現在のアレン達の状況。
「いいですか、今日はルイス様の魅力その82! それは――」
「……まだか!? ユウキ達はまだなのか!?」
「まだ大して日にち経ってないわよ。それよりもよくこの短期間でルイス先輩の魅力を81個語ったわねサーヤさん」
「感心するなよ!?」
「……眠いです」
「フィーリア、寝ちゃダメよ。サーヤさんに何されるか分からないわ」
NO,62: The serpents
夕暮れの薄暗い林の中、木々が開けた広場が一つ。
そこでガヤガヤとローブだのスーツだのに身を包んだ人達が何かを広場の四隅に突き刺している。
見たこと無い文字が刻まれているから、その実際の用途は分からない。
が、なんとなくだけどここに結界を張る為の物だと俺は思う。
だって今から決戦するんだしね。
結界無かったら周りの人危ないし。
俺が魔神の攻撃を避けたら後ろにいた人にドーンってのは嫌だ。
「いつに無くやる気がある顔ですね悠輝様」
「……それ、褒めてるの?」
なんか勝手にどんどんと周りが準備を進める中、俺を除けば唯一のレメティアとは全く何も関係無いフィーネさんが話し掛けてきた。
何も関係が無いから、暇なんだろうね。
っていうかその言葉は俺をおちょくっているのかな?
そう受け取っても仕方ないよ、フィーネさん。
……いや、まぁフィーネさんの言ってる事は正しいんだけどね。
自分で言うのもあれだけど、多分今までで一番やる気があるよ。魔術関係では。
こんな事言ったらセイラとかミュウさんに叱られそうだ、よって黙っておくとする。
「怪我しないで下さいよ、私は悠輝様の武勇を見た事が無いので心配です」
「……言ってくれるね。確かにそうだけどさ」
「なんせ私がいなかったら悠輝様は既に亡き人となっていましたし」
「……それについてはホント、感謝の気持ちでいっぱいです」
「冗談です」
あんまり思い出したくない事をフィーネさんはサラリと冗談のネタにする。
強いというか、実際どう思ってるのか分からなくて怖い。
フィーネさんはフフフと笑って広場の端、殆ど林の中と変わらない場所へと歩いて行った。
準備が出来たのだ。
「後は私が合図をしたら結界が張られて完了ね。あぁそうだ、これは入信儀礼だから最初の誓いは要らないから」
唯一広場の真ん中に立っているレイラさんがそう言って、同じように端へと歩き始めた。
たまにはっちゃけたりしてるけど、やっぱり首領なんだね、様になってるよ。
「……面倒だからさっさと片付けなさい。死なない程度に痛め付けても構わないわ」
「……えっと……はい?」
俺の横を通り過ぎる時にそんな言葉を囁いてきた。
……まてまてそれは首領の言葉なの?
大事な徒弟でしょ?
死なない程度に痛め付けても構わないって何さ?
あまりにも予想外過ぎる言葉を掛けられ固まる俺。
当たり前だ、殺さなかったらオッケーって言われたんだよ? そりゃ戸惑うでしょう?
確かになんかあの人ずっと俺の事見下した感じだけどさ、痛め付けるって……
生憎そんな覚悟なんて持ってないです。
「では始め!」
「……ちょっとぉ!?」
なんの前触れも無くいきなりですか?
いや、前触れはあったか?
まぁいいや。ともかく、急でしょ!
あんな言葉掛けた後直ぐって何さ!?
焦る、戸惑う、なんか躊躇するの戦闘に於いてダメな三拍子が見事に揃ったじゃんか!
相手のジダンだったか次男だったか忘れたけど、取り敢えず徒弟Aは素早く宙に五芒星を描いた。
セイラので見知っている術、火星の護符だ。
身体能力を底上げして常人離れな動きを可能にする魔術。
「……火星の一の護符!」
五芒星を描くスピードは素早いと言っても、セイラよりも遥かに劣る。
運良く俺は描き始めに気付いたから、どうとでも対処は出来る。
兵は拙速を貴ぶ。
相手は底上げした身体能力、要するに脚力に物言わせて一気に攻めて来るに違いない。
事実セイラの戦法の一つであるし、あの早さで懐に潜り込まれたらたまったもんじゃない。
こっちも負けじと五芒星を描き、その頂点から札を地面に向かって放つ。
「金剛針山!」
札が地面に張り付くと、そこから辺り一体の地面から大量の針が突き出てくる。針と言っても結構太いよ、杭みたいな感じだ。
これじゃあ地面を走って攻めて来るのは無理だ。
俺に辿り着く前に足の裏は穴だらけ、我ながら中々酷い事をする。
でも、相手の機動力を削ぐのが戦いの基本だ。
「残念だったなオンミョージ!」
「おぉ!?」
ダンッと跳躍、地面に群がる針山を飛び越えてこっちに跳んでくる。
成程、確かにあれだけ早く動けるならこれだけ高く跳べても不思議じゃない。
……でも甘いね。
「發!」
「――!?」
足で地面に五芒星を書いてダンッとそれを踏み、叫ぶ。
すると地面に群がっていた針山が一斉に相手に向かって飛んでいく。
空中にいるっていう事は、それ以上体勢は変えられないのと等しい。
宙に浮かぶ的と言っても構わない。
別に相手は悟空みたいに武空術を使えるわけでも無いし、火星の護符は空を蹴って自由に空中を駆け回れる様になる術でもない。
要するに回避不可能。
串刺しになれこの野郎!
……ってしまった!?
今まで相手したのが禁忌だの切り裂きジャックだの落武者だの、全部人外だったから気づくのが遅れた。
今回の相手は人だ!
前言撤回、串刺しにならないで!
「……あれっ!?」
どうやらその心配は杞憂に終わりそうだ。
真っ先に命中した針数本が徒弟をすり抜けて向こう側へと飛んでいく。
それに続き、次々と針は相手をすり抜けていき、向こう側に張られた結界にぶち当たって消える。
幻か!?
「甘いのはそっちだオンミョージ!」
「――うわっ!?」
針が串刺しにしようとしたのは幻影。無論実体なんてないから全部すり抜けて結界へと飛んでいったわけ。
で、その隙に迂回して針の無い場所を通り、今まさに俺の顔面に拳を叩き込もうとしてるわけ。
普通ここまで懐に入られたなら確実にぶっ飛ばされると思うけど、咄嗟に体を捻るとあっさり躱せた。
「……チッ!」
更なる追撃は御免だから、無理矢理な体勢からでも一応牽制として正拳突きをプレゼント。
あっさり躱されたけど追撃はせずに後ろに飛び退いてくれたからオッケーだ。
「……踏み込みが甘かったか……」
チッと残念そうに言葉吐き捨てる徒弟さんだが、それは違う。
別に踏み込みが甘かったわけでもなく、まぐれでも無い。
今までの動きを見るに、同じ火星の一の護符でもセイラとこの人じゃ全然強化されている度合いが違う事が分かった。
同じ術でも力量次第で全然違うという事だ。
セイラのはもっと早い。
ついでに普段俺の周りにいる人達よりも遅い。
アレンやミュウさん、フィーネさんは勿論、戦闘をあまり見た事が無いけど、ミラ先輩なんかの方がずっと早いし動きにキレがある。
動きのキレだけで言えば、神戸の大宮さんと仁さんの超人カップルの方が上手とも思う。
この場合あっちが凄いのかこっちがヘボいのかよく分からないけどね……
「ボーッとするなよオンミョージ!」
それでも早い事には変わり無いんだけどね。
林の中の広場だからか、地面に落ちてる大量の枯れ葉を巻き上げながら走ってくる。
……うん、やっぱりなんだかんだで早い。
世界記録樹立は間違いないね。
それとボーッとしてたわけじゃない、あんたの動きについて考えただけだ。
「よっと……」
「――!」
俺は柔道を変態じいちゃんに叩き込まれ、日本にいた時は部活動としてもやっていた。
まぁ柔道以外も色々させられたけど。
……ともかく、ちっさい頃から叩き込まれてたからか同級では相手になる奴がいなかった。
なので中学時代は無差別級、体重四十と五十の狭間という軽量な俺に対して相手は六十越えがザラにいた。
それでもある程度の結果は残したから、一応柔道は強い方に入る。
で、そんな俺だからか何故か不良の皆さんによく目をつけられた。
特に何もしてないのに色々と喧嘩を吹っ掛けられた事もある。
基本は逃げだがどうしようも無いときだけ戦った。
……で、全勝。
柔道の教えは『柔能く剛を制す』
要するに体の小さい者がガタイマックスな巨漢をぶん投げたりぶっ飛ばしたりする事だ。
相手の力を利用すれば、俺みたいな小柄な奴でも十分戦えるって事。
……それで本題。
側面から来た徒弟さんの右ストレートを受け流して体勢を崩す。
ついで右手で相手の襟首を握りしめ、左足を思いっきり前へ踏み出す。
これで相手自身の勢いのせいもあり、バランスは崩れて最早戻らない。
そこに右足を振り上げて相手の足を俺が刈る。
名を大外刈。
柔道の足技の大技だ。
下手したら後頭部強打で人を殺せる。
勿論徒弟さんには手加減をしたから問題無しだよ。
死なれたら俺が困る。
「――グアッ!?」
「詰みだね」
手加減しても痛いのは痛い。
なんせ背中から地面に叩き付けられてりからね。
肺から空気が全部抜け、苦悶の表情を浮かべる徒弟さんの顔面に拳をプレゼント。
寸止めだから殴ってはいないよ。
でも、これで勝負ありでしょ?
「……グッ!」
「……終わりでいいかな?」
そういえばこの人レメティアの徒弟なのに魔神喚ばなかったなぁ、なんて思ってホッとする。
あれと戦いたくは無い。
嫌だよ、あれは恐怖の塊だからね。
威圧感が半端じゃない。
でもそういえばセイラかミュウさんか、なんかそこら辺からレメティアで一人で魔神を喚べるのは上位階級だけって聞いた事がある。
そこから最も優秀な四人が選抜されて幹部、俗に言う四天星になると。
それにレイラさんもさっき『貴方、魔神を一人で喚べるのかしら?』的な事を言っていた気もする。
……という事は、最初からこれは護符魔術オンリーの相手だったという事か。
なんかラッキー。
「……ハッ! 油断するなよオンミョージ! 詰むのはまだ早い!」
「――ッ!?」
何か急に背筋がゾクッとしたから慌てて飛び退く。
……この人、なんか隠してる!
「俺は仮にもレメティアの徒弟だ。その意味、分かるよな?」
言いたい事は分かる。
要するに魔神が喚べるんだぜこの野郎、って事だと思う。
でも貴方一人で喚べないんじゃなかったかな?
ハッタリにしてはさっき背筋に走った寒気が気になって腑に落ちない。
何か一人で喚べる方法があるのかな?
止めて欲しいけどね。
ユラリと立ち上がり、徒弟さんはニヤリと笑った。
「さぁ来いポーディス! 六十の軍勢を従える聡き伯爵よ!」
自信満々、嫌味たっぷりな顔でポケットからソロモンの五芒星を引っ張り出し、それと同時に複雑過ぎて何がどんな図形だとか理解出来ない魔方陣の書かれた紙を五芒星に押さえ付ける。
そうして叫び、顕れたのは大蛇。
……いや、あれは蛇なのかな?
見た目は多分蛇だ。
手足が無いし長いしニョロニョロしてるし。
……だけど、蛇にしては異形過ぎやしないかな?
何あの頭の後ろらへんにあるトゲトゲは? 角?
蛇に角あったか?
しかも色が如何にも毒蛇みたいな紫だし……
「悪いな、今までのはウォーミングアップだ」
「言ってくれるね……」
不敵というか余裕というか、ともかく魔神を喚んで得意気な徒弟さん。
非常にイラつくけど、何も言えない。
一番心配してた魔神との戦闘になってしまったからだよ……
どうしようか?
普段セイラが隣にいたから魔神の凄さは嫌と言う程知っている。
もう滅茶苦茶、多対一でも余裕で切り抜ける力を持っている。しかもセイラ曰く、この子達は主戦級ではありませんとの事。
あの大蛇が主戦級かは知らない。ただどっちにせよおっかないのは変わり無い。
全世界の使い魔で最高位のソロモンの魔神。
……さて、ホントにどうしよう?
「……緊急喚起ね。あの子こんな時に使うなんて、後先考えない馬鹿じゃないの? どーせ敵わないんだから、自分の命を守る為の最終手段を今使うなんて無駄よ」
「それはちょっと言い過ぎだと思うよ姉さん」
結界の外から二人の戦闘を眺め、アホじゃないのとため息をつくレイラ。
さっきのあれで勝負は殆ど決まっていたのに、意地でも敗けたくないらしい。
最後の最後の緊急時に使う魔術を今使うか?
セイラは一応レイラを諫めるが、内心はレイラと同じである。
さっきの一合で勝負は決まっていた。
勿論悠輝の勝ちとして。
顔の目の前に拳を出されて止められたのだ、実戦なら死んでいる。
他の徒弟もそれは分かっているらしく、皆困った様な顔で結界の中を眺めている。
「……アージェンシー?」
「レメティアの中位以下の徒弟が使う最終手段です。あの魔方陣に長年溜めた呪力を使い、一時的に一人で魔神を喚起、使役する事が可能なんです」
唯一の部外者、フィーネにセイラが意味を伝える。
聡いフィーネは成程と直ぐに理解をし、セイラの方にスッと顔を向けた。
「……『一時的』なら、悠輝様には手っ取り早く片付けていただかないと困りますね。この場合は術者を叩くのが定石ですが、私の知る限り悠輝様の術は全て、魔術師とはいえ人に使うには強大過ぎます。……一体どう出るのでしょうね?」
「……分かりません」
セイラとフィーネが知る限り、悠輝の陰陽術は対人向けとは言えない。
全く全然欠片も言えない。
ならばどう出るか、大丈夫だと絶対の信頼を悠輝に置いているセイラだが、やはり心配。少しだけ前に乗り出す様に中を見つめる。
それをフィーネは優しい視線を一度送り、自分も再び中を見る。
ちょうど悠輝が動いた時であった。
「……ど〜しよかっな?」
未だに相手の大蛇はこっちに攻めて来ない。
という事は、こちらの出方に対応して動くという事だろう。
……厄介だ。
術を一発撃って大蛇を足止め、その隙に徒弟を殴り倒すのが一番だけど……
生憎徒弟さんは現在身体強化の魔術で早い。
セイラ達と比較したら遅いけど、何も強化されていないノーマルな俺と比べたらずっと早い。
殴り倒すプランはボツ。
じゃああの大蛇を倒すか?
……自分で言うのもあれだけど、無理だ。
魔神の売りは強さとタフさ、戦闘にはもってこいの使い魔だからね。
焼いても刺しても噛み付いてきそうだ。
……と、なると!
「……モモ!」
懐から一枚の紙を取り出し投げる。
すかさず印を組んで名前を呼ぶと、ポンッと音がしてちっこい虎が現れる。
船に虎は乗せられないのでずっと紙の状態で待機していたマイ・私族のモモだ。
私族、即ち式神。主とある程度意志疎通は出来る。俺の思いを上手い事汲み取ってくれたモモは姿を現したと同時に一気に走り出す。
「式神破軍!」
長ったらしい呪文を必死で早口に唱え、モモの分身を大量に使って突撃。
相手は魔神、そんなに足止め出来ないだろうけど、少しで十分だ。
これだけ足元にちっこい虎がうようよと群がってたらいくら身体強化していても動きは鈍る。
しかもこいつら噛み付いたり引っ掻いたりしてくるからね。
そこに拳を叩き込んで終わらせる!
「甘いっ!」
「――おわっ!?」
「うにゃ〜!?」
徒弟さんが嫌味ったらしく笑い、大蛇に何かを言う。
すると大蛇が尻尾を周りを薙ぐように一振り。
それだけ、たったそれだけで相手に突撃していたモモの集団の殆どがぶっ飛ばされて消える。
その分身の中に紛れてたオリジナルのモモをぶっ飛ばされ、鳴きながらこっちに飛んでくる。慌てて受け止めるが、これはヤバい。
計画変更、あの大蛇はヤバい。
尻尾だけじゃなくて、尻尾を振った時に出来る風圧でもぶっ飛ばされる事が判明した。誠によろしく無いです。
「ラァッ!」
「――っ!」
モモを受け止めた瞬間、ちょっとだけ隙が出来る。
それを狙って徒弟さん襲来、顔に向かって殴り掛かってくる。
咄嗟にしゃがんで避けたけど、さっきみたいにこっちがカウンターで攻撃してない、追撃として膝蹴りが目の前に迫る。
「おわっ!?」
無理な体勢から横に跳び、なんとか回避。
相手は身体強化されている。ただの蹴りでも一発食らえば骨の二三本はもってかれる。それは嫌だ。
少し間合は開いた。
取り敢えずモモの術を解いてモモを符に戻す。
抱えてたら邪魔なだけだからだ。
更に札を何枚か取り出し、牽制のつもりで徒弟、もうさん付け無しだ、に向かって放とうとする。
が、後ろから最悪なプレッシャーを感じ、慌てて真横に跳ぶ。
シャーッと蛇らしい鳴き声と共に俺が元いた場所にポーディスが食らい付く。
勿論完成にスカだが、ポーディスが突撃した地面は大きく抉れた。
……なんだあの蛇。
何かこの状況を打開出来る物が無いか?
今から攻撃系の術を放っても間に合わない。
撃つ前にポーディスに噛み殺される。
ヤバいヤバいと下を見ると、さっき俺が地面に描いた五芒星が目に入る。
これだ!
シャーッと不気味な声と共にこっちへ向かうポーディス。蛇のくせに早い。
「土行を以て我が敵を圧せよ!」
地面に描かれた五芒星に手をつき、必死で唱える。
するともう殆ど俺の目の前まで迫っていたポーディスの両側に土の壁が出来、ポーディスを挟み込む。
だが、この程度の術で魔神なんて抑えられない。
取り敢えず札を四方向に飛ばして俺の周りに結界を張る。
時間を稼いで対策考えよう。
身体強化してるとはいえこの結界は破れないだろ、徒弟は。
「……危なっ!」
さぁどうするかと考えようとした矢先、土の壁を破壊して飛び掛かってきたポーディスが結界に直撃。
なんとか結界は持ちこたえたけど、かなりヤバい。
後二回もつかどうか……
なんだよこの蛇!?
どんなパワー持ってるの!? 蛇なのに!
一回目の結界への突撃で破れなかったからか、悪い目付きで睨んでくるポーディス。
……蛇?
あ、俺もいるじゃん蛇の使い魔!
正直どうすれば勝てるのか全く検討がつかなかったけど、今一気に光明が差した。
懐から一枚の少し大きめの紙を取り出し、呪力を込めて結界の外へ投げつける。
紙は光り出し、やがて一瞬だが、この広場を光で呑み込む程輝いた。
「騰蛇!」
希望と期待を込めまくった声で名前を呼ぶ。
十二天将の一柱、騰蛇。
名前の通り蛇の姿で物凄くデカイ。
更に炎を纏ってるもんだから、喚んだ俺以外近付けないという滅茶苦茶な奴だ。
だが、膨大な光の中から現れたのは、そんな巨大で燃え盛っている蛇ではなかった。
「むぅ……先の桂馬をやはり動かさない方が良かったか……。ん? ここはどこだ?」
「……」
中から現れたのは真っ赤な髪に真っ赤な着物を着たゴツい男。
騰蛇、人間バージョンだった気がする。
しかも片手に将棋の駒みたいなの持ってるし。
……なんで十二天将は喚ぶ時喚ぶ時なんか気の抜ける事をしてるの?
羊羮食べてるとか将棋してるとか!
暇なの? 普段暇なのか十二天将!?
「……む、主ではないか。小生に何か用か?」
「……何してたの騰蛇?」
「大陰と将棋をしておった」
「……」
絶対普段暇なんだろうね、十二天将って。
っていうか、将棋ってどこでしてるんだろう?
どっか神様とかが住む世界でもあるのかな?
魔神は地獄から喚ぶらしいから、天国?
「ポーディス! 食らい付け!」
「……む?」
さっきの騰蛇が現れる時の光で若干固まっていた徒弟がポーディスに指示を飛ばし、騰蛇に向かわせる。
主である徒弟の指示は絶対、ポーディスは騰蛇の首に牙を剥いて飛び掛かる。
大陰がいつも無駄に誇っている十二天将、たとえ相手が魔神だろうがなんだろうが、しっかり対応……しなかった。
思いっきり首噛まれてますけど!?
大丈夫なの!?
「……む、敵か主?」
ポーディスに噛まれたまんま、涼しい顔して騰蛇がこっちを向いて訊いてきた。
よく見ると、ポーディスとかいう大蛇の牙は騰蛇の首を貫いてない。
……凄い皮膚が固いんだね。あれかな? 鋼皮? それはフィクションか。
取り敢えず敵かどうか訊かれたので敵だと頷く。
「……む、了解した」
大陰が騰蛇の事をノロマと言っていたが、確かに動きが遅いというかマイペースだ。
普通首筋に噛み付いてきたら俺に確認とらなくても敵だと判断するでしょ?
そんなマイペースな騰蛇。
俺が頷くのを見るや否やゆっくりと首筋に未だ噛み付いているポーディスの体に手を添えた。
「……むぅ、邪魔だ」
「!?」
騰蛇が手を添えたその瞬間、ポーディスの体が一気に炎に包まれ、文字通り灰と化した。
……あの魔神を瞬殺……
恐ろしき十二天将、これは誇ってもしょうがない。
こんなに強かったのか……騰蛇。
いや、強いのは知ってたけど、これ程までとはね。
だって俺、初めて騰蛇喚んだ時は呪力災害の核の浄化に必死で大して見てないから。騰蛇が何したかとかはさ。
「……な!? ……なっ!?」
「……うむ、本丸かの」
今まで顔に張り付いていた余裕な感じの表情が消し飛び、最早顔が真っ青な徒弟。
口をパクパクして言葉も何も出ない。
……そりゃそうか、自慢の魔神を一瞬で灰にされたんだもんね。
俺だって予想外だ。
騰蛇はゆっくりと徒弟の方へ歩き出す。
歩いた地面が焦げている……
徒弟は情けない声を出して後退るが、結界のせいでこれ以上後ろには下がれない。
……そろそろだね。
「騰蛇!」
「……む? 何用だ主よ?」
「もうお終いだからこっちに戻って!」
「……む、了承した」
マイペースに反転し、マイペースにこっちへ騰蛇がやってくる。
元の姿がデカイからか、人間バージョンもやっぱりデカイ。
俺が自然と見上げる姿勢になってしまう。
……ずっと見上げてたら首が痛くなりそうだ。
周りに張られていた結界が解け、今までずっと決戦を見ていた人達が集まってくる。
俺の相手をしていた徒弟、ジダンだったかそんな名前の人は腰を抜かしたのか、地面に膝をつけて動かない。
「凄いね騰蛇、一瞬で相手を焼いちゃって」
「……小生は何もしておりませぬ。相手が弱かっただけですな。魔神は術者の力に比例して力が上がりまする」
「そうなの?」
謙遜するがそれでも凄いだろう。
格好良かったよ、触っただけで相手が燃えて灰になる。
なんかの能力者みたいだ。
ボーッとしてる様で実は凄い奴、それが騰蛇なのかもしれない。
ワラワラと広場の中心に集まってくる徒弟達の中からレイラさん始めレメティア幹部がこっちにやってくる。
勿論セイラとフィーネさんも一緒だ。
「入信儀礼の結果発表……は要らないわよね。余裕で合格。ジダンには世界の広さを教えるつもりで決戦を許可したけど……差があり過ぎたわね」
広場の向こう側で他の徒弟達に肩を貸され、フラフラ立ち上がる俺の相手をした徒弟、もといジダンを見ながらため息をつくレイラさん。
見下してた相手に敗けるのはさぞ気分が悪いだろうね、仕方ないけど。
「……それにしても凄いわね、悠輝君の使い魔。ポーディスを一瞬で灰にするなんて」
「あれは俺も予想外でしたよ……」
「……む? 小生か?」
あれは完全に予想外だった。
騰蛇を喚べばなんとかなるだろうと思ってやったが、なんとかなるってレベルじゃない。
瞬殺って……
大陰が『火力は抜群』と言っていたが、成程確かに抜群だ。
テムズ川のあの時も思ったけど、改めて思う。
その話題の人……もとい話題の神様は至ってマイペース。自分の事を言われてるのに今一反応が無い。
「……主」
「何? どうかした?」
「……そろそろ戻っても良いだろうか? 大陰がきっとキレてまする」
「……そういえば将棋の最中だったんだよね。いいよ、もう大丈夫だから」
十二天将の普段って一体どんなのなのか不思議で仕方ないけど、騰蛇が心配している事、即ち大陰がキレて待っているというのは確実だろう。
ここで話を引き延ばしたら騰蛇が可哀想だ。
いいよと頷く。
すると騰蛇は感謝する、とか言いながら光に包まれて消えた。
「……さて、悠輝君には屋敷に戻って色々とレメティアについて教えなきゃいけない事があるから、さっきいた広間に先にセイラとフィーネさんとで戻っておいてくれないかしら? 私もここを片付けたら行くから」
「分かりました」
天下の十組織レメティア。一体どんな事を教えてもらえるのかな?
あれかな、実は物凄く規律が厳しいとか?
……それは無いか。
今まで見た感じそんな規律のある気配皆無だ。
むしろ他の組織よりも軽そうな……
レイラさんに言われた通り、俺達三人は屋敷……と言うよりも宮殿に戻るべく林の中の道に歩いて行く。
すっかり日が落ちて周りは夜だけど、何故か林の中は松明があって明るいから迷う問題も無し。
……今更だけど、この林もセイラの家の敷地内って事だよね。
……敷地面積は東京ドーム何個分だろうね?
「悠輝様、真の大物なら素早くあの使い魔を喚起、相手が動く前に消し炭にするべきでした」
「……まだそのネタ引っ張るのフィーネさん?」
この人はいつからボケ担当になったんだろう?
それとも俺限定かな?
俺をおちょくる時だけこんな感じなのかな?
っていうか消し炭って……殺人じゃんか。
「でも多分、ジダンのプライドは悠輝さんの手によって消し炭というか、粉々にされましたね」
「……なんか俺、悪役みたいな言われようだね」
「……マリア、悠輝君の使い魔をどう思う?」
悠輝とジダンが決戦をした広場。
レメティアの徒弟が四隅に突き刺していた呪物を取り外したり、ジダンやポーディスが空けた穴を埋めたりしている。
そんな中、それらを見ながらふとレイラが隣のマリアに問い掛けた。
「……そうですね、圧倒的とでも言いましょうか?」
マリアは基本、普通の徒弟の前ではレイラに敬語を使う。
幹部の前ではため口になったりもするが、徒弟の前では決してしない。
史上最年少で十組織の首領に登り詰めたレイラに心酔し、敬愛する徒弟が多く、ため口を使うのは何かと不味いからだ。
幹部は同年代でしかも、昔から一緒だったので大丈夫だが、そんな経緯の無い上層部以下の徒弟にはいくら従姉だからと言っても通じない。
そこら辺の線引きはしているのである。
「圧倒的……確かにそうね。あれは魔神の階級だと王クラス、即ち最上位のレベルよ。涼しい顔して喚んでたけどあの子、眼以外にも何かあるわね」
「……家系を調べるのですか?」
「それはちょっと難しいわ。だからマリア、『トウダ』について調べてみて。うちの徒弟に、後々には義弟になる子なんだから全て知っとかないとね」
「……気が少々早いのでは?」
「早くて結構、善は急げよ」
レイラはフフフと笑ってマリアに言う。
まだ早いが義姉として、悠輝について調べてみようとレイラは笑う。
マリアも気が早いとクスッと笑うが、別段咎める気は無い。
もしかしたら、魔眼という稀有な能力を除いても相当な子を引き当てたかもしれない。
広場をから林の道へと向かいながら、レイラはそう思った。
次いで最愛の妹に相応しいじゃないとも思う。
……彼女の場合、如何なる時でもセイラ史上主義なのであった。
ちょっと早めに更新が出来た神威です。
予想外に戦闘が長くなったというか、表現下手なんで長くなってしまったというか、ともかく次回もセイラん家です。
あぁ……クリスマスはいつ書けるのやら……
ホントに文章力が上がらない、泣きたいです。
話変わりますが、最近よく主人公最強系の小説をこのサイトで見かけます。
全部読んだわけでもないですが、一つ思うにあのジャンルって凄い文章力要ると思います。
だって『最強』なんですよ? 敵無しですよ?
一体どうやったら戦闘描写を盛り上げられるのか、私には無理です。
敵登場→主人公が瞬殺→以上終わり、と私が書くとなっちゃいそうです。
いくつか読んでるそういう系統の作品は、本当に描写が上手なので尊敬します。
憧れます。
っていうか、あんなに主人公最強系の作品が多いのに、どうやってオリジナリティーを出せるんだろうかと思ったり。私は無理だ。
発想力があって羨ましいです。
因みに今作に最強な奴はいません。
私はスポーツをやっている身なので、どうしても「最強な奴なんていねぇだろ」って思ってしまうんですよね。
チームで最強はあっても個人で最強は無い筈です。
例え世界ランク一位の人でも何かしら苦手な物があるんだと思います。
だからこそ、それを無くす為に努力し強くなる。
世界ランク一位の人はきっと、同じ競技をやっている人達の中で最も弱点が少ない人なのかもしれません。
魔術も一長一短、魔神だって最強では無いですし、十二天将も最強では無いです。
この先『最強』ではない悠輝達にはみっちりと苦労してもらいます。
頑張れ。
ユニークもPVも、お気に入り登録数までも日に日に増えていく今日この頃。
嬉しいですが反面、文章力が上がらず申し訳なく思います。
もっと頑張らないと……!
感想や誤字脱字の報告、意見にアイデア、キャッチコピーなる物などを幅広く募集中です。
読者数が増えるに比例して感想数が減るという、嬉しいが切ない気分の私に何か一言送ってやって下さい。
キャラのアイデアとか……は、言い過ぎか。
活動報告の場にて活動報告限定になるであろうキャラなんかが登場しています。今後本編に出るのか!?
それではまた。
明日はクリスマスイヴなので少し早いですが、メリークリスマス!
サンタさんはきっといます!
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