発言と行動は考え物だ。
なんで原則を敢えて破るんだよ?
おいミラ、何ウンウン頷いてる?
学長がああ言ってるからって破るなよ、原則。

「ぶ〜、ユリアちゃんのケチ! いいじゃん二人乗りぐらい」
「よくない! 箒折れるかもしれませんし、落ちて生徒が怪我したら大変でしょう!?」
「おぉ、生徒を新薬の被験体にするユリアちゃんの口からそんな言葉が出るとは!?」
「安全は事前に保証しています!」

 ユリア教授、論点はそこじゃない気がする。
問題の有無はそこじゃない。被験体にしてる時点で色々教育者としてアウトだろう。
……なんなんだこの二人。
本当に教育者か?
しかも片方は最高責任者だぞ?
大丈夫なのか学院?
上手いこと機能してるのか?
副学長辺りに面倒事全部丸投げしてそうな。

「ねぇミラちゃん、二人乗りは別に問題無いわよね!?」
「は〜い、あたし的には全然問題無いと思いま〜す」
「はい、多数決で決定」
「ちょっ……!? ズルいっ!?」

 なんたる無茶振り。
しかもそれにしっかり反応するミラもミラだ。
こいつは学長と仲が良いし、以心伝心でも出来るのか?
即答だったぞ。
っていうか学長、俺らに気付いていたんだな。
流石というか、なんというか。
侮れん。
 いきなりミラ参入の多数決で二人乗り決定。
ユリア教授は俺を見るが、悪いが巻き込まれたくない。
気付かない振りして辺りを見回す。
教授の腕前なら二人一緒に飛んでも問題無いです、はい。

「テセウス君はどう思――」
「はぁ〜い時間だよ! ほら飛んで! 飛べ! 減給するよ?」
「――ぐっ……それだけは……悪魔め!」

 減給。
ユリア教授が最も恐れ、最も嫌いな言葉。
この見た目ちびっこな人は、ちびっこだが学長だ。
教授達の給料の分配操作はお手の物。
最終手段としてここにきて出してきたか、学長。
相当二人乗りがしたいらしい。
ミラがニコニコしながら一眼レフで連写。
カシャカシャカシャカシャと乾いたシャッター音が響く。
……気まずいぞミラ。
あとユリア教授。
一応相手学長なんで、悪魔はどうかと思います。
 しゃあなしで結局二人が乗り、非常に危なかっしくあっちへフラフラこっちへフラフラしながら上に上がっていく。
ゴーゴーとノリノリな学長に対して、ユリア教授は既に表情に余裕は無い。
あれだけ飛ぶの渋ってたんだ、当たり前か。

「飛ぶんだな、一応」
「だね〜」

 暗くなった大広間。
その天井付近までいつ墜落するか怪しいぐらいふらつきながら箒が飛ぶ。
バンッと照明に当てられて、二人の姿が暗闇に浮かぶ。
光が当たった瞬間ユリア教授が箒をフラフラさせるのを止めたのは意地か。

「レディース――!」

 学長の声が大広間に響く。
ついでにユリア教授の必死な訴えも。
……何上まで行ってコントしてんだあの二人?
ミラの一眼レフが光る。
格好の獲物だ、可哀想に。
ユリア教授、その必死な顔ドアップで撮られてますよ。

「……大体なんであんた、女装に私の服なのよ!? 神経おかしいんじゃない!?」
「買いに行ったら変な目で見られる。作ってって頼む相手もいない。なら、お前から借りるしかないだろうが。そもそもお前のそのジャケット、俺の」

 辺りが暗く、上で学長が話してるからか小声でのやり取りだが、十分聞こえる。
ピコンと反応して話し声の方を見るミラ。
間違いなくミラの『なんか面白そうなレーダー』に引っ掛かったな、うん。
……関わりたくねぇ。
 何か言い争っているのは、そういえば学長とユリア教授のやり取りに微妙に絡む前から口論してたのが見えた、関わりたくなかったジュエリー教授と江原教授。
学院一の凸凹コンビと名高い二人。
二人共ここのOBだそうだ。

「なっ……いいじゃない私がタケシの服着ても!」
「女は自分のデニムとかで男っぽく見せれるだろ? わざわざ俺の物着なくてもなぁ。それこそお前、あのときよく着てたスーツ着て男装って言い張ればいいじゃんか」

 ……ジュエリー教授、普段エハラさんの事ミスター・エハラって呼んでなかったか?
なんで下の名前になってんだ?
しかも服を勝手に取って着る仲なのか?
……付き合ってる?

「ジュエリー教授はね〜、エハラさんと同期で同じ班だったんだよ〜。それに〜、ジュエリー教授は去年まで連盟に所属してたから〜、卒業後もず〜〜っと一緒だったわけ〜。運命だよね〜」
「……なんでそんな話知ってる?」

 またこいつは……
一体どこからそんな情報仕入れてくるんだ?
初めて知ったぞ教授達二人の過去。
地獄耳というか、意味分からん情報網だな。
 ……ともかく、学院の同期で同じ班。
それなら仲が良いのは分かる。
が、なんで普段は他人行儀なんだ?

「因みにね〜、学院の生徒だった時から二人は付き合ってるって噂だよ〜。普段はジュエリー教授が恥ずかしいのと付き合ってないって意味で他人行儀にしてるんだけどね〜」
「どこ情報だよ……」
「学長〜!」

 またか!?
また学長からかミラ!
いいのか?
いいのかそんなプライバシー的な事訊いて?
っていうか学長、他人の事勝手に喋り過ぎだ。
ダメだろ、それは!

「因みに二人は付き合ってはないよ〜。ただ素直じゃないけどジュエリー教授はエハラさんの事――」
「ミス・フィオーレさん? 私がタケシの事をどうしたって?」
「教授、今エハラさんの事ミスター・エハラって呼んでないですね〜」
「……茶化すな! すみません教授、こいつは俺がどうにかしますんで!」

 ジュエリー教授乱入。
この人も大概だ。
なんでエハラさんと口論してたのに俺とミラの会話をしっかり聞き取ってんだ?
敏感過ぎる。
それが余計ミラが言いたかった事の『素直じゃないけど』ってとこを助長してるのは気が付かないのか。
そしてミラ、茶化すな。
ジュエリー教授がさっきのユリア教授に負けず劣らずイライラしてるの分かってるだろ?
怒ったら怖いってもっぱらの噂なんだぞジュエリー教授は。
 本日これで二度目の挨拶そこそこに退散という手を使わせてもらう。
未だ眼光鋭いジュエリー教授は成程確かに噂通り怖そうだ。
お叱りは遠慮したい。

「む〜、二度目〜」
「全責任お前だ」

 ……あ、副学長が立ち上がった。ディナータイム宣言か?
これなら別にナイゼルさんに頼んだ意味無いな。
今から席に戻って飯だ。
もう良いだろう、ミラのクリスマスイブでのおふざけは。
シンが一人寂しく席で待ってるだろうしな。

「さて男子諸君、女子をしっかりエスコートしてあげなさい」

 パチンと指を鳴らせば楽器を持った機械人形オートマタの皆さんがやって来て、宙に浮く。
毎年恒例行事だからそこは驚かない。
驚かないが、別のとこで驚いた。
……ディナー終わってるし!?
まさか!?
学院生活最後のクリスマスディナーを食い損ねた!?
前言撤回、良かったナイゼルさんに頼んでて!

「うぅ……なんであんなに皆のリアクション薄いのよぅ……」

 なんか学長いじけてるし。
何をした?
挨拶で一体何をした?
ガンガン酒飲んで、隣に空きビンの山が……
アル中で死にますよ?

「……って、ヤバッ!? エドワード教授に頼まれてた事!」
「や〜いテセウス遅刻〜」
「喧しい! 遅刻じゃねぇし!」

 別に授業じゃねぇよ!
でもマズイ。
ミラをその場に置き去りにして一気に走る……素振りを見せる。

「あ〜!? ちょっと〜今年はあたしに作業見せてくれるんじゃなかったの〜!? 置いてくな〜!」
「分かってる! 分かってるから早く来い!」

 ちくしょう少し計画が狂った。
飯食い損ねたのは一応、不本意ながら想定内だがこれは違う。
遅れるのも困るし、せっかくエドワード教授にも頼んだんだ、しくじるのはいただけない。
 急いでミラを引き連れ大広間の端まで突っ走り、フラスコを一つ取り出して中身をぶちまける。
すると淡い水色の液体が飛び散り、空中で纏まり、一匹の海月くらげを象った。
で、そこに飛び乗る。
 俺に続いてミラが飛び乗ると海月はフワリフワリと動きながら上へと昇る。
錬金術によるエレベーター、そんな感じだ。

「こ〜んな上に仕掛けてあるんだね〜」
「上になきゃ意味ねぇだろ?」

 下では曲に合わせてステップを踏む二人組カップルが多数見える。
意気揚々にルイスと踊るルナとか。
ただ、ミラはそんなもの興味は無さそうだが。
ただ上を見つめてのんびりと次に起こる事を待ってるだけ。

「ほらあれだ」
「予想よりもちっさいね〜。あんなので足りるの〜?」
「足りる。錬金術舐めんなよ」

 ミラの視線の先には小さな、って事もない、標準的なサイズの三角フラスコが一つ浮いている。
あれが俺の目標物。
あれに仕掛けがある。
 フワフワと上に昇っていた海月がフラスコの少し下で止まり、ちょうど俺の胸元にフラスコの口がある高さになる。
フラスコの中では白い何かがグルグル渦を巻いて、ミニチュアの台風の様にも見える。
念のため、台風じゃないからな。

「ふ〜ん、こんなのが『雪』になるんだ〜」
「『雪』じゃない。雪降らせたら寒いし積もるからな。雪の結晶の形をした、云わば『雪みたいな霊的物質アストラル』を降らせる」

 俺が二年連続で、正確には今年は元々アーニャがやる予定だったところを俺が頼み込んで今年もする事にした仕事。
それは学院のクリスマスイヴ恒例、『雪の舞踏会』の雪を降らせる仕事。
こんな小さな三角フラスコからかなりの量の『雪』を降らせる。

「ふ〜ん」
「やっぱりあまり興味無いな」
「いや〜、その霊的物質アストラルには興味あるよ〜。ただあたし――」
「クリスマスは好きじゃないってか? そんな事知ってる」

 鳥好きな人も、全ての鳥が好きというわけでは基本無い。
かの『昆虫記』で有名なファーブルも蛙は嫌いで、庭で煩かった蛙を黙らせる為にショットガンをぶっぱなしたらしいし。
故に祭好きなミラとて全ての祭が好きなわけではない。
世界には謎な祭、それこそスペインのトマト投げ祭とか勿体無くてよく分からん祭とかもあるのだし、当たり前だ。
……ミラ曰くトマト投げ祭は好きだそうだが。
流石イタリア人というところか。
ともかく、ミラにだってあまり好きじゃない祭はある。
それがたまたま『クリスマス』なだけだ。
 イタリアのクリスマスはカトリックの色合いが強く、イヴから一月六日まで続く。
ミラの操る魔術、カバラはキリスト教の前身たるユダヤ教の側面が多く、クリスマスは普通に家庭的な事も執り行う。
ただ、ヨーロッパの一部ではクリスマスプレゼントは一年ずっと良い子にした子にしかあげないという文化がある。
代わりに石炭をあげる。
大概の家はそんな事しないが、元々クリスマスは魔術的な行事。
魔術組織の長たるミラの両親はしっかりとその文化通り執り行うらしい。
ミラは『良い子』。
親しく接すれば分かるし、親も分かっているだろう。
ただ、普段の素行が必ずしも良いとは、悪いが言えない。
派手好きで色々な騒ぎをよき起こすミラを一年ずっと『良い子』で過ごせましたねとは言い難い。
だからマジでミラは毎年石炭貰ってたそうだ。
ある意味豪華でプレゼントよりも値が張りそうな気もするが、はっきり言えば石炭なんぞ女の子が欲しがる物ではない。
そしてそんなのが毎年続けば流石のミラでもクリスマスに良いイメージは持てないだろう。
なんせ要らない石炭貰う日というか、期間なんだから。
 そんな経緯もあってか、この脳内グルグル娘は学院に来てもクリスマスイヴのパーティーのみノリが悪い。
この二年間は普通にプレゼントを貰ってはいるが、それで今までの十数年間のイメージは払拭出来ない。
事実一年の時は普通にプレゼント貰って異常なまでに喜んでた。
初めて貰ったと。
ただ家に、組織に戻るとまた石炭だ。
喜べるのは三年間のみ。
虚しさも同時に感じていたのだろう。
言動では強がって笑ったりしているが。
この二年間はミラにしてはあり得ないが、ダンスに参加していない。
ノリ気が起こらないのだろう。
虚しいし。
 ……だがらこそ、今年、学院生活最後の年ぐらいはその気分を吹き飛ばすぐらい楽しませてやろう。

「だがな……今年は学院最後の年だ。最後のクリスマスぐらい、楽しめ。別にクリスマスを好きになれとは言わん、今までが今までだからな。ただ、お前が好きな盛大でド派手で豪華なパーティーと思えばそれでいい」

 一本の試験管を取り出し、三角フラスコの中に試験管の中身を注ぐ。
ボンッと小さな爆発が起き、フラスコの口から大量の白い何かが吹き出し、ヒラヒラと揺れながら下に落ちていく。
しかもこの白い物。
落ちていく途中で光を反射して上から見ると虹色に見える。
薄い水色の海月は半透明。
下を見るとまさに虹色一色だ。
 驚いてポカーンとするミラ。
中々見れない表情だ。
ミラの持ってるその一眼レフで撮ってやりたいぐらいレアな表情。
笑いが込み上げる。

「ノリの悪いお前を見てるとなんか調子が狂ってな。どうせ今年もダンスをボケーッと眺めて終わる気だっただろ? お前らしくもない」

 眼下に広がる虹色の景色。
未だにポカーンとしているミラ。
……なんか返事しろよ。
寂しいじゃねぇか。

「おい、聞いてるか?」
「!」

 今までの全部スルーされてたら流石に格好がつかない。
なんか負けた気もするが、取り敢えず訊いてみると、ミラはハッとしてブンブン首を縦に振る。
……ミラらしくないな。
面白いが。

「聞いてるならいい。……さて、派手にやれと言ったが学院ここのクリスマスパーティーはやる事限られてるからな。二年越しに誘うとするか。ミラ――」
「この〜この〜、粋なテセウスめ〜!」
「――おぉっ!? 馬鹿、急に飛び付くな! 足場あんまねぇんだよ。……って、おぉぉっ!?」

 せっかくダンスに誘おうとしたら、急にミラが飛び付いてきた。
……これでこそいつものミラだが、場を考えろ。
ちっさい海月の上だぞ。
いきなり飛び付いてきたら後ろに倒れて落ちる……
って、既に落下中か!?
おいこらミラ、何笑ってんだ!?
落ちてるんだぞ!?

「だいじょ〜ぶだよ〜!」
「ぬおっ!?」

 虹色の雪、と言っても上から見ないと虹色には見えず、普通に下から見上げたら白なんだが、ともかくまだ虹色に見える雪と共に仲良く落下。
だが笑いながらミラが何かを取り出し下に投げ付ける。
すると何故か落下スピードが減速した。

「にひひ〜、テセウスにダンス誘われちゃった〜。初めてだよ〜男の子にダンス誘われるの〜。気分良いものだね〜」
「……途中で終わったがな。それよりお前、ダンス出来るのか?」
「余裕〜!」
 この程度の落下スピードなら普通に着地しても問題無い。
多分クリスマスでこんな笑顔を見せるミラは初めてだろう。
カラカラと楽しそうに笑いながら言ってくる。
……ちょっと恥ずかしいのは秘密だ。
ダンスが出来ないという心配も杞憂に終わったし、これで全て問題無いだろう。

「飯食い損ねたからな。部屋帰っても盛大に飲んで食って騒ぐか。ディアナとシンもどうせ俺らがいないから遠慮してあんま食ってないだろうからな」
「あ、セイラちゃんユウキ君と組んでるよ〜。きっとエリーちゃん傷心状態だろ〜ね〜。エリーちゃんも誘お〜!」
「奥手な二人がよく組んだものだ。だが、悪いが今日の主役は俺らがいただくぞ!」
「最高学年だしね〜!」

 ストンと慣れた感じで着地する。
あの程度の落下スピード、これまでの呪力災害で色々とあったし、主にミラのせいだが、着地には慣れている。
何事も無かったかの様に、いきなり上から雪と一緒に降ってきた俺らに驚いてる周りを無視して手を取って曲に合わせてステップを踏み出す。
虹色の雪もここにくればただの白い普通の雪だ。

「それにしてもテセウス〜、去年もあんなに綺麗な光景見てたの〜? ズル〜い」

 口を尖らせてミラが言う。
拗ねてるな。
そりゃ、あの雪を作った自分が、まぁエドワード教授にも手伝ってもらったが、言うのもなんだが綺麗だった。

「……今年が初めてだし、最後だよ」

 まさかミラ《こいつ》の為とは言えないし、エドワード教授に頼み込んで作ったとも言えない。
初めての試み且つ、俺と同じ発想の奴が出てこない限り最後の試みになるとも正面切って言うのは恥ずかしい。
ボソッと呟く様に、そっぽを向いて言うしかなかった。
 本日五月二十二日をもって、一周年の『精霊の瞳』です。
なので敢えて今日まで更新止めてみました。
……いやぁ〜、一年って早い!
全然進んでないよ話。
こんな未熟でダメな私、作者の神威と今作ですが、これからもよろしくお願いします。

 尚、一周年だからって何も企画はありません。
強いて言えば、前回の後書きにも書きましたが、『悪役Aさん』さん募集中です。
えぇ、強いです。犯人の一人です。
なんか良いキャラ思い付いたらドンドン送って来てもらえれば幸いです。
感想もまた、送っていただければ幸いです。

 それでは!
次回からやっとクリスマスじゃなくなる!
……のか?
あれ、次話はクリスマスでは無いが、なんか抜けきってないような?
まぁいいや。
明後日しあさってぐらいに更新予定です。
早まるかもです。


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